マネー・ローンダリング、テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチとは

ファイナンス

 マネー・ローンダリング、テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチとはどのようなものですか。

 リスクベース・アプローチとは、金融機関等が、自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることをいいます。

解説

目次

  1. リスクベース・アプローチの意義(AML/CFTガイドラインII-1)
  2. 犯罪収益移転防止法のリスクベース・アプローチは硬直的

リスクベース・アプローチの意義(AML/CFTガイドラインII-1)

 マネロン・テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチとは、金融機関等が、自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることをいいます。
 FATF勧告においても第1の勧告として、リスクベース・アプローチは勧告全体を貫く基本原則となっています。

 犯罪収益移転防止法(以下、「犯収法」)においても、前記 FATF 勧告等の国際的なリスクベース・アプローチの要請も踏まえ、平成28年10月に改正法が施行され、規定の整備が行われました。

犯収法におけるリスクベース・アプローチに係る規定の導入
  • 特定事業者による疑わしい取引の届出の要否の判断は、当該取引に係る取引時確認の結果、当該取引の態様その他の事情のほか、犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して行わなければならない(犯収法第8条第2項)。
  • 高リスク取引(注)については、疑わしい取引の届出の要否の判断に際して統括管理者による確認等の厳格な手続を行わなければならない(犯収法第8条第2項、同法施行規則第27 条第3号)。
  • 特定事業者は、犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、以下の措置を講ずるように努めなければならない(犯収法第11 条第4号、同法施行規則第32 条第1項)。
    • 自らが行う取引について調査・分析した上で、その結果を記載した書面等(特定事業者作成書面等)を作成し、必要に応じて見直し、必要な変更を行うこと
    • 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、必要な情報を収集・分析すること、並びに保存している確認記録及び取引記録等を継続的に精査すること
    • 高リスク取引(注)を行う際には、統括管理者が承認を行い、また、情報の収集・分析を行った結果を記載した書面等を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること
    • 必要な能力を有する従業員を採用するために必要な措置を講ずること
    • 必要な監査を実施すること
(注)高リスク取引とは、①犯収法4条2項の厳格な取引時確認を要する取引((a)なりすまし・偽りのおそれのある取引、(b)イラン・北朝鮮に居住する者との特定取引、(c)外国PEPsとの特定取引)、②疑わしい取引・同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引、③犯罪収益移転危険度調査書を勘案してリスクが高いと認められる取引をいう。

犯罪収益移転防止法のリスクベース・アプローチは硬直的

 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、「AML/CFTガイドライン」)が導入された理由の一つは、犯罪収益移転防止法に基づく、リスクベース・アプローチでは、2019年に相互審査が行われるFATF勧告の対応として不十分であることです。

 犯収法4条2項において、厳格な取引時確認が求められる特定取引として「なりすましのおそれがある場合・契約時確認事項を偽っているおそれがある場合」、「イラン・北朝鮮の居住者との間の特定取引」、「外国PEPsとの間の特定取引」が定められていますが、法律上はこれ以外の取引について厳格な取引時確認を求めていません。

 これらの取引については、たとえ、リスク低減措置を講じても依然として厳格な取引時確認が必要とされています。たとえば、統括管理者(上級管理者)の承認は、リスク低減措置の一環です(犯収法施行規則32条1項4号)が、犯収法4条2項の厳格な取引時確認を行う必要がある取引については統括管理者の承認があっても依然として厳格な取引時確認が必要となっています。  

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