IPO準備会社が上場へ向け整備すべきガバナンスや内部統制

ベンチャー
古市 岳久 太陽グラントソントン・アドバイザーズ株式会社

目次

  1. はじめに
  2. 経営管理体制
    1. 機関設計と運営
    2. 組織体制の整備
    3. 内部監査体制
  3. 利益管理体制
    1. 事業計画/予算の重要性
    2. 予算実績管理と月次決算
  4. 内部統制
    1. 内部統制とは
    2. 内部統制とIPO
  5. まとめ

はじめに

 IPO準備会社においては、ガバナンスや内部統制が重要だと言われますが、ガバナンス/内部統制と聞いて具体的に何を思い浮かべるでしょうか。具体的な定義や内容が思い浮かぶ方、漠然としていてなかなか具体的なイメージを持てない方など、所属する企業の成長ステージや過去のご経歴などにより様々ではないかと思います。

 本稿では、非常に広い概念であるガバナンスや内部統制について、IPOとの関連で以下の3つの区分に大きく整理したうえで、各内容の意味するもの、整備すべき具体的事項やその時間軸などについて基本的な点を中心に解説します。

  1. 経営管理体制
  2. 利益管理体制
  3. 内部統制

経営管理体制

機関設計と運営

(1)株主総会

 非上場会社では会社法が定める手続きに従った株主総会が開催されていないことがありますが、IPOを目指すうえでは株主総会を適法に開催する必要があります(会社法295条以下参照)。

(2)取締役/取締役会

 機動的な経営を行うために取締役会を置いていない非上場会社は少なくありませんが、上場会社では取締役の業務執行に対する監督機能が期待される取締役会の設置が必要となります。たとえば、グロース市場の場合、上場申請日から1年以上前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていることが上場の要件の1つとされています。また、会社法上は3か月に1回の頻度で取締役会を開催すれば足りますが(会社法363条2項)、IPO準備会社は月次単位の予算実績管理が求められることもあり、毎月1回以上の開催が必要となります 1

 上場審査においては、取締役が単に名義を貸しているだけの名目的なものではないか、同族関係者(配偶者、二親等内の血族および姻族)が取締役の過半を占めていないか、取締役会の運営は適切になされているかといった観点などから確認がなされます 2

(3)監査役/監査役会

 会社法では設置が任意とされる場合であっても、上場会社は、取締役および取締役会に対する監査・監督機能を担う監査役会等の設置が求められており、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれかでなければならないとされています(有価証券上場規程(東京証券取引所)437条(2))。規模の大きくないIPO準備会社にとって多くの社外取締役の確保が求められるなど指名委員会等設置会社を選択することの負担は大きいことから、通常、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社のいずれかを選択することになります。それぞれにメリットとデメリットがありますので、上場後を見据えて、自社にとってどちらがより適切なガバナンス体制となるかを検討したうえで選択する必要があります。

 監査役会設置会社を選択する場合、直前期(N-1期)が始まるまでに複数の監査役を選任し、1名以上の常勤監査役を置くとともに、直前期中には監査役会設置会社に移行して上場申請までに一定の運用期間を経ることが求められます 3。監査役会設置会社は、監査役の過半数が社外監査役でなければなりませんので(会社法335条3項)、早めに候補者の目途をつけておくことが望まれます。
 なお、上場審査においては、取締役等の同族関係者が監査役に就任している場合には有効な監査が実施できないと判断されてしまいますので 4、創業者の親族などが監査役に就任している会社では親族以外の監査役に交代することを検討しなければなりません。

(4)独立役員

 東証は、一般株主保護の観点から、上場会社に対して、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役を指します)を1名以上確保することを義務付けていますので(有価証券上場規程(東京証券取引所)436条の2)、上場を目指す会社は、上場日までに独立役員を確保する必要があります。また、上場会社は取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならないとされています(有価証券上場規程(東京証券取引所)445条の4)。

組織体制の整備

 ベンチャー企業では創業者である社長に権限が集中し、属人的な経営体制となっていることが少なくありませんが、IPO準備会社は、上場後を見据えた持続的な成長が可能となる組織的な経営を行える体制に移行していくことが求められます。適切な組織体制は、会社の規模や業種などにより異なりますが、以下などの観点から見直しを図っていくこととなります。

  • 経営者個人に業務執行の権限が集中し過ぎていないか
  • 営業部門と管理部門を兼ねる従業員の存在など内部牽制に支障を来し得る兼務はないか
  • 個人や組織の権限・業務内容の根拠は規程によって明確にされているか
  • 各種業務が機能的に分割され内部牽制が適切に機能しているか

内部監査体制

 内部監査は、会社財産の保全や適法かつ効率的な業務運営を担保するために、内部管理体制の運営状況や社内規程の遵守状況等の検証を行うものとなります。その監査対象は、企業の業務活動の遂行状況のみならず、財務会計業務も含まれており、後者は通常J-SOX制度(内部統制報告制度)への対応として実施されます(J-SOX制度については4-2を参照ください)。

 内部監査は、内部監査室などの独立した部門が実施することが望ましいとされていますが、監査対象の業務からの独立性に留意し、管理部門や営業部門などから内部監査人として適切と考えられる従業員を兼任者として任命して行うことも許容されています。
 また、内部監査業務を外部に委託することも考えられますが、この場合には委託先に任せっきりにせず、社長等が内部監査の重要性を認識して主体的に関与していくことが求められます。

 上場審査では、企業グループ全体の内部監査体制が適切に整備・運用されているかが確認されます。その際には、上場後と同程度の水準の内部監査が1年程度実施されているという運用実績が求められますので、早い時期から内部監査体制を整備することが望まれます。

利益管理体制

事業計画/予算の重要性

 IPOを目指すにあたっては、どの株式市場のどの市場区分に上場するかの目標を定めることが重要となります。これは市場や市場区分ごとに求められる基準が異なるためです。本稿では市場および市場区分の詳述は避けますが、IPOを目指す多くの企業は、東証であればグロース市場を目指していると考えられます。これは、過去の年間新規上場会社数におけるマザーズ市場(現グロース市場)に上場した企業の割合が非常に高いことからも裏付けられます(2021年度の暦年の上場会社数136社のうち、マザーズ上場会社数が93社 5)。

 グロース市場においては、「会社が高い成長性を有し、これを事業計画によって合理的に説明できる」ことが求められます。言い換えれば、自社の成長可能性を事業計画によって定性的・定量的に説明できない企業は(グロース市場への)上場が難しいということを意味します。IPO準備会社では社長の頭の中には明確な経営戦略があるものの、それが文書化されていないケースや、経営戦略があいまいでそこから考える必要があるケースなど、事業計画に関して課題を抱えている会社は少なくありません。

 定性的な事業戦略については、外部環境(市場や顧客・競合他社)や内部環境(自社の強み・弱み)を分析したうえで基本戦略が導き出されており、文書化されていることが重要となります。事業計画の定量化についても、売上高・営業利益などの主要損益項目のみが並べられているだけではなく、売上高を製品別・顧客別などにブレークダウンしたり、コストを費目別に細分化したり、必要に応じて売上高やコストの基礎となるKPIに落とし込んで作成することが求められます。

 さらに事業計画は、定性面・定量面いずれも、販売・購買・設備投資・資金・人員などの各計画との整合性が保たれており、有機的に統合されていることが重要となります。

(参考)事業計画策定の一般例

事業計画策定の一般例

予算実績管理と月次決算

 事業計画/予算の作成目的には、企業の進むべき指針を内外に示すことのほか、策定された予算の進捗状況を最低でも月次レベルで、実績を把握しながら確認していくことも含まれます。予算実績を把握し、事業の進捗状況を適切に把握するためには、予算を月次展開し(Plan)、計画を実行し(Do)、月次予算と実績を比較しながら(Check)、経営として打つべき施策を検討・実施する(Action)というPDCAサイクルを回すことが重要となります。これら一連のサイクルは予算統制とも呼ばれます。

 早期に計画(予算)と実績の乖離を把握し、適切な経営上の施策を立案・実行するためには、月次決算をできるだけ早く確定させて経営(取締役会)に報告できる体制の構築も重要となります。

予算統制のイメージ

予算統制のイメージ

内部統制

内部統制とは

 内部統制とは、平易に表現すれば、経営者が事業を効果的・効率的に運営するための様々な仕組みのことをいいます。少し硬い表現をすれば、①業務の有効性・効率性の確保、②財務報告の信頼性の確保、③法令等の順守、④資産の保全という4つの目的を果たすために事業活動に組み込まれた仕組みのことで、会社運営においてとても重要な概念です。

 内部統制は以下の6つの要素から構成されています。

  1. 統制環境
    経営者の誠実性や倫理観、ガバナンス、組織構造、権限と責任、人材などの基本的要素

  2. リスク評価と対応
    組織の目標達成に影響を与える要因の分析と対応を行うプロセス

  3. 統制活動
    業務プロセスに組み込まれる権限と責任、職務分掌など経営者の指示通りに業務が行われる仕組み

  4. 情報と伝達
    必要な情報の把握・収集とこれを組織内外の適切な関係者に伝達するための仕組み

  5. モニタリング(監視活動)
    内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス

  6. ITへの対応
    ITに関する組織的な方針と手続を定め、業務の実施において適切にITに対応すること

内部統制とIPO

 IPOとの関連で内部統制を語るときに外せないのがJ-SOX制度(内部統制報告制度)です。J-SOX制度とは、金融商品取引法で定められている上場会社等に求められる内部統制に関する制度で、「財務報告に係る内部統制」について、経営者が構築・評価し、これを会計監査人が監査することでその有効性を確保することを目的としています。

 上場会社においては、以下の内部統制について自社で構築したうえでその有効性を評価し、自社の評価結果について会計監査人の監査・保証を受けることが求められているため、IPO準備会社もJ-SOX制度の対応を避けて通れないということになります。
 J-SOXで評価対象とすべき内部統制の種類は大きく以下の4つに区分されます。

  1. 全社的な内部統制
  2. 業務プロセスに係る内部統制
  3. IT全般統制・IT業務処理統制
  4. 決算・財務報告プロセスに係る内部統制

 上記の中で特に負荷が高いのが②の業務プロセスに係る内部統制への対応です。このためには、一般に3点セットと呼ばれる「業務記述書」「業務フローチャート」「リスク・コントロール・マトリックス(RCM)」を作成する必要があります。直前期(N-1期)にはこれらを作成して上場時と同様に内部統制が運用されていることを自社で評価できるようにしておく必要があります。

業務記述書 業務の内容、業務の実施者、業務に利用される証憑やシステムなどを文章で記載した書類。
業務フローチャート 業務の流れを図示した書類。売上高や売掛金につながる「販売サイクル」、仕入高や買掛金につながる「購買サイクル」など、勘定科目と関連性の高い「サイクル」ごとに作成されることが多い。
リスク・コントロール・
マトリックス
財務報告に係るリスクと、リスクに対応するコントロール(統制手続)を一覧化した書類。業務記述書や業務フローチャートとの対応関係を明確にすることで、各文書が有機的に結びつけられる。

 また、業務プロセスに係る内部統制は、直前前期(N-2期)から必要となる会計監査においても監査の一環として会計監査人に評価されるケースが多く、3点セットを完璧に作成するまでは至らずとも、重要な内部統制についてはしっかりと整備・運用されていることが会計監査においても求められる点に留意が必要です。

(参考)ガバナンス/内部統制を含むIPO準備スケジュールの全体像

ガバナンス/内部統制を含むIPO準備スケジュールの全体像

まとめ

 ひと言でガバナンスや内部統制といっても、その概念は広く解釈に幅がありますが、本稿ではIPO準備において重要となる経営管理体制・利益管理体制・内部統制の観点から解説を行いました。これらの体制整備のタイミングや深度については必要に応じて外部の専門家等にも相談しながら遅れや手戻りのないように慎重に検討されることをお勧めします。


  1. 東証『2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)』 Ⅵ 上場審査に関するQ&A「1 グロース市場事前チェックリスト関連」(2)Q5 ↩︎

  2. 東証『2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)』 Ⅳ 上場審査の内容(有価証券上場規程第219条関係)「2 企業経営の健全性(規程第219条第1項第2号)」(2) ↩︎

  3. 東証『2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)』 Ⅵ 上場審査に関するQ&A「1 グロース市場事前チェックリスト関連」(3)Q11) ↩︎

  4. 東証『2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)』 Ⅳ 上場審査の内容(有価証券上場規程第219条関係)「2 企業経営の健全性(規程第219条第1項第2号)」(2) ↩︎

  5. 日本取引所グループホームページ、JPXマンスリー・ヘッドライン2021年12月 ↩︎

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