証券取引等監視委員会「開示検査事例集」

コーポレート・M&A

目次

  1. 最近の開示検査の取組み
  2. 最近の開示検査の実績と検査事例の概要等
  3. 過去の検査事例の概要等

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.185」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 証券取引等監視委員会(以下、「監視委員会」という)は、7月30日、令和3年度版の「開示検査事例集」(以下、「本事例集」という)を公表しました。
 本事例集は、適正な情報開示に向けた市場関係者の自主的な取組みを促す観点から、監視委員会による開示検査の最近の取組みや開示検査によって判明した開示規制違反の内容、その背景・原因及び是正策等の概要を取りまとめたもので、毎年公表されています。
 本事例集の冒頭、監視委員会から上場会社へのメッセージとして以下のように記載されています。

 開示検査によって判明した開示規制違反等の問題の背景には、多くの場合、その会社の取締役・監査役等が本来の役割を果たしていないなど、ガバナンスの機能不全が認められます。この1年間に終了した開示検査の中でも、経営陣のコンプライアンス意識の欠如や内部管理体制の機能不全などが不正な会計処理につながった事例が多く見受けられました。(中略)
 この事例集が、会社経営陣、監査役等、業務執行部門、会計監査人等との間の積極的なコミュニケーションのきっかけとなり、そして、それによってガバナンスの向上に向けた自律的な取組みが行われることを期待しております。

 本事例集を参考に、有価証券報告書等の作成にあたり、自社のガバナンスに関して問題が潜んで いないかあらためてご検討いただくことが有益と考えられます。

 以下では、本事例集の概要をご案内します。

最近の開示検査の取組み

 近年、日本を代表するグローバル企業による不正会計、非財務情報における虚偽記載等、開示規制違反事案が多く発覚しています。監視委員会では、このような開示規制違反の早期発見・早期是正や再発防止・未然防止を確実に推し進めるため、開示規制違反リスクに着目した情報収 集・分析能力の強化や機動的かつ多面的な開示検査の実施に努めています。多面的かつ効果的な開示検査の実施の観点では、例えば、有価証券報告書等の非財務情報についての積極的な調査・検査を実施しています。

最近の開示検査の実績と検査事例の概要等

 令和2年7月~令和3年6月(以下、「本期間」という)においては、23件の開示検査を実施し、16件が終了しました。開示検査が終了した16件のうち、開示書類における重要な事項についての虚偽記載等が認められた9件について課徴金納付命令勧告が行われました。
 本期間においては、売上原価の過少計上等の不正な会計処理による過大な当期純利益の計上等、有価証券報告書等についての虚偽記載又は不記載が認められました。また、「関連当事者との取引に関する注記」の不記載や、海外子会社の不正な会計処理による虚偽記載が認められました。
 これらの課徴金納付命令勧告を行った事案において認められた開示規制違反に至った背景・原因としては、例えば、以下が挙げられます。

  • 社長及び会計責任者において、法令等を正しく理解しておらず、適正な財務報告を行うという認識が不足していたこと
  • 一部の者に権限が集中しており、また、これらの者に対する牽制が不十分であったこと
  • 経営陣において、リスク管理体制の脆弱性を認識しながら、その是正のための取組を行ってこなかったこと
  • 子会社に対するガバナンス機能に不備があったこと

 以下では、本期間に課徴金納付命令の勧告が行われた事例(売上原価の過少計上等)の概要等をご紹介します。極めて多額の課徴金の納付命令が勧告されています。

項 目 内 容
1 概 要
  • 経理実務の権限が集中し、強い影響力を持っていた当時の経理担当者の指示の下、架空の期末在庫の計上による売上原価の過少計上等、長期間にわたり、多岐・多額の不正な会計処理を行ったことにより、過大な当期純利益・純資産等を計上
  • これにより重要な事項について虚偽の記載のある有価証券報告書等を提出
  • 監視委員会より課徴金納付命令勧告(課徴金額21億6,333万4,996円)
2
考えられる主な背景・原因
  • 経理実務に関する権限が一人の経理担当者に集中していたこと
  • 適正な会計処理を重視しない企業風土があったこと
  • 経理部門に対する社内のチェック機能が不全であったこと
3 是正に向けた同社の対応
  1. ガバナンス向上委員会の設置及び開催
  2. 会計処理と情報開示に対する意識の変革
  3. ガバナンスが不十分であったことに対する以下の改善措置

    ア 指名委員会等設置会社へ移行することにより、取締役会による相互監視監督機能の強化

    イ CFOの執行役員から執行役への格上げ

    ウ 特定の大株主の意向のみによって意思決定が左右されないよう、社外取締役の増員

  4. 内部統制システムが不十分であったことに対する以下の改善措置
  5. ア 経理に関する諸規定の改訂

    イ CFO及び経理部長による経理業務に対する監督の強化

    ウ 内部監査体制の強化

    エ 内部通報制度の改善

過去の検査事例の概要等

 過去の検査事例より、非財務情報である「コーポレート・ガバナンスの状況」の虚偽記載の事案をご紹介します。最近、有価証券報告書における非財務情報の開示が拡充されましたが、監視委員会は、非財務情報についての検査も積極的に行っています。監視委員会の検査が現に非財務情報にも及び、法令違反として指摘される事例が出てきていることをご認識のうえ、適切な開示を行っていただくようあらためてご留意いただければと思います。

項 目 内 容
1 概 要 有価証券報告書中の「コーポレート・ガバナンスの状況」欄(注)において、実態とは異なる記載を行い、重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出

(注)現行の様式では、「第一部 企業情報」・「第4 提出会社の状況」・「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の「 ⑴ コーポレート・ガバナンスの概要」に該当

2 虚偽記載の概要
(左列:記載内容
右列:実態)
原則月1回取締役会を開催し、重要事項はすべて付議され、業績の進捗についても議論し、対策を検討している 取締役会は年3回しか開催されておらず、さらに、業務執行上の重要な事項の議論・決定は、形骸化した取締役会では行われておらず、事実上、社長ミーティングで行われていた
監査役(3名)は、取締役会及び経営会議等の重要な会議に出席し、取締役の業務執行について厳正な監査を行っている
  • 常勤監査役は、出席した重要な会議において取締役の職務執行の適法性について確認していなかった
  • ある社外監査役は、取締役会に年1回程度出席するのみで、取締役の職務執行の適法性について監査をしておらず、他の社外監査役も、取締役会に年2~3回程度しか出席せず、出席しても、代表取締役に会社の業務に関する質問や法律的なアドバイス等を行うにとどまっており、十分な監査を実施していなかった
コンプライアンス担当取締役を任命し、全社のコンプライアンスの取組みを横断的に統括する監査室は、コンプライアンスの状況を監査し、定期的に取締役会及び監査役に報告する
  • コンプライアンス担当取締役は任命されていなかった
  • 監査室も業務分掌規程上は設置されていたが、その実体はなく、コンプライアンスに関する取組みや取締役会及び監査役への報告が行われたことはなかった
監査役は、会計監査人との連携を図るために、決算期及び必要な都度ミーティングを行い、監査の状況及び業務執行に対して意見交換を行っている 監査役が会計監査人と意見交換をしたことはなかった
3 考えられる主な背景
・原因
  • 代表取締役をはじめとする経営陣は、取締役会や監査役会の開催状況等について虚偽の内容を有価証券報告書に記載することを全く気にしないなど、適正な情報開示を行うという意識が欠如
  • 代表取締役等の職務執行を監督すべき取締役会は機能せず、また、監査役監査はほとんど行われていない等、同社のガバナンスは全く機能せず
4 是正に向けた同社の対応
  1. 代表取締役、取締役及び監査役の刷新
  2. 監査役の役割の明確化と適切な監査計画をもとにした監査の実施及び月次での監査役会開催の徹底
  3. 代表取締役及び外部の弁護士等から構成されるコンプライアンス委員会を設置した上でコンプライアンス意識の醸成に向けた施策等を毎月議論し、役職員に対する研修を実施
  4. 社内規程の整備
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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