「非財務情報の開示指針研究会」中間報告

コーポレート・M&A

目次

  1. 4つの提言の背景<サステナビリティ関連情報開示を巡る ”揺らぎ” >
  2. 質の高いサステナビリティ関連情報開示のための4つの提言
  3. 個別分野におけるサステナビリティ情報開示のあり方について
  4. 研究会における今後の検討について

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.188」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 経済産業省は、11月12日、『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて-「非財務情報の開示指針研究会」中間報告-』(以下、「中間報告」という)を公表しました。

 近年、非財務情報の開示の重要性が高まりを見せており、非財務情報開示の指針に関連して、世界的にも 活発な動きが見られます。「非財務情報の開示指針研究会」(以下、「研究会」という)は、企業と非財務情報の利用者との質の高い対話に繋がる開示、および開示媒体のあり方について検討するとともに、非財務情報の開示および指針に関する我が国の立場を的確に発信し、我が国の非財務情報の開示に関する国際的な評価を高めることを目指して設置されました。中間報告では、質の高いサステナビリティ関連情報開示実現のための4つの提言が示されているほか、気候関連開示・人的資本情報の開示のあり方などについてまとめられています。
 引き続き非財務情報開示の指針を巡る動向を注視しつつ、中間報告を参考に、自社の非財務情報の開示のあり方について検討を進めることが有益と考えられます。
 以下では、中間報告の概要をご案内します。

4つの提言の背景<サステナビリティ関連情報開示を巡る ”揺らぎ” >

 研究会における検討の中で、サステナビリティ情報の開示を巡って、作成者たる企業や投資家、従業員や顧客、取引先等のステークホルダーによって、開示すべき情報や開示対象、あるいは開示の目的そのものについての解釈や理解に幅がある、いわば “揺らぎ” の状態が生じているとの指摘がなされました。“揺らぎ” とは具体的には以下の3点です。

  1. 「共通性」と「独自性」のバランスを巡る揺らぎ
    国際的な開示基準の策定が進む中で期待される「共通性」「比較可能性」の確保と、企業の「独自性」「多様性」のバランスをどのように図るべきか。
    国際的な開示基準の策定は、情報の「共通性」「比較可能性」を高め、資本市場全体の効率性を高める大きな意義がある一方、企業の創意工夫の余地が狭まり、開示が保守化・定型化するおそれがある。

  2. マテリアリティを巡る揺らぎ
    開示基準が林立し、また各開示基準が想定する「読み手」や「マテリアリティ」、規定される「開示項目」が異なる中で、「誰に向けて」「何を伝えていくべきか」をどのように特定・判断すべきか。
    ※国内の法令等に基づく制度開示やTCFD提言においては、財務的インパクトを重視する
    「シングルマテリアリティ」の考え方が取られる一方、欧州委員会においては、財務インパクトと環境・社会インパクトという二つの側面から重要性を判断する「ダブルマテリアリティ」の考え方を求めており、併存する二つの潮流が、それぞれ強い社会的要請となっている。

  3. 財務情報、非財務情報、サステナビリティ情報の関係性を巡る揺らぎ
    財務情報、非財務情報、サステナビリティ情報といった用語や概念に対して、共通の理解が必ずしも醸成されていない中で、相互の関係性や包含関係をどうすべきか。

質の高いサステナビリティ関連情報開示のための4つの提言

 上記の “揺らぎ” を乗り越え、サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環を実現するための処方箋として、次の4つの提言が取りまとめられました。

  1. サステナビリティ関連情報開示における価値関連性の重視
     サステナビリティ関連情報開示においては、企業価値との関連性(Value relevance)を重視することが必要。中長期的な時間軸の中で重要性(マテリアリティ)のある事項を特定し、経営判断・経営戦略の検討と一体のものとして、統合的かつ連続的に開示に取り組まなければならない。積極的な開示を求める社会的要請も踏まえ、投資家等の近接した関係性を持つステークホルダーとの対話のための開示と、より広範なステークホルダー向けの開示については、誰に対してどのような情報の開示を行うのかという目的の違いを踏まえた開示が、効果的かつ効率的と考えられる。

  2. サステナビリティ開示基準の適用におけるオーナーシップ(主体性)の発揮(規範性と独自性の適切なバランスの実現)
     企業価値を伝達する開示を実現する観点から、企業は自らの開示内容についてオーナーシップ(主体性)を発揮することを通じて、開示情報の客観性・比較可能性確保と、独自性発揮とのバランスを取るための最適解を見出す必要がある。「Apply or Explain(基準の適用か、説明か)」アプローチを適用し、Explainにおいては積極的な説明を行うことが望ましい。

  3. 企業価値とサステナビリティ情報の関連性に関する認識の深化
     どのようなサステナビリティ情報が企業価値や財務情報と高い関連性を有するかについては、 作成者・利用者における共通理解の醸成の途上にある。今後、国際的な議論等において検討が重ねられていくことに加え、サステナビリティ情報の作成者たる企業やステークホルダー、研究者等において、企業価値・財務情報との関連性等についての分析の深化も期待される。

  4. 投資家・ステークホルダーとの「対話」に繋がるサステナビリティ関連情報開示の実施
     持続的な企業価値創造を実現するためには、提言①~③の方向性に沿った開示を通じて、投資家・ステークホルダーとの連続的な対話を行うことで、サステナビリティ関連情報開示と持続的な価値創造の好循環を生み出すことが重要。
     対話にあたっては、価値創造にとって重要なステークホルダーを広く意識し、「投資家」のスタンス・時間軸・考え方等の違いを念頭に置き、どのような開示・対話が重要か検討すべき。

個別分野におけるサステナビリティ情報開示のあり方について

(1)気候関連開示~5団体による気候関連の財務開示基準のプロトタイプ

 2020年12月、主要な基準設定団体であるCDP、CDSB、GRI、IIRC、SASBの5団体が「企業価値に関する報告-気候関連の財務報告基準プロトタイプの例示」と題する文書を公表しました。IFRS財団は、本年11月に国際的なサステナビリティ基準を開発するための審議会として「国際サステナビリティ基準審議会」(ISSB)を新たに設立することとしました。5団体の気候関連プロトタイプは、IFRS財団・ISSBにおける気候関連報告基準の開発の基礎となることが想定されるため、研究会においてもこれに基づき議論を行い、意見が整理されました。

  • プロトタイプの構造・開示項目

    ・TCFD提言が採用している4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)と同様の構造で、TCFD提言の開示項目を含んでおり、作成者・利用者からの理解を得やすい。

    ・TCFD提言への対応状況は企業毎に異なるため、今後、対応に数年程度必要ではないか。


  • 基準採用後の適用水準

    ・TCFD提言では「推奨される情報開示」となっているところ、プロトタイプでは「内容を開示しなければならない」とされているため、経営者が検討していない内容まで形式的に開示がなされ、報告書の主旨が伝わりにくくなる懸念がある。

    ・企業によって重要性の高くない項目まで詳細な開示を求めることは、開示の費用対効果の観点で適切ではない。


  • 開示媒体

    ・利用者の特性、目的により求められる情報が異なることから、効果的な開示を実現するための媒体の使い分け(例:データブックの作成、ウェブサイトの活用)も検討が必要。

(2)人的資本情報の開示

 改訂コーポレートガバナンス・コードにおいて、人的資本について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識した、わかりやすく具体的な情報開示が求められるなど、人的資本開示の重要性の高まりがみられるとともに、海外では開示に関する制度の整備が進んでいます。
 人的資本の開示がサステナビリティ関連開示で、気候関連情報に次いで議論が進んでいる領域であることを踏まえ、研究会において検討が行われ、主に以下のとおり意見が整理されました。

  1. 人的資本情報の特徴を踏まえた開示
     人的資本に関する開示は、「価値向上」のための開示(経営戦略の実現を支える人的資本の価値を最大化する取組を通じて、中長期的な企業価値の向上を目指し、投資家からの評価につなげるもの)と「リスクマネジメント」の開示(人的資本にかかる公平性・公正性確保のための取組を開示し、投資家からのリスクアセスメントニーズに応えるもの)の2つに整理される。
     人的資本情報の開示にあたっては、それぞれの開示項目が持つ特徴を念頭に置き発信することが効果的な開示に繋がると考えられる。

  2. 人的資本情報と価値創造プロセスのリンケージ
     人的資本情報を開示する際には、自社の人材戦略がどのように企業価値の創造に寄与するのかを明らかにすることが望まれる。また、その中で人的資本に関する取組の進捗を示す情報・指標(KPI)を開示することで、企業価値の創造に向けた効果的な対話に繋がる。
    ※Columnにて開示の好事例として、MS&ADホールディングスの統合報告書「MS&AD 統合レポート2021」が紹介されている。

  3. 指標(KPI)の理解に資する定性情報の説明
     人的資本の情報は、他の非財務情報と比較して企業間の比較可能性を確保しやすい一方、指標を単純に比較しても取組の巧拙を評価できないケースもあり、また、業種の持つ特徴や企業の事業構造による影響を受けることがある。
     指標(KPI)を開示する際には、その指標の設定理由や、目指すべき水準を併せて開示することが望まれる。

研究会における今後の検討について

(1)中間報告・提言の活用について

 今後、国内における質の高い開示および対話の進展や、そのための議論に役立てるとともに、国内外に積極的に発信することで、研究会の議論のエッセンスがISSBにおける議論を始めとした国際的な議論に取り込まれることを目指します。

(2)国内外の議論の進展を踏まえた今後の検討について

 ISSBにおける検討が進み、2022年第一四半期には気候変動に関するISSB基準の草案が示されることが見込まれるなど、国際的な検討状況が引き続き流動的な状況にあることを踏まえ、今後の国内外の状況に応じた検討を重ねていきます。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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