特許権侵害の警告書を受領した場合の対処法

知的財産権・エンタメ

 当社は、約10年前より商品Xを製造・発売しているのですが、このたびA社より、商品XがA社の保有する特許権を侵害するため、即時に当社新商品の製造・販売を中止するよう警告を受けました。当社としては、まず何を検討すればよいでしょうか。また、警告書に対してどのように対応すればよいでしょうか。

 まず現に特許権を侵害しているのかを確認する必要があり、特許公報や「包袋」を入手して、対象特許発明と商品Xの構成とを対比して、侵害する可能性がどの程度あるのかを検討する必要があります。また、対象特許の出願日前から商品Xを製造・販売している等の事情があれば、先使用の抗弁が成り立つかの検討が必要です。さらに、対象特許権が無効となるか、商品のうち当社保有の特許権を侵害するものがないかを確認します。いずれかの理由で特許権に基づく差し止め・損害賠償のリスクが小さいと判断されれば、その理由を記載した回答書を送るという対応になりますが、逆にそのリスクが大きい場合には、商品Xの仕様変更やライセンス交渉を行うことになります。

解説

目次

  1. 特許権の侵害警告を受けた場合に検討すべき事項
  2. 特許発明の技術的範囲に属するか否かの検討
  3. 先使用の有無
  4. 無効理由の有無
  5. カウンター特許の検討
  6. 特許権を侵害する可能性が高い場合

特許権の侵害警告を受けた場合に検討すべき事項

 特許権の侵害警告を受けた場合に検討すべき事項としては、主に以下の4つとなります。

  1. 自社の商品が警告をしてきた会社の特許の技術的範囲に属するのか
  2. 自社の製品が特許の出願日以前から製造販売していなかったか、もしくは、その準備をしていなかったか
  3. 特許に無効理由はないか
  4. 警告をしてきた会社に対して、自社が保有する特許権に基づいてカウンターとして警告することができないか

 なお、まれに特許権を保有してない者から特許権の侵害警告がなされたり、すでに消滅している特許権に基づく権利行使がなされたりすることがありますので、特許権者が誰か、また、有効に存続しているかを確認することもあります。独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」の「特許・実用新案番号照会」で特許の登録番号を入力して検索し、「経過情報」を見ると特許のステータスを確認することができます。ただし、実際の状態と3~4週間ほどのタイムラグがあるので、より正確には、特許庁で「特許登録原簿」(サンプルはこちら)を確認する必要があります。

特許発明の技術的範囲に属するか否かの検討

(1)「特許情報プラットフォーム」の利用

 まずA社が保有する特許発明の内容を確認する必要があります。「特許情報プラットフォーム」の「特許・実用新案番号照会」で、特許の登録番号を入力して検索すれば、「特許公報」の内容を確認できますが、場合によっては、特許が「訂正審判請求」等によって特許発明の内容が変わっている可能性もあります。その場合には、検索結果から「経過情報」等をみて訂正の有無を確認し、訂正がなされている場合には、訂正審判の内容を確認します。

(2)「包袋」の利用

 また上記の経過や内容も含めて確認できる、特許に係る出願書類等や当該出願の審査に係る書類および特許登録に関する拒絶査定不服審判、無効審判、訂正審判等の審判に係る書類等(これらを通称「包袋」といいます。)を入手することも必要です。

 これらの書類を入手したうえで、自社の商品の構成を確認して、特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断することになりますが、判断の仕方については、「特許権侵害の判断の仕方」をご参照ください。

 なお、特許権者が、自社の商品のどの構成が特許発明に抵触しているとしているのか不明な場合には、その点を明らかにするように特許権者に求めることもあります。

先使用の有無

 特許発明の技術的範囲に属する可能性が高いという場合には、さらに特許出願前からその商品を製造販売していなかった等を検討します。特許法79条は、以下の要件を満たす場合には、そのものに通常実施権を認めていますので、結果として特許権を侵害しないこととなります。

  1. 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、または特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得していること
  2. 特許出願の際、現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者またはその事業の準備をしていること
  3. 実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内であること

 当該商品が、特許の出願日以前に製造・販売されていればそれほど問題はないのですが(ちなみに販売されていると「公然実施」による新規性欠如で無効となる可能性もあります)、販売は出願日後であるが、出願日以前から準備をしていたという場合には、どの程度の「準備」であれば、先使用が認められるかが問題となります。

 この点、最高裁(最高裁昭和61年10月3日判決・民集40巻6号1068頁)では、「事業の準備」とは「いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味する」としました。

 このような最高裁の基準に当てはまる場合がどのような場合かは事案によって異なるところではありますが、これを検討するためには、その商品が製造・販売されるまでの、企画、サンプル品の製造、原材料の調達、販売前の引き合い、といった経過に関する社内外の書類を収集して検討することが必要となります。

無効理由の有無

 特許に無効理由があれば、特許権者はその相手方に対して特許権を権利行使することができません(特許法104条の3)。また、特許権者にとっては、他の会社に対しても特許権を行使することができなくなり、また、すでにライセンスをしている場合にはライセンス料収入を得られなくなる可能性もあるため、大きな痛手となりますので、無効理由を発見して特許権者に提示することは、侵害警告を受けた場合に強い武器となります。

 無効理由には様々なものがありますが、主に「新規性」または「進歩性」が欠如しているという無効理由を検討することになります。「新規性」、「進歩性」の内容は、「特許を受けられる発明とは(特許要件)」をご覧ください。「新規性」「進歩性」が欠如しているか否かを検討するにあたっては、特許発明と同一またはこれに近い特許文献(特許公開公報等)や一般文献を調査します。この調査には専門性が必要ですので、弁理士や調査会社などに依頼することになります。

カウンター特許の検討

 警告を行った特許権者が、自らも製品を製造販売し、また、サービスを提供している事業会社の場合には、警告を受けた会社で保有している特許権で逆に権利行使ができないかを検討することも有用です。仮に、警告を行った特許権者の商品が、警告を受けた会社の特許権を侵害していれば、クロスライセンス契約を締結することで、商品の販売を注視する必要がなくなることがあります。また、場合によっては、警告を行った者からライセンス料収入を得ることもできます。

特許権を侵害する可能性が高い場合

 上記の検討の結果、①特許発明の技術的範囲に属さない、②先使用が認められる、③特許に無効理由がある、のいずれかの理由によって特許権を侵害しないということであれば、その旨を回答書に記載して回答すれば足りることになりますが、いずれの理由もないという場合には、次のことを検討しなければなりません。

  1. ライセンスを得る
  2. 商品の設計変更をして特許権侵害を回避する
  3. 商品の販売を中止する

 特許権を侵害している可能性が高い場合には、ライセンス料を支払い実施の許諾を得て、現在の商品の販売を継続する方針を採用することもあります。

 また、設計変更によって特許権侵害を回避できれば、特許権に基づく差止めのリスクは回避できますが、設計変更までの損害賠償金の支払い義務は残りますので、その点の交渉が必要となります。商品の設計変更も難しいという場合には商品の製造販売自体を中止することもありますが、この場合でも中止までの損害賠償金の支払い義務は残ります

 これらの交渉において、前記のカウンター特許の提示ができれば、有利な条件で合意が可能となります。

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