多忙な若手こそ他社法務とのネットワーク形成を - 国際企業法務協会(INCA)の取組み

法務部

目次

  1. 法務担当者の貴重な交流の場を次世代へつなぐ
  2. 実務対応スキルや法務としての哲学を伝えるテーマ設定
  3. 他社法務とのネットワークが自分を助ける

 87社の会員企業(2022年2月21日現在)で構成される国際企業法務協会(INCA)は、1988年の設立以来30年以上にわたり、法務担当者による手弁当の交流の場として活動している。
 INCAでは、時宜を得たテーマの月例会が原則として毎月開催され、弁護士等有識者による講演やグループディスカッションを通じて見識を広めることができるほか、倒産法や会社法といったテーマごとの研究部会も定期的に開催されている。夏には合宿形式の勉強会を開催するなど、法務担当者同士が真剣に議論し、相互研鑽できる場となっている。会社規模の大小や業種、性別、役職、年齢、熟練度を問わず、フランクな雰囲気のなかで交流できるのが特長だ。

 この記事では、2021年度から始まった若手担当者向けの勉強会「INCAアカデミー」について、担当理事であり発案者でもあるDHLジャパン株式会社法務部長の楠木規仁氏にお話を伺った。

法務担当者の貴重な交流の場を次世代へつなぐ

「INCAアカデミー」を新設したのはどのような理由からでしょうか。

 実は高尚な理由があるわけではなくて、INCAという素晴らしいコミュニティを再び活性化したいという個人的な想いから始まっています。

 私はINCAに30年近く参加していて、さまざまな方とのつながりを得て大変助けられているのですが、この会が理事や幹事の熱意なしには成り立たないことを痛感しています。月例会や研究部会を開催するのは、幹事にとって大きな負担です。月例会は充実した内容で継続していますが、研究部会については、残念ながら活動休止や閉会になっているものもあります。
 また、せっかくの交流の場でありながら、お膳立てされた “講義” をただ聞いて帰るだけ、という方が多くなってきているのも気になっていました。今の法務担当者は、私の若い頃とは違い、インターネットやメールによって仕事のスピードや密度が上がっており、仕事に追われている多忙な人が多いように思います。社外のネットワークづくりをしている余裕はないというのが実情かもしれません。

 その結果、かつては30代や40代だった理事・幹事の顔ぶれが変わらず、今では50代が中心になってきているのは問題です。理事・幹事を出していない会員企業の人たちからは、「よその会社の法務部長のおじさんたち」が内輪で何かやってるな、というふうに見えているかもしれません。
 このような状況では、中心的メンバーとなってINCAを運営していく人が減っていき、会自体がいずれ先細りしてしまうのではないかという危機感がありました。

 そこで、INCAの活力を高めるためには、次世代の人たちをもっと巻き込んで、このような交流の機会の有益さや楽しさを実感していただく必要があると考えて設けたのが「INCAアカデミー」という勉強会です。ここでの交流を通じて、若手同士のネットワークや、視野を広げられるような学びを得ていただき、参加メンバーのなかからINCAの将来の運営を担ってくれるような人材が現れてくることを願っています。

初年度はどのようなプログラムで参加者を募りましたか。

 法務経験3年から5年の若手を想定し、各回約90分、全10回の開催を企画しました。テーマとしては、M&A、競争法、知財など法分野に沿ったものから、先輩の経験談・失敗談、法務担当者としての心構えや考え方といったものまで幅広く選定しています。  最近は無料・有料含めて弁護士によるセミナーが多数開催されているため、INCAならではの学びが得られるよう、どのテーマを取り上げるにあたっても、知識の習得よりも実務対応力を身につけることを重視して内容を構成するようにしています。

 とはいえ、就業時間中に仕事を抜けて参加してもらうので、上司が快く送り出してくれるような内容にすることも大事です。企画段階で会員にアンケートをとると、知識の習得というニーズも一定程度はあったため、知識面も一応押さえるようにしています。

実務対応スキルや法務としての哲学を伝えるテーマ設定

これまでに開催した内容について教えてください。

 年間の開催概要は以下のとおりです。

  • 企業内法務の使命とやりがい(2021年4月)
  • M&Aの基礎(5月)
  • 国際取引における法務の実務(6月)
  • 独占禁止法の実務・カルテル対応(7月)
  • 私の失敗談(9月)
  • 知財紛争・クロスライセンス 他(10月)
  • ① 今、どのようなスキルが必要か?これからどのようなスキルが必要か?/② キャリアをどう考えるか(11月)
  • 最近の労働判例について(2022年1月)
  • インコタームズ、合同会社、弁護士の選び方など(2月)
  • 修了証授与(3月)

 5月、6月、7月、10月、1月、2月は、知識面を意識したテーマ設定としました。ただそこでも、裁判例や法令を覚えるというよりは、実務は教科書どおりにはいかないものだということを知ってもらえるような内容としています。
 たとえばM&Aのスケジュール感、競争法当局による立入検査を受けた場合の対応法、労働判例と実際の労務トラブルの違いなど、実際に担当したことのある人でないとわからない実務感覚を伝えることを重視しています。

印象的だった回はありますか。

 私が個人的に力を入れたのは、9月の「私の失敗談」です。
 法務担当者としての哲学やマインド、目指す姿についてはさまざまなものがあり得ますが、他社の法務部長や先輩の考え方に触れる機会はなかなかありません。そこで、会員であるサントリーの明司さんと花王の竹安さんをお呼びして、ご自身の考えをお話しいただいたのです。

 「失敗談」を切り口にしたのは、押し付けがましい武勇伝になるのを避けるためです(笑)。「これまで一番激しかったクレーム・トラブル対応」「経営陣や取引先などを怒らせた経験」というテーマをとっかかりに、良い法務組織をつくるために大切なこと、意思決定において最も重視している要素といった話題へ展開しました。
 参加者からは、「つい契約審査等の目の前の業務に追われてしまうが、企業法務とは何か、法務の仕事にどう向き合うか、ということを改めて考えるきっかけになった」という感想をいただいています。

参加者の顔ぶれや勉強会の雰囲気についてはいかがでしょうか。

 2021年度は、さまざまな業種から30代前後の法務担当者が18名参加しており、なかには弁護士資格者もいます。

 担当理事としての一番のねらいはネットワークをつくっていただくことなので、本当は対面で開催したいのですが、まだ一度もリアルで顔を合わせられていないのが非常にもどかしいところです。
 オンラインでは参加者同士の意見交換や議論が生まれにくいので、「この点について◯◯さんどうですか?」と指名して発言を促すようにしていますが、リアル開催のような活発で率直なコミュニケーションを引き出すのはなかなか難しいと感じています。

他社法務とのネットワークが自分を助ける

来年度はどのような予定でしょうか。

 幸い参加者の反応は良いようなので、基本的には同じ方向性で開催する予定です。
 昨年は3月に参加者を募集し、すぐに18名が集まりました。初年度の参加者たちともOB会を結成して継続的に交流していきたいと思っています。

担当理事としての手応えや成果はいかがですか。

 参加者のなかから、リーダーシップを発揮して積極的にネットワークづくりに取り組んでくれる人が何人か出てきているのはうれしいですね。今、運営に関わっている理事・幹事たちは、私も含めて皆さん「人」が好きで、「みんなで何かやろうよ!」というノリで続けているのだと思います。高尚なモチベーションだけじゃやっていけませんよ(笑)。

 真面目な話をすると、年次やポジションが上がるにつれて、自分一人の力では解決できない課題が増えていきます。自分というPC1台の処理能力には限界があるからです。そういうときに、社外のネットワークという “外部デバイス” を持っていれば、対応できる範囲が大きく広がります。若い頃から、信頼できる人と関係を作っておくことが大事です。

 法務は孤独な職種で、サッカーでいえばゴールキーパーのようなものだと思います。時には社内の人から責任を押し付けられてしまいそうになることもあるかもしれません。そんな苦労やストレス、そして大事にしている価値観などを、他社の法務担当者と共有し合うことができれば、前向きに仕事を続けていけるのではないでしょうか。

 INCAへご入会いただければINCAアカデミーを含むすべての部会にご参加いただけますので、ぜひご検討いただきたいですね。INCAアカデミーが、若手のための活発な交流な場としてさらに発展していけるよう、2年目も引き続き力を入れていきたいと思います。

国際企業法務協会(INCA)にご関心のある方は「ご入会の案内」をご覧ください。

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