次世代の経営法務人材を目指すために必要なスキルとマインドセットとは? 「Legal Executive Summit 〜次世代リーダーの条件〜」講演レポート

法務部

目次

  1. 法務・経営層1200人が注目する「経営法務人材」のイベント
  2. 次世代の経営法務人材は「Trusted Adviser」を目指すべき
  3. 「コンティンジェンシープラン」がリスクテイクを変える
  4. 法務人材のキャリア育成は、5W1Hで考える
  5. 拡大する法務領域に対応していくために必要な法務部門のマインドセット
  6. 法務部門が「信頼されるビジネスパートナー」になるために
  7. 法務の環境をうまく活用すれば、ビジネスのリーダーも目指せる
  8. 法務から新しい資本主義の実践を

ビジネス環境が大きく変化し、企業経営における法務機能の重要性が高まるなか、経営と法務の専門性を兼ね備える「経営法務人材」の活躍が求められています。経営法務人材を目指すうえでは、どのようなスキルとマインドセットを身につけるべきでしょうか。2022年9月27日に開催されたオンラインイベント「Legal Executive Summit 〜次世代リーダーの条件〜」では、有識者による講演とパネルディスカッションが行われました。本稿ではその模様をレポートします。

法務・経営層1200人が注目する「経営法務人材」のイベント

イベント冒頭では、弁護士ドットコム株式会社 取締役 田上嘉一が開会の挨拶を行いました。

日本企業の事業創造力の弱さが、日本経済停滞の要因の1つと指摘されています。2018年に経済産業省が公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(在り方研究会)報告書」では、経営者がいかに法務を活用して新規事業を生み出すかについてまとめられています。

「報告書を出して終わりではなく、現場で課題に取り組むことに意味がある」(田上)という考えのもと、BUSINESS LAWYERSは、在り方研究会の委員で構成される独自の研究会を2021年7月に立上げ、経営法務人材の育成をテーマに、議論を重ねてきました。今回のイベントは、BUSINESS LAWYERSが立ち上げた研究会で議論されてきたテーマについて改めて整理する目的で行われました。法務担当者だけでなく、経営層も含め約1200名からの参加申込みがあるなど注目度は高く、田上は「専門的でありながら実用的でもあり、意義深いイベント」と開催に向けた思いを述べました。

弁護士ドットコム株式会社 取締役 田上嘉一

弁護士ドットコム株式会社 取締役 田上嘉一

次世代の経営法務人材は「Trusted Adviser」を目指すべき

ITN法律事務所 マネージング・パートナー 名取勝也弁護士は、座長として研究会での議論を総括しました。

研究会では、まず次世代の法務機能を担う人材のマインドセットに議論の焦点が当てられました。また、コーポレートガバナンスやESG/SDGs、株主エンゲージメント等、法務はこれまでの業務に加え、多様な新領域への関与の必要性も指摘されています。こうした状況のもと、法務人材を経営法務人材へ昇華させていくためのポイントを探ることも研究会の目的です。

各委員共通の見解として「次世代の法務人材のマインドセットは法的な問題の枠内にとどまるだけでは不十分であり、経営課題の把握と事業計画の達成に貢献する意識」の必要性が示されたほか、「これからの法務人材にはガバナンス強化やESGへの取り組みに対する貢献も求められる」というフィールドの広がりが意見として挙げられたそうです。

名取弁護士はこうした議論を踏まえ、次世代の経営法務人材は「Trusted Adviser」を目指すべき、と述べます。

「経営部門に聞く耳を持ってもらうためには信頼が求められる。経営判断やリスク対応において感謝されるアドバイスを提供するために、どう考え、判断し、行動すべきか、という発想が重要。米国・欧州では、法務人材がCLOのみならず、さらにはCEO/COOなど経営トップを務める例も多い。 Trusted Adviserであるためは、経営の視点が必要であり、適切な経営判断を行うためには、法務の視点が必要になる」

ITN法律事務所 マネージング・パートナー 名取勝也弁護士

ITN法律事務所 マネージング・パートナー 名取勝也弁護士

「コンティンジェンシープラン」がリスクテイクを変える

Airbnb Japan 法務本部長 渡部友一郎弁護士は、コンティンジェンシープランについて、自社の事例を踏まえながら紹介しました。

法務に相談しないまま進めた案件、法務のアドバイスをもとにリスクテイクをして進めた案件、いずれにしてもリスクが顕在化した場合には法務が対応しなければならず、法務は疲弊している状況にあります。渡部弁護士は、こうした現状は変えられるとしたうえで、「リスクがなければビジネスではない。経営法務人材としては、リスクテイクを支援していく必要がある」と強調。経営層や事業部が最大限にリスクテイクしていくためには、「万が一」を説明しておくという意味でコンティンジェンシープランが重要であるとします。

コンティンジェンシープランとは、緊急事態に対処するための計画、または将来起こりうる問題への対処のための計画です。渡部弁護士は、コンティンジェンシープランとして定めるべき3つの要素を紹介しました。

1つめは、「アクティベートする計画内容」。これは、実行の開始/停止、行政への対応/相談など、リスクが起こったときに何をすべきか定めたものです。2つめは、「アクティベートする条件」。これは、たとえば当局から書面警告を受けた場合や、報道でスクープされてしまった場合など、プランを実施するタイミングを定めたものです。3つめは「RASCIモデルにより整理・確定された各部署の計画の承認・了解」です。コンティンジェンシープランは法務だけで策定できるものでなく、RASCIモデルをもとに関係部署に事前に了承を得ておく必要があります。

渡部弁護士は「コンティンジェンシープランを完成させると、『万が一』が起こった際にスクランブルがなく粛々とプランを実行できる。これがコンティンジェンシープランを作成しておくことの大きな魅力」と語りました。

Airbnb Japan 法務本部長 渡部友一郎弁護士

Airbnb Japan 法務本部長 渡部友一郎弁護士

法務人材のキャリア育成は、5W1Hで考える

東京大学大学院 法学政治学研究科 ビジネスロー・比較法政研究センター 平野温郎教授は、法務人材のキャリア形成について講演を行いました。

平野教授は、企業の国際競争力強化を支える企業法務部員のロールモデルが「経営法務人材」であり、そのキャリアの到達点はCLO、あるいはGCであるとしたうえで、「これらは、天性の素質を持った人ではなく、正しい意識を持ってマインドセットを変革し、継続的な学習ができる人であれば目指せる」ものであり、「それは経営陣や法務部門による組織的なコミットメントによって支えられる」とします。

三井物産の法務部門で30年以上勤務し、中国や台湾、香港、ニューヨークでの駐在を経験してきた立場から、平野教授は、法務人材育成の方法について「企業における一般的な人材育成の方法論はほぼ確立している。しかし法務人材については、長い徒弟制の下での限定的な経験に基づくものが多いという問題がある」と指摘します。そこで、「企業の経営理念や戦略、全社的な人材戦略に基づきながら、法務部門としての人的資源管理(人材マネジメント)の観点より既存の取組みを見直し、再現性を備えるようにモデル化していくことが重要」と説明します。

平野教授は、部門の人材育成担当セクション長であった時に、高度なジェネラリストとしての部員の標準化を目指しました。それまでの人材育成の方法はOJTがメインでしたが、モデル人材とのコンピテンシーを比較して不足部分の底上げを行っていくという発想のもと、Off-JT(理論・スキル教育)の拡充やOJT(実践教育)との接続、人事ローテーションとの連携を推進するとともに、基本的なフレームワークとして「5W1H」を人材育成に適用しました。

Why(目的):高度なジェネラリストへの成長に向けたマインドセットの形成
Who(関係性):経営層・事業部門との接触、影響
When(タイミング):一定の権限と責任を持つことになる節目の年次
Where(場):海外法務研修員、現場(一人法務拠点、海外拠点、社内出向など)、海外経営大学院
What(成果):経営方針を体現した目に見える成果を上げる
How(態様):負荷のかかる実践中心

平野教授によると、組織として、各階層でこれら5W1Hを適切に構成するとともに、当事者である個々の部員の内発的な動機付けによる継続的学習を支えていくことが効果的だといいます。特に、その人材にとって負荷のかかる "修羅場" をアサインする「開発的ジョブアサインメント」として、レベルが一段高い実践の機会を組み合わせて繰り返していくことの重要性を指摘しました。

東京大学大学院 法学政治学研究科 ビジネスロー・比較法政研究センター 平野温郎教授

東京大学大学院 法学政治学研究科 ビジネスロー・比較法政研究センター 平野温郎教授

拡大する法務領域に対応していくために必要な法務部門のマインドセット

三井物産株式会社 執行役員 法務部長 高野雄市氏は、企業を取り巻く激しい変化の中での法務部門の戦略的ポジショニングの在り方と法務人材の活躍のビジョンを説明しました。

コロナ禍、ウクライナ情勢、経済安全保障など、世界規模でのリスクが増加するなか、「リスクはチャンスでもある。リスクをいち早くマネージできる会社は、競争を勝ち抜くことができるという発想で、法務業務を行うことが大事」であり、今の状況を法務部門のポジティブな進化に繋げるべきと、経営法務人材として目線を上げて対応することの重要性を高野氏は指摘します。

たとえばESGだけで見ても、E(環境:Environment)は、気候変動対応に伴う事業売却、新規事業組成などのポートフォリオ変革、S(社会:Social)は人権対応やハラスメント撲滅、G(ガバナンス:Governance)は法務の本丸となるガバナンス、取締役会の実効性強化など、法務が活躍できる領域は多くあります。高野氏は「従来の範疇を超えてより広い視野で法務リスクを捉えていく必要があるほか、さらなる積極性・主体性も求められる。マインドセットを変革していかなければならない」と語ります。そのうえで、以下4つの項目を具体的なマインドセットとして同社法務部に求めていることを紹介しました。

  1. 効果的なソリューション・プロバイダーとなろう
  2. 会社を進化させるDriverとなろう
  3. 事業創出のためのBusiness Enablerとなろう
  4. コラボレーション・リーダーとなろう

「リソースがないから新しいことはできないと考えがちだが、組織に貢献したからこそリソースが得られるとポジティブに考えるほうがよい。経営課題に関する議論にも積極的に参加し、本質的な意見や提言を行うことにより、会社の方針決定にも影響を及ぼすInfluencerとなることが重要。経営層が法務部門の重要性を認識すれば、自ずと組織強化や人員増強の必要性について理解が深まる。そのために会社へ貢献していくという発想の転換が必要」(高野氏)

また、法務部は、事業サポート機能による現場接点と、管理部門としての管理機能を有し、更にはガバナンス業務などを通じての経営とも直接接点を有するユニークな立ち位置にいることの重要性を説明したうえで、組織として、前線での変化を経営にまで繋げ、変革のリーダーシップを取り得るポジションにあることを強調しました。

また、現在の企業を取り巻く経営環境においては、法務の素養を生かした経営レベルでの議論と経営判断が重要になってきており、法務人材が経営レベルでも活躍することで、不確実性の高く、リーガルリスクの高度化・複雑化する時代に、的確な経営判断を行うことができると指摘しました。

三井物産株式会社 執行役員 法務部長 高野雄市氏

三井物産株式会社 執行役員 法務部長 高野雄市氏

法務部門が「信頼されるビジネスパートナー」になるために

グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役 平泉真理弁護士・ニューヨーク州弁護士は、同社法務部のスローガンである「Trusted Business Partner」の考え方について紹介しました。

この考え方は、「社内顧客」からビジネスパートナーとして信頼を得ることの重要性を示したもので、法務もサービス提供者として顧客目線でビジネスを運営するというマインドセットを持つことが、その基礎となります。平泉弁護士は、具体的には「目標設定」「広告宣伝活動」「営業活動」「カイゼン活動」「リソースマネジメント」といった、民間企業のビジネス運営における一般的な取り組みを、法務部門にも取り入れることを提唱します。

目標設定においては、SMART(Specific、Measurable、Achievable、Related、Time-bound)というフレームワークを用いるなどして、ビジネスの目標と関連づけることが重要です。

広告宣伝活動では、イントラネット内のWebコンテンツを整備したり、SNSなどの社内広報ツールを活用して、法務の普段の活動について情報発信をしたりしていきます。

営業活動に関しては、平泉弁護士は担当者制の採用を推奨します。平時からの売り込み、部門会議への参加、現場同行なども行うと、法務の当事者意識が高まるといいます。

カイゼン活動においては、法務の経営への貢献度を数値化・可視化することが有用だといいます。法務のサポートにより発生や拡大を防ぐことのできた損害の金額や、テック導入によって短縮できた契約締結までのリードタイムなど、できる限り数字で説明できるとよいといいます。

リソースマネジメントでは、優先順位付けをして、高付加価値業務に集中することが重要で、外部専門家やITツールなどもうまく活用していくべきだといいます。

また平泉弁護士は、「信頼されるビジネスパートナーになるには、法務部員が信頼しあって協力し、高めあえる強いチームが必要」と、チームビルディングの重要性にも触れました。

グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役 平泉真理弁護士・ニューヨーク州弁護士

グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役 平泉真理弁護士・ニューヨーク州弁護士

法務の環境をうまく活用すれば、ビジネスのリーダーも目指せる

登壇者によるパネルディスカッションでは、経営法務人材を目指す、あるいは育てていくためにどのようなキャリアプランを考えていけばよいか議論が行われました。

平野教授は、「経営法務人材は、意識変革と適切な育成プログラム、動機付けができれば、育てることができる」と強調したうえで、経営法務人材として必要な意識を持つためのインセンティブ設計の重要性についても指摘しました。

平泉弁護士は、人には好き嫌いや向き不向きがあり、自分に適したキャリアを追求していけばよいとしたうえで、「全員がジェネラルカウンセルになる必要はない。エキスパートになりたい人は、エキスパートのポジションがある法務部門へ行けばよい。企業としては、性格や適性を十分に考慮して人材を採用したり、異動の希望が出せるようにしたりなど、無理のないキャリア開発ができるような環境を整えるべき」と持論を述べました。

渡部弁護士は、法務部長と部下によるコミュニケーションの重要性を指摘。「リーダーが『うちには経営法務人材はいらない』と勝手に決めてしまうのは危うい。人材の成長は、部門長が部下のポテンシャルを最大限に引き出す対話をしたうえで、はじめて成り立つもの」と説明しました。この意見を受けて高野氏は、どのような人材を育てるかは、法務組織としてどのような有り姿、ビジョンを持つかに深く関わるところであり、組織長としてはこの点を考えることが重要であると指摘、法務は本来さまざまな場所で活躍できるポテンシャルがあるとしたうえで、「部門長としては、法務人材があらゆる部門で活躍できるルートを作っていくことが大事」と、人材の成長を促す環境や活躍の機会を与えるマネジメントの必要性を指摘しました。

さらに平泉弁護士は、「外資系企業では、法務のバックグラウンドを持つビジネスリーダーも多い。日本企業ではそのような例はまだ多くないが、今後、そのような人材を輩出していけるとよい」と、法務部員がビジネスのリーダーとして活躍できる道もあることを紹介。名取弁護士もこれに続ける形で、「もともと法務は部門横断的な業務を行っている。全社の動きが把握できる環境をうまく活用してキャリアを広げていくと良い。ぜひCLOやGCだけでなく、CEOを目指していただきたい」と呼びかけました。

法務から新しい資本主義の実践を

衆議院議員で自由民主党 政務調査会経済産業部会長を務める岩田和親氏は、スタートアップ政策と価値創造経営をテーマに特別講演を行いました。

衆議院議員 自由民主党 政務調査会経済産業部会長 岩田和親氏

衆議院議員 自由民主党 政務調査会経済産業部会長 岩田和親氏

停滞する日本経済に対し、岩田氏が今最も必要であるとするのが、スタートアップによる非連続のイノベーションです。ただし、日本のスタートアップエコシステムは人材・事業・資金の各面で課題がある状況です。岩田氏は「起業家教育、経営と研究者のマッチングなどさまざまな取り組みを行うことで、5年後までに国内スタートアップの投資額を10倍にする」と目標を掲げます。そのためには、法務をはじめとする専門家のサポートが重要であるとしました。

価値創造経営については、PBR(株価純資産倍率)1以上の企業の割合を2030年までに現在の約6割から欧州並の8割へと引き上げることが目標だといいます。そのためには、取締役会の機能強化、独立社外取締役の確保、監査機能の十分な発揮が必要としたうえで、岩田氏は政府としてアグレッシブな成長を目指すためのマネジメント・ガバナンス改革に取り組む考えを示しました。

また、講演の最後には「攻めの法務として知見を生かしていただき、日本経済の再興のためにご尽力いただきたい。法務から新しい資本主義の実践を」とメッセージを送りました。

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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