取締役会事務局担当者の実務対応と悩み CGコード2021年改訂への対応状況を踏まえて

コーポレート・M&A

目次

  1. CGコードは良い変化をもたらした
  2. 2021年改訂は投資家に寄りすぎている
  3. CGコードへの対応状況 スキル・マトリックス、TCFD、多様性、報酬制度
  4. 外国人取締役には専用ツールの簡易翻訳で資料を提供

改訂の度に要求水準が上がるCGコードについて、担当者はどのような思いで対応しているのでしょうか。また、ガバナンス高度化への対応は、どのくらい進んでいるのでしょうか。プライム市場に上場する某メーカーの取締役会事務局担当者に伺いました。

Profile
プライム上場メーカーにて20年以上、株式事務、株主総会運営、取締役会運営等の機関法務のほか、IRや有報作成などを担当。

CGコードは良い変化をもたらした

まずCGコードそのものについて、取締役会事務局ご担当のお立場としてどのような思いをお持ちですか。

2016年のCGコード策定によって、当社の取締役会は思っていた以上に良い方向へ変化しました。これは当社を含めた多くの上場会社において同様ではないかと思います。そういう意味では、CGコードのもたらした影響は歓迎すべきものであったと感じています。

CGコードがなかった頃の当社は、典型的なガバナンス後進企業でした。取締役会は、すべての議案について社長のOKが既に取れていることが前提で、発言するのは社長のみでした。とても審議をするような空気ではありません。
そういう状況で、CGコードという新しい指針が示されました。当初は、「後継者計画」や「実効性評価」と言われても何をしたらよいのか見当もつきませんでしたし、社外取締役の導入ですら、どれほど意味があるのだろうか、という疑問や違和感を抱いたものです。

しかし、社外取締役を導入したことで、当社取締役会もしっかり議論をする場へと変わってきました。社外取締役は、執行側が回答に窮するような質問をすることもありますし、社外取締役に触発されて監査役からの発言も出てくるようになりました。
こうして議論が活発になった結果、取締役会できちんと説明できる資料を用意するという習慣が、執行側の役員や各事業部門に定着してきたのは喜ばしいことだと思います。

社内取締役の方々の、ガバナンスに関する意識やご関心はいかがでしょうか。

その点でも、良い意味で予想を裏切る状況となっています。
当社では、記名式のアンケートで取締役会実効性評価を行っています。実効性評価を実施する前は、「きっと当社の取締役たちはガバナンスなんて関心ないはず。事務局の動きが悪いなどの不満が出てくるだろうから、この機会を利用して人手を増やしてもらおう」などとひそかに思っていました。
しかし蓋を開けてみると、そのような不満ではなく、「取締役会では、個別の投資案件だけでなく大きな経営方針についても議論するべきではないか」といった、取締役会のあり方に対する意見が出てきたのです。これは意外でした。

事務局からも、折に触れてCGコードについて説明するようにしています。政策保有株式の問題について年に一度は議論してもらっており、当社の資本コストなどが話題に上るようになったので、それなりに認識は高まってきているのではないかと思います。今後は、取締役会のあるべき姿について議論する機会も設けられたらと考えています。

2021年改訂は投資家に寄りすぎている

2021年のCGコード改訂についてはどのようなご感想をお持ちでしょうか。

何年か経てば「当初はいかがなものかと思ったが、結局は良い影響があった」と振り返ることになるのかもしれませんが、今は「投資家に寄りすぎている」というのが率直な感想です。
改訂を決めたフォローアップ会議には、経済界側の委員が少なく、バランスを欠いていたように思います。数少ない経済界側の委員は、CGコード導入の効果測定がされないままさらに一歩踏み込むのはどうなのか、と発言していましたが、それへの回答は示されないまま改訂が行われたのは残念です。

具体的には、どのような点が「投資家に寄りすぎ」だと感じているのでしょうか。

日本の会社法は、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社という3つの機関設計に優劣はないという考え方で制定されています。
しかしCGコードは、欧米型モニタリングボードのほうが優れているのだというメッセージを読み取れるものになっています。これは、2002年5月16日付で経団連が公表したリリース「再改訂コーポレートガバナンス・コードの実効性の向上」でも述べられているとおりです。

そのメッセージが最もわかりやすく表れているのが、社外取締役の人数だと思います。策定当初のCGコードでは「複数」を求めていたのが今や「プライム市場上場会社については3分の1」になり、いずれは過半数が求められそうな状況です。 そうなると取締役会の意味づけが変わり、執行に関する議論をする場ではなくなるでしょう。

欧米型のモニタリングボードが望ましいというのならば、会社法を改正するか、プライム市場上場会社は指名委員会等設置会社にせよと上場規則で定めるなどして、明確な形で示すべきではないでしょうか。CGコードによる「事実上の強制」のような誘導の仕方は筋が悪いと感じます。

欧米の投資家に選ばれる会社となるためには、欧米型に合わせていく必要があるという考え方についてはいかがでしょうか。

私は、欧米型のガバナンスに合わせないと投資してもらえないというのは嘘だと思っています。
ガバナンス後進企業であった当社の外国人持株比率は、昔からかなり高い水準でした。投資家が投資対象を選定する際の一番大きな判断材料は業績や将来性であって、CGコードへのコンプライ状況などではないことは自明ではないでしょうか。

当社を含め多くの日本企業では、取締役の在任期間が長いのが一般的です。この点も投資家からはネガティブな評価を受けがちです。モニタリング型の取締役会であれば、長期の在任が望ましくないのはわかります。しかし日本型の取締役会では、業務執行を担う社内取締役がコロコロ変わるほうが、企業価値向上の面で良くないと思います。

欧米企業では、プロ経営者がCEOになるのが一般的ですが、日本企業の社長は内部昇格者がほとんどです。もし日本企業の取締役会がモニタリングボードになるとしたら、内部昇格の道が狭まり、ミドル層のモチベーション低下が懸念されます。改訂CGコードは、外国人や中途採用者の幹部登用にまで数値目標の設定を求めています。欧米型に合わせるというならば、取締役会の中だけにとどまらず、企業全体のあり方や、それを前提としている教育機関や社会保障等のあり方も変えていかなければならないはずですが、そういった議論がなされていないのは問題だと思います。

とはいえ、資本市場の主役が欧米投資家であることは事実であり、彼らは自分たちが作ったルールに他国を引き込むのが得意です。日本の独自性を頑張って主張したところで効果があるとも思えません。

IRも担当されているとのことですが、投資家からはどのような点に関心が集まっていますか。

最近はESGエンゲージメントを求めてくる投資家が多く、関連するミーティングも増えています。ESGは、その性質上、総論としては反対しにくいのが厄介ですね。

CGコードの要求項目はどれもエクスプレインしにくいと感じます。投資家は審議会などの場で、「形ばかりのコンプライより、真っ当なエクスプレインのほうが良い」と話しているようですが、それはあくまで建前でしょう。「あなたの会社は真っ当にエクスプレインしているから賛成票を投じます」という判断をしている投資家が本当にいるのでしょうか。
勇気を出してエクスプレインしても評価されないのであれば、無理やりにでもフルコンプライするほうが無難です。

そもそも、CGコードで開示が要求されている項目について、投資家がどれだけ使いこなせているのか疑問です。IRミーティングでESGについてさんざん説明した挙句、「あなたの説明は理解しましたが、議決権行使基準に照らすとマルはつけられません」と言われると、この1時間は何だったのか…とがっくり来ます。
企業側の皆さんには、あまり深く悩み過ぎないことをお勧めします。

CGコードへの対応状況 スキル・マトリックス、TCFD、多様性、報酬制度

CGコードに2021年改訂で盛り込まれた項目の中で、対応に取り組んでいるのはどのような点でしょうか。

まずスキル・マトリックスについて、6月の株主総会で開示するために目下取り組んでいるところです。2021年末のガバナンス報告書に加えて、2022年3月総会の他社の先行事例も参考にしています。

マトリックスの作成にあたって困っているのは、すべての専門性にマルをつけるのは難しいという点です。マルがついていない項目があることで、いわゆるアクティビストに都合の良い材料を与えてしまうのではないかという懸念もあります。

当社では、「社外取締役3分の1」をクリアするために社外と社内の取締役の人数を調整しました。その結果、ある部門の取締役が不在となっており、マトリックス上で専門性にマルがつく者がいない分野が生じています。事業セグメントが多岐にわたる会社ではさらに対応が難しいはずです。
他社と情報交換する中では、「IT」にマルがつく取締役がいないという悩みもよく聞きます。かといって、マトリックス上で「IT」にマルをつけるためにITの責任者を取締役とする、というのもおかしな話です。
アクティビストが、このような状況につけ込んで取締役選任の株主提案をしてくることは十分に考えられます。

また、「どの取締役にどうマルをつけるか」も悩ましいところです。当社では表立っては問題になっていませんが、他社では、「私のスキル項目で国際性にマルがついていないのはなぜなのか」と指摘してくる取締役もいると聞きます。そうなると、マルつけは指名報酬委員会に決めてもらう、1人当たりのマルの上限数を決める、といった方法で対応することになるかもしれません。マルがやたらと多くても嘘っぽく見えてしまいますし、さじ加減が難しいですね。

スキル・マトリックスは本来、欧米型のモニタリングボードのために使われてきたものです。それを、日本の会社法に則った日本企業の取締役会に当てはめるのは、やはり無理があるように思えます。

対応に苦慮している項目として、ほかにどのようなものがありますか。

TCFDに基づく開示については、当社を含め多くの会社で困っているようです。開示にあたっての数字の取り方や範囲の設定など、わからないことばかりです。当社では海外に多数の子会社があるのですが、どのように調査すればいいのか見当もつきません。
当社には、何事もまずは自分の頭で考えなさいという文化があり、ガバナンス関連で外部弁護士やコンサルタントは起用していないのですが、このTCFD対応についてはさすがに社内のリソースだけでは絶対に不可能なので、コンサルタントの起用を承認してもらいました。
コンサルタントの選定をしたのは2021年末でしたが、大手監査法人系はその時点ですでに新規受付を停止していると聞きました。需要が急に高まっているため、上場会社で機関法務を担当していた人がコンサルタントに転身する例もあるようです。

また、CGコードでは、中核人材の登用等における多様性の確保についても開示が求められていますが、当社では数値目標の設定はしていません。機会均等の必要性は理解しますが、結果の平等が求められるのは違和感があり、社長も同様の考えです。
「女性」は良いとして、「中途採用者」の幹部登用までCGコードが求めること自体がおかしいのではないかと感じます。コーポレート「ガバナンス」・コードが、コーポレート「マネジメント」・コードになってしまっているように思われます。

改訂前から求められていた報酬制度の見直しについて、最近取り組んでいる会社が多いようですが、貴社での対応状況はいかがでしょうか。

当社でも最近検討を始めたところで、目下の問題は報酬水準の低さです。現状の金額は、取締役でない最高位従業員の給与とほとんど変わらない程度しかなく、権限や責任の重さと見合っていません。業績連動型報酬を追加することで、金額を上げる方式を考えています。

他社では、役員報酬については秘書や人事といった部署で担当しているため、IR担当者は詳細が把握しづらいという話もよく聞きます。
当社では数年前から外部の報酬サーベイに参加しているのですが、他社との比較に基づいた説得力のある数字で議論できるようになり、大変助かっています。

外国人取締役には専用ツールの簡易翻訳で資料を提供

取締役会運営の電子化には取り組んでいますか。

電子化というほどではありませんが、取締役会資料を共有するための専用ツールを使っています。以前はメールに添付して各取締役へ送っていたのですが、セキュリティ面を改善するため、安全に共有できるツールを導入しました。
このツールは、資料をアップロードすれば英語への簡易翻訳もしてくれます。資料は当日朝の差し替えも頻繁にあるので、人力で英語版を作成するのは難しく、外国人取締役のいる当社ではそれなりに重宝しています。全体的な使い勝手はいまひとつですが、当面はこれを使い続けることになりそうです。

議事録については電子化していません。他社では、会議の進行とともに電子的に議事録を作成して終了とともに完成させ、その場で承認をもらうという運用もあるようですが、当社では、議事録は逐語ではなくエッセンスのみを残すので、そのやり方は難しそうです。

外国人取締役がいらっしゃるとのことですが、取締役会や議事録の言語はどのように対応していますか。

取締役会では英語での議論も行われますが、取締役の中には英語が不得手な人もいるので、通訳として従業員に入ってもらっています。
議事録は日本語で作成し、外国人取締役は上記のツールによる簡易翻訳で確認しています。その外国人取締役は社内取締役で、しかも私のすぐ近くに座っていて疑問点があればすぐに聞いてきますので、翻訳の正確性をそれほど厳密に精査しなくても大きな問題はないと考えています。ただ、もし今後、外国人の社外取締役が就任した場合には、そういうわけはいかないかもしれません。

議論が活発になってくると、通訳がついていけなくなったり、議事録作成のときに録音が聞き取れないこともあります。他社では、取締役会のために外部の同時通訳者を呼んでいるケースもあるそうですが、1回当たり70万円から80万円ほどかかるとのことなので、残念ながら当社では現実的ではありません。

ありがとうございました。最後に、ガバナンス向上に向けた政府の取組みについて一言いただけますでしょうか。

CGコードは標準よりも高めのハードルを設定するものだと理解していますが、企業の実態からあまりにも乖離してしまうと、担当者としては「やらされ感」だけで取り組むことになってしまいます。第3期CGS研究会では、日本の会社法や日本企業の現状に即した議論が進んでいるようですので、期待を込めて拝見しています。

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