会社は従業員の減給を自由に行うことができるのか
人事労務このたび、弊社では定期昇給を廃止して、本人の能力に応じて、昇給あるいは減給する制度を取り入れようと思います。しかし、一部の役員から、「減給は法律上できないのでは?」という意見が出ております。人事考課で成績の悪い社員の基本給を下げることは違法なのでしょうか?
会社の賃金体系上、職位と賃金テーブルが連動しているような場合には、ルールにのっとった降給は可能です。その場合、就業規則等に降給が規定されていることはもちろん、降給にいたる過程に合理性があることなどが必要です。ただし、職務等級が下がったにも関わらず、実際の職務内容に変化が無い場合には、実質的な賃金の切り下げとなるので、原則として認められません。
解説
減給が行われるケースとは
賃金が引き下げられる減給には、大きく分けて以下のようなケースが考えられます。
- 懲戒処分として減給となるケース
- 懲戒処分として降格された結果、減給となるケース
- 人事上の降格によって減給となるケース
懲戒処分として減給するケース
懲戒処分として減給する場合、労働基準法では、上限として1回の額が平均賃金の半日分、総額が一賃金支払い期における賃金総額の10分の1までと規定されています。つまり、何かしら就業規則の服務規律等に違反して、就業規則にのっとり減給処分を行う際も、1回の事案に対しては、平均賃金の半日分までしか減給できず、違反行為が複数回あったとしても、1か月の賃金支給額の10%までしか減給できません(労働基準法91条)。
なお、制裁を定める場合については、必ず就業規則に記載しなければなりません(労働基準法89条)。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
懲戒処分として降格された結果、減給となるケース
就業規則等に違反するような秩序違反行為等があって、懲戒処分として降格し、その結果賃金が下がるケースがあります。これは、降格により職務内容等が変更となることによって賃金が減るので、労働基準法に定める「減給の制裁」には当たりません。
ただし、降格により、結果として従業員は重大な不利益を被りますので、その処分にふさわしいだけの重大な就業規則違反行為等があった場合に限るべきです。懲戒処分として就業規則に規定されていることはもちろん、弁明の機会を設けるなどの手続も慎重に行う必要があります。
人事上の降格によって減給となるケース
これは、懲戒処分としてではなく、人事評価などの査定によって降格し、その職務等級に応じて賃金が減給されるケースです。「人事上の降格」とは、「能力」「成績」「役割」などにより従業員を格付けし、その格付けが下がることを言います。
格下げされたことにより、従業員の職務変更に応じて賃金が下がるのは当然ですので、これは、懲戒処分とは異なり、減給の制裁にはあたらないとされます(昭和26.3.14基収第518号)。
おわりに
減給には、大きく分けて懲戒処分として行うケースと、評価によって行うケースがあります。質問のケースのように、評価に応じて賃金を下げる場合、減給の制裁には当たりませんが、制度を導入する上で、就業規則や評価制度、賃金テーブルなどの根拠が必要です。また、評価によって降格し、その結果賃金が下がる場合において、以前と同様の職務内容を継続しているような場合には、実質的な賃下げとみられ、労働基準法上の減給の制裁に該当するとされています(昭和37.9.6基収第917号)。
賃金を減額するのは、従業員にとっては大きなモチベーションダウンにつながってしまいます。適切なルール作りと慎重な運用が必要です。
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