通勤災害はどのような時に認められるか
人事労務弊社の社員が帰宅途中に転倒し、足首をひねったとの事で病院へ行きました。その際に病院から、「通勤途中の怪我だから、労災を請求するように」と言われたそうです。しかし、本人に詳細を聞いてみると、帰宅途中に友人と会って、2時間ほど飲酒し、その後自宅へ帰る際に酔って転倒したそうです。このような場合でも通勤災害として労災保険が使えるのでしょうか?
通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等を指します。ご質問のように、友人と会って飲食をしたということは、通勤を中断したものとして、その中断の間とその後の移動は通勤とはなりません。したがって、このケースでは、通勤災害とは認められません。
解説
通勤災害の定義
通勤災害とは、通勤によって被った傷病等を指します。
この「通勤」とは、就業に関し、①住居と就業の場所との間の往復、②就業の場所から他の就業の場所への移動、③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています(労働者災害補償保険法7条2項)。
① 通常の就業の場合
② 複数就業者の場合
③ 単身赴任者の場合
逸脱または中断
通勤の途中であっても、その移動経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません(労働者災害補償保険法7条3項)。
「逸脱」とは、通勤の途中で就業や通勤と関係の無い目的で合理的な経路をそれることをいいます。「中断」とは、通勤の経路上で通勤と関係のない行為をおこなうことを言います。例えば、帰宅途中に映画館に入ったり、飲酒をしたりする場合です。
例外的に認められた行為
ただし、例外的に認められた行為で逸脱または中断した場合には、その後の移動は「通勤」となります。例外となる行為は、以下の通りです(労働者災害補償保険法施行規則8条)。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
ご質問のケースの場合、帰宅途中で友人と会って2時間ほど飲酒との事ですから、通勤行為を中断しており、その中断の間とその後は通勤とは認められません。
おわりに
通勤途中の災害は、労災保険を使用するのが原則ですが、場合によっては逸脱や中断とされて、労災保険が適用されない場合があります。
従業員から通勤災害の報告が入ったら、状況を具体的に聞いて、適切に扱うことが必要です。
また、通勤途中の災害に労災保険が適用されることを知らず、健康保険証を使用する従業員も多くいます。すでに病院へ行った後に報告を受けた場合は、健康保険証を使用したかを確認し、もし使っていた場合は、病院と監督署の指示を仰いで、適切に処理することが重要です。
