株主総会に関する最新裁判例

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目次

  1. 事案の概要
  2. 事実関係
  3. 裁判所の判断
    1. 神戸地裁令和3年11月22日決定 株式交換差止仮処分決定(X社の申立て認容)
    2. 神戸地裁令和3年11月26日決定 仮処分決定を認可(Y社の異議申立てを棄却)
    3. 大阪高裁令和3年12月7日決定 原決定取消し・仮処分申立て却下
    4. 最高裁令和3年12月14日決定 抗告棄却
  4. 今後の実務への影響

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.190」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 昨年10月に開催されたスーパーマーケットを経営する会社の臨時株主総会における経営統合議案の議決権行使の取扱いを巡り、昨年12月に最高裁にまでいたる裁判所の判断が示されました。
 本特集では、本事案の概要および裁判所の判断についてご紹介します。

事案の概要

 Y社とB1社およびB2社との間の2021年12月1日を効力発生日とする株式交換(※後に効力発生日を12月15日に変更)につき、同年10月29日に開催されたY社の臨時株主総会において、これを承認する旨の決議がされた。
 Y社株主のX社は、本件決議には決議の方法の法令違反かつ著しい不公正という決議取消事由があるとして、株式交換差止請求権を被保全権利として、株式交換の仮の差止めを求めた。

事案の概要

事実関係

総会前
  • Y社の法人株主Aは、事前に委任状および議決権行使書(全ての議案の賛成欄に「◯」印を記入)をY社に郵送して提出し、当日は傍聴を希望する旨連絡
9:00〜
  • 本件総会の受付開始
  • Aの代表取締役副社長の甲が職務代行者として来場。甲は「傍聴」の場合、別室でモニター視聴となると思い、議場で直に議長や役員の受け答えを聞くため、受付担当者に「出席」したい旨伝え、出席株主として入場
13:40頃
  • 議案の採決に移行。議長および事務局担当者において、マークの記入がない投票用紙を提出すると棄権として扱われること等を説明
  • 議場封鎖し、投票用紙(マークシート)による投票開始
13:50頃
  • 投票用紙回収。甲は、投票用紙を回収する担当者に対し、議決権行使を既に発送しているが、どうしたらいいのかとのニュアンスのことを尋ねるなどした後、未記入の投票用紙を投票箱に入れた。
13:55頃
  • 投票用紙回収完了。議長が議場封鎖を解除し、午後3時頃まで休憩する旨説明
14:57頃
  • 検査役が集計作業場において、外部委託業者が取りまとめた議決権行使集計結果報告書(本件議案の賛成は65.71%と記載、Aの投票は「棄権」扱い)を受領。午後3時10分頃まで集計結果の再確認作業が続いた。
15:00
  • 議長が休憩時間を午後4時まで延長する旨をアナウンス
15:40頃
  • 甲がY社代理人弁護士に対し、事前に全議案賛成の委任状を出していたので二重計上にならないように投票用紙に何も記入せずに投票したが、きちんと事前の意思表示のとおり取り扱われているか確認してほしいと述べた。
15:45頃
  • 検査役が甲から事情聴取し、議長がAの議決権行使を「賛成」とした。
16:10頃
  • 議事再開。議長が本件議案について賛成割合66.68%で「可決」した旨報告

裁判所の判断

神戸地裁令和3年11月22日決定 株式交換差止仮処分決定(X社の申立て認容)

  • 本件投票用紙を用いたマークシートによる投票という議決権行使の方法は、決議要件の充足が客観的に判断可能となり、かつ、会社が恣意的に出席株主による議決権行使の結果を操作することを困難にする方法と評価することができる。したがって、議長がこのような方法により議決権を行使することを出席株主に宣言したことによって、出席株主には、本件総会の議決事項については、本件投票用紙へのマークの記入及び用紙の提出・不提出という客観的な事実のみに従って決議要件の充足が判断されるという期待が生じることとなり、かかる採決方法に対し、出席株主から異議等の申出がなかったことにより、すべての出席株主が、本件投票用紙による投票以外の方法によっては議決権を行使することができないという制約に同意したものと解するのが相当である。…
    以上によれば、出席株主には、公正な決議を確保するという観点から、本件投票用紙を用いた投票以外の方法によっては議決権を行使することはできず、Y社もそれ以外の方法による議決権の行使を一部の株主に認めることはできないと解するのが相当である。また、出席株主がいったん本件投票用紙を回収箱に入れた後、その記載内容を訂正することができるとしても、それは、回収完了から議場封鎖の解除前までに限定され、遅くとも議長の議場封鎖の解除後は、仮に軽微かつ形式的な誤りであったとしても訂正することができないというべきである

  • Y社と出席株主との間でいったん合理的な採決の方法として本件投票用紙を用いた投票が決定された以上、ある出席株主がした投票行動に現れた株主の意思を把握するにあたっても、上記投票用紙の記載と、その提出、不提出が持つ意味に従って解釈することが求められるというべきである。

  • 株主Aがマークを記入しないまま本件投票用紙を提出することによって「棄権」をしていたにもかかわらず、Y社が、議場封鎖の解除後になって、本来考慮してはいけない本件投票用紙外の事情を考慮に入れることにより、これを「賛成」の議決権行使として取り扱った結果、本件議案が可決されたものとされたのであるから、決議の方法に法令に違反し、又は著しく不公正なときという瑕疵があるといわざるを得ない。

神戸地裁令和3年11月26日決定 仮処分決定を認可(Y社の異議申立てを棄却)

 上記3-1の判断を維持

大阪高裁令和3年12月7日決定 原決定取消し・仮処分申立て却下

  • 本件のような投票用紙による投票の方法によって株主がその意思を正確に表明しうるためには、投票のルールが予め周知され、そのルールを理解していることが必要であり、本件のように多数の一般の個人や法人が株主として参加する株主総会においては特にそのことが妥当する。

  • …株主総会における議決権が個々の株主に認められた株主全体の意思決定に関わる最も基本的な権利で、株主による議決権の行使が株主総会に上程された議案に対する株主全体の意思決定に関わる株主の意見表明であることに照らすと、上記のように投票のルールの周知や説明がされておらず、そのために株主がこれを誤認したことがやむを得ないと認められる場合であって、投票用紙以外の事情をも考慮することにより、その誤認のために投票時の株主の意思が投票用紙と異なっていたことが明確に認められ、恣意的な取扱いとなるおそれがない場合には、株主総会の審議を適法かつ公正に行う職責を有するといえる議長において、これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより株主の投票内容を把握することも許容されると解するのが相当であり、議決権行使によって表明される株主の賛否の意思を適切かつ正確に把握してこれを株主総会の議決に反映させるためには、むしろそうすることが求められているというべきである

  • 事前に委任状を提出した株主が総会に出席した場合に、委任状による事前の議決権行使が撤回され、そのため改めて議場において投票用紙に記載して投票する必要があることについては、株主に対しこれを周知する措置をとっていなかったもので、…本件総会において、事前に議決権を行使した株主が本件総会に出席した場合に、事前の議決権行使は撤回され、本件総会の議場で改めて意思表示をする必要があることについて、甲を含む出席株主共通の理解、認識となっていたと認めることはできない。

  • 甲は、本件総会における投票の際、株主Aによる事前の議決権行使のとおり本件議案には賛成であるが、事前の議決権行使が撤回されておらず、効力を有すると誤認したことにより、本件投票時、二重投票を避ける趣旨で未記入のまま本件投票用紙を投票箱に入れたものと認められる。そして上記誤認に係る投票のルールは本件総会において予め周知も説明もされておらず、甲がこれを誤認したことはやむを得ないところであり、…投票時の株主の意思(賛成)が投票用紙(棄権)と異なっていたことが明確に認められ、投票後に意見を変更したものではないことも認められるから、…本件総会の議長において甲の誤認のため投票を甲の賛成の意思を表明したものとして把握し、賛成票として扱うことも、なお許容されるというべきであり、本件のような事実関係の下では、以上の事実が認められるから、そのような取扱いをしても恣意的取扱いとなるおそれはないというべきである。

  • 本件総会の議長が本件株主の本件議案に係る投票を賛成と扱ったことは正当であり、…決議の方法が法令に違反するとも、著しく不公正であるともいえない。

最高裁令和3年12月14日決定 抗告棄却

 原審の判断を是認

今後の実務への影響

  • 大阪高裁の決定では、事前に委任状を提出した株主が総会に出席した場合に改めて議場において投票用紙に記載して投票する必要があることの周知や説明がされていなかった点等を考慮し、株主が誤認したことがやむを得ないような場合に例外的に投票用紙以外の事情を考慮し得るとして、議長が甲の投票を「賛成」と扱ったことは正当であると判断されました。

  • 上記大阪高裁の判断は、限定的な要件のもと例外的な取扱いを認めた特殊な事例であり、(議案の可決が問題なく見込まれる)通常の総会においては、本裁判例を受けて従前の招集通知の記載や議事運営を変更する必要まではないものと考えられます。もっとも、総会当日に賛否が拮抗する議案の採決を行うような場合には、事前に委任状・議決権行使書を提出した株主が総会に出席した場合に改めて議場において投票用紙に記載して投票をする必要があることなど、事前の議決権行使と当日の投票との関係を含めた投票のルールについて、会場において案内文書を配布したり、議長がアナウンスするなどして、株主に対して丁寧な説明を行うことが求められるといえます。
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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