対談から紐解く、法務におけるテクノロジー活用の進め方 サントリーホールディングス 明司雅宏氏 × ContractS 酒井貴徳氏PR 事業計画に繋がるストーリーを考え、小さな改善から「まずはやってみる」

法務部

目次

  1. コロナ禍でも進まない、法務部門のデジタル活用
  2. 業務改善を進めるには、他部門を含めた業務フロー全体を考える
  3. SaaSを活用し、小さな改善から「まずはやってみる」
  4. 理想の法務像から逆算してテクノロジーを活用する

コロナ禍によりリモートワークの導入が進んだことを契機として、テクノロジーを業務に取り入れる流れが加速しています。一方で、BUSINESS LAWYERSが実施した会員アンケート 1 では、「システムを用いた契約管理は行っていない」とする回答が約42%にのぼるなど、法務部門におけるテクノロジーの導入があまり進んでいない実態も明らかになりました。

法務におけるテクノロジー導入はなぜ進みづらいのでしょうか。また、進めるためには具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。法務部門でテクノロジーの積極的な活用を進めるサントリーホールディングス株式会社の法務部長・コンプライアンス室部長を務める明司雅宏氏と、ContractS株式会社 執行役員で弁護士の酒井貴徳氏による対談から紐解きます。

コロナ禍でも進まない、法務部門のデジタル活用

コロナ禍によりビジネス環境が大きく変化するなか、現在の法務部門の在り方やテクノロジーの活用状況等についてどのように捉えられていますか。

明司氏:
日本では多くの企業において、リモートワークはコロナ禍が収束するまでの臨時的措置の位置づけになってしまっているように思います。

他方で法務部門は、本来、リスクをマネージする役割を持っているはずです。コロナ禍が3年以上続くリスクを前提に考えれば、たとえば恒久的な取り組みとしてリモートワークを主導するなど、自ずと法務部門として取るべき行動は変わってくるはずです。現在はそこまでの役割を担えているケースはわずかではないかと感じます。

また、各社ともデジタルの活用に向けたさまざまな取り組みを行っているはずですが、法務部門だけが置き去りになってしまっているのではないかという印象も持っています。

酒井氏:
コロナ禍という外部環境の変化によってDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れが各企業で加速していますが、「DX=デジタルツールの導入」と誤変換されて進んでしまっているように感じる場面もあります。手段が目的化してしまっているのです。デジタルツールはあくまでツール(手段)であり、DXの目的は業務変革による競争優位の確立であるべきです。

ContractS株式会社 執行役員・ContractS Lab所長 / 弁護士 酒井貴徳氏

ContractS株式会社 執行役員・ContractS Lab所長 / 弁護士 酒井貴徳氏

業務改善を進めるには、他部門を含めた業務フロー全体を考える

アンケートでは、契約管理の業務フローについて、約42%の方が「システムを用いた契約管理は行っていない」と回答しました。こうした結果についてはどう捉えられますか。

明司氏:
契約管理のような社内オペレーションの改善は、社外に相手がいる業務と違って取り組みやすいものです。それでもシステムを利用していないというのは、仮に組織全体としては非効率があったとしても、担当者の個人単位ではペイン(課題)を感じておらず、誰もやろうと言い出さないためではないかと思います。

酒井氏:
テクノロジー導入に積極的な企業とそうでない企業とに二極化してきていますが、単にシステム導入すればいいというものではなく、システムを利用せずとも業務に何ら支障がないのであれば必要ありません。とはいえ、新しいテクノロジーの登場や発展により、これまででは考えられなかった業務フローの改善も可能になりつつあります。そのため、デジタルツールに関する情報は常にキャッチアップしつつ、自社の足もとの状況も踏まえて、必要なタイミングでテクノロジーの導入による業務変革に取り組んでいただくのがよいのではないかと考えています。

法務部門においてテクノロジーの導入はなぜ進みづらいのでしょうか。アンケートでは「予算の確保」(約69%)、「導入のための時間・人員の確保」(約48%)など、リソースの確保が障壁になるとする回答が上位にきています。

酒井氏:
法務部門でのテクノロジー導入に予算が下りなかったり、導入に失敗してしまったりする原因の1つには、どの部門の誰のペインを解消するための取り組みなのかが曖昧になってしまっていることがあると思います。また、法務部門の特定の業務だけに絞って効率化することを目的にしてしまうと、予算の確保はどうしても難しくなってしまいます。テクノロジー導入にあたっては、法務部門だけのペイン解消ではなく、他の部門も含めた現場の業務改善を目的に据えて、そこからの逆算でツール選定を行うなど、全社視点で納得のいくストーリーを考える必要があります

明司氏:
酒井さんが仰るように、テクノロジー導入において大切なのは、それによってどのような効果が生まれ、どう事業計画に繋がるのかというストーリーをつくれるかどうかです。そうした経験やノウハウが法務部門に不足しがちであることも、テクノロジー導入が進まない理由の1つかもしれません。リーガルテック導入のコストは、それほど高いものではないことがほとんどです。それにもかかわらずなぜ予算が下りないかというと、その効果が明確でないためです。

また、アンケート結果のように、予算の確保がテクノロジー導入のハードルとなる場合には、いま一度、「本気で交渉できているか」を振り返ってみるとよいかもしれません。上層に掛け合ったうえで予算がおりないのであれば仕方ありませんが、少なくとも1回は、予算確保のための行動を起こすことが重要だと思います。

酒井氏:
現場からの反発を避けるため、なるべく法務部門内だけで取り組みを完結させたいというモチベーションになることも理解できますが、法務業務の改善のみにフォーカスしてしまうと、課題の抜本的な解決策にならないことも多いです。

業務プロセス全体を改善しようとする場合、法務部門はあくまで一登場人物です。業務フローを整理して、その接続点を整理していくという発想が求められます。部分最適ではなく、全体最適で考える必要があるということです。プロセス全体の生産性を上げるためには、法務部門が担う仕事は増えるということもあるかもしれません。

明司氏:
法務部門だけで進めようとすると難しいですよね。法務部門単独のデジタル化に対して予算を確保しようとしても、ROIは人件費削減でしか判断できず認められづらいでしょう。他部署と連携して取り組み、テクノロジー導入で業務を効率化したことによってどこでどのように新たな価値を生みだすかということまで考えていかなければなりません。酒井さんが仰るとおり、全体として効率化され、成果に繋がるのであれば、法務部門自体の仕事は増えることもあり得ると思います。

サントリーホールディングス株式会社 リスクマネジメント本部 法務部長兼コンプライアンス室部長 明司雅宏氏

サントリーホールディングス株式会社 リスクマネジメント本部 法務部長兼コンプライアンス室部長 明司雅宏氏

SaaSを活用し、小さな改善から「まずはやってみる」

一方で、これまで部門横断的なデジタル化に取り組んだ経験がない法務部門では、他部門を巻き込んで推進していくことはハードルが高いかとも思います。うまく進めるための秘訣はありますか。

明司氏:
日頃から現場に入り込んでどんな仕事の仕方をしているかを把握したり、各部門の担当者と関係を築いたりしておくことは重要です。また普段、現場から相談があった際に積極的に巻き込まれていると、いざ自分が他部門の担当者を巻き込みたいときにも協力を得られやすいでしょう

あわせて、法務部門として現在からもう一歩、テクノロジーの領域へ踏み込む姿勢も必要だと思いますね。当社では、法務部門のメンバーが中心となって「こうだったらいいよね」というアイディアを出し合い、自社内での開発が必要そうな場合は「デジタル本部」という社内の開発部隊とのミーティングで議論を深めていきます。リーガルテックツールの導入に関してもそこで相談して、基幹システムとの親和性なども考慮しながら検討します。法務部門で要件定義を行う場合もあります。

酒井氏:
契約DXに対する理想的な取り組まれ方だと思います。一方で、リソースの確保が障壁になっているというアンケート結果とも繋がりますが、要件定義を正確に行い、IT部門と協働してシステム開発を行える法務部門は多くないと思いますし、できたとしても工数は膨大になります。そこで有効な選択肢の1つとなるのが、必要に合わせて柔軟に利用できるSaaS(Software as a Service)です。

SaaSを利用する際には、自社開発と異なり、現在の自社の業務フローをそのまま再現することは難しいため、業務フローの整理と見直しが必要となります。その代わりに1から要件定義やシステム開発を行う必要はありませんし、ベンダーがユーザーの要望を踏まえて勝手にシステムをアップデートしてくれる点がSaaSのメリットです。

明司氏:
当社は基幹システムが巨大で業務フローを大きく変えることが難しいため、自社でシステムを作るしかありませんでしたが、規模が小さい企業や新しい企業は、SaaSに合うように業務フローを変えるほうがよいと思います。業務フローを変えたくないという組織もあるでしょうが、実はフローを変更することが漠然と不安なだけであるというケースも少なくありません。そもそも業務がきちんと可視化されていないことも多いのではないでしょうか。

酒井氏:
私たちもお客様へのヒアリングのなかで現状の業務フローを伺いますが、明確な答えが返ってこないこともよくあります。ツール導入を検討するタイミングになってはじめて現行の業務フローが明らかになっていくという具合です。だからこそ、まずは私たちベンダーを、業務フローの整理や見直しの壁打ち相手として、うまく使ってもらいたいです。結果として、ツールを導入しなくても業務改善が可能だということがわかればそれでもいいと思っています。大事なのは、変化による失敗を恐れずに、まずは小さくスタートしてみること。そして、小さな失敗を繰り返しながら、一歩ずつ改善を繰り返していくことです。

明司氏:
まずはやってみるという姿勢も大切ですよね。SaaSの導入によって出てくる不満や問題は、細かいものであれば、後から解消していけばよいし、全社に支障をきたすようであれば利用を止めてしまえばよい。SaaSの強みは、そうした柔軟性の高さにあると思います。

酒井氏:
中長期的な目線を持ちつつも、一歩ずつ進めていくことが重要です。「契約内容の分析をしたい」「AIで自動化したい」といったご要望をいただくお客様でも、そもそも紙の契約書の保管すらままならず、スタートラインに立てていないケースもあります。そうしたお客様には、一歩ずついまできることから始めませんかとお伝えしています。ツール導入を進めているうちに、やりたいことが解像度高く見えるようになっていくという側面もあると考えています

理想の法務像から逆算してテクノロジーを活用する

今後、法務部門では、どのような考えにもとづいてテクノロジーを活用することが必要だと思われますか。

明司氏:
「効率性」の文脈でデジタル化を進めていくといつか限界がきてしまうし、楽しくないですよね。将来的には、テクノロジーを活用し、どのようにして人間の能力をブーストしていくかという発想が必要になると考えています

実際に、マーケティング等の一部の分野では、AIをはじめテクノロジーの本格的な活用が進んでいます。今後、法務領域にもそうした時代が必ず訪れるでしょう。その際、法務部門としてテクノロジーの力を最大限活かせるよう、いまのうちからデジタルを業務に取り入れ、また、いずれ分析できるようにデータを貯めておくことが重要だと思います

酒井氏:
テクノロジーによって業務を定量的に可視化し、オペレーションの改善サイクルを回すという考え方もありますが、今回の対談で明司さんのテクノロジー活用のゴール設定はもう少し遠いところにあるように感じました。もしかすると、既存の法務部門の在り方自体を変えていける可能性もあるのかもしれません。

理想の将来像から逆算していま何をしなければならないか、という視点を持ってテクノロジーを活用できるようになると、法務部門が企業の競争優位を担っていく未来が見えてくるのではないでしょうか。私たちも、契約領域のSaaSベンダーとしてそのお手伝いをしていきたいと考えています。

明司氏:
かつて、和文タイピストや電話交換手の仕事が減少していったように、法務部門でもこの先、テクノロジーによって代替される仕事が出てくると思います。いま、私たちは、テクノロジーの活用とあわせて、リプレイスされない法務の本質とは何かを考えなければならない時期にきているのではないでしょうか。


ContractS株式会社(旧 株式会社Holmes)

「世の中から紛争裁判をなくす」という志のもと、「権利義務が自然と実現される仕組みを創る」をミッションに、契約の本質的な課題解決を通して、多様な人々が生き生きと活躍し、権利義務が自然と実現される未来を目指しています。



  1. アンケート実施期間:2021年7月9日〜7月16日
    調査手法:インターネット
    調査内容:契約管理の在り方と法務部門の方針・働き方等
    対象:BUSINESS LAWYERSの登録会員
    有効回答者数:248人 ↩︎

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