日本M&Aセンター不正会計問題から見えた経営とリスク管理の諸課題

危機管理・内部統制

目次

  1. 仲介業務における利益相反リスク
  2. 「リスク管理の基本」を実行できなかった経営陣は批判を免れない
  3. 厳格な売上管理制度が不正発生に与えた影響の分析
  4. 社外取締役や法務部門が果たすべき役割とは

2022年2月14日、企業のM&A仲介を手がける日本M&Aセンターホールディングスが、子会社の日本M&Aセンターで売上の前倒し計上が行われていたことを明らかにしました。高い成長を掲げる経営陣の要求に応えるため、過去約5年間にわたり、営業部門で83件に及ぶ会計不正が横行した本事案の特徴を、企業の不祥事対応に詳しいプロアクト法律事務所の渡邉宙志弁護士に聞きました。

仲介業務における利益相反リスク

日本M&Aセンターで発生した、今回の不正の特徴を教えてください。

渡邉弁護士:
本件は、営業現場における売上前倒し計上にかかる会計不正事案です。

売上前倒し計上は、会計不正としては典型的な類型です。近年でいえば、2022年2月に上場廃止となったグレイステクノロジー株式会社の不適切会計事例 1 でも多数の前倒し計上を指摘しています。

売上前倒しの不正の多くは、経営陣からの売上プレッシャーに耐え切れなくなった営業担当者により、ときには営業部門の管理職が主導する形で開始され、かつ、これが長期間にわたって反復されるパターンを有しています。

今回の不正でも同様の兆候が認められるといえます。ただし、日本M&Aセンターが公表した調査報告書では、経営陣が不適切な前倒し計上を認識していた事実が認められないことは認定された一方、営業担当者に対する営業プレッシャーの状況について詳細な言及がないため、その実態が気になるところです。

中小企業を対象とするM&A仲介をめぐっては、以前からトラブルの多さが指摘され 2、2021年8月には中小企業庁がM&A支援機関にかかる登録制度をスタートしています 3。これらの事情と今回の不正との間に、何か関連性があるのでしょうか。

渡邉弁護士:
中小企業庁が2020年3月に公表した「中小M&Aガイドライン‐第三者への円滑な事業引継ぎに向けて‐」では、M&A専門業者などが事業の売り手側と買い手側の両方と契約を締結してM&A仲介業務を行う場合における「利益相反のリスク」などについて留意点を指摘しています。中小企業庁がM&A支援機関の登録制度と通報窓口を設けた背景には、これらのリスクから企業を守り「依頼者(顧客)の利益の最大化」を実現する目的があるといえます。

今回の不正は、売上の前倒し計上という会計不正であって、依頼者(顧客)の利益を害して自社の利益を優先したという類型ではありません。しかし、調査委員会の調査報告書では、自社内の売り手側担当者と買い手側担当者とが意を通じ、ときには契約書の偽造を行うなどして、実態に反して売上計上基準を満たしているかのような偽装を社内に対して行った例が多数存在したと指摘されています。この点からすれば、仲介業務における利益相反的な構造が不正発生に影響を与えたとみることもできます。

売り手買い手の双方を代理するM&A仲介業者には、このような不正が、やがては顧客の利益を害する不正につながる可能性があるリスクを認識し、十分に対策すること求められます。

顧客の利益を害する不正につながる可能性があるリスクとは、どのようなものでしょうか。

渡邉弁護士:
たとえば、大口顧客である買い手側の利益を優先し、売り手企業の利益を害する(取引の成立を優先し、売却価格を低く見積もったり、売り手側に不利な条件であっても受諾するように働きかけたりするなど)といったリスクがあげられます。

「リスク管理の基本」を実行できなかった経営陣は批判を免れない

2021年10月の不正の端緒の発見から、調査委員会による調査報告書公表に至る一連の経緯についてどのように評価しますか。

渡邉弁護士:
今回の不正に関する調査は、概ね次のような経緯をたどっているようです。

2021年10月8日 取締役の1人が、他部署から前倒し計上を持ちかけられたが断ったことについて部下から報告を受け、調査開始
2021年10月18日 上記の結果、社内報告用の契約書に偽造の疑いがあることが確認され、取締役管理本部長に報告される
2021年10月19日 上記が社長に報告される。管理本部長単独での調査が開始される
2021年11月末ころ 取締役管理本部長が、少なくとも17件の不正を確認
2021年12月6日 常務会にて、関係する部長9名と取締役営業本部長を処分することを決定
2021年12月?日 監査等委員らが、独自の情報取得により本件不正の疑義を把握
2021年12月8日 監査等委員が、監査法人に本件不正に関する通報があったことの報告受ける
2021年12月10日 取締役会にて、監査等委員が外部弁護士等を交えた調査が必要である旨の意見を述べる
2021年12月20日 取締役会にて、外部弁護士による予備調査開始が決定
2022年1月12日 不正の会計的な影響についても調査の目的に加えることを決定
2022年1月21日 監査法人から今回の不正に関する新たな通報があったとの報告を受ける
2022年1月31日 取締役会にて、調査チームの活動を調査委員会とすることが決定される

渡邉弁護士:
上記経緯によれば、遅くとも2021年10月18日には、何らかの不正が存在し、会計上の問題が存在する可能性が社内で明確になっていたといえるでしょう。

経営陣は、この時点で当該事案の社内への広がりを懸念し、ただちに監査法人に事態を報告するとともに、社外取締役、監査等委員会にも情報を共有し、他に同様な事案が存在するか否かを含めた調査を開始するべきでした。ところが同社は、取締役管理本部長による内々の単独調査を先行させています。この点につき、調査報告書では、「案件担当者の名誉を尊重し、かつ、社内で風評が発生しないように」との配慮がその判断根拠であったと記述されていますが、残念ながら、問題の重要性を見誤ったといわざるを得ません。「早期の徹底的な事実調査」がリスク管理の基本動作です。これを実行できなかった経営陣は批判を免れないでしょう

その後、社外取締役にも監査等委員会にも本件を伝達しないまま、一部の経営幹部のみを処分した経緯を見れば、経営陣は、この処分をもって事態をうやむやにして隠ぺいしようと考えたのではないか、との疑念も生じてしまいます。監査等委員や監査法人が、取締役会からの報告ではなく、独自の情報源や通報(おそらく内部告発と思われる)により不正の情報をつかんだ経緯も不可解であり、同社のガバナンスが十分に機能していなかった様子がうかがわれます。

調査委員会では、これらの調査開始の経緯や、経営陣の判断の適切性、ガバナンスの十分性に深く切り込んだ調査・報告が行われていない様子であり、消化不良の印象を受けました。

厳格な売上管理制度が不正発生に与えた影響の分析

調査委員会報告書では、年間達成目標だけでなく、「ラップ制度」や「コミットメント制度」などの厳格な業績管理が部長・各担当者に与えた心理的影響を調査しています。各部の14名の部長(平均年齢は約40歳)の回答結果から、どのようなことが読み取れますか。

不正に関与した各部の部長(14名)に対する不正の発生要因に関する質問【1】への回答

質問
(相当大きい)

(大きい)

(大きくはないが要因である)
×
(該当しない)

①当部で不適切報告が発生した事業年度における部として営業目標数値のハードルが高すぎた

1 4 6 3

②上記営業目標の設定にあたり、自分の部長としての自主的な認識を超える数値が会社により設定された

2 1 6 5

③当部で不適切報告が発生した事業年度の四半期毎に設定したコミットメントの数字は、部としての実績・実力に見合っていなかった

4 3 3 4

④当部で不適切報告が発生した事業年度において部長として、各担当社員レベルの営業目標数値の設定が各自の実績・実力に見合っていなかった

1 1 6 6

⑤毎月の売上進捗状況を確認する機会(部長会議など)における進捗状況の確認や未達の場合の取締役からの各種要請に関しては

イ 部長として、期待にぜひ応えたいと感じた 9 4 1 0
ロ 部長として部としての営業目標数値が未達の場合の自らの評価・処遇にかかわると感じた(※) 1 2 2 8
ハ 営業進捗状況の確認・要請が厳しいと感じた 0 4 3 7

※1名は評価×、処遇△と回答
(出典)株式会社日本M&Aセンターホールディングス「調査報告書」(2022年2月14日)46頁


不正に関与した各部の部長(14名)に対する不正の発生要因に関する質問【2】への回答

質問
(大きく該当する)

(相当該当する)

(少し該当する)
×
(該当しない)
さらに2019年よりも2020年、2020年から2021年における不適切報告の発生頻度が増加しているとされるが、自らの部に該当する事情として イ 2020年、2021年と順次設定された当部の営業目的数値の設定が当部の実績・実力を超えていた 2 1 6 5
ロ 会社の全社的な取り組みであるEXCEED30周年の取り組みが部長、営業社員の心理に影響を与えた 1 0 6 7
ハ 新型コロナウィルスの影響で、顧客のM&A案件の受託件数又は進捗状況にマイナスに響いた 1 6 2 5
ニ 新型コロナウィルスの影響で、顧客との面談等直接接触する機会が少なくなるなどの事情でM&Aの進行のプロセスが業務上管理しにくくなった 3 3 5 3
ホ 会社の経営層(取締役)が掲げる全社的な売上設定が会社の実績・実力を超えていた 2 3 5 4
ヘ 新型コロナウィルスの影響に左右されずに、営業数値を達成すべしとする経営陣の方針が影響した 1 2 7 4
ト 会社の経営陣(取締役)からの営業目標達成に関する各種要請が2019年に比べ2020年はより厳しくなった(※) 1 1 5 6
チ 会社の経営陣の営業目標達成に関する各種要請が2020年に比べ2021年はより厳しくなった 1 1 3 9

※回答なし1名
(出典)株式会社日本M&Aセンターホールディングス「調査報告書」(2022年2月14日)47頁

渡邉弁護士:
各部長の回答内容からすると、会社が設定する営業目標数値が過大であったという認識は薄かったように見えます。これは、顕著に不正が増加した2021年度でも同様のようです(質問【2】への回答)。

一方、同社では、営業目標達成の進捗管理指標として一律に営業目標数値の120%の額が設定される「ラップ」制度や、各自が達成可能と考える自己申告目標である「コミットメント」制度などが設けられていましたが、この「コミットメント」に関していえば、半数の部長が過大な目標であったと考えていた様子がうかがえます(上記質問【1】③)。

このように、部長たちは、今回の不正に最も大きな影響を与えたのは「コミットメント制度」だったと認識しているように見えます。しかし部長らの回答は、営業担当者らへの類似質問に対する回答(下記参照)と、大きなコントラストがあり、意識の差が大きいです。このような売上プレッシャーに対する経営層と現場の意識の差は、それ自体が不正の原因の1つであったといえます。

なお、かかる調査が、不正に関与したわずか14名の部長に限定して行われている状況を踏まえれば、部長らは、引き続き現職に留まる可能性の高い経営陣らから、自らの回答内容を特定されるリスクを考えて率直な意見を述べることを避けた可能性も考えられます

不正に関わった営業担当者73名に対する調査結果からは、どのようなことが読み取れますか。

不正に関与した各部の部長(14名)のもとで不正に関わった営業担当者(73名)に対する不正の発生要因に関する質問【1】への回答

質問
(相当影響した)

(影響した)

(少し影響した)
×
(影響しない)

① 会社の経営・業務が営業売上重視の傾向が強すぎた

30 22 4 14

② 個人に課せられた営業目標数値がもともと高すぎた

22 24 5 14

③ 個人として高く評価されたかった

5 12 12 50

④ 個人として昇進したかった

1 5 10 21

⑤ 部長又は部の要請に期待したいと思った

21 20 10 18

⑥ 部長からの指示を受けたので対応した

10 14 9 29

⑦ 部長以外の所属部から持ち掛けられて対応した

6 9 7 48

⑧ M&A案件の相手方部署から要請されて断りきれなかった

12 8 4 34

※無回答および複数回答があるため合計数は必ずしも73にならない。
(出典)株式会社日本M&Aセンターホールディングス「調査報告書」(2022年2月14日)48頁


不正の発生に関与した各部の部長(14名)のもとで不正に関わった営業担当者(73名)に対する不正の発生要因に関する質問【2】への回答

質問
(相当影響した)

(影響した)

(少し影響した)
×
(影響しない)
売上達成を通じて獲得できる以下の個人の経済的インセンティブが影響したか (早期達成インセンティブ) 4 7 5 55
(その他の特別研修参加の特典) 1 4 4 62

※無回答および複数回答があるため合計数は必ずしも73にならない。
(出典)株式会社日本M&Aセンターホールディングス「調査報告書」(2022年2月14日)49頁

渡邉弁護士:
上記の部長らの回答に反して、不正に関与してしまった営業担当者らは、会社の売上重視の姿勢が強く、会社が設定する部全体の営業目標も、個人単位の営業目標も、いずれも過大であったと認識していたようです(質問【1】①・②)。

また、本件では、質問【1】⑥への回答が特徴的です。同質問への回答を見れば、不正に関与した者のうち、有意な回答をした者の実に半数以上が、不正について部長から直接指示を受けており、これに影響されたことを認めていることになります(◎、〇、△の合計数33名に対し、×が29名。なお、×を選んだからといって部長からの指示を受けたことがないとならないことにも注意が必要)。これは、今回の不正が組織ぐるみのものであったことを示唆しています。質問【1】⑦・⑧への回答内容も、同じく今回の不正が組織ぐるみのものであったことを裏付けています。

次に、質問【1】③・④への回答、質問【2】への回答は、今回の不正が個人的な動機に基づいたものではないことを示しています。日本企業の不正では、その動機が個人的な利得にあることは稀で、多くは、組織内における同調圧力、組織全体の(不適切な)方針への盲従に求められるケースがほとんどですが、本件も同様の傾向です

なお、すでに述べたように、売上の前倒しが行われる動機は、過大な売上目標を前提にした「経営陣・直属の上司からの過度なプレッシャーから逃れたい」という心理に求められることが多いのですが、同社における実態は調査報告書からは不明です。

社外取締役や法務部門が果たすべき役割とは

昨年12月に公表された三菱電機の品質不正問題に関するガバナンスレビュー委員会報告書では、社外取締役の責任について従前より踏み込んだ表現がなされ注目されました。

渡邉弁護士:
社外取締役が適切な経営判断を下し、経営陣への監督機能を十分に発揮するためには、その判断の基礎となる情報が十分に得られているという前提が必要です。もっとも、社外取締役らには、会社からの情報提供を待つのみでなく、自ら、能動的に必要な情報の取得に努める行動が求められます(コーポレートガバナンス・コード補充原則4-13①など)。

三菱電機のガバナンスレビュー委員会は、監査委員である社外取締役について、監査委員会の構成員として必要な権限を行使して、執行役からの説明・意見陳述を求めるなどの行動が期待されていた、としています。特に、2018年に子会社における品質不正問題が発見された後は、「有事における対応」として十分な権限行使が期待されていた旨も指摘しています。

過去の多くの不祥事事案では、事情を知らなかった社外取締役には、不祥事に関する責任を問えないと考えらえることが多かったといえます。しかし、このような理屈で社外取締役の責任が軽く捉えられていた時代は、もはや過去になりました。社外取締役もまた、会社の経営に携わる一員として、自らに与えられた権限を適時・適切に行使し、経営に対する責任を果たしていくことが求められています

特に、会社にとって「有事」と捉えられるべき事象が生じた場合には、社内取締役・取締役会事務局・内部監査部門などに、必要な事項の調査と報告を求めるなどして積極的な情報収集に努めなければなりません。また、監査役等との緊密な連携のもと、経営陣の対応姿勢、方針、調査等の手法や判断プロセスが、社会一般を含めたステークホルダーからの期待に応えられているかどうかを検証し、足りない部分があれば、経営陣とは独立した立場から厳しい意見を述べなければなりません。場合によっては、監査役等に対して、法定の調査権限や是正権限の行使を促すことも考える必要があるでしょう。

今回のケースのように、成長を続けてきた上場企業が経営環境の悪化に直面して不正が発生しやすい状況に陥ったとき、法務部門にはどのような役割が求められますか。

渡邉弁護士:
企業の法務部門には「パートナー機能」と「ガーディアン機能」をバランスよく発揮することが求められています 4。そして、かかるガーディアン機能を適切に発揮し、企業のリスク管理を向上させるため、法務部門には、3線ディフェンスの第2線として、営業部門のリスク管理を検証・支援する役割を果たすことが求められます。

これを実現するためには、法務部門が営業から独立した立場で活動し、独自のレポートラインによりリスク情報を経営トップに届けことができる仕組みが必要です。法務部門としては、このような体制を整えておくことができるよう、平時から経営陣に働きかけを続けておくことが求められます。また、各法務担当者においても、自らの役割を十分に認識し、パートナー機能とガーディアン機能をバランスよく発揮できるように心がけていく姿勢が欠かせません。

特に、業績の成長が著しい企業の法務部門では、パートナー機能ばかりが重視され、ときには、営業部門の売上重視の方針に盲従したり、黙認せざるを得ない状況に置かれるケースが少なくありません

法務部門としては、そのような雰囲気に取り込まれることなく、特に、社内において経営トップからの売上成績重視の傾向が強まったと感じるような場合には、さらに意識を高め、リスク情報の収集と報告に取り組むことが重要です。

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