【法務部の新人指導】大手メーカー管理職が契約書レビューのOJTの具体的な進め方を紹介

取引・契約・債権回収

目次

  1. 集合研修までの3か月は「実習課題」で助走をつける
  2. 新人が陥りがちな失敗を踏まえたOJTでの指導法
  3. 1年目で到達すべきゴールは、和文の秘密保持契約と売買契約で独り立ちすること
  4. AIが代替できない「事業部とのコミュニケーション」がいっそう重要に
  5. 座学がないのは大きな課題
  6. 契約書レビューの自習に役立つ5冊とおすすめコメント

法務部に配属された新人の指導を担当することになったものの、「教育が難しい」「進め方がわからない」「自分の仕事だけで忙しいのに…」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この記事では、OJTを中心とした契約書レビューに関する新人教育の具体的な進め方と重視しているポイントについて、新人向けのおすすめ書籍とあわせて大手メーカーの40代管理職の方に教えていただきました。

集合研修までの3か月は「実習課題」で助走をつける

新人の指導はまず何から始めていますか。

近年、当社法務部の新人採用では司法修習終了者を採用しており、学部卒の人はいません。そのため、修習の終わる12月に入社することになり、新入社員の集合研修が始まる4月まで時間があります。そこで、それまでの約3か月は助走期間として、まず「実習課題」に取り組んでもらっています。

実習課題とは、法務部で蓄積している過去の当社事例を元にした課題で、OJTに入る前に業務に慣れてもらうことが目的です。契約に限らず、紛争事例を元にすることもあります。

たとえば契約に関して作った課題としては、英文のEPC契約(建設プロジェクトの建設工事請負契約)について、サマリーやチェックポイントをまとめるというものがありました。課題に取り組む時間を毎日1時間は確保してもらい、資料を作成したうえで、先輩法務部員たちの前で発表するというのが最終目標です

いきなり重たい契約で、しかも英文ですので、新人には少しハードルが高いかもしれません。ただ、当社では英文契約の仕事が多く、この後のOJTでも和文と英文の両方を並行して取り扱いますので、英語に対する苦手意識があれば早期に克服してもらう必要があると考えています。

新人が陥りがちな失敗を踏まえたOJTでの指導法

実習課題に取り組んだ後の指導について教えてください。

4月から3か月間の全社研修を経て、7月からOJTをスタートします。
契約書レビューの指導は、指導員をつけてOJTで行っています。まずは新人が一次レビューを行い、指導員が二次レビューを行うという進め方です。

前提として、契約書レビューは本来、契約書を読む前に以下のようなプロセスを経るべきだと考えています。

(1)ビジネスの目的を理解する
(2)当該ビジネスのリスクをシミュレーションし、評価する
(3)適切な契約とはそもそもどのようなものか、またその内容が契約書に落とし込まれているかを確認する

しかし新人の場合、学んできた法律の専門知識を使いたいという気持ちが強いせいもあってか、このプロセスに時間を割くことなくいきなり契約書を読み、ビジネスを無視して闇雲に契約書の文言を修正し、修正履歴で真っ赤にしてしまうことがよくあります

また、新人が陥りがちな失敗として、自分オリジナルの条項を創作してしまうというものがあります。
法曹養成教育は訴訟をメインに行われていますから、紛争当事者として主張を展開する訓練は受けていても、紛争防止のために契約書を作成して交渉し、締結するという企業法務の基本については十分な教育がなされていないようです。

紛争防止に資する契約書とするためには、当社ひな形や当社の過去契約の条項をできる限りたくさん見て、パターン認識したうえで、目の前の契約書ドラフトとの差分を分析することが必要です。
二次レビューの結果を戻す際には、私はよく「作文ではなく “借文” をしてほしい」と伝えています。

1年目で到達すべきゴールは、和文の秘密保持契約と売買契約で独り立ちすること

OJTではどのような点を重視していますか。

近年の新人を見ていると、学生時代に学業に専念していてアルバイトの経験が少ない人も多く、リアルなビジネスについてあまり知識がありません。
そのため、OJTでは、契約の知識ではなくビジネスを理解させることに80%くらいの力をかけています。

契約の知識については、ある程度自習で頑張ってもらっています。昔と違って、選ぶのが難しいほど多数の良書が出版されていますので、自分で勉強できる環境は整っていると思います(後述の6に参考書をまとめました)。

ビジネス理解の基本は「商流、物流、金流、情(報)流」であり、契約書レビューにあたってはそれらを全部押さえておかなくてはなりませんが、最初のうちはどうしても漏れが残ります。
一次レビューに対して指導員が、「なぜこの部分を修正する必要があるのか」「修正しなければ当社にどんな不利益があるのか」「事業部には確認したのか」など1つひとつ問いかけながら、取引内容や事業の特性を学んでもらいます。

このようなOJTを経て、まず1年目を終えた時点での最低限の到達イメージは、和文の秘密保持契約と売買契約を1人で担当できる状態になっていることです
ここまでくれば、ビジネスの「商流、物流、金流、情(報)流」についても、指導員に言われなくても1人ですべてを確認できるようになります。この頃には事業部の「固定客」もつき、本人も自信をもてるようになってきます。

AIが代替できない「事業部とのコミュニケーション」がいっそう重要に

リーガルテックの活用についてはいかがでしょうか。

当社では現在、AIによる契約書レビューツールのトライアル導入を進めているところです。トライアルの結果次第ではありますが、修正する必要がありそうな条項にAIによるコメントが表示されるということは、新人にとって学ぶチャンスになりえるのではないかと期待しています。

また、こうしたリーガルテックの普及によって、これからの新人教育の仕方も変わっていくのではないかと感じています。修正案をAIが提示してくれるのであれば、人間はビジネスのリアルな部分を把握したうえでその溝を埋めていくことに注力すべきでしょう。

そのため、これからの法務担当者にとっては、契約書レビューのスキルを磨くだけでなく、事業部から「あなただから早めに相談しようと思った」と言ってもらえる存在になることがいっそう重要になります。
新人に対しては、このような自己プロデュースやマーケティング的なコミュニケーション、すなわち“種まき活動”の重要性についても伝えています。

現在の世の中では効率性が重視されがちですが、現場に足を運んで泥臭く情報収集するというような、効率化やマニュアル化になじまない仕事は今後も残っていくと思います。
コロナ禍により出張や営業同行がしにくい状況下で、そうしたリアルの場で生まれる暗黙知をいかに共有していくべきかは大きな課題です

座学がないのは大きな課題

新たな取組みや今後の課題について教えてください。

最近は複数の指導員によるOJTも試しています。
指導員が1人ですと、最初の半年くらいの間、日中は自分の仕事がほぼできないくらい負担が重いので、それを軽減したいというねらいも一応はあります。しかし一番の目的は、新人に、さまざまな仕事のやり方を知ってもらうことにあります。

契約書レビューのポイントや事業部担当者への接し方など、法務部員によってキャラクターや強みは異なるので、アプローチも異なります。頭で勝負するスタイルなのか、事業部担当者に寄り添い、親密なコミュニケーションをとっていくスタイルなのか、あるいは知財や税務などの隣接分野の知識で独自性を発揮していくスタイルなのか——。
いろいろな先輩と組むことで、自分に適したスタイルを3年くらいかけて探していってほしいと伝えています

今後への課題としては、座学などシステマティックな教育体制の不備があげられます。
座学については、経営法友会などの外部セミナーに参加することはできても、社内での仕組みとしては用意できていません。この点について、司法修習終了者の若手法務部員は特に強く問題意識を感じているようですので、彼らと相談しながら良い方法を考えていきたいですね。

また、最近の若い世代は、昭和世代である自分が新人や若手だった頃に比べて、難しい仕事や海外の大型の案件を手がけてみたいという渇望感がないように見受けられます。
そのようなタイプの人にとってはどのような仕事内容や取り組み方がモチベーション向上につながるのか、模索していかなければならないと感じています。

契約書レビューの自習に役立つ5冊とおすすめコメント

※品切れ、絶版により入手困難な場合がある点にご留意ください。

『秘密保持契約の実務〔第2版〕―作成・交渉から営業秘密/限定提供データの最新論点まで』

『秘密保持契約の実務〔第2版〕―作成・交渉から営業秘密/限定提供データの最新論点まで』
編著:森本 大介 = 石川 智也 = 濱野 敏彦(編著)
出版社:中央経済社
発売年:2019年

まずは、新人が一番レビューすることになる秘密保持契約について何でも答えられるようになるために読んでほしい。ビジネス上の場面を意識しながら読むとより理解が深まる。


『研究・製造・販売部門の法務リスク』

『研究・製造・販売部門の法務リスク』
編著:松下電工株式会社法務部(編集)
出版社:中央経済社
発売年:2005年

少し古いが、研究開発、製造、販売等に関して実際によく相談があるケースを取り上げ、法的論点およびリスクを整理している。Q&Aが充実。


『製造(Q&Aでわかる業種別法務)』

『製造(Q&Aでわかる業種別法務)』
編著:日本組織内弁護士協会(監修)、髙橋 直子 = 春山 俊英 = 岩田 浩(編集)
出版社:中央経済社
発売年:2020年

研究開発から製造、販売、危機管理等まで、バリューチェーンに沿って法務業務を広くカバーしている。内容は入門者向けか。


『取引基本契約書の作成と審査の実務〔第6版〕』

『取引基本契約書の作成と審査の実務〔第6版〕』
編著:滝川 宜信(著)
出版社:民事法研究会
発売年:2019年

取引基本契約のあらゆる条項について、買主・売主の視点から整理されている。まずはこの本で条項案を学び、さらに、実務上修正交渉が多くなる品質保証条項等については “写経” も行い、“借文” できるようになってほしい。


『契約書作成の実務と書式 − 企業実務家視点の雛形とその解説〔第2版〕』

『契約書作成の実務と書式 – 企業実務家視点の雛形とその解説〔第2版〕』
編著:阿部・井窪・片山法律事務所(編集)
出版社:有斐閣
発売年:2019年

通常の契約書レビュー業務の6割近くはこの本でカバーできるはず。本書に書かれていないことはすぐに先輩へ相談すべし。しっかり読み込んで、自分の頭の中にデータベースを作ってほしい。本書でさらっと触れられている裁判例等についても別途読んで理解を深めるとよい。



(文:周藤 瞳美、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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