マネー・ローンダリング対策に係る国際的取組み
ファイナンス国際的には、マネー・ローンダリングにどのような対策が取られていますか。また、国内ではどのような対策が取られているのでしょうか。
国際的には FATFによる勧告が公表されています。国内では、犯罪による収益の移転の防止に関する法律の改正法が2016年10月から施行されています。また、金融庁は、FATFの第4次対日相互審査に先立ち、2018年2月6日に、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を制定し、適用を開始しました。
解説
目次
国際的なマネー・ローンダリング対策の歴史
麻薬対策としてのマネー・ローンダリング対策
マネー・ローンダリング対策の国際的な取組みは、1980年代に世界各国において麻薬問題が極めて深刻化し、麻薬密売組織に対する対抗策が求められたことから始まりました。
麻薬密売組織に対しては、麻薬密売収益の没収や資金源を押さえることにより、組織を弱体化するアプローチが重要であると考えられました。
1989年のフランスのアルシュ・サミットの経済宣言においては、「麻薬犯罪による利益を特定し、凍結、差押え、および没収することを容易にするための措置等のイニシアティブとそのための協力を支援すること」が盛り込まれ、それを実現するための政府間会合として、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)が設置されました。FATFは1990年4月に、①金融機関による顧客の本人確認、②疑わしい取引の金融規制当局への報告を求める「40の勧告」を提言しました。
組織犯罪対策としてのマネー・ローンダリング対策
FATFの「40の勧告」は、1996年6月に改訂され、前提犯罪(不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリングの対象となるもの)を重大犯罪に拡大することが義務付けられました。また、1998年5月のバーミンガム・サミットにおいては、マネー・ローンダリングやテロ資金供与に関する疑わしい取引の情報を一元的に受理・分析し、捜査機関等に提供する政府機関であるFIU(Financial Intelligence Unit)の設置が合意されました。
テロ資金供与への対策
2001年10月には、同年9月11日に発生した米国における同時多発テロ事件を受け、FATFは、①テロ資金供与の犯罪化、②テロ関係の疑わしい取引の届出の義務化等に係る「8の特別勧告」を公表し、2004年には、8の特別勧告に国境を越える資金の物理的移転を防止するための措置に関する項目が追加され、「9の特別勧告」となりました。
変化するマネー・ローンダリング対策
2003年6月には、FATFの「40の勧告」が再改訂され、非金融業者(不動産業者、貴金属商、宝石商等)や職業的専門家(弁護士、会計士等)にも勧告が適用されることになりました。
2012年2月16日、FATFは新たな勧告(以下「新勧告」)を公表しました。マネー・ローンダリング対策とテロ資金供与対策は密接に関係することから、効率的なマネー・ローンダリング対策、テロ資金供与対策の枠組みを実現するため、新勧告においては、「40の勧告」と「9の特別勧告」を統合しカバーしています。
新勧告においては、リスクベース・アプローチのコンセプトを明確にするとともに、マネー・ローンダリング/テロ資金供与関連のリスク評価をより幅広く行い、高リスク分野では厳格な措置を求める一方、低リスク分野では簡便な措置の採用を認めることで、より効率的な対応を求めています。また、犯罪者やテロリストによる悪用を防止するために、法人や信託の実質所有者/支配者に関する情報、電信送金を行う際に必要な情報等について基準を厳格化し、これらの透明性を高めています。
新たな脅威への対応としては、以下の3点を新たに勧告化しました。
- 腐敗行為防止の観点から、PEPs(重要な公的地位を有する者:Politically Exposed Persons)の定義を拡大し、外国人PEPsだけでなく国内PEPs等に関しても、金融機関等による厳格な顧客管理を求める
- 第三次相互審査を通じて、税犯罪とマネロンが密接に関係していることが明らかになったため、税犯罪により生じた収益を資金洗浄する行為をマネー・ローンダリング罪の対象とすることを求める
- 国連安保理決議の要請に沿って、大量破壊兵器の拡散に関与する者に対し、金融制裁を実施する
わが国のマネー・ローンダリング対策の歴史
麻薬特例法の施行等
1990年4月に公表されたFATFの「40の勧告」に対応して、同年6月に大蔵省銀行局長等が、顧客の本人確認義務等に関する通達を発出しました。また、1992年7月には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(いわゆる麻薬特例法)が施行され、①薬物犯罪収益に関するマネー・ローンダリング行為が犯罪化され、②薬物犯罪に関する「疑わしい取引の届出制度」が創設されました。
組織的犯罪処罰法の施行
2000年2月には、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(以下「組織的犯罪処罰法」)が施行されました。同法に基づき、①疑わしい取引の届出の対象となる犯罪は薬物犯罪から一定の重大犯罪に拡大され、②日本版FIUとして金融監督庁内に特定金融情報室が設置されました。
テロ資金供与処罰法・本人確認法の施行と組織的犯罪処罰法の改正
2001年10月のFATFの「8の特別勧告」を受けて、2002年7月に、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(以下「テロ資金供与処罰法」)および組織的犯罪処罰法の改正法が施行され、疑わしい取引の届出の前提犯罪にテロ資金供与罪が追加されました。また、2003年1月には、「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(以下「本人確認法」)が施行され、銀行などの金融機関等に対し、顧客等の本人確認および本人確認記録・取引記録の作成・保存が義務付けられました。
犯収法の施行と改正等
2003年6月のFATFの「40の勧告」の再改訂を受けて、2008年3月には、本人確認法が廃止され、「犯罪による収益の移転の防止に関する法律」(以下「犯収法」)が全面施行されました。①顧客等の本人確認、本人確認記録・取引記録等の作成・保存を行う「特定事業者」がファイナンス・リース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱業者などの非金融業者や税理士、司法書士のような一定の士業者に対しても拡大され、②疑わしい取引の届出制度も、組織的犯罪処罰法から移管され、一定の非金融業者や士業者にも適用されることになりました。
2008年10月には、FATFの第三次対日相互審査報告書において、犯収法上の特定事業者の顧客管理をはじめとするマネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策に関して、「40の勧告」「9の特別勧告」のうち、10項目についてNC(Non-Compliant、不履行)、15項目についてPC (Partially. Compliant、一部履行)との厳しい評価を受けました。
これを受けて、犯収法の改正法が2013年4月に施行され、取引時確認事項として、従前からの本人特定事項の確認に加えて、「取引を行う目的」、「(自然人の)職業・(法人の)事業内容」、「法人の実質的支配者の有無・本人特定事項」の確認が必要となりました。また、法人取引や代理人取引については、取引担当者が顧客等のために特定取引等の任に当たっていると認められる事由の確認が必要となりました。さらに、一定の高リスク取引については、取引時確認の方法が厳格にされると共に、200万円を超える財産の移転を伴う場合は資産および収入の状況の確認が必要となりました。
しかしながら、2014年6月のFATFの総会においては、「FATFは日本に対してマネー・ローンダリング対策およびテロ資金供与対策に関する十分な立法をすることを要請する」との声明が出され、日本の顧客管理その他の措置について重大な懸念が表明されました。
このような動きから、2016年10月に犯収法の再改正が施行され、取引時確認等の措置が厳格化されました。具体的な改正内容は以下のとおりです。
改正項目 | 改正内容 | 取引の内容 |
---|---|---|
1 取引時確認事項の厳格化 | 取引時確認の対象である特定取引の追加 | 顧客管理を行う上で特別に注意を要する取引(「疑わしい取引」および「同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引」) |
敷居値以下の金額に分割したことが明らかな取引 | ||
取引時確認が不要である「犯罪による収益の移転に利用されるおそれがない取引」を「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」に名称変更 | ー | |
厳格な取引時確認が必要な高リスク取引の追加 | 外国PEPs(実質的支配者が外国PEPsである場合を含む)との特定取引 | |
実質的支配者の確認方法を自然人に遡る確認に変更 | ー | |
本人確認書類の質に関する取扱いの厳格化 | 顔写真のない本人確認書類(健康保険証や年金手帳)について、提示に加えて、転送不要郵便等の送付等の二次的確認が必要になる | |
取引担当者(取引担当者)の代理人の確認方法の厳格化 | 社員証等の身分証明書による確認が認められないことになる | |
登記に関しては、代表者として登記されている場合に限定 | ||
2 「疑わしい取引の届出」の判断方法の明確化 | 国が行ったリスク評価である「犯罪収益移転危険度調査書」の内容を勘案する等の疑わしい取引の届出の判断方法を定める。 | ー |
3 特定事業者の内部管理体制の整備の厳格化 | 取引時確認を的確に実施するための体制整備 として、規程の整備、統括管理者の選任、自らのリスク評価等の努力義務を追加 | ー |
4 コルレス先との契約締結に際して行う確認を法的義務化 | ー | ー |
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインの制定・適用開始
FATFの第4次対日相互審査に先立ち、2018年2月6日に、金融庁は「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「AML/CFTガイドライン」)を制定し、適用を開始しました。AML/CFTガイドラインが制定された背景は、①マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策がわが国および国際社会にとって喫緊の課題となっていること、および②2019年に迫っているFATFの第4次対日相互審査において、リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与防止対策の導入が必要であるところ、犯収法に基づくリスクベース・アプローチでは不十分であること等に基づくものです。
【マネー・ローンダリング対策の国際的な動向と日本国内の動向】
国際的な動向 | 日本の動向 |
---|---|
1988年 アルシュ・サミットにおける合意によりFATF設置 1990年4月 FATFが、①金融機関による顧客の本人確認、②疑わしい取引の金融規制当局への報告を求める「40の勧告」を提言 |
1990年6月 大蔵省銀行局長等が、顧客の本人確認義務等に関する通達を発出 1992年7月 麻薬特例法が施行され、①薬物犯罪収益に関するマネロン行為が犯罪化、②薬物犯罪に関する「疑わしい取引の届出制度」を創設 |
1996年6月 FATFの「40の勧告」が改訂され、前提犯罪を重大犯罪に拡大することを義務付け 1998年5月 バーミンガム・サミットにおいて、マネロンやテロ資金供与に関する疑わしい取引の情報を一元的に受理・分析し、捜査機関等に提供する政府機関であるFIU(Financial Intelligence Unit)の設置を合意 |
2000年2月 組織的犯罪処罰法が施行。①疑わしい取引の届出の対象となる犯罪を薬物犯罪から一定の重大犯罪に拡大、②日本版FIUとして金融監督庁内に特定金融情報室を設置 |
2001年10月 2001年9月11日に発生した米国における同時多発テロ事件を受け、FATFは、①テロ資金供与の犯罪化、②テロ関係の疑わしい取引の届出の義務化等に係る「8の特別勧告」を公表 |
2002年7月 テロ資金供与処罰法および組織的犯罪処罰法の改正法が施行、前提犯罪にテロ資金供与罪が追加 2003年1月 「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(「本人確認法」)が施行され、金融機関等に対し、顧客等の本人確認および本人確認記録・取引記録の作成・保存を義務付け |
2003年6月 FATFの「40の勧告」が再改訂され、非金融業者(不動産業者、貴金属商、宝石商等)や職業的専門家(弁護士、会計士等)に勧告を適用 2004年10月 FATF「8の特別勧告」を「9の特別勧告」に改訂 |
2008年3月 本人確認法が廃止され、犯収法が全面施行。①顧客等の本人確認、本人確認記録・取引記録等の作成・保存を行う「特定事業者」がファイナンス・リース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱業者などといった一定の非金融業者に対しても拡大、②疑わしい取引の届出制度も、組織的犯罪処罰法から移管され、非金融業者にも適用 |
2008年10月 FATFの第三次対日相互審査報告書、犯収法上の特定事業者の顧客管理をはじめとするマネロン対策・テロ資金供与対策に関して、「40の勧告」「9の特別勧告」のうち、10項目についてNC(不履行)、15項目についてPC (一部履行)との評価 |
2011年4月 改正犯収法成立(⇒2013年4月に施行) |
2012年2月 FATFが「新勧告」を公表 2014年6月 FATFの全体会合で日本の顧客管理について重大な懸念が表明される。 |
2014年11月 再改正犯収法成立(⇒2016年10月に施行) |
2019年9月~10月 FATFによるオンサイトによる対日審査 2020年6月 FATF総会において第4次対日相互審査報告書 |
2018年2月 金融庁がAML/CFTガイドラインを制定 202X年 第4次対日相互審査報告書に基づき犯収法再改正(?) |
FATFの第4次相互審査
FATFによる第4次相互審査は、2012年2月に改訂された40の勧告と2013年2月に公表された勧告の遵守およびAML/CFTシステムの実効性の審査のためのメソドロジーに基づいて行われます。
日本に対してのオンサイト審査は2019年10月~11月に行われ、2020年6月の総会において報告がなされる予定です。
2012年勧告に即した法令整備が行われているかという技術的遵守状況(Technical Compliance:TC)の審査に加えて、AML/CFTシステムの有効性(Effecitiveness)の審査も行われます。
「技術的遵守状況」については、以下の事項について、40の勧告が法令の法的拘束力のある形で実現されていることについて審査の対象となります。勧告と同じような文言で記述されていることを審査では重視されます。評価のレーティングは「良好(compliant)」、「おおむね良好(Largely compliant)」、「一部履行(partially compliant)」、「不履行(non-compliant)」、「不適用(not applicable)」とされます。
〇予防的措置
勧告9(金融機関の守秘義務との関係)
勧告10(顧客管理)
勧告11(記録の保存)
勧告12(重要な公的地位を有する者)
勧告13(コルレス取引)
勧告14(資金移動業者)
勧告15(新しい技術)
勧告16(電信送金)
勧告17(第三者への依存)
勧告18(内部管理、外国の支店および子会社)
勧告19(リスクの高い国)
勧告20(疑わしい取引の届出)
勧告21(内報および秘匿性)
勧告22(指定非金融事業者および職業専門家(DNFBPs:顧客管理))
勧告23(DNFBPs:その他の措置)
〇法人及び法的取極めの透明性・真の受益者勧告24(法人の透明性および真の受益者)
勧告25(法的取極めの透明性・真の受益者)
〇当局の権限及び責任・その他の制度的措置勧告26(金融機関の規制および勧告)
勧告27(監督機関の権限)
勧告28(DNFBPsの規制および監督)
その他勧告29~35
〇資金洗浄及びテロ資金供与対策及び協力勧告1~2
〇資金洗浄及び没収勧告3~4
〇テロ資金供与及び大量破壊兵器の拡散に対する資金供与勧告5~8
〇国際協力勧告36~40
「有効性」については、11のImmediate Outcome(IO:直接的効果)というAML/CFTシステムの達成すべき重要な目標について、「ほぼ達成(High Level)」、「おおむね達成(Substantial Level)」、「一定程度達成(Moderate Level)」、「未達成・ほとんど達成されず( Low Level)」の4段階で評価されます。
金融機関に関連するのは、IO3(監督当局による、リスクに即したAML/CFTに関する規制等の遵守に関する金融機関の監督状況)、IO4(金融機関によるリスクに即した十分なAML/CFT措置および疑わしい取引の届出)です。
有効性審査はTCの審査と同じくらい重要です。一般的に、TCの評価が低ければ基本的には有効性も低い評価になります。例外的に、TCの評価が低くても一定程度の有効性ありの評価が可能ですが、この場合、正当化の理由を説明する必要があります。
正当化の理由の例としては、「マネロン・テロ資金供与のリスク自体が低いこと」、「その他の構造的、重要性または文脈的要素」、「当該国の法や制度の特別性、FATF勧告にない代替手段の存在」などがあげられます。
④ 金融機関やDNFBPsがAML/CFTの予防措置についてそのリスクに応じて適格に講じており、疑わしい取引の報告をしている。
主要課題(core issues):直接効果が実現されているかどうかの判定に際して考慮される課題
- 金融機関・DNFBPsは自己のML/TFのリスクおよびAML/CFTの義務をどの程度理解しているか。
- 金融機関・DNFBPsは自己のリスクに見合ったリスク軽減措置をどの程度十分に適用しているか。
- 金融機関・DNFBPsは顧客管理措置および記録保存措置(実質的支配者情報や継続的モニタリングを含む)をどの程度十分に適用しているか。
- 金融機関・DNFBPsは、以下の強化された措置または特別の措置をどの程度十分に適用しているか。(a)PEPs、(b)コルレス先銀行、(c)新しいテクノロジー、(d)電信送金規則、(e)テロ資金供与関係の対象者への金融制裁、(f)FATFが特定した高リスク国
- 金融機関・DNFBPsは、犯罪収益と疑われるものやテロ支援を疑われる資金について、報告義務をどの程度果たしているか。内報を防ぐ現実的な方策は何か。
- 金融機関・DNFBPsは、AML/CFTに関する義務を履行するため内部管理および手続を(金融グループレベルも含め)どの程度きちんと適用しているか。

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