M&Aとコーポレート・ガバナンス

コーポレート・M&A
木村 勇人弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

 最近、著名な企業における不祥事の報道が連日なされています。コーポレート・ガバナンスを適切に機能させ、不祥事を減少させるために、どのようなことを考えればよいでしょうか。

 コーポレート・ガバナンスに問題が生じる原因の一つとして、株主と経営者が一致しない、すなわち、プリンシパル・エージェントの関係に係る問題があります。
 この点、マネジメント・バイアウトは、プリンシパル・エージェントの問題を減らす可能性があるので、一定程度、適切なコーポレート・ガバナンスをもたらす機会を与えると考えられます。
 一方、企業の経営権の競争的取引という状況が、現経営陣に効率的な経営を促し、適切なコーポレート・ガバナンスをもたらす機会を与えるとも考えられます。
 しかしながら、企業買収が必ず、適切なコーポレート・ガバナンスにつながるとは限りません。すなわち、企業買収においては、被買収側と買収側との間に情報の非対称性が生じることがあり、また、買収側が過度に私的な利益のみを追求するものであれば、当該企業買収は適切なコーポレート・ガバナンスに資するものにはならない可能性があることに留意が必要です。

解説

目次

  1. コーポレート・ガバナンスは、どのような理由から問題となるか
    1. コーポレート・ガバナンスとは
    2. コーポレート・ガバナンスに問題が生じる原因
  2. マネジメント・バイアウトによるコーポレート・ガバナンス強化
    1. マネジメント・バイアウトによるコーポレート・ガバナンス
    2. マネジメント・バイアウトの問題点
  3. 投資家による企業買収とコーポレート・ガバナンス強化
    1. 経営権の競争的取引
    2. 買収対策としての経営効率・企業価値向上
    3. 買収がコーポレート・ガバナンス強化につながらないケース
  4. まとめ

コーポレート・ガバナンスは、どのような理由から問題となるか

コーポレート・ガバナンスとは

 コーポレート・ガバナンスとは、企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的にとらえ、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みです。企業統治とも訳されます(日本経済団体連合会 我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について)。
 アメリカで発達したコーポレート・ガバナンスの制度は、日本でも1990年代から議論が活発になりましたが、近年においても企業の不祥事が多発し、コーポレート・ガバナンスに問題が生じている企業は多く存在するように見えます。

コーポレート・ガバナンスに問題が生じる原因

 では、コーポレート・ガバナンスに問題が生じる原因はどこにあるのでしょうか。
 株式会社においては、所有と経営の分離が図られております。すなわち、会社を所有する株主が実際に会社を経営するということは要求されておらず、ほとんどの大企業において、株主と経営陣は一致せず、実際には、株主から委任を受けた取締役等の経営者が会社を経営することになります。
 株主は、会社経営のプロである経営者を信任し、所有者である株主の利益を追求してほしい、という期待からこのような形態が取られています。

 しかしながら、経営者の目標や考えが株主と異なる場合には、経営者は、株主の言うとおりに行動するとは限りません。
 かかる所有と経営の分離によって生じる問題が、株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)との関係(プリンシパル・エージェント関係)として捉えたコーポレート・ガバナンスの問題といわれています。

 具体的には、以下のような例が考えられます。

  • 経営者が自分の任期中のことのみに集中し、長期的にみると、株主の利益に合致しないという経営判断を行う
  • 株主は実際に会社の経営に携わるわけではないため、株主と経営者との間には情報の非対称性の問題がある
  • 会社のビジネスが極めて専門的である場合、所有者である株主が、会社のビジネスを適切に把握することができず、経営者を適切に監視することも困難となる

マネジメント・バイアウトによるコーポレート・ガバナンス強化

マネジメント・バイアウトによるコーポレート・ガバナンス

 コーポレート・ガバナンスの問題が所有と経営の分離、さらにプリンシパル・エージェント関係という点から生まれているとすると、単純な解決策として、会社の所有権を経営陣に売却すること(マネジメント・バイアウト)により、所有と経営の分離は解消され、コーポレート・ガバナンスの問題の解決につながるように思われます。
 経営者自身が会社の所有者となって経営責任を負担するのであれば、経営者が株主の意図に反するような経営を行うということはありえません
 また、通常生じるような株主と経営者との間で情報の非対称性は生じませんし、株主による監視の困難性という問題も生じません。

マネジメント・バイアウトの問題点

 この点、マネジメント・バイアウトの場合、経営陣は買収資金を金融機関から調達することが多いため、金融機関からの借り入れを伴う場合には、買収資金を提供した金融機関等の投資家と経営陣との間で、情報の非対称性等の問題が生じ、結局、プリンシパル・エージェント関係として捉えたコーポレート・ガバナンスの問題が生じることになりかねません。
 しかし、買収資金を貸し付けるレンダーは、あくまでも会社の外にあるものであり、株主とレンダーを同視することはできないため、所有と経営を一致させるマネジメント・バイアウトは、一定程度適切なコーポレート・ガバナンスをもたらす可能性があると考えられます。

投資家による企業買収とコーポレート・ガバナンス強化

経営権の競争的取引

 企業の経営権の競争的取引という状況が、適切なコーポレート・ガバナンスをもたらすこともあります。
 非効率な経営を行っている企業に対しては、投資家が企業買収によって経営権を握り、新しい経営陣で企業価値を高め、企業の経営権が競争的に取引されることによって効率的な経営が実現される可能性があるため、企業買収はコーポレート・ガバナンスを強化する機能を果たす可能性があります。

買収対策としての経営効率・企業価値向上

 また、非効率な経営を行っている企業については、買収を行おうとする投資家や他企業が現れる可能性が一般的に生じるため、乗っ取り機会を排除するために、現経営陣は余剰資金などの保有する資源利用を効率化する経営努力を行うことがあります。結果として、企業価値を高めることが期待され、そういった現経営陣に対するプレッシャーが、適切なコーポレート・ガバナンスにつながる可能性があります。
 そういった意味では、企業買収に対する脅威は、一定程度、企業に効率的な経営をもたらすことにつながるといってよいでしょう。

買収がコーポレート・ガバナンス強化につながらないケース

 もっとも、買収が、必ずしもコーポレート・ガバナンスの強化につながらない場合も考えられます。そもそも、企業は買収によって必ずしも効率的な経営陣に取って代わられるということにはなりません。買収によってコーポレート・ガバナンスが向上するためには、企業買収において、経営者が企業経営について完全情報をもち、経営者資源が企業間を競争的に移動する市場において提供されているということが前提です。
 この前提が成り立たず、被買収側と買収側が持っている情報が非対称である場合、買収側は、買収に関して誤った判断をして買収を行ってしまう可能性があります。
 また、買収側が私的な利益だけを考え、金融機関や従業員といった他の様々なステークホルダーの利益をまったく顧みないおそれもあります。たとえば、買収側は、経営の効率化のため、過度に労働者の解雇を実行するおそれがあります。この場合も、買収側がもつ情報の不十分である場合、労働者の解雇が適切になされないことがあります。

まとめ

  • コーポレート・ガバナンスに問題が生じる原因の一つが、所有と経営の分離、ひいては、プリンシパル・エージェントの問題にあると考えられる
  • 経営陣による買収(マネジメント・バイアウト)は、所有と経営を一体化させ、コーポレート・ガバナンス強化につながることもある(ただし、資金を借り入れた場合はレンダーとの間で問題が生じる可能性がある)
  • 投資家などによって買収された場合も、経営が効率化し、コーポレート・ガバナンスが機能することもある
  • また、買収対策として、現経営陣の経営が効率化し、コーポレート・ガバナンスが機能することがある
  • もっとも、経営陣と投資家との間に情報の非対称性があると、買収によって経営が効率化しないおそれもある

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