前のめりで仕事の面白さを探しに行こう - 凸版印刷 増見淳子氏から新人法務担当者へのメッセージ

法務部

目次

  1. 2年目に契約法務に携わって法務の面白さに気づく
  2. 想定以上に得るものが大きかった5年目での米国留学
  3. 時代の変化に合わせた新人指導が必要
  4. 仕事の面白さは与えてもらうものではなく能動的に探すもの

凸版印刷 執行役員法務本部長 兼 法務部長 増見淳子氏は、1997年の新卒入社後から一貫して法務としてのキャリアを歩み続けてきました。社内で初めて米国ロースクールへ社費留学したり、思いがけないタイミングで法務本部長に抜擢されたりなど、多くの挑戦もあったといいます。
法務に配属されて間もない読者に向けて、これまでのご経験を振り返っていただき、法務として仕事をしていくうえでのアドバイスを伺いました。

2年目に契約法務に携わって法務の面白さに気づく

1997年の新卒入社後から現在までずっと法務に携わってこられましたが、就職活動時から法務志望だったのでしょうか。

はい。私は学生時代、法学部でしたし、司法試験の勉強も少ししていましたので、その知識を仕事に生かしたいと考えて、法務としての就職を志望していました。
ただ、就職活動を始めたのが最終年度の択一試験後で、当時の一般的な就職活動としては遅いスタートになってしまったのでとても苦労しました。当時はそれでなくても就職氷河期。法務の職種別採用を実施する企業はごく一部しかなく、管理部門への配属が可能なリクルーター採用の枠も募集がほぼ終了してしまっていました。
そうしたなかで、凸版印刷に運良く内定し、法務部に配属されました。取締役に法務本部長がいるなど当時としては法務の体制が整っていたので、恵まれたスタートだったと思います。帰国子女としての英語力を生かしてメーカーの海外進出に貢献したいという志向にもぴったり合って入社し、今に至っています。

法務配属後、初めての業務はどのようなものでしたか。

経営法務を中心に担当しました。今にして思うともっと良いやり方があったのでしょうけれど、新人にできることはそう多くなく、正直あまりピンときていない状態で、勉強しながらもあまりモチベーションが上がらない日々でした。
それが、2年目に契約法務を任されるようになったことで、法務の面白さに気づきました。ビジネスの最先端でさまざまな人とコミュニケーションをとりながら案件を進めていく仕事が、自分にはすごく合っていると感じましたね。

法学部や受験勉強で得た知識と、ビジネスの世界で必要な法的知識は一致しないことも多いと思いますが、戸惑いはありませんでしたか。

私は、大昔に制定された法律を学ぶよりもビジネスの中で生きた法律を扱うほうが性に合っていたようで、むしろ面白いと感じました。
学生時代に真面目に勉強していても、それらの知識が仕事で直接的に使えることはそれほどありません。法学部などでリーガルマインドや論理的思考といった基本を身につけていることは安心感につながりますが、古い知識をたくさん持っていることが偉いわけではありません。
法律は頻繁に改正されますから、実際の仕事においては、法改正や判例の最新情報、その背景にある社会的なニーズなどを追いかけていくことが大切です。

凸版印刷 執行役員法務本部長 兼 法務部長 増見淳子氏

凸版印刷 執行役員法務本部長 兼 法務部長 増見淳子氏

当時のOJTはどのようなものでしたか。

体系的なカリキュラムや計画のようなものはなく、割合行き当たりばったりのOJTでした。指導担当者はいましたが、実際にはいろいろな先輩が入れ替わり立ち替わりで新人を育成していくような形式でした。

新人の頃の印象的だった出来事を教えてください。

当社は当時にしてはリベラルな社風で、業務上の女性差別はなかったのですが、女性社員に対して制服着用や郵便当番、飲み会でのお酌などを求める文化はまだ残っていました。私はそれがすごく嫌で、今思えばずいぶん肩肘を張っていました。
しかしあるとき、身近な男性の先輩が、周囲への気配りやお酌といった「女性的な」立ち回りを積極的に行っていることに気づき、「ああ、これは社会人として必要なスキルの一つであって、性別は関係ないのだ」と理解しました。それからは、変に性別を意識することなく自然に振る舞えるようになったと思います。郵便当番については、男性の先輩たちも巻き込みながら問題提起して制度を変更していきました。
また、今でも当時の上司にからかわれるのですが、入社1年目の新人でありながら、出版社との契約交渉の場で、著作権などの法律知識を得意げに説明していたようです(笑)。難しい法律をわかりやすく噛み砕いて説明するのが法務の仕事、と張り切っていたのですが、今になって振り返るとちょっと気恥ずかしいですね。

想定以上に得るものが大きかった5年目での米国留学

入社5年目に米国ロースクールへ社費留学されていますが、ロースクールへの派遣はそれ以前から行われていたのでしょうか。

MBA留学なら前例がありましたが、ロースクール留学は私が社内で初めてでした。上司の後押しもあって留学実現に至りましたが、後から聞くと社内調整はなかなか大変だったようです。
英語という得意分野を生かして国際的な案件を担当したいという思いがあったので、留学には入社時から関心がありました。国家公務員や弁護士として働いていた学生時代の友人たちも5年目での留学を予定している人が多かったので、私も同じ時期を意識して情報収集などの準備を進めていました。

ロースクール修了後は駐在も経験されていますが、留学と駐在を通じてどのようなものが得られましたか。

得たものは想定以上でした。留学以前にも海外弁護士とのやりとりの機会はありましたが、資格を取得したことで、同じ土俵に立って議論できるようになったのが最大の成果です。
海外弁護士とボキャブラリーやバックグラウンドの知識が共有できていることでコミュニケーションが取りやすくなりましたし、相手から一定の敬意を払われるようにもなったことも感じました。仕事がとてもスムーズに進むようになりましたね。

企業内法務として米国の弁護士資格を有することがメリットになるのはどのような環境においてでしょうか。

日本企業で対海外の仕事をするのであれば、ニューヨーク州等の米国の弁護士資格はとても役に立つと思います。他国の弁護士も、自国とは別に米国の資格を持っていることが多く、共通言語になりますよね。
他方で、外資系企業の日本法人で働くのであれば、日本法を知っていることが重要になるので、日本の弁護士資格が求められる場合が多いかもしれません。ただその場合でも、米国法のバックグラウンドを理解し、法的な事項について英語でコミュニケーションがとれることは大いにメリットになると思います。

凸版印刷 執行役員法務本部長 兼 法務部長 増見淳子氏

時代の変化に合わせた新人指導が必要

ご自身が新人を指導する立場になってからはどのような点が難しいと感じましたか。

自分が感覚的にやっていることを言語化して人に説明することの難しさに直面しました。英文契約の文法ひとつ指摘するのにも、「なんとなく」では説明になりませんから、根拠とともに示す必要があります。
当然ながら自分でやるよりも時間がかかりますが、それによって学ぶところは大いにありますし、組織全体のレベルアップにもつながるので、手間を惜しまないことが大事です。

ご自身が入社された頃と最近とでは、新人の法務担当者が置かれている状況はどのように変わりましたか。

やはり最も大きな変化はリモートワークの常態化ですよね。以前のような対面のコミュニケーションを前提とした指導は難しくなってきているため、話しかけやすい関係を築くためにオンラインの雑談タイムを設けたり、オンライン会議でのカメラオンを徹底したりなど、試行錯誤しているところです。

ただ、入社3年目くらいまでの社員は「リモートネイティブ」になっており、職場の飲み会に一度も参加したことがないという人も少なくありません。そうした状況をかわいそうだとか、やりにくいだろうと思うのは年長者の勝手な想像であり、彼らにとってはそれが普通。逆に飲み会に誘われても困るという人もいると思います。
「自分のときはこうだったから、同じように育成しなくてはならない」という思い込みにとらわれず、今の時代に合った育成方法を模索していく必要があるでしょう。

現在でも新人教育はOJTがメインですが、OJTだけでは学べない分野についても研鑽の機会を持ってほしいと考えています。近年はさまざまなメディアが登場し、私が新人だった頃に比べて手に入る情報は格段に増えましたし、オンラインで受講できるセミナーも豊富にそろっています。そういった外部のコンテンツも活用し自ら進んで勉強していく姿勢をもつことは、法務担当者として不可欠なものだと思います。

仕事の面白さは与えてもらうものではなく能動的に探すもの

現在、執行役員法務本部長 兼 法務部長という役職に就かれていますが、入社当時や若手の頃は将来のポジションについて意識していましたか。

もともと、必ずしも進んでリーダーシップをとるタイプではなかったので、部門の長になることなどまったく意識していませんでした。それに、前任の法務本部長と年次が離れており、本部長職に就くとしてもまだまだ先の話だと考えていたので、3年前に打診されたときはとても驚きました。
管理職としての仕事は新しいチャレンジでしたが、こういう刺激があったほうが仕事は絶対に面白いと思います。私の場合は、会社に愛着があり、部のメンバーたちも家族のような存在だと感じているので、一緒に仕事をすることが楽しいチームにしたい、居心地の良い職場にしたい、という思いが、組織をまとめるうえでの一つの大きなモチベーションになっています。

現在の役職について、どのようなときにやりがいを感じますか。

執行役員という立場では、会社全体の方向性を決める際、法的要請だけでなく社会的な要請も踏まえて、法務としての見解を出すことが求められます。このような場面で、タイムリーかつ的確な見解を提供し、経営判断に関わることができるのはこの仕事の醍醐味だと感じます。
また、ESG・SDGsの観点から会社のあるべき姿を考え、さらに法務としてそこにどう貢献できるかを考えるという視点は、この役職に就くまであまり意識していませんでした。自社だけでなく日本企業全体を取り巻く環境を認識し、法務としてのあり方を考えるという仕事も、このポジションだからこそチャレンジできる刺激的な仕事だと思います。

読者の中には、法務の仕事があまり面白くないと感じている新人や若手担当者がいるかもしれません。どのようにアドバイスしますか。

仕事を変えることはいつでもできるので、まずは、仕事のなかに面白いことが本当に何もないのか、探してみましょう。たとえば何か一つのテーマを掘り下げてみるのはどうでしょうか。業務分野や法律知識、あるいは職場の先輩、他部門の誰かなど、「人」について深く知ろうとするのもいいと思います。

私は若手の頃、社内で面白そうな人を探してネットワークをつくることを心がけていました。そうすると、会社にいること自体が面白くなっていきます。書面やメールのやりとりだけでは「人」の面白さはわからないので、リアルな打合せや電話で話してみたり、ランチに誘うとか、あるいは飲み会に誘われたら付き合ってみるなど、できるだけ接点を増やすことをおすすめします。
業務に関連する法改正についても、単に業務として改正点を確認するのではなく、立法背景や法改正に至る議論までさかのぼって調べてみるとか、自社ビジネスへの影響を深く分析してみるなどすれば、新たな視点が得られると思います。
事業部に近いところで仕事をしてみるのも面白いかもしれません。当社の法務部では、他社から転職してきたメンバーが自ら提案して、ビジネスを知るために1週間ほど営業担当者に「密着同行」したという事例もあります。

最後に、法務としてのキャリアをスタートしたばかりの読者へ応援のメッセージをお願いします。

仕事の面白さは与えてもらうものではなく、自分で能動的に探すものです。言われたことをやるだけではなく、物怖じせず積極的に情報を取りに行くなど、いろんなことに興味を持って取り組んでほしいと思います。
ぜひ、前のめりになって、好奇心のアンテナを高く張ってみてください。

凸版印刷 執行役員法務本部長 兼 法務部長 増見淳子氏

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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