メキシコの仲裁法および仲裁実務
国際取引・海外進出
はじめに
日本企業のメキシコ進出に伴い、日本企業またはそのメキシコ子会社等が他のメキシコ法人と取引をすることが多くなっている。このような状況で、仲裁の利用が以下の理由から重要となっている。
第一に、紛争が生じた場合の他の解決手段としてはメキシコの裁判所での訴訟があるが、多くの場合、日本企業側はメキシコの裁判所での訴訟の経験が少なく、他方で相手方であるメキシコ法人は比較的経験豊富であろう。もちろん日本企業側も通常は訴訟専門のメキシコ人弁護士を代理人とするであろうが、それでも一定のハンディキャップがある状況は否めない。逆に、日本の裁判所での訴訟を通じた紛争解決を図った場合、仮に勝訴したとしても、その判決はメキシコ法上は外国判決であり、かかる外国判決のメキシコでの執行のためには連邦民事訴訟法が求める要件を満たす必要があり 1 、執行が容易ではないこともある。第二に、事案によっては特定の産業等についての専門知識や経験を有する仲裁人の判断を求めることが望ましい。第三に、高度の企業秘密に関わる紛争等、紛争の内容によっては裁判所での公開の審理 2 を避ける必要がある。
上記のとおりメキシコ進出に伴い仲裁の利用が重要となっていることを踏まえ、本稿ではメキシコの仲裁に関するルールを実務上の留意点の指摘も交えて解説する。この点、仲裁地をメキシコ国外の地とした場合にはメキシコの仲裁に関するルールの適用はないのではないかとの疑問を持たれるかもしれない。しかし、後述のとおり、仲裁合意があるにもかかわらずメキシコで訴訟提起がされた場合の定めや仲裁判断をメキシコで執行する場合の定め等、仲裁地がメキシコ国外にある国際仲裁に関しても適用される定めが存在する。また、当事者双方がメキシコ法人である場合には、仲裁合意において仲裁地をメキシコ国外の地とすることを契約の相手方から拒否されることもありうる。したがって、メキシコで事業を営む場合にはメキシコの仲裁に関するルールを理解しておく意義がある。
なお、本稿における「仲裁」は特段の指摘なき限り商事仲裁を指す。
仲裁に関するメキシコの法制度
(1)メキシコの仲裁
メキシコでの商事仲裁は後記のとおり連邦商法(Código de Comercio)で規律される 3。連邦商法は「仲裁(Arbitraje)」を「商業的性質を有するあらゆる仲裁手続(常設の仲裁機関を利用するか否かを問わない)」と定義している 4。
また、連邦商法は仲裁を国内仲裁と国際仲裁で区別している 5。a)仲裁合意締結時に当事者がそれぞれ異なる国に拠点(establecimiento)を有している場合またはb)仲裁合意に基づき決定された仲裁地、商業関係の義務の相当部分の履行地もしくは紛争内容に最も密接に関連する地のいずれかが、当事者が拠点を有する国以外に所在する場合には、仲裁は国際仲裁であるとされる 6。当事者が複数の拠点を有する場合、拠点は仲裁合意と最も密接な関係を有する拠点が考慮され、当事者が拠点を有しない場合にはその常居所(residencia habitual)を考慮する 7。
(2)仲裁法
上記のとおり、メキシコの仲裁に関するルールは連邦商法で定められている。つまり、メキシコでの仲裁を規律する法律として独立した法律があるわけではなく、連邦商法の1415条から1500条までが仲裁に関するルールを定めている 8。かかる連邦商法の定めは、原則としてメキシコ国内の商事仲裁および仲裁地がメキシコ国内にある場合の国際仲裁に適用される 9。さらに、一部の規定は、仲裁地がメキシコ国外にある場合の国際仲裁にも適用されうる 10。たとえば、仲裁合意が存在するにもかかわらず当該仲裁合意の対象である事項についての訴訟提起がなされた場合の裁判官等の対応に関する定め 11、暫定措置に関する定め 12 および仲裁判断の承認・執行・拒絶に関する定め 13 等である。
上記のとおり仲裁に関するルールが法定されているが、多くの規定は当事者間の合意等で修正可能である 14。
(3)仲裁機関
連邦商法は仲裁機関を利用した仲裁といわゆるアドホック仲裁の双方を想定している 15 ものの、通常、仲裁機関を利用した仲裁が選択される。当事者は仲裁機関を選択できる 16。連邦商法はメキシコの仲裁機関と国際仲裁機関を区別しておらず、仲裁機関がメキシコ国内に所在する限り、メキシコの仲裁機関を利用することも、国際仲裁機関を利用することも可能である。
メキシコ国内に所在する仲裁機関としては国際仲裁機関であるInternational Chamber of Commerce (ICC) 17 とメキシコの仲裁機関であるCentro de Arbitraje de México (CAM) 18 およびCámara Nacional de Comercio de la Ciudad de México (CANACO) 19 があり、メキシコ法人同士の取引の場合、仲裁地はメキシコシティとされ、CAMまたはCANACOが選択されることが多い。
なお、上記とは別の議論として、メキシコ法人が関係するクロスボーダー取引における仲裁地選択の議論がある。メキシコ法人と外国法人との間の契約の場合、仲裁地は関連する契約や取引の内容等の事情を踏まえて決定される。
仲裁合意
(1)仲裁合意の定義と要件
連邦商法は仲裁合意(Acuerdo de arbitraje)を「当事者が、特定の法的関係(契約上のものであるか否かを問わない)に関して、当事者間に生じた、または生じる可能性のある、すべてまたは特定の紛争を仲裁に付することを決定する合意」と定義している 20。この定義は、UNCITRALモデル法上の仲裁合意の定義 21 および日本の仲裁法上の仲裁合意の定義 22 とほぼ同じである。
仲裁合意は、契約書の仲裁条項の形式をとることも、別個の合意の形式をとることもできる 23 。
仲裁合意は書面でなされる必要がある 24。有効な仲裁条項を含む取引基本契約が存在する場合に、個別契約または発注書でかかる取引基本契約を言及している場合には、当該個別契約等において仲裁条項が存在しなくとも、当該個別契約等に基づく取引に関して仲裁合意が認められる 25。
契約書の一部を構成する仲裁合意は当該契約書中の他の条項から独立した合意であるとみなされ、契約書本体が無効であると判断された場合にただちに仲裁合意が無効であると判断されるわけではない 26。
(2)仲裁合意の効力
有効な仲裁合意が存在する場合には、当然であるが、当事者は仲裁合意の対象である紛争を仲裁に付することができる。
また、仲裁合意の存在の主張は訴訟提起された場合に抗弁類似の主張として作用する 27。すなわち、有効な仲裁合意が存在するにもかかわらず、一方当事者が仲裁合意の対象である紛争についてメキシコの裁判所に訴訟提起した場合には、他方当事者は仲裁合意の存在を主張し仲裁へと移行するように要求することができる 28。もっとも、通常の抗弁と異なり、訴訟提起された側は係争中の紛争を対象とする仲裁合意の存在の主張をする必要があるのみで、かかる主張がなされた場合には訴訟提起した側が当該仲裁合意が無効または執行不可能であることを立証する必要があり、このような立証がなされない場合には仲裁へと移行する 29。被告が仲裁合意の存在を主張せず答弁書を提出した場合には、被告は裁判所での訴訟を通じた紛争解決に同意したものとみなされることに注意が必要である。なお、上記のような先に訴訟提起される場合のほか、仲裁手続開始後に訴訟提起される場合もありうるが、このような場合には既に開始している仲裁手続の進行は妨げられない 30。
なお、上記の場合とは逆に、有効な仲裁合意が存在しないにもかかわらず仲裁手続が開始される場合もありうる。この場合においても、有効な仲裁合意が存在しないことを知りながら仲裁を進め、遅滞なく異議申立てをしない場合等には、異議申立ての権利を放棄したものとみなし、仲裁手続は有効に進行する 31。
仲裁合意の対象とできない事項
当事者は仲裁合意の対象である紛争を仲裁に付することができるが、前提として紛争が仲裁合意の対象とできるものでなければならない。たとえば、以下の事項に関する紛争は一般に仲裁合意の対象とできない。
仲裁廷
(1)仲裁人と仲裁廷
連邦商法は仲裁廷(Tribunal arbitral)を「紛争を解決するために指名された1名または複数の仲裁人」と定義している 38。仲裁人の人数は当事者の合意により自由に決定することができるが、このような合意が存在しない場合には仲裁人は1名となり 39、UNCITRAL仲裁規則上は当事者間の合意が存在しない場合には仲裁人は原則として3名となるとされている 40 ことと異なる点に注意が必要である。仲裁人の選任手続についても当事者の合意により自由に決定することができる 41。このような当事者の合意により定められた仲裁人の選任手続が存在する場合において、当事者の一方が当該手続の規定に従わない等の理由により当該手続による仲裁人の選任ができない場合には、当事者は裁判官に対し、必要な措置を講ずるよう求めることができる 42。
仲裁地がメキシコである仲裁およびメキシコでなされる仲裁手続における仲裁人には公平性と独立性が求められる 43 が、連邦商法は一層の要件を定めていない。当事者間で別段合意しない限り国籍は仲裁人となるための支障とはならないとされており 44、そのためメキシコ人であるか否かを問わず仲裁人となりうる。
仲裁人として任命されうる旨が通知された者は、その公平性または独立性について正当な疑念を生じさせる可能性があるすべての状況を開示しなければならない 45。仲裁人忌避の申立ては、その公平性または独立性について正当な疑念を生じさせる事情がある場合または仲裁人が当事者間で合意された条件等を満たしていない場合においてのみなしうる 46 。当事者は合意により仲裁人忌避の手続を定めることができる 47。かかる合意がない場合には連邦商法で定めるところに従い異議申立てをする必要がある 48。
(2)仲裁廷の管轄権
仲裁廷は、自らの管轄権について決定する権限(仲裁合意の存在または有効性に関する異議に対する判断権を含む)を有する 49。仲裁廷が管轄権を持たない旨の異議申立ては、原則として答弁書の提出時までになされなければならない 50。仲裁廷は、上記の異議申立てについて、本案に関する裁定(laudo arbitral)と同時に決定することも、本案に関する裁定に先立って決定することもできる 51。仲裁廷が、本案に関する裁定を行う前に管轄権を有すると宣言した場合、当事者は、かかる決定の通知を受けた日から30日以内に、裁判官に対して最終決定をするよう求めることができる 52。この裁判官による決定については上訴することができない 53。
(3)仲裁手続等
当事者は、仲裁廷が従うべき手続規則等や適用されるべき実体法を合意により決定することができ、仲裁廷は、原則として当事者の選択に従って紛争を解決する 54。このような当事者による合意がない場合、仲裁廷は、適切と考える方法で仲裁を行うことができ 55、事案の性質等を勘案して適用する実体法も決定する 56。
当事者は、仲裁地および仲裁手続で用いられる言語についても合意により決定することができる 57。
仲裁手続の開始時期について当事者間に合意がない場合には、仲裁手続は、被申立人が仲裁開始申立書を受領した日に開始する 58。申立人は、当事者間で合意された期間または仲裁廷によって決定された期間内に、請求の根拠となる事実や争点等を主張しなければならず、被申立人は申立人の主張に対し回答する必要がある 59。申立人がかかる期間に適切に主張しない場合には、仲裁廷は仲裁手続を終了する 60。被申立人が申立人の主張に回答しない場合や期日に出席しない場合でも仲裁廷は仲裁手続を継続でき、提出された証拠等に基づき裁定を下すこともできる 61。
仲裁廷は、当事者間で別段の合意なき限り、証拠の提示または口頭弁論のために期日を設けるかどうかを決定することができる 62。すなわち、口頭弁論等のために期日は必須ではなく、提出された文書等の証拠のみに基づいて裁定を下すこともできる 63。もっとも、仲裁廷は、当事者のいずれかから要求があった場合には、手続の適切な段階でそのような期日を設けなければならない(ただし、当事者間で口頭弁論等のために期日を設けないことを同意している場合はこの限りでない)64。このような期日は、仲裁地がメキシコとされている場合であっても、当事者間で特段の合意がない限り、メキシコ国外で開催することもできる 65。
暫定措置
メキシコには裁判所による暫定措置と仲裁廷による暫定措置が存在する。
有効な仲裁合意がある場合には裁判所による訴訟ではなく、仲裁廷による仲裁手続が用いられるが、当事者は、かかる仲裁手続に先立ちまたはその継続中に、裁判官に対し、暫定措置を講ずるよう求めることができる 66。連邦商法は暫定措置の具体的な内容を定めておらず、裁判官はこの暫定措置について裁量権を有する 67。もっとも、裁判官による暫定措置は法定の手続に則ってなされる 68。
上記の裁判官による暫定措置とは別に、仲裁廷による暫定措置も存在する。すなわち、仲裁廷は、当事者の一方の要請により、必要な措置を講じることができ(ただし、当事者による別段の合意がある場合はこの限りでない)、仲裁廷は、当該措置に関して、当事者に対し十分な担保を提供するよう要求することもできる 69。上述のとおり連邦商法が暫定措置の具体的な内容を定めていないことから、仲裁廷はいかなる暫定措置を命じるかについて裁量権を有する。仲裁廷が命じた暫定措置は拘束力を有し、原則として法定の執行拒否事由が存在しない限り裁判所により承認され執行される 70 。この仲裁廷が命じた暫定措置の承認と執行も法定の手続に則ってなされる 71。
証拠
連邦商法は証拠の採用や評価についての特別の定めを設けていない。当事者はいかなる証拠規則に服するかを合意により決定することができる 72。このような当事者による合意がない場合、仲裁廷は、証拠採用の可否、関連性の判断、証拠価値の評価等において裁量を有する 73。IBA証拠規則(IBA Rules on the Taking of Evidence in International Arbitration)等は仲裁人にとって指針となるが、当事者間で合意がある場合を除き、これに従わなければならないわけではない。
仲裁廷または仲裁廷の承認を得た当事者は、証拠取得のために裁判官の支援を求めることができる 74。
裁定
仲裁人が複数いる仲裁手続においては、仲裁廷の決定(裁定を含む)は、当事者が別段の合意をしない限り、多数決によって行われる 75。当事者または全仲裁人が権限を与えた場合、主宰仲裁人(árbitro presidente)は手続に関する事項を決定することができる 76。
仲裁廷による裁定は、書面によりなされ、日付や仲裁地の他、原則としてその根拠となる理由が記載される 77。仲裁廷は、裁定を下した後、裁定書の写しを各当事者に交付して通知する 78。当事者の一方は、原則として、裁定の通知から30日以内に、相手方当事者に通知した上で、仲裁廷に対し、計算上の誤りや誤字等の訂正を求めることができる 79。また、当事者の一方は、原則として、裁定の通知を受領してから30日以内に、相手方当事者に通知した上で、仲裁手続において提起されたが仲裁判断から漏れている請求について追加判断を行うよう仲裁廷に要求することができ、仲裁廷はかかる要求を正当と認める場合には原則として60日以内に追加裁定を行う 80。
仲裁手続中に当事者が和解に至った場合、仲裁廷は手続を終了させる 81。この時、当事者双方から申出があり、仲裁廷が特段問題がないと判断する場合には、上記の裁定の形式で和解を記録する 82。このように裁定の形式で記録された和解は通常の裁定と同様の性質および効果を有し、執行可能である 83。
費用負担
連邦商法は費用(Costas)を「仲裁廷の費用、仲裁人が負担した旅費およびその他の費用、専門家の助言または仲裁廷が必要とするその他の支援の費用、証人が負担した旅費およびその他の費用(仲裁廷が承認した場合に限る)、勝訴側の当事者の代理人の費用(当事者の要求があった場合に限り、また仲裁廷がその額が妥当であると判断する範囲に限る)、仲裁人を任命した機関の費用」と定義し 84、かかる費用についての規定を設けている 85。もっとも、当事者は別の仲裁費用についてのルールに従う旨の合意をすることが可能であり、その場合は以下で説明するルールは適用されない 86。
仲裁廷は裁定において仲裁費用を定める 87。仲裁費用の一部である仲裁廷の費用は、係争額、紛争の複雑さ、仲裁人が費やした時間等の事情を考慮して決定される 88。各仲裁人の報酬は、仲裁廷によって決定され、裁定書とは別の書面に記載される 89。
原則として敗訴当事者が仲裁費用を負担するが、仲裁廷は事件の状況を考慮し合理的と判断する場合には仲裁費用を双方当事者に負担させることができる 90。
異議申立て
メキシコでは、裁定に対する上訴等はできず、一定の場合にその取消しを求めて異議申立てができるのみである。裁定の取消しを求める異議申立てが認められるのは限定的である。具体的には、以下の場合に限り、管轄を有する裁判官により裁定が取り消される 91。
- 仲裁合意の当事者の一方に合意する能力がなかった場合または当該合意が適用のある法律の下で無効である場合等
- 仲裁人の任命または仲裁手続について適切な通知がなされていなかった等の理由で権利を主張することができなかった場合
- 裁定が、仲裁合意で意図されていない紛争に関連している、または仲裁合意の範囲を超える決定を含んでいる場合(ただし、裁定の内容が分離可能である場合には、仲裁合意の範囲を超える部分のみを破棄することができる)
- 仲裁廷の構成または仲裁手続が当事者間の合意に反する場合(ただし、当該合意が、法の定めと矛盾し、当事者の合意がかかる定めを修正できない場合等を除く)またはかかる合意がない場合において法の定めに反する場合
- メキシコ法上、紛争の内容が仲裁の対象とならない場合
- 裁定が公共秩序に反する場合
裁定の取消しを求める異議申立ては、原則として裁定の通知の日から3か月以内に、管轄を有する裁判所に対してなされなければならない 92。裁判官は、裁定の取消しを求められた場合であっても、取消しの手続を一時的に停止し、これにより仲裁廷に仲裁手続を再開する機会を持たせたり仲裁廷が取消事由を除去するための措置を講じることができるようにしたりすることができる 93。
上記の裁定の取消しを求めて異議申立てをする権利を当事者の合意によって放棄することができるかという点については明文がなく必ずしも明らかではない。もっとも、裁定の取消しを求める異議申立ての権利を放棄する旨の合意はメキシコ法の下では無効であり、かかる合意があっても上記の異議申立てをすることは妨げられないとの見解が有力であるように思われる。
執行
メキシコはニューヨーク条約を批准しており、国内法上も、裁定はいずれの国で下されたかを問わず拘束力を有するものとして扱われる 94。裁定の執行のための手続は管轄を有する裁判官に対する書面による請求により始まり、連邦商法の定めにしたがってなされる 95。具体的には、裁定の執行を望む当事者は、正当に認証された裁定の原本またはその認証謄本(copia certificada)および仲裁合意の原本またはその認証謄本を提出しなければならない 96。裁定書または仲裁合意がスペイン語で作成されていない場合には、裁判所によって認められた翻訳者(Perito Traductor Oficial)によって翻訳されたスペイン語訳を提出する必要がある 97。
裁定の承認または執行は、以下の場合にのみ拒絶することができる 98。
- 仲裁合意の当事者の一方に合意する能力がなかった場合、当該合意が適用のある法律の下で有効でない場合
- 仲裁人の任命または仲裁手続について適切な通知がなされていなかった等の理由で権利を主張することができなかった場合
- 裁定が、仲裁合意で意図されていない紛争に関連し、または仲裁合意の範囲を超える決定を含んでいる場合(ただし、裁定の内容が分離可能である場合には、仲裁合意で意図された紛争に関するもので仲裁合意の範囲を超えない部分のみを承認し執行することができる)
- 仲裁廷の構成または仲裁手続が当事者間の合意に反する場合または当事者間の合意がない場合において仲裁が行われた国の法律に反する場合
- 裁定が未だ拘束力を持たない場合または裁定が取り消されもしくは一時停止されている場合
- メキシコ法上、紛争の内容が仲裁の対象とならない場合
- 裁定の承認または執行が公共秩序に反する場合
裁定が下された国において裁定の取消しまたは停止の申請等がなされた場合、メキシコでの裁定の承認または執行を担当する裁判官は承認または執行の決定を延期することができ、裁定の承認または執行を求める当事者の請求がある場合には相手方当事者に十分な担保を提供するよう命じることもできる 99。
仲裁地がメキシコ国内である場合には仲裁地を管轄する連邦または州の第一審裁判所の裁判官が裁定の承認および執行についての管轄を有し、仲裁地がメキシコ国外である場合には被申立人またはその資産の所在地を管轄する連邦または州の第一審裁判所の裁判官が裁定の承認および執行についての管轄を有する 100。
連邦商法に規定がない事項
連邦商法には第三者の手続参加や複数の仲裁手続の併合についての規定が存在しない。もっとも、当事者の合意や当事者が選択したルールに基づき併合等がなされる余地はある 101。
また、仲裁手続の非公開や秘密保持についての規定は存在しない。したがって、仲裁手続に関する秘密保持義務は当事者の合意または当事者が合意により選択した仲裁に関する規則の定めにより生じうる 102。当事者の合意により仲裁手続を非公開とし、仲裁人に秘密保持義務を課すことも可能である。
仲裁手続に参加する代理人の資格や要件等についての規定も存在しない。したがって、メキシコの弁護士資格を持たない者がメキシコでの仲裁手続に代理人として関与することも可能である(ただし、仲裁実務に通じたメキシコの弁護士に依頼することが強く推奨される)。
(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.のメキシコ法弁護士であるMónica Roldán Bautista 弁護士の協力を得て作成しております。
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連邦民事訴訟法(Código Federal de Procedimientos Civiles)571条 ↩︎
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連邦民事訴訟法274条 ↩︎
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連邦商法1415条 ↩︎
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連邦商法1416条2号 ↩︎
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連邦商法1415条および1416条3号 ↩︎
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連邦商法1416条3号 ↩︎
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連邦商法1416条3号 ↩︎
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ただし、連邦商法の1460条および1481条から1500条までは削除されている。 ↩︎
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連邦商法1415条 ↩︎
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連邦商法1415条、1424条、1425条、1461条、1462条および1463条 ↩︎
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連邦商法1424条 ↩︎
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連邦商法1425条 ↩︎
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連邦商法1461条、1462条および1463条 ↩︎
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連邦商法1417条1号 ↩︎
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連邦商法1416条2号 ↩︎
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連邦商法1417条1号参照 ↩︎
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連邦商法1416条1号 ↩︎
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日本の仲裁法2条1号 ↩︎
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連邦商法1416条1号 ↩︎
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連邦商法1423条 ↩︎
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連邦商法1423条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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後記のとおり、通常の抗弁とは異なる。 ↩︎
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連邦商法1424条 ↩︎
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連邦商法1424条、1464条および1465条 ↩︎
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連邦商法1424条 ↩︎
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連邦商法1420条 ↩︎
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連邦民法(Código Civil Federal)2946条 ↩︎
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連邦民法2948条 ↩︎
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連邦民法2947条および2950条 ↩︎
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連邦租税法(Código Fiscal de la Federación)125条 ↩︎
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連邦民事訴訟法568条 ↩︎
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連邦民事訴訟法568条 ↩︎
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連邦商法1416条5号 ↩︎
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連邦商法1426条 ↩︎
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連邦商法1427条2号 ↩︎
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連邦商法1427条4号 ↩︎
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連邦商法1428条 ↩︎
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連邦商法1427条1号 ↩︎
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連邦商法1428条 ↩︎
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連邦商法1428条 ↩︎
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連邦商法1429条 ↩︎
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連邦商法1429条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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連邦商法1432条 ↩︎
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連邦商法1435条および1445条 ↩︎
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連邦商法1435条 ↩︎
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連邦商法1445条 ↩︎
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連邦商法1436条および1438条 ↩︎
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連邦商法1437条 ↩︎
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連邦商法1439条 ↩︎
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連邦商法1441条 ↩︎
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連邦商法1441条 ↩︎
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連邦商法1440条 ↩︎
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連邦商法1440条および連邦商法1441条 ↩︎
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連邦商法1440条 ↩︎
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連邦商法1436条 ↩︎
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連邦商法1425条 ↩︎
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連邦商法1478条 ↩︎
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連邦商法1470条、1472条、1473条、1474条、1475条および1476条 ↩︎
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連邦商法1433条 ↩︎
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連邦商法1479条および1480条 ↩︎
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連邦商法1470条、1472条、1473条、1474条、1475条および1476条 ↩︎
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連邦商法1435条および1445条 ↩︎
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連邦商法1435条 ↩︎
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邦商法1444条 ↩︎
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連邦商法1446条 ↩︎
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連邦商法1446条 ↩︎
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連邦商法1448条 ↩︎
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連邦商法1448条 ↩︎
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連邦商法1450条 ↩︎
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連邦商法1451条 ↩︎
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連邦商法1447条 ↩︎
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連邦商法1447条 ↩︎
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連邦商法1447条 ↩︎
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連邦商法1416条4号 ↩︎
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連邦商法1452条ないし1456条 ↩︎
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連邦商法1452条 ↩︎
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連邦商法1453条 ↩︎
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連邦商法1454条 ↩︎
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連邦商法1454条 ↩︎
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連邦商法1455条 ↩︎
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連邦商法1457条 ↩︎
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連邦商法1458条 ↩︎
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連邦商法1459条 ↩︎
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連邦商法1461条 ↩︎
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連邦商法1461条 ↩︎
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連邦商法1461条 ↩︎
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連邦商法1461条 ↩︎
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連邦商法1462条 ↩︎
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連邦商法1463条 ↩︎
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連邦商法1422条 ↩︎
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International Chanber of Commerce, “2021 Arbitration Rules”, Article 10参照 ↩︎
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連邦商法1435条 ↩︎

アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業