連鎖倒産防止制度のポイント
事業再生・倒産知り合いの社長が経営していた会社が、取引先が破産したことから連鎖倒産してしまいました。私も会社を経営しており他人事ではなく、大口の取引先も多いので、いわゆる連鎖倒産を防ぎたいのですが、自助努力にも限界があります。色々調べていると、連鎖倒産を防止するための制度があるということがわかってきたのですが、連鎖倒産というのも正直どういったものかは正確にはわかっていないので、その点も含めて教えてください。
連鎖倒産防止制度として主要なものには、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している「経営セーフティ共済」と、中小企業庁が所管する「セーフティネット保証制度」があります。
前者は資金の貸付けを受けるための制度であり、後者は信用保証協会の保証について別枠を設けるための制度です。いずれも最終的には運転資金の確保を目的とするものですが、要件や手続等が異なっており、留意すべき点もそれぞれ異なります。
解説
目次
連鎖倒産とは
連鎖倒産とは、取引先が倒産(破産等)してしまったために当該取引先に対する債権の回収ができなくなり、自社もまた資金繰りが行き詰って連鎖的に倒産するといった一連の事象を指します。法律上の概念ではありませんが、一般的に使われている用語です。
このような連鎖倒産を防止するため、手元資金の少ない会社では、当面の運転資金を借入れ等により調達する必要がありますが、取引先の倒産により自社の信用状況が悪化している状況では容易でありません。そこで、以下に述べる、運転資金確保を目的とする連鎖倒産防止の各種制度が設けられています。
「経営セーフティ共済」について
概要
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、中小企業倒産防止共済法(以下「共済法」という)に根拠を有し、同法に基づき独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という)が運営しています。
制度のポイントは、取引の相手方事業者が倒産したときに、共済加入者の掛金をもとに貸付けを受けられるというもので、要するに共済制度です。貸付けを受けられるのは経営セーフティ共済に加入する「中小企業者」のみであり、継続して1年以上事業を行っている企業で、業種、資本金の額、従業員数等の要件を満たす企業が共済に加入できます(共済法2条)。
参照:中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 加入資格」
ここでいう「倒産」とは、大要以下のとおりです(詳細な定義は、共済法2条2項各号および中小企業倒産防止共済法施行規則10条の2第1項各号に規定)。
- 取引停止処分
- 私的整理
- 破産手続開始の申立て等
- 災害による不渡り
- 特定非常災害による支払不能
取引先が、いわゆる「夜逃げ」をした場合は「倒産」には該当せず、共済からの貸付けを受けられないことに注意が必要です。
参照:中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 制度の概要」
取引先が倒産した場合には、金融機関から貸付けを受けることも考えられますが、金融機関における審査や稟議が必要になり時間を要しますし、拒絶されることもあり得ます。この点、経営セーフティ共済は一定の例外1を除き、経営状態等について実質的な審査を要さず貸付けを受けることが可能であり、迅速性・確実性に優れています。
掛金および貸付けを受けられる金額
掛金は月払いで、毎月の掛金は最低5000円から、上限は20万円です(共済法4条、同9条2項ただし書き、中小企業倒産防止共済法施行令(以下「共済法施行令」という)2条)。掛金の総額の上限は800万円です。
貸付けを受けられる額は、原則として、貸付けの請求があった日における納付済み掛金の合計額の10倍に相当する額と、倒産に係る取引の相手方たる事業者に対する売掛金債権等の額とのいずれか少ない額の範囲内において請求者が請求した金額で(共済法9条2項)、50万円から8000万円まで(5万円単位)の範囲内です。
返済期間、担保等(条件)
償還期限(返済期間)は借入金額によって決まっており、5000万円未満は5年、5000万円以上6500万円未満は6年、6500万円以上8000万円以下は7年(6か月の据置期間あり)です(共済法施行令3条)。無利子、無担保で、保証人も不要です。
その他
その他の手続等の詳細については、中小機構のホームページ上をご参照ください。
「セーフティネット保証制度」について
概要
セーフティネット保証制度は、取引先の倒産等によって経営の安定に支障が生じた場合に、信用保証協会等を通じ、保証限度額の別枠化等により資金調達の円滑化を図る制度で、中小企業信用保険法(以下「保険法」という)に根拠を有し、中小企業庁が所管しています。
セーフティネット保証制度にはいくつかの種類があり、そのうち、連鎖倒産の防止に関連するのは、保険法2条5項1号2に定められている「連鎖倒産防止」の制度です。この制度の趣旨は、大型倒産が発生した際に、当該倒産事業者と取引のあった中小企業者が売掛金の回収難等で連鎖倒産をすることを防ぐことです。
セーフティネット保証制度は経営セーフティ共済制度とは異なり、あくまで保証限度額を別枠化する制度であり、当該制度によって直接的に資金調達が得られるものではありません3。実際に資金を得るためには、別途、金融機関からの貸付けを受けることが必要です。
対象となる中小企業者
対象となる中小企業者は、「特定中小企業者」です(保険法2条5項1号)。特定中小企業者とは、「中小企業者」(保険法2条1項各号。共済法と同様に、業種、資本金の額、従業員数等の要件があります)のうち、保険法2条5項1号(脚注4参照)に該当することについてその住所地を所管する市町村長等の認定を受けたものをいいます。
なお、同条項でいう「当該中小企業者の経営の安定に支障を生じていると認められる」かどうかの認定は、以下の基準により行われています。
- 当該事業者に対して50万円以上売掛金債権等を有している中小企業者
- 当該事業者に対し50万円未満の売掛金債権等しか有していないが、当該事業者との取引規模が20%以上である中小企業者
参照:中小企業庁「セーフティネット保証制度(1号:連鎖倒産防止)」
対象となる売掛金等の相手先
対象となる相手先は、保険法2条5項1号で規定されているとおり、すでに「経済産業大臣が指定した」先にかぎられます。平成30年3月末日現在では、14社が指定されており(中小企業庁「セーフティネット保証制度(1号:連鎖倒産防止)」「指定事業者リスト」を参照)、上記3-1記載の制度趣旨のとおり、一定の大型倒産先が想定されています。
別枠保証の限度額
普通保証として2億円以内、無担保の保証として8000万円以内、無担保かつ無保証人の保証として1250万円以内を、既存の保証額とは別枠で、信用保証協会から保証してもらえます。
手続の流れ
当該制度によって実際に借入れを受けられるまでの一連の手続を図にすると、以下のとおりです。
(なお、上記は北海道経済産業局の例ですので、上記図でいう市町村の担当課については、各市町村で異なる可能性があります。
各市町村に問い合わせて下さい)
まとめ
以上、一般に想定されている連鎖倒産防止制度について概略をご説明しました。取引先の倒産は突然発覚しますが、そのときになって慌てても手遅れになるかもしれません。そのため、決算書を徴求するなどして取引先の状況を平時から確認しておくことが必要であるとともに、本稿で述べたような万一の備えについても頭の隅に置いておくことが肝要といえます。
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共済法9条によれば、例外とは大要以下のとおりです。
①共済契約が効力を生じた日から倒産の発生の日までの期間が六月未満であるとき。
②倒産の発生の日までに掛金が納付された月数が六月未満であるとき。
③請求の時に共済契約者が中小企業者に該当しない場合。
④請求が倒産の発生の日から六月を経過した日後にされたものであるとき。
⑤貸し付けることとなる共済金の額が少額であって経済産業省令で定める額(=50万円又は共済契約者の月間の総取引額の20%のいずれか少ない額)に達しないものであるとき。
⑥共済契約者につき倒産又はこれに準ずる事態として経済産業省令で定める事態(=事業を継続する意思がない場合等)が生じているとき。 ↩︎ -
同条項では、「破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立てその他経済産業大臣が定める事由が生じた事業者であって、経済産業大臣が指定したものに対する売掛金債権その他経済産業省令で定める債権の回収が困難であるため、当該中小企業者の経営の安定に支障を生じていると認められること。」と規定されています。 ↩︎
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保険法1条(目的)には「この法律は、中小企業者に対する事業資金の融通を円滑にするため、中小企業者の債務の保証につき保険を行なう制度を確立し、もつて中小企業の振興を図ることを目的とする」と規定されています(下線は筆者)。 ↩︎

弁護士法人大江橋法律事務所
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