請求書を発行していない場合における破産者への請求方法
事業再生・倒産裁判所からA社について破産手続開始決定がなされたとの連絡が来ました。連絡文書には、破産債権届出書が同封されています。債権届出とはどのような手続なのでしょうか。また、債権届出の際には証拠書類を添付しなければならないとも記載されています。当社(B社)はA社に製品を納品しているのですが、請求書を発行する前にA社が破産してしまいました。債権届出の際に何を証拠書類として提出すればよいのでしょうか。
破産手続に破産債権者が参加するためには、裁判所が定めた債権届出期間内に、裁判所に対し、破産債権の種類、金額および発生原因などを裁判所に届け出なければなりません(破産法111条1項)。これを債権届出といいます。
債権届出の際には証拠書類を添付しなければならないとされています(破産規則32条4項)。破産管財人は、届出のあった破産債権について、債権届出の際に破産債権者から提出された証拠書類のみならず、破産者が有する資料や、関係者へのヒアリングなどを行い、破産債権の存否につき判断します(認否とも言います。破産法117条1項、121条1項)。
破産管財人が認め、かつ、他の届出破産債権者が異議を述べなかったときは、破産債権が確定します(破産法124条1項)。破産管財人が認めず、または届出破産債権者が異議を述べた場合は、破産裁判所にその額等についての査定の申立てをすることができ(破産法125条1項)、裁判所は、破産債権の存否および額等を査定する裁判をします(破産法125条3項)。
B社のA社に対する債権の種類は売掛金であり、その証拠書類としては請求書が考えられますが、請求書がない場合でも、売買契約書、納品書、B社の売掛帳の写しなどを提出することが考えられます。
解説
目次
破産債権の届出と、債権調査の流れについて
債権届出とは
破産法は、支払不能または債務超過にある債務者(破産者)の財産等の清算に関する手続を定めること等によって、破産者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的の一つとしています(破産法1条)。そのため、破産者の負債を調査・確定し、また、破産者の資産を調査・管理・換価し、最終的にその換価金を原資として負債に対して配当することが必要となります。
負債の調査・確定にあたっては、まず、破産債権者が裁判所に対し、破産債権の種類、金額および発生原因などにつき、証拠書類を添付して届け出ることとされています(破産法111条1項)。つまり、破産債権者が破産手続に参加するためには債権届出をしなければなりません。
破産債権者は、債権届出をすることによってはじめて、破産手続上破産債権者として扱われます。具体的には、債権届出がなければ、債権者集会での議決権(破産法139条、140条、141条)、債権調査手続における異議権(破産法118条1項、121条2項)等の破産手続上の権限がありませんし、配当を受けることもできません(破産法193条1項)。また、実体法上、債権届出によって時効中断効を得ることができます(民法147条1号、152条)。
債権調査の具体的な流れ
(1)債権届出から債権調査
破産申立の際、申立代理人が資産および負債を調査して、債権者一覧表を作成します。破産手続開始決定後、申立人が作成した債権者一覧表に基づき、裁判所が各破産債権者に対して、破産債権届出書の提出を求める書類を発送します1 。破産債権者は、裁判所が定めた債権届出期間内に債権届出を行います。その後、破産管財人は、裁判所が決定した債権調査期間内に、届出があった破産債権について、債権届出に添付されている証拠書類の他、破産者の有する資料等から、その存否を判断して認否書を作成します。
(2)破産債権の確定
破産管財人が認め、かつ、届出破産債権者が調査期間において異議を述べなかったときは、破産債権が確定します(破産法124条1項)。確定した破産債権は、破産債権者表に記載され(破産法124条2項)、破産債権者全員に対して確定判決と同一の効力を有することになります(破産法124条3項)。
破産管財人が認めず、または届出破産債権者が異議を述べた場合(以下「異議等」という)、破産管財人または当該届出破産債権者の全員を相手方として、破産裁判所にその額等についての査定の申立てをすることができます(破産法125条1項)。査定申立は調査期間の末日または調査期日から1か月の不変期間内にしなければなりません(破産法125条2項)。査定申立がなされた場合、裁判所は、破産債権の存否および額等を査定する裁判(破産債権査定決定)をします(破産法125条3項)。
なお、当該流れは書面でのやり取りとなりますが、裁判所は、必要があると認めるときは、債権調査期日を開き、その期日における破産管財人の認否、破産債権者および破産者の異議に基づいて債権調査を行うこともあります(破産法116条2項)。
(3)配当
破産債権について一般の債権調査が終了し、破産財団について換価が終了し、財団債権を全額弁済したうえで破産財団に余剰がある場合に、配当が行われます。配当では、破産債権者に対し、法定の順に従い、債権額に応じて平等に分配されます。
債権届出における証拠書類等について
債権届出における証拠書類
破産債権届出書には、破産債権に関する証拠書類の写し等を添付しなければなりません(破産規則32条4項)。証拠書類の具体例としては以下のものがあげられます。より詳細な具体例は、2-2で説明します。
- 売掛金:売買契約書、請求書控、納品書・受領書控、伝票等
- 貸付金:金銭消費貸借契約書、借用書等
- 請負代金:工事請負契約書、完了確認書等
- 手形債権:手形等
具体例
(1)売掛金
代表的な証拠書類としては、請求書があります。請求書の他には、売買契約書、納品書・受領書控、伝票、破産債権者の売掛帳などが考えられます。
(2)貸付金
金銭消費貸借契約書や借用書が考えられます。また、破産者に対して金銭を貸し付けた際に預金口座に振込んでいる場合には、金銭の移動を明確にするため、預金通帳の写しや振込をした際の利用明細等を資料として提出することも考えられます。借用書があるというだけでは、場合によっては、実際の金銭の移動まで確認できない、届出債権者と破産者が通謀しているおそれが否定できないなどとして、破産管財人から異議が出される可能性もあります。
なお、破産管財人は、必要に応じて、貸付元本について実際に金銭の授受があったこと、その後の弁済の経過を、破産者の預金通帳、帳簿、領収書等によって調査します。破産者の役員やその親族からの貸付けについては、実際に貸付けがなされている場合もあれば、高額な未払い給与や役員報酬を振り替えたものにすぎない場合もあるので、破産管財人として、実際の金銭の移動などを確認する必要がある場合もあるからです。
(3)請負代金
工事が完了している場合には、工事請負契約書や完了確認書が考えられます。
工事途中で注文者が破産し、請負契約が解除された場合、解除の効力は既施工部分に及ばないと解されていますので、既施工部分の出来高に応じた額を破産債権として届け出ることになりますが、このときは出来高がわかる資料として、進捗確認表や、現場の写真等を証拠書類として提出することが考えられます。なお、破産手続開始決定後に工事が進んでしまうと、開始決定時の出来高が不明確になってしまいますし、注文者からの債権回収は困難ですので、開始決定の通知を受けた場合は速やかに工事を中断し、状況を把握しておくことが大切です。
(4)手形債権
手形債権を届け出る場合には、手形の写し(表面・裏面の両方)を証拠書類として提出することになります。破産管財人は裏書が連続しているか等、手形債権の成立や行使における要件を確認することになります。
(5)その他
2-1①から④以外に考えられる債権として、たとえば損害賠償請求権があります。損害賠償請求権についても債権届出は必要で、適宜、届出債権者において妥当と考える債権額を記載して届出を行うこととなります。破産管財人が届出額を認め、他の届出破産債権者から異議が出なければ、その額で損害賠償請求権は確定します。破産管財人などが異議を出した場合、破産債権者は査定申立を行い、裁判所は、破産債権の存否および額等を査定する裁判をすることになります。
なお、損害賠償請求権のうち、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権や破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権については、破産手続開始決定前の原因に基づくものであれば破産債権ではありますが、破産手続において免責許可の決定が確定した場合も、免責が認められませんので(破産法253条1項2号、3号)、免責許可の申立てについての裁判が確定した後は、権利を行使することができます。
一方で、債務不履行に基づく損害賠償請求権(契約で定めた履行期に履行がなされなかったことで生じた損害に対する賠償等)は免責の対象となります。
提出された証拠書類からは破産債権の存否が不明な場合
破産管財人は、破産債権者から提出された証拠書類のみでは破産債権の存否を判断できない場合、破産債権者に資料の追完を求めたり、破産者が有する資料(売掛金であれば、破産者の勘定科目明細書や買掛帳等)も調査して、総合考慮の上で破産債権の認否を判断します。債権届出書とともに提出された証拠書類が足りないからといって、ただちに破産債権の存在が否定されるわけではありません。
終わりに
債権届出をしなければ破産財団から配当を受けることができなくなってしまいます。請求書がないからといってただちに債権が認められないというわけではなく、破産管財人は、破産者において保管されている資料や事情聴取などを行い、総合考慮の上で債権の存否を判断します。したがって、まずは、債権届出の期限を厳守して、手元にある資料を可能な限り添付した上で債権届出をすることが肝要です。
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なお、大阪地裁においては、開始決定時点において配当見込が不明の場合、債権者に債権届出をさせず、配当見込が生じた段階で、債権調査期日を指定する運用(いわゆる留保型)を取っているため、破産手続開始の通知の後、債権届出書が送られてくることになります。一方で、東京地裁においては、破産手続開始時に、原則として債権調査期日を定めるため破産手続開始の通知とともに破産債権届出書も送付されます。 ↩︎

弁護士法人大江橋法律事務所
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