過労死はどのような時に労災として認められるのか

人事労務

 弊社は飲食店を営んでいますが、募集をしてもなかなか人が集まらず、従業員にかなりの負担がかかっています。そういった状況で、副店長である従業員から、「これ以上働かされると、体が持たない。過労死する前に、何とかしてほしい。」と訴えがありました。健康診断でも高血圧であると指摘されているようです。確かに、労働時間もかなり長くなっており、深夜業務も発生しています。万が一、従業員が倒れた場合、労災となってしまうのでしょうか?

 従業員が業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患に罹患した場合は、労災として認定される可能性があります。長時間労働や深夜労働、不規則な勤務などの負荷は、業務による過重負荷とされる可能性が高いので注意が必要です。

解説

目次

  1. 労災とは
  2. 脳・心臓疾患の認定基準の概要
  3. 対象となる疾病
  4. 認定要件について
  5. 過重負荷について
    1. 異常な出来事
    2. 短期間の過重業務
    3. 長期間の過重業務
  6. 裁判例について
    1. セイコーエプソン事件
    2. 国立循環器病センター看護師事件
    3. 豊田労基署長事件
  7. おわりに

労災とは

 労働者災害補償保険法は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡に対して保険給付を行うと定めています(労働者災害補償保険法7条)。
 労働者が被った災害(傷病、障害、死亡)が「業務上」のものであると認められるためには、業務を遂行していたこと、すなわち使用者の指揮命令の下に拘束されていたこと(「業務遂行性」)と災害との間に一定の因果関係(相当因果関係)が認められることが必要です(「業務起因性」)。いいかえれば、労働者が使用者(雇用者)の支配下にある状態に起きたもので、業務から発生したものであることが必要ということです。

 行政実務・判例では、業務起因性が認められるためには、業務が傷病等の最も有力な原因であることまでは必要でなく、様々な原因の中で業務が相対的に有力な原因であれば足りると考えられています(このような考え方を「相対的有力原因説」と呼びます)。

脳・心臓疾患の認定基準の概要

 脳・心臓疾患は、長い生活習慣の中で徐々に進行、発症するので、業務との関連性(業務起因性)については、証明が難しい部分があります。

 しかし、仕事に起因することが明らかであれば、脳卒中(くも膜下出血、脳出血)などの脳疾患、心筋梗塞・心停止などの心臓疾患などで倒れても、労災の対象になるというのが裁判例の傾向です。
 業務による明らかな過重負荷が加わることによって、著しく増悪(ぞうあく)し、脳・心臓疾患が発症する場合があります。そこで、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮され、業務との関連性が判断されます。

対象となる疾病

 業務上の疾病(いわゆる職業病)に関しては、その発症の時期を特定することが難しく、また、脳・心臓疾患等については、労働者が業務とは関係なく罹患している高血圧症等の基礎疾病や加齢・生活習慣等様々な要因と影響し合って発症するものであるため、業務起因性の立証が困難な場合が少なくありません。
 そこで、労働基準法75条2項は業務上の疾病の範囲について命令で定めることとし、これを受けて労働基準法施行規則35条は、別表第1の2に、特定の業務との因果関係が医学的な経験則によって認められている疾病を業務上の疾病として具体的に列挙しています。
 これを受けて、労働者災害補償保険法においても、この別表に基づいて業務上疾病が認定されることになります。労働基準法施行規則別表第1の2に記載されている疾病は以下のとおりです。

  1. 脳血管疾患
    • 脳内出血(脳出血)
    • くも膜下出血
    • 脳梗塞
    • 高血圧性脳症
  2. 虚血性心疾患等
    • 心筋梗塞
    • 狭心症
    • 心停止(心臓性突然死を含む)
    • 解離性大動脈瘤

 もっとも、近時の裁判例では、上記別表に列挙されていない疾病についても、業務起因性が認められる場合には、「業務上の疾病」として保険給付の対象となる可能性があります。

認定要件について

 労災の認定要件については、平成13年に出された認定基準(平成13年12月12日基発第1063号)が最新の基準です。
 この認定基準では、これまでの認定基準でも考慮された発症直前の異常な出来事や短期間の過重業務に加えて、長期間の過重業務による疲労の蓄積も脳・心臓疾患の発症原因として考慮されるようになっています。
 具体的には、次の1、2または3の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。

  1. 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)
  2. 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)
  3. 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)

過重負荷について

異常な出来事

 発症直前から前日までの間に、「極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態」「緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態」「急激で著しい作業環境の変化」があった場合、過重負荷と判断されます。

短期間の過重業務

 発症直前から前日までの間、もしくは発症前おおむね1週間について、日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう)に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務があった場合、過重負荷とされます。具体的な負荷要因は次の通りです。

 a) 労働時間
 b) 不規則な勤務
 c) 拘束時間の長い勤務
 d) 出張の多い業務
 e) 交替制勤務・深夜勤務
 f) 作業環境(温度環境・騒音・時差)
 g) 精神的緊張を伴う業務

長期間の過重業務

 発症前1か月間におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いとされます。

裁判例について

 上記はあくまで労働基準監督署の行政実務ですが、裁判では、こうした行政機関の限定には拘束されず、他の質的な要因も考慮されており、必ずしも残業時間にとらわれていません。不規則勤務や交替制・深夜勤務は、睡眠が細切れになり疲労をためやすいことなどから、そうした勤務自体の過重性を認めています。

セイコーエプソン事件

 セイコーエプソンのパソコン用カラープリンター組立工程の技術者であった被災者(死亡時41歳)が年末商戦で販売開始直前のプリンターのリワーク業務(製品の不具合、製品のクレームまたは生産トラブルが発生した際、現地へ赴き生産ラインを含めた原因究明、検討および改善を行う業務)のため東京出張中の2001年10月4日にくも膜下出血を発症して死亡した事案では、発症前6か月間の残業は月約30時間であったため、労働基準監督署長は労働災害(労災)を認めませんでした。
 しかし、裁判所は、約11か月の間に9回、計183日もの海外出張を繰り返していた点などを重視し、海外出張自体が長時間の移動や不規則な生活を強いるもので、仕事内容も言葉や習慣が違う中で、被災者の担当していた業務は知識や技術、緊急性が求められ、相当の精神的緊張を伴ったことなどから、当人は相当の疲労とストレスを抱えていたとして、業務と発症との因果関係を認めました(東京高裁平成20年5月22日判決・セイコーエプソン(松本労基署長)事件)。

国立循環器病センター看護師事件

 また、くも膜下出血で急死した大阪の国立病院看護師(当時25歳)も発症前6か月間の残業時間は、月50~60時間でしたが、裁判では、交替制勤務のため、ときに3、4時間しか眠れない上に睡眠の質も悪く、恒常的な残業や夜勤などと相まって疲労を蓄積していたなどとして、公務災害と認定する判決が出ました(大阪高裁平成20年1月16日判決、大阪高裁平成20年10月30日判決・国立循環器病センター看護師事件)。

 これらは、労働時間という量的な過重性だけでなく、仕事の質的な過重性も重視した、より総合的な判断といえます。

豊田労基署長事件

 また、大手自動車メーカーの社員(当時30歳)が夜勤中に心停止をして急死したケースで、裁判所は、「QCサークル」という名称の品質管理について従業員らが考える勤務時間外の活動を、自動車生産に直接役立つものとして、「使用者の支配下にある業務」と判断し、死亡直前1か月間の残業時間を106時間超と認め、労働災害(労災)を認めなかった労働基準監督署長の判断を取り消しました(名古屋地裁平成19年11月30日判決・豊田労基署長事件)。

おわりに

 企業には、従業員が安全に働けるよう配慮する義務があります。1か月80時間を超えるような長時間残業が行われた場合で、万が一従業員が脳・心臓疾患などで倒れ、亡くなるようなことがあると、業務との関連性があると判断される可能性が高いのです。
 その場合、企業は不法行為上の責任を負うことになり、社会的な非難も避けられません。
 大手居酒屋チェーン店の裁判では、会社のみならず、役員も職務懈怠による責任を負うと賠償が命じられ、大きなニュースとなりました。(京都地裁平成22年5月25日判決・大庄事件)

 従業員の健康管理に留意し、安心して働ける職場環境づくりが必要です。

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