コンプライアンス活動を「ジブンゴト」に パーソルホールディングスの取り組み

危機管理・内部統制

目次

  1. パーソルホールディングスのコンプライアンス活動
  2. パーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」にコンプライアンス活動をリンクさせる
    1. パーソルグループで働く人たちと深くつながる「はたらいて、笑おう。」
    2. 「はたらいて、笑おう。」とコンプライアンスのリンク
  3. ブランド理念とコンプライアンスのリンク
    1. ブランド理念とは
    2. ブランド理念としての「はたらいて、笑おう。」とコンプライアンス
  4. まとめ

パーソルホールディングスのコンプライアンス活動

本稿のテーマは、自発的にコンプライアンスに取り組む企業風土(「ジブンゴトの企業風土」)をどうやって創るのかです。今回は、コンプライアンス活動における企業風土づくりの一例として、パーソルホールディングス株式会社(以下「パーソル」)の取り組みを紹介します。

聞き手・書き手:三浦 悠佑弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)
2006年弁護⼠登録。⼤⼿国際海運会社にインハウスローヤーとして出向し、法務・コンプライアンス機能強化プロジェクトに従事した経験を基に、組織論やマーケティングの視点を取り⼊れた企業コンプライアンスプログラム(企業不祥事予防策)を提供している。

私が主催するコンプライアンス・ワークショップ 1 で同社グループGRC本部 GRC部 リスク・コンプライアンス室の沼田優子さんと出会ったことがきっかけで、パーソルのコンプライアンス活動に興味を持ちました。

立派な社内ルールを整備した企業が、信じられないような不祥事を起こす様子を私は何度も目の当たりにしてきました。どんなに社内ルールや制度を整備しても、それが「ジブンゴト」にならなければ、不祥事は防げないのです。

パーソルでは、グループビジョンとコンプライアンスの結びつきを重視することで、「ジブンゴト化」を促進しようとしているという沼田さんのお話に、私は強く興味を惹かれました。

今回快く取材に応じていただいた沼田さんと同社グループコミニケーション本部 広報室の山本千里さん、沼田さんの上司のSさん。皆さんにこの場を借りて改めて御礼申し上げます。

また、本稿ではブランディング(ブランド論)の考え方に基づいて企業風土づくりの戦略を考えていきます。「企業風土づくり」という非法律的な問題を紐解くには、法律以外の分野の知見が必要だからです。ブランディングに馴染みのない方でも直感的にわかりやすいように解説していきますので、肩の力を抜いて読んでいただけると嬉しいです。なお、コンプライアンスとブランディングの関係の詳細については、別の記事でご紹介しましたので、興味がある方はそちらも併せて読んでいただけると幸いです。

パーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」にコンプライアンス活動をリンクさせる

パーソルグループで働く人たちと深くつながる「はたらいて、笑おう。」

コンプライアンス活動をジブンゴト化するためには、コンプライアンスを企業の理念と結びつけることが大切だと思います。研修でも常に理念との結びつきを意識しています。(沼田さん)

パーソルグループは、1973年創業、2022年1月現在、子会社約130社、グループ従業員数は約55,000人 2 を抱え、「テンプスタッフ」、「doda」などのサービスを展開する総合人材サービス会社です。

パーソルといえば「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンが有名です。読者の皆さんの中には2017年に展開された世界的なエンジニアであるスティーブ・ウォズニアックさんや、90歳の現役スーパーモデルであるカルメン・デロリフィチェさんの笑顔を用いた広告が記憶に残っている方もいると思います。

PERSOL(パーソル)グループ - はたらいて、笑おう

パーソルのグループビジョンは、単なるスローガンではなく、グループで働く人びとの心と共鳴している点も大きな特徴です。

当社では年に1度、社員総会やオンラインイベントでグループ全社から選ばれた社員やチームの表彰を行っています。社員やチームの日ごろの頑張りが、お客様やはたらく方々の笑顔につながったエピソードが紹介され、「はたらいて、笑おう。」を体感できる。心がじんわりあたたかくなる、そんなイベントの一つです。また、最近では「はたらいて、笑おう。」に共感したことを入社理由として挙げる学生も増えています。(山本さん)

山本さんが語ってくれた「心がじんわりあたたかくなる」という言葉は、「はたらいて、笑おう。」がパーソルグループで働く人たち一人ひとりの価値観と深くつながっていることを感じさせます。

「はたらいて、笑おう。」とコンプライアンスのリンク

パーソルの取り組みの一つ目の特徴は、この「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンにコンプライアンスが深くリンクしている点です。

当社では、「はたらいて、笑おう。」とのギャップを感じる行為がコンプライアンスリスクにもなり得ると考えています。リーガルリスク中心からコンダクトリスクも視野に入れたコンプライアンス活動に大きく舵を切ったのです。(沼田さん)

しかも、この考え方は、役員レベルまで一貫しているのだといいます。

以前から、コンプライアンス管掌役員からは、グループビジョンとコンプライアンス活動との関係を常に意識するよう指示がありました。おかげで私たちは「コンプライアンス活動は、グループビジョンの実現につながる活動だ」と自然に意識できるようになりました。(沼田さん)

コンプライアンスとグループビジョンの関係性をグループ内に発信し続けている点も特徴的です。たとえば、パーソルが作成している社内向けのコンプライアンスハンドブックには、冒頭の数ページを割いて、企業ブランド向上のため、コンプライアンスがいかに大切かについて書かれています。また、パーソルでは、毎年コンプライアンス研修のために経営陣にインタビューを行い、経営陣のその時の想いやメッセージを展開しています。

そのほかにも「はたらいて、笑おう。」の実現は、パーソルらしい制度設計の指針になったり、腹落ちする社内説明の助けになったりするそうです。たとえば、法令運用のガイドラインでは「具体的な制度設計は各社の実情に合わせて行われるべき」という幅のある記載がされている場合に、「はたらいて、笑おう。」に立ち返って考えることで、パーソルの実情に合った制度が見えてくるのだそうです。

コンプライアンスという道を歩いた先に、誰もが笑顔で働ける「今よりちょっといい世界」がある、ということがはっきりと見えている。これがパーソルの取り組みの一つ目の特徴だと思います。

ブランド理念とコンプライアンスのリンク

ブランド理念とは

ブランディングは自分たちが顧客や社会に提供する価値を見極めるところから始まります。これを「ブランド理念」と呼びます。たとえば、“Think Different”(Apple)や、“Third Place”(Starbucks Coffee)、“Paint it RED 未来を塗り替えろ”(コカ・コーラ ボトラーズジャパン)、“ロマン 住まいの豊かさを世界の人々に提供する。”(ニトリ)などは代表的なブランド理念です。

パーパス、ミッション、コーポレートアイデンティティ、企業理念など様々な類似の概念がありますが、ひとまず、ブランド理念もこれらと同一、あるいは類似の概念であると考えてもらって差し支えありません。

ブランド理念において重要なのは、上に挙げたような今日成功を収めている企業のブランド理念には「今よりも、ちょっといい世界」を目指しているという共通点があるということです。より具体的にいうと、優れた企業のブランド理念は、価格が安いとか、便利であるといった機能的・直接的な価値ではなく、「高次の価値」(たとえば、人びとの喜び、結びつき、探求心、誇りや、社会への貢献など)の実現を謳っているという共通点があるのです。

パーソルのグループビジョンである「はたらいて、笑おう。」は、誰もが笑顔で働くことができるという「今よりも、ちょっといい世界」の実現を目指す(笑顔で働くという人々の喜びや、仕事に対する誇りという価値を追求する)ブランド理念といえるでしょう。

ブランド理念としての「はたらいて、笑おう。」とコンプライアンス

パーソルでは、コンプライアンスとブランド理念をリンクさせることで、コンプライアンス活動の担い手である沼田さんたちが自然とコンプライアンス活動の意義を感じることができるようになりました。そして、「はたらいて、笑おう。」は、コンプライアンス活動の指針となり、腹落ちする社内説明にも役立っています。

このように、ブランド理念とコンプライアンスをリンクさせると、コンプライアンス活動の目的について社内の共通理解や “腹落ち” が得られやすいというメリットがあります。「法令の趣旨」「世の中の流れ」といった他人事の価値観ではなく、自分たちが大切にしている価値観、心がじんわりあたたかくなるような価値観の文脈でコンプライアンスを語ることで、初めて「ジブンゴトの企業風土」が生まれるのです。

ブランド理念とコンプライアンスをリンクさせるために有効な手法として私がよく用いているのが、「なぜ、私たちはコンプライアンス活動をするのか?」について考えるワークショップです。このワークショップでは、「エンゲージメントカード」3 を使いながら、コンプライアンス活動とリンクできる個人や企業の価値観を探っていきます。

企業風土の変革は、身近な個人と価値観を共有するところから始まります。このワークショップは、コンプライアンス担当部門内で行ってもポジティブな成果が得られるのでお勧めです。明確なブランド理念を持たない企業であっても、ワークショップを通じて創業者や働く人びとの想いに触れることで、コンプライアンス活動と企業の想いがリンクしていく実感が得られると思います。

【エンゲージメントカード】

株式会社トリプルバリュー作成「エンゲージメントカード認定ファシリテーター講座(Basic)」より転載

※画像はいずれも株式会社トリプルバリュー作成「エンゲージメントカード認定ファシリテーター講座(Basic)」より転載

まとめ

以上、パーソルの取り組みと、ブランド理念とコンプライアンスのリンクの有効性についてお話ししました。

グループビジョン=ブランド理念にコンプライアンスが深くリンクしていること、コンプライアンスとグループビジョンの関係性をグループ内に発信し続けることで「他人事」のコンプライアンスが「ジブンゴト」になる例を感じていただけたのではないでしょうか?

次回は、パーソルにおけるコンプライアンス活動の進め方の特徴と、インナーブランディングの関係についてお話しします。


  1. このワークショップは2017年のスタート以来、現在まで続く人気シリーズで、企業の垣根を超えて、参加者の皆さんがコンプライアンス研修の課題を話し合ったり、工夫例を考えたりするものです。 ↩︎

  2. パーソルホールディングス株式会社Webサイト(PERSOL(パーソル)グループ - はたらいて、笑おう)より。従業員数は2021年3月末時点の数字。 ↩︎

  3. 株式会社トリプルバリュー「ワクワークする世界最高のチームをつくる!エンゲージメントカード」 ↩︎

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する