『ここからはじめる企業法務』から紐解く、法務が持つべきマインドセットとスキルセット 新企業法務倶楽部 登島和弘氏 × GVA TECH 山本俊氏

法務部

目次

  1. 実体験をもとに、法務の仕事やマインドセットを「わかりやすく伝える」
  2. 法律家の視点とビジネスサイドの視点
  3. 法務パーソンに求められる「数字を見る能力」
  4. 企業法務の真骨頂は「社内の意思統一」
  5. 人生の上がりが法務部長だと思ったら大間違い

法務パーソンとして30年以上のキャリアを持つ著者が、企業法務の仕事やマインドセットについて上司と部下の対話をベースに解説した書籍『ここからはじめる企業法務 未来をかたちにするマインドセット』(英治出版)が2021年10月に出版されました。

本稿では、法務パーソンが持つべきマインドセットやビジネスサイドとの関わり方について、同書の著者である株式会社新企業法務倶楽部 代表取締役の登島和弘氏と、リーガルテックサービスを提供するGVA TECH株式会社の代表であり弁護士法人GVA法律事務所の代表弁護士を務める山本俊氏に聞きました。

プロフィール

登島和弘氏
30年以上にわたり国内・国際法務の最前線で活躍。スタートアップ時の外資系企業において法務部門の立ち上げを成功させるなど、法務部門の管理職としても20年以上のキャリアを持つ。2020年4月、ビジネス・オリエンテッドな企業法務の推進を掲げ、株式会社新企業法務俱楽部を設立。広く企業法務の啓発活動を行いつつ、若手企業法務担当者の指導・育成に従事。さらに、ベンチャー企業を中心に経営コンサルティングにも力を入れている。企業法務関連のセミナー・講演、法律雑誌への執筆も多数。2021年10月には、これまでの企業法務経験をまとめた『ここからはじめる企業法務 未来をかたちにするマインドセット』(英治出版)を出版。

山本俊氏
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として50名を超える規模となり、全国法律事務所ランキングで49位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「GVA」シリーズの提供を通じ、パーパスである『「法律」と「すべての活動」の垣根をなくす」の実現を目指す。2021年12月に『人工知能とこれからの仕事 法律業務AI開発記』(カナリアコミュニケーションズ)を出版。

実体験をもとに、法務の仕事やマインドセットを「わかりやすく伝える」

法務のマインドセットについて書籍化しようと考えられたきっかけを教えてください。

登島氏:
これまで私は7つの会社に勤めてきたのですが、3社目で働きはじめたころから「いろいろな会社での法務経験についてまとめたら、社会的に意義があるのではないか」と考えていました。

また今回、書籍を書く動機となったのがリーガルテックの存在です。ここ数年、リーガルテックの活用は大きな潮流となっていますが、技術面だけでなく、リーガルテックを使う「人」や「考え方」にフォーカスした本を出すことに意義があると考えました。

『ここからはじめる企業法務 未来をかたちにするマインドセット』

『ここからはじめる企業法務 未来をかたちにするマインドセット』

執筆するうえで特に意識された点はありますか。

登島氏:
企業法務の仕事は法務部門の外にいる人たちには伝わりづらい側面があります。そのため本書では「法務の仕事をできるだけわかりやすく伝える」ことをコンセプトに据えました。

また本書は、私が企業法務の現場で上司や部下と接するなかで学んできたことを核としており、「上原課長」「松井くん」の対話形式で、自身が経験してきたままに表現しています。そうすることで実感が込めやすく、読者にも伝わりやすいと思ったためです。まさに私が33年間、企業法務の現場でもがいて苦しんできた経験をそのまま表現することで、私にしか書けないものが書けるのではないかとも考えました。

登島さんの企業法務経験のなかで特に印象に残っている会社はありますか。

登島氏:
一番鍛えられたのは、30代半ばで転職した4社目の松下冷機株式会社という事業会社です。当時は国内で従業員5,000人、海外の関連会社を入れると1万人ほどの規模だったのですが、法務を3人で担当していたんです。

その規模で法務担当が3人というのはハードですね。

登島氏:
松下電器産業株式会社から出向で来た上司と私、もう1名という体制だったのですが、かなり大変でした(笑)。上司からは「就業時間は机に向かうな。現場に行って話をしてこい」「現物を見てこい」と口を酸っぱくして言われました。

しかし、そこで鍛えられたおかげで「これからあとも企業法務でやっていけるな」という自信がついたのも事実です。5社目では外資の小規模な会社に転職したのですが、松下冷機での経験があったため、1からの法務部門の立ち上げをやり切ることができました。

株式会社新企業法務倶楽部 代表取締役 登島和弘氏

株式会社新企業法務倶楽部 代表取締役 登島和弘氏

法律家の視点とビジネスサイドの視点

山本さんは『ここからはじめる企業法務』のなかでどのような点が印象的でしたか。

山本氏:
法務関連の書籍の多くは、法務部門内の業務について解説しています。しかし、法務の仕事は事業部や取引先をはじめとした「法務の外側」と密接に関わります。こうした、法務の外側との関係について扱った本というのはいままで意外となかった気がします。
弁護士として外から見えるよりもさらにリアルな法務部の内側から「会社に価値を提供していく」視点で書かれていることも印象的でした。

山本さんは弁護士としての経験、事業側としての経験をお持ちですが、事業側の視点では、法務がどんなアクションを取ってくれるとありがたいですか。

山本氏:
正直、事業側としては法務にあまりチェックされたくないんです(笑)。本音を言えば、元の内容のまま受け入れてほしい。交渉すればその分事業のスピードが遅くなりますし、お客様との契約であれば、交渉するのは気が引けることもあります。

また、事業部の担当者は契約書の内容について細部までは理解していないことが多いですが、事業上の重要なポイントについてはわかっています。法務からの修正箇所が事業としても譲れないポイントであれば「ちゃんと交渉しておこう」となりますが、ビジネスの実態に合わない修正が入った場合は怒りが湧くこともあると思います(笑)。

山本さんが弁護士と事業側の2つの立場を経験して、いまに活きているところはありますか。

山本氏:
私の頭のなかで法務と事業とが融合しているところです。たとえば、アライアンスに関する契約であれば、ビジネスサイドとして契約条件をクリエイティブに作り込むことができますし、レベニューシェアの条件などであれば多くのパターンを発想できると思います。

また、もしも相手企業が「ここだけは譲れない」と厳しい条件を要求してきた場合でも、「わかりました。その代わりにこの条件はのんでください」などと交渉できます。ビジネスと法務の “両方の頭” をクリエイティブに働かせて交渉できるのは、それぞれでの経験が活きていると思います。

一般企業のなかでそうしたアウトプットを実現するには、事業部門と法務部門の緊密な関係性が求められそうです。

山本氏:
そうですね。そうした関係性が築ければ企業全体の動きもまったく違ってくると思います。

登島氏:
ある程度の規模がある会社であれば、事業部門と法務部門の緊密な関係性の構築も様々なやり方が可能だと思います。たとえば、営業の経験者が法務部門に来たり、法務部門の人が別部署で何年か事業サイドを経験してもう一度法務に戻ってきたりできるような人事制度や育成プログラムがあると、かなり優れた人材が育つと思います。

難しいのは、小規模の会社でしょう。たとえば一人法務の場合は、他の部署への異動は考えづらいですから、その分、他の部門の動きについて予測できる力が求められます。一人法務になった場合は、他の部門の人たちがどういう課題を持っていて、どういう動きをしているのかを謙虚に学んでいくことが必要になると思います。

山本氏:
私も、もしもいまどこかの会社の法務部に入るとしたら、まず「事業として何が大事なのか」や「現場の人が何を気にしているのか」、事業プロセスを見たいですね。

たとえば投資契約業務は弁護士として膨大な量を経験してきましたが、弁護士が関わるのは99%まで進んだあとなんですよね。事業現場としてはそれまでがめちゃくちゃ大変なわけです。投資契約に至るまでに、数十社回って断られて、なんとか数社が残って、投資委員会を通って、やっと契約書が出てきます。会社側からしたら、ここまできて万が一頓挫することを考えると、怖くて仕方がない状況だと思います。

もちろん弁護士として、そうした背景も理解していたつもりですが、やはり当事者になってみると、ひやひや感が違いました。万が一、そうした事情を理解していない人が、法務視点だけで厳しいレビューをしてしまったら大変なことになるなと思いますよ。

登島氏:
事業を知るという意味では、ある程度のポジションになってきたら、やはり経営会議に参加させてもらうべきですね。自分の会社の現在地について数字を含めて毎月確認し、事業上の課題やいまあるディールの状況などを把握する。それによって経営の肌感覚を持って交渉に当たるのと、そうでないのとでは、まったく違います。

そうした感覚を持たずに、重箱の隅をつつくような指摘をしてしまうと、山本さんのような事業側の怒りに触れてしまうと(笑)。

GVA TECH株式会社 代表取締役 山本俊氏

GVA TECH株式会社 代表取締役 山本俊氏

法務パーソンに求められる「数字を見る能力」

登島さん、山本さんから見て、法務担当者の方が経営や事業の実態を把握できる場面は少ないのが現状なのでしょうか。

山本氏:
法務の方たちとお話するなかで感じる印象としては、事業部とのやりとりを介さず法務部門内で業務を完結してしまっている企業がまだ少なくないようです。

また、法務が契約締結の承認権限を持っているのか、あくまでも見解を伝える役割で事業部が決定権を持っているのかなど、会社の方針によって、各法務担当者の当事者意識は変わってきます。若手で活きがいい方もいらっしゃるのですが、法務と事業部とが密にやり取りする方針ではないということもあるようです。

登島氏:
ただ会社ごとの状況はありながらも、法務担当者として本来目指すべきは「経営に参画/貢献する人材」であることは間違いなく言えますよね。

おふたりが考える「良い法務パーソン」になるためにはどういった能力が必要ですか。

山本氏:
まず数字を見る能力が必要でしょう。数字はビジネス全体を繋ぐ共通言語です。たとえば営業担当者がどのようなKPIや予算を持っているのかが理解できると、苦労して契約までたどり着いた先で法務にブロックされることが意味するところもわかるようになるでしょう。

登島氏:
法務は文章読解やライティングの業務が多いこともあり、数字に弱い面があります。でも、事業会社であれば必ずなんらかの商品やサービスによって売上を上げ、そこから給料をもらっているわけですから、当然、数字は毎日動いています。そのことをちゃんと理解すべきなのだろうと思います。

数字が読めるようになると、会社のなかでの法務の役割が見えてくるということですね。

山本氏:
多くの会社はストレッチした数値目標を掲げており、各部門がバトンを繋いで売上を立てています。しかし、法務部門として数字やその背景が理解できていないと「0か100か」という判断をしてしまいがちです。

事業側からすると「松・竹・梅」で提案してほしい。「ビジネス実現度は100だけど、法務の介在度は0」という案と「法務のリスクヘッジは100だけど、それでは失注してしまい、ビジネス実現度は0」という案の“その間”を法務には考えてほしいんです。法務としても受容できて、事業計画も達成できる「松・竹・梅」があれば、それに基づいて法務と事業部のあいだでアイデアを出しあうこともできるんじゃないかと思います。

登島氏:
私も同様のことを「一の矢、二の矢、三の矢」と表現していました。「まさか、一本射たらおしまいじゃないよね?」と(笑)。「次の矢を用意すること。それも駄目なら三の矢はどうするのか?」という準備が重要ですよね。先を見通してどこまで準備できるかは、法務パーソンのクオリティに直結すると思います。

経験値がものをいうところもありますが、大事なのは一生懸命場数を踏むこと。もっと言えば、何事にも自分から積極的に関わりにいくことが能力を伸ばす大きなポイントでしょうね。

経験の数が法務パーソンとしてのスキルにつながるのですね。

山本氏:
場数を増やすためにも、はじめに登島さんがおっしゃっていた「マインドセット」と「テクノロジー」の両輪で走ることが重要なのだと思います。「法務の外の世界も大事なんだ」というマインドを持ちつつ、テクノロジーで目の前の業務を効率化する。空いた時間に外の世界に情報を取りに行き、法務以外の部門が達成したいビジネスについて把握する。そして得た知見を法務部門に持ち帰って議論する。こうした動きによって、法務として事業や経営により貢献できるようになるのではないか思います。

左からGVA TECH株式会社 代表取締役 山本俊氏、株式会社新企業法務倶楽部 代表取締役 登島和弘氏

企業法務の真骨頂は「社内の意思統一」

最後に改めて、『ここからはじめる企業法務』を通じて伝えたいメッセージについて伺えますか。

登島氏:
企業法務パーソンの存在価値は「ビジネスに線路を敷く」ことです。どうやってビジネスに線路を敷いて貢献するのか。そこに存在意義があります。そのためにも、外部の法律事務所の弁護士と法務担当者としての役割の違いを明確に認識するべきです。

山本氏:
専門性が高い領域は外部委託してもいいわけですよね。専門性を極めるよりも外部リソースやリーガルテックを上手く活用できるほうが、法務としての価値は発揮できると思います。

登島氏:
“会社のなかでしかできないこと” に企業法務の価値があるわけです。たとえば契約の交渉や訴訟の対応は、必要に応じて外部の弁護士事務所に助けてもらえばいい。一方で「会社のなかの意思をまとめ上げる」ことは外部の事務所にはできません。「社内の意思を統一する」そして「ビジネスに線路を敷く」という役割が、企業法務と外部弁護士との一番大きな違いです。

会社の意思を作り上げていくためには、関係者と多くのコミュニケーションを取る必要があります。もしも社内で意見の相違があるのであれば、合意形成のために溝を埋めていかなくてはいけません。だからこそ法務担当者一人ひとりが「クリエイティブディレクター」になったつもりでプロジェクトをまとめ上げていくナレッジやスキルを身につけてほしいと思います。

イシューをどうやって発見するのか、リスクをどうやって察知し、どうやって着地点を探すのか、どのように社内で共有して見える化するのか。そうした一連のプロセスこそが企業法務の真骨頂だと思います。

山本氏:
私が『ここからはじめる企業法務』を読んで印象に残ったのもその点でした。たとえば法務部門の方々と商談するなかでは「稟議はブレーキ」なんだというイメージがありました。しかし、登島さんの本を読んで「稟議とは各部門の合意形成。バラバラだった会社の意思を統合するもの」だと理解したことで、重要な役割を果たすものなのだと考えが変わりました。

プロダクト開発のプロジェクトの場合、プロダクトマネージャーが、技術やデザイン、ユーザー、ビジネスモデルなど、プロジェクトに関わるあらゆる情報を把握する必要があるでしょう。法務も同じように、目の前のプロジェクトに関わる物事をプロダクトマネージャーレベルで理解することで、合意形成の役割を果たせるのだろうとこの本を読んで強く感じました。

登島氏:
合意形成のためのマインドセットとスキルセットはとても重要です。マインドセットの詳しいところは、是非拙著を読んでほしいと思います(笑)。スキルセットについて言えば、たとえば、ビジネスメールの書き方、フェイストゥフェイスのコミュニケーションの仕方、会議のファシリテーションの方法などは、できている人とできていない人でビジネス推進力に大きく差が出ます。そこに法的な知識や論理的な思考が加わって「できる企業法務パーソン」が完成するのです。

人生の上がりが法務部長だと思ったら大間違い

登島さんはいま、ご自身で会社を経営されています。

登島氏:
一人法務の方や、コロナ禍で上司から教わる機会が減ってしまったような法務の方を外から応援できないかと思い、新企業法務倶楽部という会社をやっています。

こうした人材育成支援を行う先に、いつか日本でも、リーガルをベースにしつつGAFAみたいな企業を生み出す優れた人材が出てくることを期待しているんです。アメリカの企業のトップクラスには法律家も多いですからね。

法務パーソンのキャリアは必ずしも法務部門内に限らないということですね。

登島氏:
ええ。自分で世界を狭くする必要はないですよね。私も部下に「人生の上がりが法務部長だと思ったら大間違いだよ」「社長をやろう」「起業しよう」と伝えてきました。ぜひ自分の価値を高め、広く社会に貢献してほしいです。

本日はありがとうございました。

(写真:弘田 充、文:枚田 貴人、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

ここからはじめる企業法務 未来をかたちにするマインドセット
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