知財と法務をつなぐ究極の実践書『技術法務のススメ』待望の第2版が刊行! ビジネス環境や技術動向を踏まえ大改訂PR
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直木賞受賞作品の池井戸潤著『下町ロケット』に登場する弁護士のモデルとしても知られる内田・鮫島法律事務所 鮫島正洋弁護士。2014年に刊行された『技術法務のススメ』(日本加除出版)では、知財と法務をシームレスに融合し、戦略的なアドバイスを行うための知財戦略セオリや知財マネジメント、実践的な契約交渉の考え方など、「技術法務」の真髄を惜しみなく披露しました。
初版刊行から8年、オープンイノベーションやデータビジネスの拡大など、ビジネス環境は大きく変化しています。これを受け、2022年8月、新たにモデル契約書などを加筆した第2版が刊行されました。今回は、鮫島弁護士と同書編集担当の日本加除出版編集部 牧陽子氏に、本書の魅力について取材しました。
鮫島 正洋弁護士
エンジニアを経て弁理士登録。日本IBMにて知財実務・マネジメントを学び、弁護士登録。知財戦略の第一人者にして、小説『下町ロケット』に登場する弁護士のモデルとなった。本書が主題とする技術法務を活用し、数々のオープンイノベーション案件にて、中小企業・スタートアップの視点から業務を行ってきた。2012年知財功労賞受賞。「オープンイノベーションを促進するための技術分野別 契約ガイドラインに関する調査研究」(経済産業省・特許庁)委員長。
牧 陽子氏
日本加除出版株式会社編集部所属。2007年に入社以来、行政・士業に向けた月刊誌や、家事・少年事件の判例雑誌「家庭の法と裁判」の編集に携わるほか、家族法分野を中心に、子ども福祉・社会保障・企業法務・労働・知財など幅広いテーマの書籍企画・編集を手がける。
オープンイノベーションの文脈で「技術法務」の重要性が世の中に認識されはじめた
初版は大きな反響を呼んだそうですね。
牧氏:
当社は法律の実務書出版社であり、従来は弁護士や司法書士といった法律実務者の方がメインの読者層でした。しかし本書は、企業の知財・法務担当者から、弁理士、知財・法務部門のない中小企業の方まで、幅広い方々にご購入いただいています。また、法律実務書は一般的に法改正などもあって3〜4年で売上が落ちてしまいますが、本書は8年にわたって複数回の増刷を重ね、長く愛される書籍となりました。
初版では「技術法務」というまだ世の中に浸透していなかった言葉をタイトルに入れてよいものかどうか悩みました。しかし、技術法務という概念が確立した今は、このタイトルにして本当によかったと思っています。時代が追いついてきたということもあるでしょうし、本書が技術法務の分野を牽引してきた側面もあるのではないかと考えています。
鮫島弁護士:
「技術法務」という言葉は、私の考えた造語です。知財戦略と契約を1つに融合するという考え方ですが、牧さんが仰るように、初版発刊当時はまだ十分に認知されていませんでした。ところが、2014年に経済産業省がオープンイノベーション推進に関する政策を打ち出したことを契機として、技術法務の考え方が広まっていきました。
オープンイノベーションとは、企業同士が1つのイノベーションについて社会実装を目指していく取り組みであり、当然その企業間には契約が結ばれていなければなりません。まさに、技術法務が必要とされている領域です。そして、オープンイノベーションは今でも日本のコアな政策であり続けています。本書がロングセラーになったポイントの1つは、そこにあると思います。
オープンイノベーションの潮流が生まれたことをきっかけに、技術法務の重要性が認識されはじめたということですね。
鮫島弁護士:
オープンイノベーションが注目されはじめた当時は、どのような契約にすればよいのかわからず、知財部門や法務部門はもちろんのこと、弁護士に相談しても精度のよい回答が得られない時期でした。当時、本書は、その答えが書かれていた唯一の本だったと思います。実際に初版を読んだ読者からは、「知財戦略とリーガル・プラクティスが1冊の本としてまとまっている書籍は少なくとも日本初であり、世界でも類を見ないのでは」という声をいただきました。
以前から私は、技術法務は世の中に普及されるべきもので、潜在的なマーケットニーズがあると信じてきました。本書を通じて、その仮説を世の中に問い立ててみたかったという思いもあります。これだけのロングセラーになったのは、時代の流れとともに技術法務というコンセプトが受け入れられるようになってきたことの顕れでもあるしょう。
「おもしろくてためになる」本を目指し、最新事例を盛り込む形で全面的にアップデート
初版刊行から8年が経過し、ビジネス環境は大きく変わりました。技術法務への影響も少なからずあったと思います。初版と比較して、第2版はどのように変わっているのでしょうか。
牧氏:
オープンイノベーションの進展やスタートアップの台頭など社会の変化を踏まえ、今の時代にあわせた形で内容を全面的にアップデートしています。
鮫島弁護士:
初版では、知財や法務部門のプロフェッショナルを対象読者として想定していましたが、大学生など若い方にも読んでいただけているということもあり、第2版では、より幅広い読者層を意識した内容にしています。特に知財戦略について解説した第2章は、大幅に改訂しました。たとえば、初版では日亜化学工業と豊田合成の青色LED紛争を読者の常識になっている事例として取り上げましたが、第2版では若い方を想定して一から丁寧に説明しています。また、AI/IoTの普及に伴い、設例も大きく見直し、最新動向を反映させたものにしました。今回は、睡眠時無呼吸の発生の有無を検知するアプリを例に、知財マネジメントについて考えています。初版を購入していただいた方が第2版を再度購入していただいても付加価値を感じていただけるよう、意識しました。
第3章では、類型ごとに契約実務が解説されています。こちらは第2版でどのような変更がありましたか。
鮫島弁護士:
リーガル・プラクティスは時代が変わってもその本質が大きく変わることはありませんが、オープンイノベーションの潮流によって、スタートアップのための法律実務の要請が格段に高まっていることを踏まえ、新たな契約類型として、PoC(技術検証)契約、データ提供契約を加えました。実際に本書の読者にはスタートアップの経営者もいらっしゃると聞いています。スタートアップの実務は、常に投資家を意識する必要があるという点が大企業との大きな違いですが、そうした観点からも注意すべきポイントを解説しています。
拝読していて、PoCに関する問題などは “オープンイノベーションあるある” だな……と感じました。
鮫島弁護士:
本書で扱っているテーマ自体は堅く、内容もかなり高レベルですが、それをいかに “読み物” としておもしろく書くかという点は、初版の頃から強く意識しています。読んでもらえなければ意味がないですからね。ためになることを書くから読んでもらえるわけではなく、おもしろいから読んでもらえる。「おもしろくてためになる」本だと思ってもらえることが理想です。
データ提供契約についても解説されていますが、GAFAを筆頭にデータビジネスが拡大するなか、どのような法的側面に注目すればよいのでしょうか。
鮫島弁護士:
個人情報保護法など重大なイシューももちろんありますが、押さえるべきところをきちんと押さえておけば、法的にはそこまで難しい話ではないと私は考えています。むしろ、新たなビジネスを契約書や利用規約としてどう表現するか、ビジネスと契約との融合が重要な領域です。データビジネスは、ある領域でいち早くデータを大量に集めた人が勝ちます。そのビッグデータを活用して、どのようにビジネスをするか、その前段階としてどうやってデータを集めるのか、データビジネス全体の骨格を押さえたうえで、ビジネスモデル特許を取得したり、利用規約を起案したりという法的な光を当てていくという考え方になります。
そういう意味で、データビジネスはまさに技術法務がいきる世界ということですね。
鮫島弁護士:
そもそも技術法務がビジネスにいきるのは、そのビジネスに内在する競争力を意識する形でビジネスに関わることができるためです。実務的にはそれは「発明の発掘→特許化」という観点になるわけです。このように、当事務所では、決して受動的な立場でお客さまのビジネスを受け止めているわけではありません。知財屋でもあり法律屋でもある我々は、「こういうビジネスモデルにしたほうが儲かるのでは?」「こういう特許も取ってみては?」といったビジネスを進めるためのアドバイスを積極的に提供することができます。
第4章ではそうしたアドバイスの具体事例が事細かに記載されています。
鮫島弁護士:
知財戦略(第2章)と契約(第3章)の融合方法を具体的なケースをもとに紹介しているのが第4章です。初版で紹介した事例は4つほどでしたが、第2版では10まで増やしました。初版刊行以降に当事務所へ入所した弁護士を起用し、彼らが持っている最新のケースをデフォルメして、現場では実際にどういうやり取りが行われているのか、できる限り再現しています。
法律や知財に詳しくなくとも「技術法務」の真髄に触れられる
最後に、BUSINESS LAWYERSの読者に向けてメッセージをお願いいたします。
牧氏:
第2版は、鮫島先生のお考えのなかの言語化しにくい部分までさらに丁寧に噛み砕かれており、法律や知財、経営などについて詳しくない方でも理解して自分ごととして発展させていける内容となっています。初版に引き続き編集させていただき、鮫島先生の頭の中をのぞかせてもらっているような気持ちになりました。何十年というご経験のなかで積み上げられてきた知見やノウハウが惜しげもなく盛り込んであり、ここまで書いて本当によいのだろうかと心配してしまうくらいです。「技術法務」の真髄がすべて詰まっているように思います。ビジネス法務関係者や技術のマネジメントをされる方たちだけでなく、ぜひ広く一般のビジネスマンにも社内テキストとしてお読みいただきたいです。
鮫島弁護士:
1社だけでは基礎技術の開発から社会実装、事業化、グローバル化まで実現できない時代になるなか、大企業、中小企業、スタートアップ、大学などの連携がより重要になってきています。そこで問題になるのが契約であり、契約における交渉力に大きく作用するのが知財です。ここで、知財と法務が融合する「技術法務」が重要となってきます。技術法務に長年取り組んできた当事務所のノウハウや知見がすべて本書に詰まっています。技術法務は、知財・法務担当者にとってはビジネスへの貢献、スタートアップであればバリュエーションの向上にもつながる考え方です。また中小企業や大学などでは、1人で悶々と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そういった方々の助けにもなる本だと思っています。

- 参考文献
- 第2版 技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス
- 編・著:鮫島正洋/編集代表
- 出版社:日本加除出版株式会社
- 発売年:2022年