破産会社が有する資産の一部を債権の担保に提供してもらえるのか

事業再生・倒産
松永 崇弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 庄崎 裕太弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、A社に対し継続的に商品を卸しており、A社に対して売掛金を有しています。しかし、A社は、ここ数か月、毎月の支払を遅滞しており、また、他の取引業者B社によると、B社に対しても支払を遅滞しているとのことでした。

 現時点において、当社は、A社が有する資産に対して何ら担保を持っておらず、A社との取引基本契約ではA社に担保提供を求めることができる旨の規定もないのですが、このような状況の中で、

  1. 現在A社に対して有している売掛金を保全するために、A社が有する在庫に担保(集合物譲渡担保等)を設定してもらった場合に、何かリスクはあるのでしょうか。
  2. A社から新たに100万円分の発注があった場合、その100万円の売掛金を保全するために、A社が有する在庫に担保(集合物譲渡担保等)を設定してもらった場合に、何かリスクはあるのでしょうか。

 ①については、担保設定直後にA社が破産申立てを行った場合、A社が遅くとも担保設定後30日以内に支払不能に陥っていたのであれば、A社の担保設定行為は、破産法上、否認の対象となる可能性があります。
 ②については、担保設定直後にA社が破産申立てを行ったとしても、新たな取引から生じる売掛金を保全するものであれば、A社の担保設定行為は、破産法上、否認の対象とならないと考えられます。ただし、当該担保設定行為が、従前発生していた売掛金をも対象とするものであれば、その担保設定行為のすべてが否認の対象となる可能性があります。

解説

目次

  1. 否認権の制度とは
  2. 偏頗行為否認になる担保設定とは
    1. 偏頗行為否認の対象
    2. 非義務偏頗行為の否認
    3. 設例について
  3. 偏頗行為否認の対象にならない担保設定とは
    1. 同時交換的取引の例外
    2. 設例について
  4. まとめ

否認権の制度とは

 否認権の制度とは、破産者が破産手続開始前の危機時期に行った債権者全体の利益を害する行為の効力を否定して、破産者の財産を原状に復させる制度です。

 否認には、大きく分けて、詐害行為否認および偏頗行為否認という2つの類型があります。詳細については、「破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)」ご参照ください。

偏頗行為否認になる担保設定とは

偏頗行為否認の対象

 偏頗行為否認の対象となるのは、支払不能になった後または破産手続開始申立て後の偏頗行為です。「偏頗行為」とは、弁済等の債務を消滅させる行為のほかに、「担保の供与」すなわち債権者に対して自己の所有物について担保権を設定する行為も含みます。

非義務偏頗行為の否認

 偏頗行為が破産会社の義務に属する場合(たとえば、約定どおりの弁済・担保提供等)、支払不能または破産手続開始申立て後にされたものでないかぎり、偏頗行為は否認の対象にはなりません(なお、受益者(債権者)の主観的要件については、「破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)」を、支払不能の意味および否認権行使の効果については、「連帯保証人が自己破産前の財産処分をする際に留意しなければいけない点」をご参照ください)。

 しかし、偏頗行為のうち、「破産会社の義務に属せず、又はその時期が義務に属しない行為」(非義務偏頗行為)については、支払不能または破産手続開始申立て後の行為でなくても、支払不能になる前30日以内の行為であれば、偏頗行為の受益者である債権者が、支払不能の発生が相当程度以上の確率で予測される状態であることを知らなかったこと(「行為の当時に他の債権者を害する事実を知らなかったこと」)を立証しないかぎり、否認の対象となります(破産法162条1項2号)。すなわち、非義務偏頗行為については、他の債権者を害する程度が大きいものとして、否認の要件が緩和されています。

設例について

 担保設定直後にA社が破産申立てを行った場合、A社の担保設定行為が否認の対象となるのかが問題となります。設例では、A社が相談者の会社のためにみずから所有する資産に担保を設定する契約上の義務はありませんので、A社が相談者の会社のために在庫に担保を設定することは、非義務偏頗行為に該当します。

 設例の状況からは、担保設定時にA社が支払不能の状況にあったとまでいえるのかは明らかではありませんが、遅くとも担保設定後30日以内にA社が支払不能に陥った場合には、相談者の会社は、自社に対する売掛金のみでなくB社に対する売掛金の支払が滞っていたことを知っていたことからすれば、A社が支払不能となることが相当程度以上の確率で予測された状態であることを知っていたとして、A社の担保設定行為は否認の対象となる可能性があります。

偏頗行為否認の対象にならない担保設定とは

同時交換的取引の例外

 破産者が破産手続開始前の危機時期の時点で新たに負担した債務について、弁済等の債務を消滅させる行為や担保権を設定する行為は、偏頗行為否認の対象となりません

 このような例としては、破産者が、破産手続開始前の危機時期に新たに商品の発注を受けて売掛金を取得し、その担保のために担保権を設定する場合や、かかる売掛金を弁済する場合があげられます。否認権は「債権者全体の利益を害する行為の効力を否定」する制度ですが、債権者が危機時期に自ら支出して破産者の財産を増加させたのであれば、その増加分について弁済を受けたり担保の設定を受けたりしても、その行為は「他の債権者の利益を害する行為」とはいえないからです。

 ただし、担保が、新たな取引から生じる売掛金のみでなく、すでに発生していた売掛金をも対象とするものであれば、当該担保設定行為のすべてが否認の対象になる場合があります。

 否認の対象とならないその他の類型については、「破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)」をご参照ください。

設例について

 担保設定直後にA社が破産申立てを行った場合、A社の担保設定行為が否認の対象となるかが問題となります。

 設例では、相談者の会社は、A社から新たな発注を受けて100万円の売掛金を取得するので、この売掛金を保全するためであれば、A社の担保設定行為は、破産法上、否認の対象とならないと考えられます。ただし、相談者の会社がすでに有していた売掛金も同時に保全するために担保を設定した場合には、その当時A社が支払不能となっていれば、当該担保設定行為のすべてが否認の対象になる場合がありますので、担保を設定する範囲(被担保債権の範囲)については注意する必要があります。

まとめ

 以上のとおり、取引先の信用状況が悪化した後に、債権者が、担保設定の時点ですでに有していた売掛金を保全するために、取引先から担保を提供してもらうことは、広く否認の対象となる可能性があります。これに対し、債権者が、取引先が新たに負担する債務について担保を提供してもらうことは、他の債権者の利益を害する行為とはいえず、否認の対象にならないと考えられます。

 このように、担保によって保全される債権の内容によって、担保を提供してもらう行為が否認の対象になるか否かが異なります。

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