賃金請求権とノーワーク・ノーペイの原則

人事労務
西中 宇紘弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 当社(X社)は、先日従業員のA氏を懲戒解雇したのですが、2か月経った今になってA氏が「不当な懲戒解雇なので無効だ!」と主張して、解雇通告の翌日から現在までの賃金の支払を求めてきています。確かに懲戒解雇はやや強引に進めてしまった点もあり、無効となってもやむを得ないと思うのですが、この2か月間、A氏は当社の業務を一切していないのに、当社はA氏に業務の対価である賃金を支払わないといけないのでしょうか。

 懲戒解雇が無効となるのであれば、解雇を通告した後から現在までX社とA氏の間の労働契約(雇用契約)は継続していたことになり、X社の責めに帰すべき事由によってA氏は労働ができなかったことになるため、X社は、解雇を通告した後から現在までの賃金についてA氏に支払う必要があります。

解説

目次

  1. 賃金請求権の発生
  2. ノーワーク・ノーペイの原則
  3. 賃金請求権の帰趨
  4. 解雇期間中の賃金請求権

賃金請求権の発生

 民法623条によれば、雇用は、一方当事者が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方が報酬を与えることを約することによって成立するとされています。労働に従事することとその報酬たる賃金とは対価関係にあるとされ(民法623条)、労働者は労働を終わった後でなければ賃金を請求できません(民法624条1項)。
 すなわち、労働者が労務の提供をしてはじめて労働契約に基づく賃金請求権が発生します。労働者は発生した賃金請求権に基づいて、使用者に対して賃金を請求できるのです。

ノーワーク・ノーペイの原則

 このように労働契約において、労務の提供がなければ、その間の賃金請求権が発生しないことを「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼びます。
 たとえば、労働者が自己都合で無断欠勤した場合、労働契約において賃金請求について別段の定めのないかぎり、使用者は労働者に当該無断欠勤分を支払う必要はありません。使用者側から見れば、労働者は働いていないのですから当然であるとも思えます。

賃金請求権の帰趨

 以上が原則になりますが、①労働者の責めに帰すべき事由なくして労務の提供ができなくなった場合や、②使用者の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかった場合(例:使用者が正当な理由なく一方的に労働者に欠勤を命じた場合)も、労働者は賃金請求をすることができないのでしょうか。この問題は、労働契約(雇用契約)が双務契約であることから、民法の危険負担の法理(民法536条)によって解決されます。具体的には以下のとおりです。

① 労働者の責めに帰すべき事由なくして労務の提供ができなくなった場合

 大地震が発生して工場が焼失してしまったために労務の提供ができなかった場合などがこれにあたります。この場合は、労務の提供ができなかったことについて労働者に落ち度はありませんが、賃金請求権は発生しません(民法536条1項)。

② 使用者の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかった場合

 使用者がある労働者の性格が気に入らないことを理由に一方的に労働者に欠勤を命じた場合などがこれにあたります。この場合は、労働者は労務の提供をしていませんが、賃金請求権が発生することになります(民法536条2項)。

解雇期間中の賃金請求権

 本件のように、懲戒解雇がなされ、後にその解雇が無効であることが判明した場合、解雇の時点から現在まで労働契約が存続していたことになり、使用者が無効な解雇をしたために労働者がその間労務の提供ができなかったと解される結果、使用者の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかったことになります
 したがって、労働者は、解雇から現在までの間の賃金請求権を有することになり、使用者に対して賃金を請求できることになります。

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