代金未払の商品の返還の可否と動産売買先取特権について

事業再生・倒産
浅井 真央弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 取引先のA社から破産するとの通知が来ました。当社(B社)はA社に当社商品を売っています。A社との間で契約書は作成しておらず、注文があれば商品を納品していました。代金の支払を受けていない商品を返還してもらって、別の取引先に売りたいと考えていますが、どうすれば商品を返還してもらえるのでしょうか。

 破産会社との売買契約の内容によって、返還を求めることができるか否かが変わってきます。売買において、所有権が留保されていない場合、売主には動産売買先取特権が認められますが、動産売買先取特権は、売買の目的物たる商品を換価した額から代金の弁済を他の債権者に優先して受けることができるにすぎず、商品自体の引渡請求権は認められないと解されていますので、原則として返還を求めることはできません。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 動産売買先取特権
    1. 動産売買先取特権とは
    2. 破産手続における動産売買先取特権
    3. 商品の返還の可否
  3. 例外的に商品の返還を受けることができる場合
  4. 納品前の場合
  5. おわりに

はじめに

 商品の返還を求めることができるかどうかは、その商品に関してどのような契約が締結されているかによって結論が変わります。本稿では商品が売買された場合が問題となっていますので、売買以外の契約(たとえば販売委託契約など)については、「破産会社に預けている商品・材料を返してもらうことはできるか」を参照してください。

 売買契約においては、特段の合意がなければ遅くとも発送のときまでには売買目的物の所有権が売主から買主に移転します(民法555条)。代金の支払を受けるまでの間、売主は売買目的物に対し動産売買先取特権(民法311条5号)を有し、これによって、売買代金支払請求権が担保されることになります。

 以下では、動産売買先取特権とは何か、動産売買先取特権が破産手続においてどのように扱われるのかについて解説します。取引基本契約書等に所有権留保の特約が定められている場合については、「売買契約の「所有権留保」特約に基づいて商品を返却してもらうには」を参照してください。

動産売買先取特権

動産売買先取特権とは

 動産売買先取特権とは、売買代金およびその利息に関し、売買目的物である動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利をいいます(民法303条、311条5号)。

破産手続における動産売買先取特権

 破産手続において、動産売買先取特権は別除権にあたり、破産手続による制限を受けることなく、権利行使が認められます(破産法2条9項、65条1項)。

 具体的には、売主(債権者)は、破産手続にかかわらず、買主(破産会社)が所有する売買目的物たる動産を競売にかけることができ、その競売代金から他の債権者に優先して弁済を受けることができます。

破産手続における動産売買先取特権

 また、買主(破産会社)が当該動産を第三者に売却してしまった場合、当該動産について動産売買先取特権を行使することはできなくなりますが(民法333条)、動産売買先取特権には物上代位性(目的物の売却、賃貸等によって債務者が受けるべき金銭その他のものにも優先弁済的効力を及ぼすことができることをいう)が認められているので(民法304条本文)、第三者から破産会社に代金が支払われるまでの間、当該代金債権を差し押さえることが可能です(民法304条ただし書)。

 第三者から破産会社に代金が支払われてしまった場合は、その代金は破産財団に組み込まれてしまい、優先弁済を受けることができなくなります。

 実際には、動産競売の申立ては多くありません。動産競売を申し立てるためには、代金未払分の商品がどれか、保管場所はどこかを特定する必要がありますが、通常、同じ種類の商品であれば、代金未払分のものと代金既払分のものを分けて保管していないため、代金未払分を特定することは困難ですし、また保管場所が不明な場合も多く、特定が難しいからです。

商品の返還の可否

 さて、動産売買先取特権を理由に売買の目的物たる商品それ自体の返還を求めることができるかについてですが、動産売買先取特権には引渡請求権がないと解されており、できません

 この点、やや技巧的ですが、判例上、動産売買先取特権の目的物をもってした代物弁済は否認権の対象とはならないとされており(最高裁昭和41年4月14日第一小法廷判決・民集20巻4号611頁)、破産管財人の了解を得て、代物弁済として商品それ自体を受け取ることは、理屈上は可能です。しかしながら、破産管財人は、動産売買先取特権の目的となっている動産を、所有権留保特約があるか、または動産競売開始許可の裁判に基づいて当該動産が差し押さえられないかぎり、処分することができ、さらに転売代金債権を取り立てることもできるとされています。したがって、破産管財人としては代物弁済をするよりも、有償で買い取ってくれる第三者に売却してしまうのが通常です。

例外的に商品の返還を受けることができる場合

 以上のとおり、所有権留保の特約がない場合には、法的には商品の返還を受けることは難しいといえます。しかし、陳腐化が激しい商品(クリスマスなどの季節商品等)、換価価値に対して保管費用がかさむ商品(生きた魚で水槽などの維持に相当な費用がかかる場合等)であれば、破産管財人が、当該商品を仕入れ先に返品し、赤伝処理(仕入れを取り消す処理)を行う方がよいと判断し、事実上返還を受けることができる場合もあります。

納品前の場合

 なお、上記の例外として、買主が代金全額を支払っておらず、かつ、商品を発送してから買主が商品を受け取るまでの間に破産手続開始決定がなされた場合には、売主はその商品を取り戻すことができます(破産法63条)。この場合は、売主に所有権がなくてもよく、たとえば、売買契約が締結されており、発送時点で買主に所有権が移転するとの条項があったとしても、上記要件を満たしていれば、商品を取り戻すことができます。

 破産手続開始決定を経てから債権者に対して破産した旨の通知を送るような密行型の場合には、このような事態が起こり得ます(「密行型」の破産手続開始申立てについては、「会社(法人)の破産申請の概要」を参照)。この場合には、通知を受け取ったらすぐに運送会社に連絡をして配送を取りやめてもらいましょう。

 なお、破産管財人が代金全額を支払ってその商品の引渡しを請求することは可能とされていますので(破産法63条1項ただし書)、その場合には、商品を引き渡す必要があります。

おわりに

 今回のケースでは、売買契約書を作成していないため、他に合意が認められないかぎり、納品が済んでしまった商品については、代金が未払であっても所有権がA社にあり、B社には動産売買先取特権しか認められず、返還を求めることが困難となります。B社としては、事前に取引基本契約を締結し、取引先の破産に備えて、代金完済まで所有権を留保する等の手当てをしておくことが望ましいでしょう。

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