破産会社に預けている商品・材料を返してもらうことはできるか

事業再生・倒産
有木 康訓弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 破産会社に預けている商品・材料を返してもらうことはできるのでしょうか。

 破産会社が占有している商品・材料について所有権を有している場合、破産手続開始前であれば当該破産会社に対し、破産手続開始後であれば破産管財人に対し、その返還を請求することができます。破産法上、所有権のような「破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利」を、「取戻権」と呼びます(破産法62条参照)。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 取戻権・代償的取戻権とは
    1. 寄託契約
    2. 代理店契約等
    3. 製品加工契約(材料供給型)
  3. まとめ

はじめに

 「物を預ける」といっても、物の保管それ自体を目的とする寄託契約、預け先に商品を販売してもらうことを目的とする販売委託契約など、様々なものが考えられます。したがって、破産会社に預けた商品・材料について取戻権が成立するかどうかは、預け先との契約内容を個別に検討・分析する必要があります。

 以下、取戻権の内容を踏まえ、商品・材料を預かっている会社が破産した場合に、商品・材料の所有者がどのような場面において取戻権を行使できるか、解説します(便宜上、以下、物を預けている当事者を「預託者」、物を預かっている当事者を「受託者」、預かり対象となる物を「預託物」といいます)。

取戻権・代償的取戻権とは

 預託者が、破産手続開始前には所有権等を根拠に、破産手続開始後であれば取戻権を根拠に、それぞれ破産会社が占有している商品・材料を取り戻せることは、上記Aで述べたとおりです。

 他方で、破産会社またはその破産管財人が預託物を勝手に売却処分した場合には、もはや預託物が破産会社または破産管財人の下に存在しませんので、取戻権を行使することはできません。

 もっとも、価値的に本来の取戻権が成立する場合と同等の権利を確保する観点から、預託者には、一定の要件の下、「代償的取戻権」という権利を行使することが認められています(破産法64条)。代償的取戻権とは、破産者が取戻権の対象物を譲渡したことによりその取戻しが不可能となった場合に、破産者が対象物の譲受人に対して有している代金債権を取戻権者に移転するよう請求することができる権利です。

 ただし、下記のとおり、代償的取戻権を行使できる場面はかぎられているため、預託物が処分されるおそれがある場合には、早めに破産会社や破産管財人に連絡をして所有権の帰属を知らせるとともに、場合によっては占有移転禁止の仮処分の申立てなどの民事保全手続の利用を検討しておく必要があります。特に破産管財人は、破産会社の倉庫等に商品や材料が多数保管されている場合に、どれが破産財団に帰属する物(動産)で、どれが取戻権の対象となる預託物なのか判別できないことが多いので、注意が必要です。

【代償的取戻権】

代償的取戻権

【代償的取戻権を行使できる場合】

① 譲受人がまだ代金債権を弁済していない場合

預託者は、破産管財人に対して代金債権をみずからへ移転するよう請求し、譲受人に対する債権譲渡の通知を求めることができる(破産法64条1項前段)

② 破産管財人がすでに代金債権を受領している場合

破産管財人が受領した代金債権(金銭)が他の金銭と混在してその特定性がなくなった場合、代償的取戻権の行使としての当該財産自体の引渡請求はできない。もっとも、破産財団の不当利得となるため、預託者は、財団債権として当該代金債権分の金額の支払を請求できる(破産法148条1項5号)。なお、破産管財人が受領した財産について特定性が維持されている場合には、代償的取戻権の行使として、当該財産自体を引き渡すよう請求できる(破産法64条2項)。

③ 破産手続開始前に破産会社がすでに代金を受領している場合

預託者は、不当利得返還請求権(民法703条・704条)を破産債権(破産法2条5項)として権利行使できるにとどまる。

「物を預ける」契約類型

寄託契約

 寄託契約とは、受託者に物の保管を委託する契約であり、典型的には、倉庫業者に商品・材料等の保管を委託する場合などがこれにあたります。

 寄託契約において受託者が破産した場合、預託物の所有権は預託者にあるため、預託者は、取戻権を行使することができます。なお、預託者側に保管料等の未払金がある場合、受託者には民事・商事上の留置権(民法295条、商法521条)が成立するため、未払金の支払との引換えでないと預託物の取戻しができないことにご留意ください。

 なお、寄託契約は、受託者の破産手続の開始決定により終了します(民法665条・653条2号)。

代理店契約等

 代理店などのディーラーに一定量の商品を預け、当該ディーラーを通じて商品を顧客に販売する取引はよく見られるところです。しかし、一概に「代理店」や「販売委託」などといっても、その契約形態は様々で、受託者が破産した場合に、預託者が預託物に対してどのような権利を有しているかは、契約内容・取引実態を踏まえて個別に検討する必要があります。

(1)代理店契約(卸売)

 卸売業者が代理店に商品を卸売し、当該商品を代理店から顧客に販売する取引(いわゆる代理店契約の一形態)においては、商品の所有権は卸売時に卸売業者から代理店に移転します。したがって、預託者の立場となる卸売業者は、商品の卸売後には取戻権を行使することができず、代金債権を破産債権として行使できるにとどまります(なお、この場合における動産売買の先取特権の行使については「代金未払の商品の返還の可否と動産売買先取特権について」を、所有権留保特約付きの場合は「売買契約の「所有権留保」特約に基づいて破産した取引先から商品を返却してもらうには」をご参照ください)。

代理店契約(卸売)

(2)委託販売

 預託者が、受託者に対し、預託者の商品を預託者の代理人として販売することを委託し、受託者には販売委託料(販売手数料)が支払われることを内容とする契約で、商品が顧客に販売された時点で預託者と顧客との間に売買契約が成立します。商法上の代理商による取引がこれに該当します。              

委託販売

 委託販売契約において、預託物の所有権は、預託物が顧客に販売されるまでは預託者にあります。そして、委託販売契約は、受託者の破産手続開始決定により終了しますから(民法653条2号・111条2項)、預託者は、取戻権に基づいて、破産管財人の占有する商品の返還を求めることができます

(3)売上仕入れ(消化仕入れ)

 預託者が受託者に預託者の商品の管理を委託し、商品が顧客に販売された時点で預託者・受託者間に売買契約(仕入れ)が成立する契約です。  

売上仕入れ(消化仕入れ)

 売上仕入契約において、預託物の所有権は、預託物が顧客に販売される(=預託者・受託者間に売買契約(仕入れ)が成立する)までは預託者にあります。したがって、預託者は、販売前の商品について、取戻権を行使することができます

 (2)の委託販売契約は、預託者と顧客との間に売買契約が成立するのに対し、売上仕入契約は、預託者と受託者との間に売買契約が成立します。そのため、売上仕入契約においては、受託者との関係で動産売買の先取特権の行使の可否が問題となります(動産売買の先取特権の詳細は、「代金未払の商品の返還の可否と動産売買先取特権について」をご参照ください)。

製品加工契約(材料供給型)

 ここでは、預託者が、受託者に対し、仕事の完成を目的として、預託者が供給した材料に一定の加工を加える業務を委託し、これに対して報酬(加工賃)が支払われることを内容とする契約(請負契約)を前提とします。この契約においては、受託者が破産した場合に、預託者が、材料・仕掛品・完成品それぞれについて取戻権を行使できるかが問題となります。

 契約書上、材料・仕掛品・完成品の所有権の所在が明確に定められている場合、取戻権の有無は、当該契約内容に従って決まります。すなわち、それらの所有権が預託者にあるとの定めがある場合には、預託者は取戻権を有することになりますし、その逆である場合には取戻権を有しないことになります

 契約書に定めがない場合は、次のとおりとなります。

 まず、材料については、当該材料を供給した預託者に所有権があります。仕掛品および完成品の所有権についても、原則として材料の所有者である預託者に帰属します(民法246条1項本文)。ただし、受託者の加工によって生じた物の価格が材料の価格を著しく超えるときは、受託者がその加工物の所有権を取得するため、預託者は取戻権を行使することができません(民法246条1ただし書)。その代わりとして、預託者は、受託者に対して償金を請求することができますが(民法248条)、破産債権として権利行使できるにとどまります。このように、契約書に定めがない場合は、材料・仕掛品・完成品の所有権の所在をめぐって紛議が生じるおそれがありますので、契約書で所有権の所在を明確にしておくのが望ましいといえます。

まとめ

 以上のとおり、預託者が受託者に「預けた物」を取り戻すことができるか、取り戻すことができない場合に何ができるのかは契約形態により異なりますので、破産会社たる取引先との契約内容を踏まえ、個別に対応する必要があります。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する