改正資金決済法で新設された第一種資金移動業とは? - 認可申請等の実務に必要な知識を解説

ファイナンス

目次

  1. 資金移動業とは
  2. 資金移動業の新しい規制枠組みと「第一種資金移動業」の概要
    1. 改正資金決済法によって設けられた3類型
    2. 第一種資金移動業を営むために必要な「認可」と「業務実施計画」
  3. 滞留制限に関する実務上の留意点
    1. 滞留制限措置の概要
    2. 認可申請やスキーム設計上の留意点
  4. AML体制・システム体制に関する実務上の留意点
    1. AML体制
    2. システム体制
  5. おわりに

資金移動業とは

 資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)においては、従前、銀行以外の事業者が送金サービスを行うことを可能にするため、資金移動業という登録ライセンスが設けられていました。これにより、さまざまな事業者が少額(100万円を超えない範囲)の送金サービスを提供するに至っています。

資金移動業の新しい規制枠組みと「第一種資金移動業」の概要

改正資金決済法によって設けられた3類型

 2021年5月31日、資金決済法の改正法が施行されました。これにより、従前は1つの登録ライセンスであった資金移動業が、3類型に区分されることとなりました。

 改正の背景としては、多様な送金サービスを柔軟に提供することについての実務上のニーズが生じてきたということがあげられます。これらのニーズに応えたさまざまな送金サービスを提供することを目的として、3類型が新設されたものです。

 その類型の中で、新たな高額送金サービスを可能とするものとして、第一種資金移動業という新たなライセンスが設けられています。本稿では、この第一種資金移動業を営む可能性がある事業者の方に向けて、認可申請等に必要な知識をわかりやすく解説します。

資金移動業の3類型

類型 送金額の上限 規制内容の比較
第一種資金移動業 新設 なし 認可制 従前の資金移動業より厳格
第二種資金移動業 従前とほぼ同様 1件当たり100万円 登録制 従前の資金移動業とほぼ同様
第三種資金移動業 新設 1件当たりの送金額および1人当たりの受入額5万円 登録制 従前の資金移動業より緩和
(主に資産保全の面において)

 この第一種資金移動業においては、従前の資金移動業において設けられていた100万円以内という金額上限が設けられていません。そのため、銀行ライセンスを有していなくても、100万円を超える送金サービスを提供できることととなり、たとえば、法人間送金などの単発かつ高額の送金サービスを検討することも可能です。

 これまで、銀行以外の当事者における送金サービスを検討する場合、100万円という金額上限が法制度上のボトルネックとなっていましたので、第一種資金移動業の創設は、fintechに関する大きな法改正のトピックといえるでしょう。

第一種資金移動業を営むために必要な「認可」と「業務実施計画」

 第一種資金移動業に関しては、「資金移動業者は、第一種資金移動業を営もうとするときは、… 業務実施計画を定め、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の認可を受けなければならない」ものとされています(資金決済法40条の2第1項柱書)(太字筆者)。
 これは、送金サービスに関する金額上限が緩和される一方で、そのサービスの適正性等を確認するために、一般的な資金移動業よりも慎重な法制度を用意したものと評価できます(一般的な資金移動業においては「登録」だけで足りるものとされていますが、第一種資金移動業においては、それに加えてより厳しい「認可」を得る必要があるという仕組みです。)。そのため、新たな高額送金サービスを検討する場合、業務実施計画を定めることが求められます

 業務実施計画に記載すべき事項は、以下のとおりです(資金決済法40条の2第1項各号および資金移動業に関する内閣府令9条の3各号をベースに、筆者にて加筆修正したもの)。

業務実施計画に記載すべき事項

  1. 為替取引により移動させる資金の額の上限額を定める場合にあっては、当該上限額
  2. 為替取引を行うために使用する電子情報処理組織(システム体制)の管理の方法
  3. 為替取引に係る業務の提供方法
  4. 為替取引による資金の移動が生じる国および地域
  5. 犯罪による収益の移転防止…およびテロリズムに対する資金供与の防止等を確保するために必要な体制(アンチマネーロンダリング体制)に関する事項
  6. 資金決済法51条の2の規定(滞留制限)を遵守するために必要な体制に関する事項
  7. 為替取引に関する事故その他の資金移動業の適正かつ確実な遂行に支障を来す事態が発生した場合の対応に関する方針
  8. その他第一種資金移動業の適正かつ確実な遂行を確保するための重要な事項

 表面上は複雑な対応を要するようにも見えますが、実務上は、システム体制(②)、アンチマネーロンダリング(AML)体制(⑤)、滞留制限(⑥)等に関し、適切な事前検討を行い、想定するサービス内容を適切に記述することで対応可能であり、過度な負荷が課されるわけではありません
 このうち、滞留制限が第一種資金移動業対応のポイントになりますので、次の項目において実務上の留意点を説明します。

滞留制限に関する実務上の留意点

滞留制限措置の概要

 前述のとおり、第一種資金移動業には、金額上限が設けられていないことを踏まえ(高額の送金サービスが認められることと引き換えに)、厳格な滞留制限が設けられています(資金決済法51条の2各項)。
 滞留制限とは、資金移動業者の下に送金資金がとどまることにより、資金移動業者の破たん等によって利用者保護が欠けることのないように、資金移動業者の下に送金資金が滞留することを禁止または制約する規制のことです。

 具体的には、第一種資金移動業においては、滞留制限に関する措置として、資金移動業者は、以下の項目を定めることが求められています(資金移動業に関する内閣府令32条の2第1項各号)。

滞留制限に関する措置

  1. 移動する資金の額
  2. 資金を移動する日
  3. 資金の移動先

 実務的には、これらの項目を定めることに加え、実際に資金が滞留しない形で送金サービスを遂行することが求められますので、第一種資金移動業においては、利用者から受け入れた送金資金の預託(送金資金を資金移動業者が自己の預金口座に保有すること)を長期間継続することは原則として困難になります。

 そのため、第一種資金移動業においては、以下のように、適する・適さない送金サービスがあるものと思われます。

・適さない送金サービスの例
資金の滞留が継続的に生じる可能性のあるアカウント設定型などの送金サービス(バリュー残高などが設定されるサービス)

・適している送金サービスの例
単発で高額の送金を引き受ける送金サービス

認可申請やスキーム設計上の留意点

(1)資金を移動する日

 資金を移動する日(上記②)については、金融庁・事務ガイドライン(資金移動業者関係)(以下「事務ガイドライン」といいます。)の「主な着眼点」において、「為替取引の依頼を受けた際、実際に、資金の移動に関する事務を実施する上で、具体的日付となる資金の移動の完了予定日(以下「完了予定日」という。)をいう」ものとされています 1。また、「なお、送金人が完了予定日を予め指定しなかった場合には、資金移動業者から送金人に対し、完了予定日を提示し、送金人の確認を得ること。また、その際に完了予定日から逆算した入金予定日を伝達し、入金予定日までは資金を受け入れないこと」という考え方も示されています 2

 これらの事務ガイドラインの内容を踏まえた場合、第一種資金移動業の認可申請においては、合理的な期間に収まる(理由なく長期間にわたらない)完了予定日の想定を具体的に定めたうえで、送金サービスの運用フローを説明することが重要になるものと思われます。

 また、完了予定日の想定について、送金サービスの利用規約等の契約において規定することも実務上重要になりますので、「本サービスにおける送金の完了予定日は、送金指示を受け付けた日から○日以内の当社所定の日とします。」といったイメージの条項をあらかじめ検討することも有益でしょう。

 なお、現行の資金移動業をすでに遂行している事業者においては、従来の利用規約等を活用することも可能ですが、完了予定日の記載ぶりなどについては、これらの滞留制限措置の所要の見直しを行うことになるものと考えられます。

(2)移動する資金の額および資金の移動先

 移動する資金の額(上記①)および資金の移動先(上記③)については、完了予定日とは異なり、送金サービスの受付において一般的に取決めを要する項目となることから、想定する送金サービスの内容に応じて定めることで実務的には対応可能と考えられます。

 もっとも、送金の受取人側(資金の移動先)に関する要請として、「受取人が資金を受け取る場合には、受取人が予め登録した受取人の銀行等の預金口座に直接資金を入金するなど、受取人の資金について為替取引の完了に向けて無用な滞留が生じない措置を講じているか」という着眼点が示されている点には留意が必要です 3(下線筆者)。

 具体的には、たとえば、想定している送金サービスにおいて、受取人の銀行等の預金口座をあらかじめ登録できない場合には、上記の着眼点との関係で認可申請に支障が生じる可能性があります。そのような場合には、サービス利用者として想定される送金人側の事情だけではなく、受取人との接点の有無などを勘案してスキームを設計することが重要です。

 また、他の資金移動業者との連携などを図る場合において、連携先における為替取引の完了状況(受取人への入金状況)なども論点になる可能性がありますので、提携交渉等に先立ち、本論点をあらかじめ検討しておくことも有益でしょう。

(3)事務処理に必要な期間

 上記に加え、事務処理に関連する事項として、「資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間…」を定めることも求められています(資金移動業に関する内閣府令32条の2第2項)。この点については、「運用・技術上必要な期間であり、例えばテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策上の確認・検証、海外拠点や銀行等への連絡、銀行口座への振込といった、個々の為替取引の事務処理に要する必要最低限の期間を考慮し、合理的に算定した期間」という着眼点が示されています 4

 そのため、認可申請に際しても、個別事情を具体的に考慮したうえで合理的な期間を定めることが求められます。銀行口座への振込の完了時期など、資金移動業者側のみでコントロールできない要素もありますので、この点についても前広な検討を行っておくことが望ましいものと思われます。

AML体制・システム体制に関する実務上の留意点

 以上の滞留制限に加え、第一種資金移動業サービスにおいては、その送金取引が高額かつ高頻度に及ぶケースも想定されることから、AML体制およびシステム体制も実務上着目されるポイントになります。

AML体制

 第一種資金移動業においては、「他の種別の資金移動業者と比較してより堅牢なテロ資金供与及びマネー・ローンダリングリスク管理態勢を整備する」ことが求められます 5。また、具体的な項目として、リスクの特定・評価やスクリーニングの必要性等が挙げられています 6
 そのため、認可を申請するに際し、上記の事務ガイドラインの要請を踏まえたAML体制の検討をあらかじめ行っておくことが重要となります。

 もっとも、上記の事務ガイドラインの項目は、一般的なAML体制において求められる項目と概ね重なる内容にとどまります。実務的には、以下のような個別具体的な事情を踏まえたうえで、AMLに関するリスク検討を具体的に実施することが重要となるものと思われます(認可に際しては、形式的なリスク評価ではなく、実質的なリスク評価や対策について、具体的に説明することが有益でしょう。)。

AML体制を検討するうえで考慮すべき事項の例
  • 対象とする送金サービスにおける取引金額の水準はどのようなものか
  • 海外送金の可能性があるか
  • 送金の目的としてどのようなものが想定されるか 等

システム体制

 システム体制に関しても、「第一種資金移動業者は、高額の為替取引を行うため、攻撃者の標的になる可能性が高く、システムリスク管理について、より強固な管理態勢整備、セキュリティ対策を講じることが求められる。また、システム障害等の不測の事態によるサービス停止時に利用者への影響が大きくなることも想定されることから、システムの安定稼働のための対策を講じることが求められる。」ものとされています 7。この記載から、システム体制に関するポイントは、外部からの不正アクセス等の対策とシステム障害等の対策と読み解くことができます

 これらのポイントに関する実務対応の着眼点は、事務ガイドラインⅢ−1−3−1に挙げられていますが、一般的なシステム体制の整備との関係で特殊な事項までは含まれていないものと考えられますので、想定する送金サービスにおけるシステム対応を丁寧に実施することで、実務的には対応可能と思われます。

おわりに

 法制度の枠組みからすれば、これまで資金移動業のライセンスの下で取り組んでいた各種サービスにおいても、第一種資金移動業の認可を得ることでサービスの拡張を図ることも可能となります。この場合、すでに述べたとおり、従前の契約関係等を踏まえ、滞留制限にどのように対応するかがポイントになりますので、今後の検討が広まることが期待されます。


  1. 事務ガイドラインⅢ−1−1−1(1)①(注2) ↩︎

  2. 事務ガイドラインⅢ−1−1−1(1)①(注2) ↩︎

  3. 事務ガイドラインⅢ−1−1−1(1)③ ↩︎

  4. 事務ガイドラインⅢ−1−1−1(1)②(注3) ↩︎

  5. 事務ガイドラインⅢ−1−4−1 ↩︎

  6. 事務ガイドラインⅢ−1−4−1①から⑥まで   ↩︎

  7. 事務ガイドラインⅢ−1−3 ↩︎

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