インハウスと法律事務所の「二足のわらじ」で切り拓く、新たな弁護士キャリア像
法務部
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法務領域が拡大し、法務人材のニーズが高まるなか、弁護士のキャリアパスの多様性も広がりつつある。2021年に法律事務所wayを立ち上げた関根亮人弁護士、堀裕太郎弁護士は、過去の経験を活かし、インハウスロイヤーと法律事務所の代表弁護士の「二足のわらじ」で活躍している。弁護士の新たなキャリア像を開拓する2人に、これまでの経歴や現在の働き方、事務所設立の背景、今後の展望について聞いた。
関根 亮人弁護士
2014年早稲田大学法学部卒業。2016年早稲田大学大学院法務研究科卒業。2017年弁護士登録。牛島総合法律事務所を経て2021年BASE株式会社に入社。同年法律事務所way開業。
スタートアップ・ベンチャー法務、IPO支援に加え、M&A、企業間訴訟、会社法・金商法関連を含むビジネス法務全般を幅広く手がける。また、ECプラットフォームの法務に携わり、IT・決済・個人情報分野も取り扱う。
堀 裕太郎弁護士
2013年中央大学法学部卒業。2016年東京大学法科大学院修了。2017年弁護士登録。森・濱田松本法律事務所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社投資銀行部門出向を経て2021年サスメド株式会社に入社。同年法律事務所way開業。
スタートアップ・ベンチャー法務、IPO支援に加え、M&A、ファイナンス、会社法・金商法関連を含むビジネス法務全般を幅広く手がける。また、医療テックベンチャーの法務に携わり、IT・医療・知財分野も取り扱う。
大手法律事務所での経験を活かし、ベンチャー法務へ挑戦
お二人には、大手法律事務所からベンチャー法務へ転職されたという共通点があります。まずはそれぞれのご経歴について伺えますか。
関根弁護士:
2016年に司法試験に合格し、司法修習(70期)を経て、牛島総合法律事務所でキャリアをスタートしました。M&Aや企業間訴訟、国際取引などを経験し、2021年4月にBASEへ入社。2022年10月からは法務グループのマネージャーとして、法務全体のマネジメントも含めた業務を行っています。
堀弁護士:
私も関根と同期の弁護士です。森・濱田松本法律事務所に入所し、M&Aやキャピタルマーケッツなどを担当するなか、ビジネスへの関心が強くなったため、当時のパートナーと相談して三菱UFJモルガン・スタンレー証券への出向を経験。その後、2021年9月にサスメドへ転職しました。
関根弁護士がBASEに入ろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
関根弁護士:
法律事務所の弁護士として企業から相談を受けるなか、法的なアドバイスのみで終わってしまうことに歯がゆさを感じていました。なぜその案件をやろうとしたのか、その案件が会社の成長や社会にどのような影響を与えていくのかというところまで理解し、より深く関りたいと思ったのが事業会社に入ろうと思ったきっかけです。
その中でBASEを選んだのは、「Payment to the People, Power to the People.」というミッションに共感したこと、伸びている企業・業界に入って業務を行い、専門性を高めていきたいとも考えていたので、ECの領域で成長しているBASEは魅力的であったことが理由です。
実際に事業会社へ入ってみて、ビジネスへの関わり方は変わりましたか?
関根弁護士:
やはりぜんぜん違いますね。サービスがまだ事業として形になっていないような早い段階から関わることができる点は特に大きな変化でした。
堀弁護士がサスメドに入社された背景について教えてください。
堀弁護士:
もともと企業法務専門の法律事務所を志望したのは、ビジネスへの興味があったためです。その後証券会社への出向や、ビジネスサイドの人との交流を通じて、自身の専門性を活かしつつ、よりビジネスに近い領域で挑戦してみたいという意識が強くなっていったことで、ベンチャーへの転職を考え始めました。
サスメドに転職した理由は、「持続可能な医療」を目指し、新しいビジネスモデルに挑戦しているところに強い関心を持ったことや、もともと個人的に興味のあったルールメイキングへの取り組みなどに惹かれたことが大きかったです。
会社側の副業への理解を得て、事務所を設立
続いて、お二人のインハウスロイヤーとしての働き方について伺っていきます。まずは、BASEの法務体制について教えていただけますか。
関根弁護士:
BASEは、マネージャーである私とメンバー2名による3名体制です。75期・76期の修習生などを対象とした増員も検討するなど、組織拡大を目指しています。普段は、法律相談や契約業務に加え、株主総会、取締役会などの機関法務や知財周りまで広くカバーしています。当社の法務の特徴は、早い段階からビジネスに関われる点です。案件がある程度進んだ後に法務チェックを行うというよりは、初期の段階から事業部と一緒に案件を進め、サービスリリースを目指していくイメージです。
早いタイミングで事業部から相談が来るような風土は、最初から社内にあったものなのでしょうか。
関根弁護士:
私が入社したときにはすでにある程度そうした風土ができていた印象です。上場前から法務を担当していたメンバーが事業部と近しい関係を構築し、相談しながら進める習慣をつくっていたことが大きいのだと考えています。法務のメンバーは意識的に、黒やグレーだった場合にただストップをかけるのではなく、どうやったら実現できるかという観点から解決策を考えるようにしています。そうした心がけによって、事業部側に「迷ったら法務に相談してみよう」という意識を持ってもらえているのかもしれません。
サスメドはいかがでしょうか。
堀弁護士:
当社の法務は現状、私1人で担っています。私の入社以前は法務の専任人材がいませんでしたので、現在は法務体制の整備を進めつつ、各部署と連携し、日々の案件の対応を行っている状況です。
インハウスロイヤーとして働きながら法律事務所を立ち上げられていますが、事務所設立に対し、会社側の理解は得られたのでしょうか。
関根弁護士:
当社の場合、申請をすれば過重労働のおそれや利益相反などがない限り副業OKなので、特に問題はありませんでした。会社の外で弁護士としての能力やスキルを伸ばせるのであれば良いという考え方です。
堀弁護士:
入社前から事務所の設立は考えていたため、面接の際に、事務所設立の意向と「自身のスキルアップにもつながり、会社での法務業務とも相乗効果がある」という説明をして、理解を得られた形です。専門性の高い人材が多い職場のため、比較的この点には寛容な印象です。
ベンチャー企業の実態に合わせたソリューションを提供
法律事務所wayを立ち上げた背景や問題意識についてお聞かせいただけますか。
関根弁護士:
私と堀はちょうど同じくらいのタイミングで法律事務所から企業へ転職したこともあり、企業法務の悩みについて相談し合っていました。
そのなかで気づいたのは、企業の法務担当者がつまずく部分は似通っているということです。たとえば、弁護士が執筆した書籍を読み、現場で実際に手を動かしてみようとしても、具体的にどう対応してよいのかわからず悩んでしまう場面は多くあります。
我々がこれまでに法律事務所で培った知見と事業会社での実務経験を活かせば、こうした法務担当者の悩みを解決できるような、痒いところに手が届くサービスを提供できるのではないかと考え、事務所設立に至りました。
堀弁護士:
特に社内の法務機能がそこまで充実していないベンチャーを含む中小規模の企業では、本音としては外部弁護士にもよりビジネスに即したサポートを求めているケースが多々見受けられます。実際過去に相談を受けた例では、外部弁護士からの回答が紋切り型の内容で企業側が欲しかった内容とマッチしておらず、結局参考にならなかったために、セカンドオピニオン的な相談を受けたことがありました。
よくよく話を聞くと、企業側の事実関係の切り出し方や相談の仕方にも問題があったと感じましたが、ベンチャー企業等では法律事務所の扱いに慣れていないことも多く、ともすれば本当に相談したいことをうまく言語化できていないこともあります。
そのような企業側の実情も理解してアドバイスできる人材の必要性を感じていました。
具体的にどういった形でソリューションを提供されているのでしょうか。法律事務所wayのサービスの特徴があれば教えてください。
堀弁護士:
当所の弁護士は企業内弁護士の立場からもIPO前後の法務経験を有しているため、シード~レイターの各段階で必要な法務ニーズに精通しており、各段階においてどのような法務機能を備えるべきか、どのような事項に注意すべきかなどについて実践的なアドバイスができます。
前職の経験からM&AやIPO・資金調達といった企業の成長に合わせた戦略的なアドバイスができる点も強みです。
関根弁護士:
具体的な事業分野としては、現在勤めている企業で取り扱っている医療やEC、ITなどの分野には強みがあります。これらの分野についてはインハウスとして日々数多くの論点を検討していることから、特に実践的かつクオリティの高いアドバイスをすることができます。
当所のクライアントは、法務機能が不十分なベンチャー企業も多くあります。そのような企業では、株主総会を行っていなかったり、違法な広告をしていたりと法的な問題点を見過ごしたまま事業をしていることが往々にしてあるため、経営者と会社の状況やお困りごとについて定期的にヒアリングをする機会を設けています。そのなかで見えてきた企業自身も気付いていなかった法的な課題を発見し、解決策の提案やアドバイスをしているのも特徴です。
同年代の経営者の方達との間ではLINEを使って法律相談に答えることも多く、顧問先からは「疑問に思ったことがあったらとりあえず聞いてみると、すぐ答えてくれて助かる」と言っていただけることもあります。
キャリアパスが多様化するなか、「二足のわらじ」も現実的な選択肢の一つに
インハウスロイヤーとしての仕事もしながら、外部弁護士として企業に深く入り込んだアドバイスを提供するのは大変そうです……。
堀弁護士:
現状は2人とも夜や土日の時間も使って事務所の業務を行っており、お互い時間を削ってやっているというのが正直なところです。今後さらに案件が増え、今の体制での対応が難しくなってきた場合には、事務所のメンバーの増強が必要になってくると考えています。
なるほど、良いメンバーが増えてほしいですね。最後に、法律事務所wayの今後の展望をお聞かせください。
関根弁護士:
我々と同じような働き方に興味のある弁護士たちを集めて事務所の規模を拡大し、クライアントに提供できるサービスの質を向上していきたいですね。企業法務の悩みを知る弁護士が10人集まれば、10とおりの解決方法を踏まえた提案ができると思っています。
堀弁護士:
実際のところ、企業の法務部門で働いている人含め、余力のある弁護士は結構多いように思います。弁護士の仕事って昔ながらの弁護士のイメージの枠内に収まらない可能性が望むと望まざると出てきているんじゃないかと思っていて、だからこそ最近は弁護士のキャリアも多様化してきているんだと思います。周辺環境の急激な変化によって弁護士業界も一つの過渡期にあると思うので、自分たちも周囲の変化に対応しながら、常に新しい可能性を模索し、追求していける存在でありたいですね。
(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)