2022年株主総会に向けた助言会社・機関投資家の議決権行使基準の比較・分析

コーポレート・M&A

目次

  1. 議決権行使基準をめぐる2022年の動向
  2. ジェンダー・ダイバーシティ(女性役員の選任)に関する基準
    1. 議決権行使助言会社の方針
    2. 機関投資家の方針
  3. バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款変更に関する基準
    1. バーチャルオンリー株主総会の解禁と定款変更
    2. 議決権行使助言会社と機関投資家の方針
  4. ESGに係る株主提案に関する基準
    1. ESG・気候変動関連の株主提案の動向
    2. 機関投資家の動向

議決権行使基準をめぐる2022年の動向

 6月の株主総会シーズンが到来しています。本稿は、株主総会を目前に控え、議案の賛成率に大きな影響を与え得る議決権行使助言会社および機関投資家の議決権行使基準を紹介し、その比較・分析をするものです。

 2021年は、3月に改正会社法が施行され、6月にコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます)が改訂されました。

 また、2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が変更され、新たにプライム市場、スタンダード市場およびグロース市場の3つとなりました。特に、プライム市場の上場会社は、他の市場区分の上場会社よりも高度なガバナンス体制が求められ、機関投資家の中にも、そのような市場区分ごとに異なる内容の議決権行使基準を設定するものが現れています。特に、独立社外取締役の選任については、機関投資家の議決権行使基準においても、CGコードの原則4-8と同様に、プライム市場の上場会社に対し、取締役総数の3分の1以上を求めるものが一般的となりつつあります。

ジェンダー・ダイバーシティ(女性役員の選任)に関する基準

議決権行使助言会社の方針

 議決権行使基準を巡る大きな動きとして、議決権行使助言会社が、女性役員の選任に関する議決権行使助言基準を厳格化し、または新規に導入した点があげられます。

 まず、Glass Lewisは、これまで、東京証券取引所の市場区分の変更前の市場第一部および第二部の上場会社に対し、ジェンダー・ダイバーシティに関する方針を適用していましたが、2022年2月に開催される株主総会から、これを日本の証券取引所に上場するすべての会社に適用することとしています。

 Glass Lewisのジェンダー・ダイバーシティに関する方針とは、具体的には、「多様な性別」の役員(取締役、監査役および指名委員会等設置会社における執行役)が不在の場合、原則として、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社では会長(会長職がない場合は最上級役員)、指名委員会等設置会社では指名委員会委員長に対して、反対助言を行うというものです。「多様な性別」の役員とは、男性と女性以外の性別の役員も含まれますが、日本市場においては、実質的には、女性役員を求める方針であるとされています。

 さらに、Glass Lewisは、このジェンダー・ダイバーシティに関する方針について、2023年2月1日以降に開催される株主総会からは、固定数値方式から割合方式に移行し、プライム市場の上場会社においては、「少なくとも10%以上」の上述の性別の多様性がない取締役会の場合、会長(会長職がない場合は最上級役員)または指名委員長に対して、原則として反対助言を行う予定であるとし、方針を厳格化しています。

 なお、Glass Lewisは、以上の議決権行使助言を行う際には、ダイバーシティに関する企業の情報開示を精査し、ダイバーシティの欠如に対する十分な説明やそれに対処する計画を提示している場合には、反対助言を控えることもあるとしています。

 上記の2点目の改訂により、プライム市場の上場会社は、2023年2月以降の株主総会では、たとえば、役員(取締役および監査役または取締役および執行役)の合計人数が10名超20名以下の場合は、少なくとも2名の女性役員がいなければ、Glass Lewisから、会長等の選任議案に対して、原則として反対助言を受けることとなります。

 次に、Institutional Shareholder Services(以下「ISS」といいます)は、2023年2月から、株主総会後の取締役会に女性取締役が1名もいない場合は、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準を導入するとしています。

機関投資家の方針

 このように、議決権行使助言会社が、1名または2名(以上)の女性役員の選任を求めるようになっていますが、機関投資家の中にも同様の議決権行使基準を設けるものがあります。以下では、議決権行使基準の直近の改訂により、そのようなジェンダー・ダイバーシティに関する基準を新たに設けた、または厳格化した機関投資家を紹介しています。基本的には、一定の市場区分等の上場会社に対して、少なくとも1名の女性役員の選任を求める内容であると言えます。

 上場会社における女性役員の選任状況に関しては、内閣府男女共同参画局によれば、2021年7月末時点で、東京証券取引所市場第一部上場会社の732社(33.4%)において女性役員が1名もおらず、全上場会社の役員数に対して女性役員が占める割合は7.5%であるとされています。また、東京商工リサーチによれば、2021年3月期決算の上場会社2,220社において、女性役員比率は7.4%(役員総数2万4,777名のうち女性役員数が1,835名)、女性役員が1名もいない会社は965社(43.4%)であるとされています(「役員」とは、「会社法上の取締役、監査役および執行役など」と定義したとされています)。

 2022年6月の株主総会を経て、女性役員を少なくとも1名選任する上場会社が増えると予想されますが、各社の役員総数に占める割合は、10%に満たないのが一般的ではないかと思われます。今後、機関投資家の動向も踏まえ、複数名の女性役員の選任に向けた検討をする必要性が徐々に高まると言えるでしょう。

ブラックロック・ジャパン
  • 2023年1月より、TOPIX100に該当する企業を対象に、女性の取締役もしくは監査役が2名以上選任されていない場合、その理由に関して合理的な説明がなされなければ、取締役会構成に責任のある取締役の再任に反対
  • 2023年1月までは女性の取締役もしくは監査役の1名以上の選任を求める従来の基準を維持
大和アセットマネジメント (1)取締役(社外取締役を除く)の選任
原則として賛成する。ただし、以下に該当する企業の取締役(社外取締役を除く)の再任については、反対する。

TOPIX500の構成銘柄に該当する企業において、役員(取締役および監査役会設置会社における監査役)に女性が1名以上選任(上程)されていない企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者
(筆者注:対象をTOPIX100の構成企業から拡大)

アセットマネジメントOne 総会後の取締役会において、女性の取締役が1名以上在任していない場合、代表取締役に原則反対。なお、対象はTOPIX100構成企業とするが、対象企業を東証プライム市場上場銘柄全体へ向け広げていくことを検討。
三井住友DSアセットマネジメント 2. 取締役の選解任に関する議案
(中略)以下に抵触した場合、候補者毎に精査の上原則反対するが、実態等を踏まえた総合判断により賛成することがある。
② 業績・企業価値に関する基準

(キ)取締役会もしくは役員等(執行役員等を含む)の構成に関して多様性の視点で改善の余地がある(当面は時価総額上位企業の取締役会構成を精査し、ジェンダー、外国人等の多様性が一切確認できない場合、原則反対する)

日興アセットマネジメント

1. 取締役会構成に関して、以下に該当する場合は原則として経営トップである取締役選任議案に反対する。

(5)女性取締役が不在の場合(ただし、プライム市場上場会社に対し2023年1月以降に開催される定時株主総会より適用し、その後、対象市場の拡大、人数要件の段階的引き上げを検討する)

ニッセイアセットマネジメント 以下の基準に該当する場合、原則、反対します。
(2)取締役会の構成

プライム市場上場企業かつTOPIX100対象企業において、女性取締役が存在しない場合(2023年6月から適用)(将来的には対象企業を拡大)

バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款変更に関する基準

バーチャルオンリー株主総会の解禁と定款変更

 2021年6月16日公布・施行の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」(令和3年法律第70号。本項において以下「改正法」といいます)による産業競争力強化法の改正により、会社法の特例として、「場所の定めのない株主総会」、すなわち、総会場の設定の必要がなく、出席株主は全てオンラインで出席することが可能となる、「バーチャルオンリー株主総会」の開催が解禁されました。

 これは、上場会社に限り、①株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定めを設け、かつ、②一定の要件を満たすことについて経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることを条件として、場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)を開催することができるというものです(産業競争力強化法66条)。

 バーチャルオンリー株主総会を開催するために必要となる、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定めについては、経過措置が設けられており、改正法の施行から2年が経過する日(2023年6月16日)までの間に、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた上場会社は、当該期間は、定款の定めがあるものとみなすことができるものとされています(改正法附則3条1項)。

 実際にバーチャルオンリー株主総会を開催するかどうかは別としても、COVID-19の大流行のようなパンデミックや大地震等の発生により総会場での株主総会の開催(リアル開催)が著しく困難または不可能となるといった万一の場合に備え、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする定款の定めを設けるための定款変更だけでも行っておくということは、選択肢として十分に考えられます(注1)。

議決権行使助言会社と機関投資家の方針

 このような定款変更議案について、ISSは、2021年の株主総会において、反対推奨をしていたところ、2022年にこの点を明確化するよう議決権行使助言基準を改定し、「バーチャルオンリー型株主総会の開催を目的に『場所の定めのない株主総会』の開催を可能とする定款変更」は、「バーチャルオンリー型株主総会の開催を感染症拡大や天災地変の発生に限定する場合」を除き、原則として反対を推奨するとしています

 Glass Lewisは、株主総会の「招集時に株主の参加要件に関する明確な手続きが開示されない限り、バーチャルオンリー株主総会は株主の権利を制限することにつながると考えている」としています。そのため、「通常、バーチャルオンリー株主総会を可能にするための定款変更を提案する会社は、最低限、変更議案または添付書類に以下のコミットメントを含めることを期待する」として、①「バーチャルのみの総会に参加するための手続きと要件は、招集時に開示される」、②「株主が取締役会に質問を提出し、全ての株主がアクセス可能な形式で回答するための正式なプロセスが設定される」という2点をあげています。そのうえで、「株主の権利が侵害されていると判断した場合には、グラス・ルイスは、原則として、株主総会の招集権者である取締役に対して、反対助言を行う」としています。

 バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款の定めの内容は、本来、「株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる」旨で足ります。これに対し、ISSは、上記のとおり、定款の定めの内容に踏み込んで、「バーチャルオンリー型株主総会の開催を感染症拡大や天災地変の発生に限定する場合」でなければ、原則として反対を推奨するとしています。

 機関投資家の中にも、以下のとおり、バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款の定めを設けるための定款変更議案についての議決権行使基準を新たに設けるものがあります。これらの機関投資家は、基本的に、そのような定款変更議案に対して原則として賛成するというものであり、ISSとはスタンスが異なるように見受けられます。

 今後、バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款の定めを設ける上場会社が一定数現れると見込まれますが、ISSの議決権行使助言基準も踏まえ、海外の機関投資家の持株割合等によっては、その定款の定めの内容を慎重に検討する必要があり得ると考えられます。

(注1)経済産業省は、実際に場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)を開催する予定はないが、定款変更だけ行いたいという場合でも、経済産業省および法務大臣の確認を得ることが「必要」であるとしています。このほか、当該確認に係る要件を含め、バーチャルオンリー株主総会については、経済産業省のホームページに詳しいQ&A等があり、参考となります。

野村アセットマネジメント 以下の定款変更議案については、ガバナンス改革の観点から、原則として賛成する。
⑦ バーチャルオンリー総会の開催を可能とするもの。
ブラックロック・ジャパン 場所の定めのない株主総会(いわゆるバーチャルオンリー総会)の開催を可能にする定款の変更は、当該企業に深刻なガバナンス上の懸念があると判断されない限り、賛成
三井住友DSアセットマネジメント バーチャル株主総会開催を可能とする場合は原則賛成する。株主権利を著しく損なう株主総会運営が行われた場合は、その後の株主総会の取締役選任に反対することがある。
大和アセットマネジメント 場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー総会)開催を可能とする定款変更については、株主利益に繋がるものとして原則として賛成します。但し、当該株主総会の運営において、透明性・公正性が確保されず株主の利益が毀損されたと判断した場合には、企業の社会的信頼を損なわせる重大な事象と捉え、次回以降の総会において役員の再任候補者に反対する場合があります。

ESGに係る株主提案に関する基準

ESG・気候変動関連の株主提案の動向

 2022年も、ESG、特に、気候変動への対応に関する開示を求める定款変更に関する株主提案が行われています。たとえば、環境NGO等が、金融、商社、電力の3業界の4企業(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、東京電力ホールディングスおよび中部電力)に対して、パリ協定目標と整合する中期および短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定・開示を求めるなどの株主提案をしています(注2)。

機関投資家の動向

 以下は、ESG・気候変動関連の株主提案についての議決権行使基準を定める機関投資家を紹介しています。このほか、明治安田生命保険は、必ずしもESGに関する株主提案に限定するものではないですが、株主提案について、「情報開示等において企業側がすでに十分に取組みを講じていると考えられる場合」には、原則として反対するとしています。

 気候変動に関連する株主提案については、一般に、機関投資家の賛同を得られやすいと言われています。他方で、企業側においても、気候変動に関する取組みを進め、それについての開示の充実化させつつあるところです。そのような取組みを進める企業に対する株主提案は、その内容によっては、「過剰な」要求と映る可能性があります。また、定款に定める事項としては、経営に関してあまりに細かい事項である場合もあり得ます。

 そのような懸念もあって、以下のとおり機関投資家は、「基本的な方針の策定に関する」株主提案に対して原則として賛成するとしたり(野村アセットマネジメント)、企業側の開示状況・取組状況を勘案するとしたり(ニッセイアセットマネジメント、大和アセットマネジメント、明治安田生命保険)していると推察されます。

 気候変動に関する取組の在り方や世界的な要求レベルは、時々刻々と変化しており、企業側としても対応に苦慮することが少なくないと考えられますが、業界・競業他社の横並びよりも一歩先を見据えた取組および開示をすることが、株主および機関投資家との関係においても肝要であると言えます。

(注2)特定非営利活動法人気候ネットワーク「【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)」

野村アセットマネジメント 株主提案が、「ESG課題を巡る取組みについての基本的な方針の策定に関する」定款変更議案であって、現行の定款に該当する項目がなく、かつ、以下のいずれにも該当しないと判断される場合は、原則としてこれに賛成する。
  • 株主価値の観点からではなく、社会的・政治的な主張を目的とした提案
  • 内容が明確性や具体性を欠いており、議案としての要件を満たしていない提案
三井住友DSアセットマネジメント 気候変動や人権等、サステナビリティの情報開示に関する株主提案については、求める開示内容、範囲、項目等が適切と判断できる場合は原則賛成する。
ニッセイアセットマネジメント 気候変動に関連する提案について、下記のすべてを満たす場合には、原則、賛成します。

i. TCFDなどの気候変動に関する開示を求める議案で、企業価値の観点で気候変動要因が重要であるにもかかわらず適切な内容の開示が行われていないと判断される場合

ii. 気候変動に関し、事業再編などの企業行動の変革を求める議案で、企業価値向上に資すると判断できない個別具体的な行動までを一義的に指定する内容でない場合

大和アセットマネジメント 気候変動や人権の尊重、その他ESG課題に関する情報開示の拡充や取組みの強化を求める議案には、企業の取組み状況や業務執行への影響なども勘案した上で適切と判断できる場合に賛成する。

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