日本のメーカーが知るべき米国「修理する権利」とアフターマーケット修理制限のリスク

競争法・独占禁止法
椎名 葉 コンスタンティン・キャノン法律事務所

目次

  1. 米国における「修理する権利」とは
  2. アフターマーケット修理に関する規制枠組みと過去の警告事例
  3. 修理制限をめぐる調査報告
  4. どのような制限が不当とされ得るか
  5. 修理制限に関するメーカー側の言い分とFTCの見解
    1. 知的財産の保護
    2. 安全性
    3. サイバーセキュリティ
    4. 賠償責任と評判の悪化
    5. 設計上の選択と消費者の要望によって、機器の修理しやすさが左右される
    6. サービスの質
  6. 修理制限に関する独立系修理業者側の言い分とFTCの見解
  7. 近い将来に調査・規制される可能性がある項目は?

米国における「修理する権利」とは

 米国では、販売後の製品修理(アフターマーケット修理)について、競争法および消費者保護法の観点から見直す動きが高まっています。つまり、いわゆる「修理する権利」を拡大し、メーカー非公認の業者にも修理を行いやすくしようとするものです。これは、大統領令を受けた超党派の動きであり、消費者向け製品(BtoC)か企業向け製品(BtoB)かを問わず、すべてのメーカーにとって意識すべき重要なリスクといえます。

 この動きを受けてアップル社は、2021年11月、iPhone12、13以降の製品についてユーザーが自分で修理できるようにするため、ディスプレイ画面やバッテリー、カメラなど、需要が多いものから部品を提供していく方針を発表しました 1。同社は以前から、同社のショップや、同社が権限を与えたプログラムに参加している一部の独⽴系修理業者による修理については部品を提供していましたが、それを一般消費者にも広げるものです。

 過去には日本企業が、アフターマーケット修理の制限に関して、連邦取引委員会の警告対象となった事例もあります。本稿では、米国で流通する製品を製造する日本のメーカーが知っておくべきポイントを解説します。

アフターマーケット修理に関する規制枠組みと過去の警告事例

 米国の競争法は、制定法としては、基本的にシャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法という3つの法律とこれらの修正法で構成されており、執行機関は、連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)のほか、司法省反トラスト局、各州の司法長官です。
 FTCは、連邦取引委員会法5条に基づき、「不公正な競争方法」を防ぐという広範な権限を付与されています。最近までFTCは、同条に基づく執行を、シャーマン法1条および2条の執行と同等の範囲に抑えていました。しかし、2021年7月1日に発出した「連邦取引委員会法5条執行の原則に関する2015年方針の撤回声明」2 においてこれを撤回し、同条の執行および施政方針について、今後改めて精査すると述べていることにも注目すべきでしょう。

 FTCはアフターマーケット修理の制限(以下「修理制限」といいます。)について、調査を行い、改革のための施策を検討・実行する権限を付与されています。調査権限としては、銀行や貯蓄貸付機関を除く諸事業についての広範な情報収集権限(連邦取引委員会法6条)や、文書および証人の召喚状発出権限(同法9条)、行政捜査権限(同法20条)が付与されています。

 マグナソン・モス保証法などの消費者保護法も、修理制限の合法性を調査する権限をFTCに付与するものです。マグナソン・モス保証法は、FTCに対して、書面による保証についての規制権限を付与しており、これにはメーカーが消費者に開示する保証の基準や消費者救済を目的とする措置の制定を含みます。
 また、同法102(c)条では、メーカーが、保証の範囲を自社ブランドが公認する部品やサービスに限定することを(これらを無償提供しない限り)禁じています。

 たとえば2018年にFTCは、自動車、携帯電話機器、ビデオゲームシステムのメーカー6社に対し、特定修理業者のサービスを利用しなければ製品保証を拒否するという保証条項が、同法に抵触する可能性があるという警告を発出しました 3。この警告対象となった6社の名前は非公開でしたが、報道機関による情報公開法に基づく開示請求を受け、ソニー、任天堂、マイクロソフトなどが警告を受けたことが判明しています 4。ソニーや任天堂はこの直後に、「非公認機器を使用していた場合は保証の対象外」としていた条項を、「使用していた非公認機器から損傷を受けた場合は保証の対象外」と変更したほか、「はがすと保証は無効」と記したシールを見直したことも報じられています 5

修理制限をめぐる調査報告

 修理制限に関する検証は、以前から準備が進められていました。
 FTCは2019年に、さまざまな製品の修理制限や保証制限に関する調査報告を求めた連邦議会の指示に応え、パブリックコメントを募集し、“Nixing the Fix: A Workshop on Repair Restrictions”(修理禁止に関するワークショップ)を行いました。
 FTCは、メーカーやメーカー指定修理業者以外による修理、たとえばユーザー自身や非指定修理業者による修理を不当に制限するデザインや仕組みについて、包括的な調査を行い、その結果は、2021年5月に発行された「修理禁止に関するFTCの連邦議会報告書」6(以下「報告書」といいます。)にまとめられています。
 報告書でFTCは、「メーカーや販売者が、合理的で正当な理由なしにさまざまな方法で修理サービスを制限している証拠が見られる」と指摘し、これらの制限による反競争効果が「主に非白人や低所得層など社会の恩恵を十分に受けていない層に重荷を背負わせている」ことにも懸念を表明しました。

 さらに、バイデン大統領は同年7月9日の大統領命令 7 で、ハイテク企業から雇用市場まで網羅するさまざまな市場における競争の促進を呼びかけ、FTCに対しても、連邦法に基づく調査権限や規則策定権限を用いて調査・規制を検討するよう指示しました。

 同年7月21日、FTCは「メーカーおよび販売者による修理制限に対するFTC施政方針」8(以下「施政方針」といいます。)を可決・発表し、報告書の懸念に対処するため、競争法違反の取り締まりに、より多くのリソースを当てると述べています。FTCの調査・規制権限根拠法である連邦取引委員会法5条やマグナソン・モス保証法などの関連法に基づき、さまざまな製品の修理制限の正当性に関し、消費者からの情報も募って調査・検証を行うことが示されています。

 上記の施政方針は、民主党系の委員だけでなく、共和党系の委員からの支持も得ています。これは、共和党の支持基盤である非都市部・中西部の農業地帯において、機器の故障時にすぐに修理業者にアクセスできるようにすることがメリットとなるからです。ただし、共和党支持者であるウィルソン委員は、修理を難しくするような製品デザインを「一概に攻撃」することには警鐘を鳴らし、「競合相手による修理を除外したりその他の方法で競争を排除したりするようなデザインを選択することがシャーマン法2条の独占禁止に該当するかは、連邦議会が基準を制定するべき」とも述べました。

どのような制限が不当とされ得るか

 FTCは、報告書の中で、不当な制限に該当する可能性があるものとして以下の事例を挙げています。

  • 製品内の部品・部分を糊づけあるいは溶接するなど、物理的な制限
  • 部品やマニュアル、修理にあたっての障害診断ソフトウェアやツールの入手制限
  • 第三者による修理の安全性を担保させないようなデザイン(たとえば物理的に同じ寸法だが内部の化学構成が異なるリチウムイオン電池では作動しないようにするなど)
  • テレマティック(移動体通信システムを利用した修理推進システム)を利用し、消費者を製造元修理ネットワークに誘導すること
  • テレマティックで収集した情報の共有制限
  • 特許権や商標の不当な利用
  • 非OEM部品や独立系修理サービスの評判を毀損するような言動
  • 不当なソフトウェア・ロック、デジタル権主張と管理、自動VIN(自動車登録番号)付与などの技術的な保護策
  • 制限的なエンドユーザー使用許諾契約

修理制限に関するメーカー側の言い分とFTCの見解

 FTCは、報告書の中で、メーカーが修理制限を設けている主な理由について、メーカー側の説明を以下のようにまとめ、それに対するFTCの見解を示しています。

知的財産の保護

 修理制限は「知財保護目的」である、という説明については、FTCは「知財権の濫用は第三者による修理への障壁を作り出し、競争を阻む可能性がある」との見方を示しました。 同時に、FTCは「知財と修理の相互関係についての十分な考察は本報告書の範囲を超えている」と前置きしたうえで、「メーカーの知財権主張が個人利用者や独立系修理業者による修理を制限し得る一方、知財権が必ずしも修理について越え難い障壁を成すものではない」とも述べています。FTCはこの分析の根拠として、以下のような項目を挙げました。

  • 著作権法117条(c)では、コンピュータープログラムの所有者または賃借人が、メンテナンスや修理目的でプログラムのコピーを作成することが許可されている
  • デジタルミレニアム著作権法1201条の技術的保護手段(TPM)迂回禁止条項の適用に対する免除対象に、2018年以降、エンジン付の陸上車両やスマートフォン、家電製品の故障原因分析やメンテナンス、修理目的が含まれる(つまり、こうした製品の修理におけるTPM迂回は連邦法に抵触しない)

安全性

 修理制限が消費者や修理業者を保護するというメーカー側の主張については、FTCは以下のような点を指摘しました。

  • メーカー公認の修理業者のみに修理を許す制限条項は「安全上の懸念」で正当化できるものではない
  • 自動車業界において独立系修理業者が安全な修理を提供していることに鑑みると、「安全」性に拠る外部修理制限の理由づけには無理がある
  • メーカー側は、たとえばリチウムイオン電池の内部の化学構成についてラベリングするなど、修理の際に安全性を守るよう製品をデザインすることができる 等

サイバーセキュリティ

 修理制限は、製品に組み込まれたハードウェア・セキュリティ技術を意図せずうっかり外してしまうなどのサイバーセキュリティ上のリスクから消費者を守るものである、というメーカー側の説明については、FTCは、その議論を裏付ける証拠が提出されていないことを指摘しました。

賠償責任と評判の悪化

 メーカー非公認の修理業者による不十分な修理はメーカーの信用やブランド価値における損失や訴訟費用の増加につながるというメーカー側の説明については、FTCはそれを裏付ける証拠が提出されていないと指摘しました。

設計上の選択と消費者の要望によって、機器の修理しやすさが左右される

 消費者がより軽く耐久性のある製品を求めるという理由で、メーカーは修理のしやすさが制限されるようなデザインを選ぶこともあるというメーカー側の説明については、FTCは、そのようなメーカー側の主張も、そして「修理する権利」を主張する側の主張も、裏付けが乏しいと述べました。
 さらにFTCは、「消費者は購入した製品が修理可能であると知らない場合もあり、これがメーカーのアフターマーケット市場力の行使を助長している可能性もある」という、独立機関による調査報告についても紹介しています。

サービスの質

 メーカー公認の修理業者はより良いサービスを提供できるというメーカー側の主張については、FTCは、独立系修理業者の修理が劣悪と示す証拠がないと述べました。

修理制限に関する独立系修理業者側の言い分とFTCの見解

 FTCは、「修理する権利」を求める独立系修理業者や団体が提出した論拠も検討し、以下の3点を確認しました。

  • 独立系修理業者は、緊急の場合やメーカー公認の修理業者が少ない地域において迅速なサービスを供給できる
  • FTCに提供されたコメントや事実に基づくリサーチを見る限り、「修理する権利」を求める側の主張する「メーカー側の制限が消費者の払う価格を吊り上げている」という論拠を覆すものは見られなかった
  • 修理の選択肢が広がることは、環境上の責任と整合する

近い将来に調査・規制される可能性がある項目は?

 FTCは施政方針の中で、以下の3点を優先的に進めていくと述べています。

  1. マグナソン・モス保証法の執行をより広範に進めていくために、FTCは一般の人々からのコメントや苦情を募っている。同法では課徴金や救済措置を定めていないが、FTCは、同法の違反者に対して、差止めによる救済を求める訴訟を起こすことを検討していく。また、不公正・欺瞞的な行為または慣行について調査を行うなどの必要がないかを見極めるために、民事訴訟を注意深く監視する。さらに、必要に応じて規則制定も検討する。
  2. 修理制限が、シャーマン法が禁止する抱き合わせや取引拒否、排他的取引、排他的デザインなどの独占行為に該当しないか精査していく。
  3. 修理制限が、連邦取引委員会法5条の禁止する不公正・欺瞞的な行為または慣行に該当しないかについても、今後、調査を進めていく。

 FTCの人的リソースは限定されているため、修理制限の調査・規制は、製品や制限内容に応じて優先順位がつけられることが想定されます。
 知財に関連する修理制限(上記5−1)については、報告書でも「範囲を超えている」としているため、近い将来に大きな動きは予見しにくいといえます。一方で、報告書において、リチウムイオン電池などの具体例を挙げて言及した、安全性に関わる修理制限(上記5−2)については、優先的に検証対象となる可能性も考えられます

 本稿では連邦法の動きについて紹介しましたが、州法レベルでも「修理する権利」法の制定は進んでいます。対象範囲や内容に違いはあるものの、50州のうち27州において「修理する権利」を定めた法が存在します(2021年11月現在)。
 米国に流通する製品のメーカーは、法整備や調査・規制の状況をモニターするとともに、自社製品の修理・保証制限が不当とみなされるリスクがないか、見直す必要があるでしょう。

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