ベンチャー・スタートアップ法務の特徴と業務の効率化

ベンチャー
関根 亮人弁護士 法律事務所way 堀 裕太郎弁護士 法律事務所way

目次

  1. スタートアップ企業等における法務の役割と特徴
    1. スタートアップ企業等における法務の役割
    2. スタートアップ企業等における法務の特徴
  2. スタートアップ企業等における法務業務の種類
    1. 戦略法務
    2. 予防法務
    3. 臨床法務
  3. スタートアップ企業等における業務の効率化
    1. 業務効率化の意義
    2. 外部法律事務所の活用の限界
    3. 業務効率化のために活用できるツール・手法
  4. スタートアップ法務で働く醍醐味
 いわゆるスタートアップ企業やベンチャー企業(以下「スタートアップ企業等」といいます)では、事業や社内の機能が発展途上にあるという特徴から、法務人材に求められる役割や業務内容について、大企業等とは異なる側面があります。
 本稿では、まず、スタートアップ企業等における法務の役割や特徴、一般的な業務内容について概観したうえで、業務量に比して人的リソースが限定的なスタートアップ企業等において重要となる業務の効率化の方法について、具体例も交えて触れたいと思います。
 なお、業務の効率化に近接する議論として、一定の段階にあるスタートアップ企業等の法務担当者には法務機能の組織化・仕組み化が求められることがありますが、本稿ではあくまで手段としての業務の効率化に焦点を当てることとしています。

スタートアップ企業等における法務の役割と特徴

スタートアップ企業等における法務の役割

 法務人材には「アクセル」と「ブレーキ」の役割が期待されるといわれることがありますが、スタートアップ企業等においては特にその役割が顕著になります。ここでアクセルとは事業を後押しする機能を、ブレーキとは事業上のリスク(法令違反やトラブルの発生等)を未然に防止するための機能を指してそれぞれ使われています。アクセルとブレーキをバランスよく使いこなし、会社という乗り物を目的地まで運ぶことが法務の役割です。

 実際にスタートアップ企業等で働いていると「アクセルとブレーキ」は的を射た表現だと感じますが、少し補足するならば、どこが「分岐路(=法律上の論点)」であり、その「分岐路」でアクセルとブレーキのいずれを踏むかという判断を行うところまでが法務人材に求められる役割といえます。

 特に、近年のスタートアップ企業等では、法整備が十分でない領域での事業展開を検討する場合や、時には、事業側が強い推進力でビジネスを進める中で自分だけがブレーキの機能を担っているという状況に置かれる場合もあります。このような場合には、法律上の論点を設定したうえで、法的リスクの分析を行い、そのリスクを最小化したうえで(契約上の手当てや監督官庁への照会、グレーゾーン解消制度の利用等)、当該リスクが事業上取れるリスクであるか、それとも対策を講じたうえでもなお回避することが望ましいリスクであるか検討を行い、当該検討を踏まえた案件のマネジメントまで行うことが求められます。

スタートアップ企業等における法務の特徴

 スタートアップ企業等の法務の特徴の一つに、業務スピードの速さが挙げられます。
 大企業では、ビジネスアイデアが生まれてからプロジェクトが動き出すまでに各種稟議が必要となるなど、各プロセスに時間を要することが多く、関連する法律業務のスケジュール感にも自ずと余裕が生じることがままあります。一方で、スタートアップ企業等では、意思決定スピードが大企業に比べて速いため、必然的に法務にもビジネスサイドと並走できるスピード感が求められます

 また、組織的に発展途上であることや、人的リソースが限られていることから、個々の法務担当者の担当する業務範囲が大企業の法務と比べて広くなることも特徴として挙げられます。大企業では、事業内容や法務機能に応じて個々の法務担当者の業務が分かれていますが、スタートアップ企業等では人的リソースが限られているため、会社の法務機能全体を少人数の法務担当者でカバーすることが求められます。

 そのため、スタートアップ企業等の法務では、会社の全体像を把握したうえで、論点(対応が必要な業務)の優先順位を設定し、さらに、外部のリソース等も積極的に活用しながら、優先順位の高いタスクから対応していく必要があります。

 以上のとおり、スタートアップ企業等の法務では、幅広い業務分野についてスピード感を持って対応することが求められるところ、上手く捌き切るためには効率的な業務遂行が不可欠となります。

スタートアップ企業等における法務業務の種類

 次にスタートアップ企業等における法務業務の種類とその内容について、「戦略法務」、「予防法務」、「臨床法務」の3つのカテゴリに分けて説明します。

戦略法務

 戦略法務とは、法務の知識を積極的に活用し、企業の経営戦略を創造する一翼を担うものであり、具体的には、新規事業、M&A取引、海外進出、知財戦略、ルールメイキングなどが挙げられます。スタートアップ企業等では、新規事業に関する業務にスポットが当たることが多いですが、知財戦略の策定や、場合によってはルールメイキングをリードすることが求められることもあります。

予防法務

 予防法務とは、将来会社が紛争やトラブルに巻き込まれるリスクを低減するために予防的に行う法務を指し、スタートアップ企業等の法務における業務の大半はこの予防法務に分類されます。具体的には経営陣や事業部からの法律相談、契約書の作成・レビュー・管理、社内規程の整備、機関法務(株主総会、取締役会対応等)、事業の法令遵守状況の確認等が挙げられます。

 特に上場を目指すスタートアップ企業等では、一定の社内体制の構築が上場審査において求められるため、このタイミングで法務担当者として参画した場合には、外部の法律事務所や証券会社と調整を行い、体制構築を行うことが重要な業務の一つとなります。

臨床法務

 臨床法務とは、会社にトラブルや紛争等が発生した際の対応を指します。企業にとって紛争の顕在化はレピュテーションの観点から避ける必要があり、また、簡単なクレームやトラブルなどであっても対応を誤ると裁判に発展する可能性もあることから、法務担当者には迅速かつ適切な対応が求められます。

 時には現場担当者のリスク評価と法的観点からのリスク評価に齟齬があり、クレームなどが法務担当者への相談に上がってこないケースもありますが、リスクヘッジの観点から、法務担当者が関与することが望ましい場合もあり得ます。そのため、実際に相談を受けた案件だけでなく、たとえば、Slackなどのコミュニケーションツールを利用するなどして社内のやりとりに目を光らせ(通知ワードの設定等により、必要な議論を効率的に拾い上げるなど)、場合によっては法務担当者側から働きかけて積極的にヒアリングを行い、対応方針について議論を行うことが求められます。

スタートアップ企業等における業務の効率化

業務効率化の意義

 スタートアップ企業等では、人的リソースに限りがあることが一般的であるため、法務担当者にとって業務の効率化は重要な課題となります。特に日常的に発生する契約書の作成・レビューや事業部からの法律相談等をいかに効率化していくかは、法務担当者として常に意識が必要な課題といえます。

 効率化の方法としては、契約書管理の電子化や電子契約システムの導入、ナレッジの蓄積や契約書雛形の作成、社内の法務フローの明文化(反社チェックや下請法対応等)等が挙げられます。

 もっとも、中には業務の性質上、効率化に馴染まないものも存在します。たとえば、契約書の作成・レビューに関していえば、秘密保持契約(以下「NDA」といいます)等の定型的な契約については、契約書を毎回一からドラフト・レビューすることは効率的でないため、契約書の雛形を作成していることが一般的です。しかしながら、雛形を作成したからといって、あらゆる案件に当該雛形を使い回せるというものではなく、NDA一つとっても、提供する情報の内容、案件の背景、取引先との関係等によって、会社に有利な契約書の内容、文言は変わり得ます。

 法務担当者に期待されるのは、案件毎の特徴に合わせた契約書の作成・レビューであり、雛形はあくまで案件ごとの検討時間を確保するためのベースに過ぎません。自社が情報を提供する場合の雛形、情報を受領する場合の雛形といったレベルでそれぞれNDAの雛形を作成することや、過去に調べた内容等をコメント形式で雛形に記しておくことは効率化に資するといえますが、案件ごとの特徴を踏まえた修正を行う部分は自ら手を動かす必要があり、この点は効率化できない業務といえます。

 ここではNDAを一例として挙げましたが、基本的にはどの業務でも個別事情に応じた調整が必要な内容が存在します。そのため、限られたリソースの中で期待された役割に十分な時間を確保するためにも、効率化可能な業務を見極め、効率化していくことは非常に重要といえます。

外部法律事務所の活用の限界

 スタートアップ企業等において完全に外注することが難しい業務として、論点(対応が必要な業務)の抽出作業が挙げられます(念のため論点抽出の段階から外部の法律事務所に協力してもらうことも可能ですが、外部の法律事務所は基本的には相談を受けてからでなければ動き出せず、また、相談の窓口となる法務担当者を通してしか事実関係を確認できないため、その意味では完全に外注することは難しい業務といえます)。論点が確定した後に、社内で対応するのか、効率化のツールを使用するのか、もしくは外部の法律事務所に依頼するのかを判断することとなりますが、これはあくまで解決に至る手段の問題であり、論点の設定がなければそもそも手段の議論も出てきません。

 そして、この抽出作業は実際に企業の中にいる法務担当者にしかできない作業です。もちろん、予防法務のようにある程度定式化されている内容もありますし、外部の法律事務所から定型的に論点となり得る問題についてサジェストされる場合もあります。しかし、結局実際の論点は具体的な事実との関係でしか確定できないため、論点として抽出すべきかの判断は最終的には企業の中で生の事実に触れることができる法務担当者にしかできないものとなります。

 ある程度の継続性のある企業であれば、過去の法務担当者のノウハウが踏襲され、会社で発生する論点も定型化されていることが多いですが、スタートアップ企業等では、この点が未成熟なことが一般的ですので、法務担当者としては全社的にアンテナを張りながら、論点を抽出し、積極的な問題提起を行うことが必要となります

 他方、論点が定まった後であれば、外部の法律事務所と協調することも十分に考えられます。外部の法律事務所に依頼を行う理由としては、単純に人的リソースが足りないために依頼する場合もあれば、個別の論点に関する専門性やリサーチのリソースが限定的であるために依頼するケース、事業の重要な内容に係る判断であるためリスクヘッジの観点からお墨付きをもらうケース等、各企業の状況によって様々な理由が考えられます。

 なお、新規事業の法令適合性やビジネスの根幹に関わる契約書等のドラフト・レビューといった、会社の事業へのインパクトが大きい内容については、外部の法律事務所への確認を行うことがリスクヘッジの観点から望ましいといえます。

業務効率化のために活用できるツール・手法

 スタートアップ企業等における大量の法務業務を効率化するためには、リーガルテックサービスを活用することも考えられます。

 たとえば、契約の締結業務については、リモートワークが普及している状況において、紙の契約書に押印することは煩雑で時間もかかること、また電子契約では印紙が不要とされること等から、電子契約サービスを利用することが考えられます。

 契約書の管理についても、契約書管理サービスを利用することで、契約書の検索が容易となり、また、契約書の更新期限が通知されるなど、契約書管理業務の負担軽減に繋がります。なお、契約書管理を行う際はバージョン管理を行うことも重要となります。これにより、複数人で契約書を管理している場合や、契約の交渉で複数回のコメントのやり取りが発生する場合でも、誤ったバージョンで作業が行われることの防止に繋がります。また、過去に締結された契約を参考にしたい場合や、事後的に契約条項の意義が争われた場合などに当時の交渉状況や特定の条項が設けられた背景、外部の法律事務所からのコメント等の検索も容易となります。特に過去のコメントのやり取りの蓄積は会社にとっても重要なナレッジとなります。

 なお、電子契約サービスや契約書管理サービスを導入する際は、導入・ランニングのコストや機能性に加えて、外部サービスとの連携状況等も踏まえて検討すると、より自社に適したサービスを導入することができます。

 また、リサーチ業務については、「BUSINESS LAWYERS LIBRARY」などの法律書籍閲覧サービスを利用することで必要な情報に最短でアクセスすることができるようになります。

 さらに、最近ではAIによる契約書のレビューサービスもあります。使い方はそれぞれですが、単にレビューの参考に使用するだけでなく、レビュー時に表示される解説コメントをリサーチの時間削減に役立てることもできます。中には契約書や規程等の雛形が閲覧できるサービスもあるため、会社の雛形の作成や、契約書等のドラフト・レビュー時に言い回しの参考にするといった使い方も可能です。

 上記のようなリーガルテックサービスは、業務を効率化するうえで非常に有用であるため、ぜひ積極的に活用することをお勧めします。

 なお、余談ですが、上記のようにサービス化されていない業務について、効率化の検討が必要な場面も多々あります。たとえば、スタートアップ企業等では株主総会の統括業務を法務担当者が主導する場合がありますが、翌年度以降の負担を軽減する観点から、株主総会マニュアルの作成・更新は非常に有効です。特に上場後初の株主総会を担当する場合、会場の手配に始まり、証券代行との調整、各種総会書類の作成、全体スケジュールの管理や当日のスタッフのアテンド・指示出し等まで対応することになりますので、株主総会直後に株主総会マニュアルを作成し、スタッフの感想や申し送り事項を蓄積していくことは重要です。
 あくまで一例ですが、リーガルテックサービスとして提供されていない業務や性質上サービス化に馴染まない業務も当然存在しますので、その場合には必要に応じて、効率化の手法(社内マニュアルやナレッジ集の作成等)を各企業の実情も踏まえて検討することとなります。

スタートアップ法務で働く醍醐味

 以上、簡単ではありますが、筆者がスタートアップ企業等の法務担当者として従事する中で携わっている法務業務の内容や、実際に取り入れている業務の効率化手法等について説明しました。
 スタートアップ企業等は良くも悪くも発展途上の段階にあり、法務担当者も日々手探りで業務を行う場面が多々あります。また、限られた時間の中で非常に多くの業務を捌くことが求められるため、いかに業務を効率化していくかを常に意識したうえで、日々の業務を行うことが重要になってきます。この点がスタートアップ企業等の法務における大変な点であり、また、スタートアップ企業等で働く醍醐味の一つです。

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