妊娠を理由とした解雇、退職勧奨の問題点

人事労務

 当社の女性従業員が妊娠したことがわかりました。当社では妊娠とともに退職する女性従業員が多いため、今回も退職を前提に退職日の話し合いをしたいと思っていますが、問題はありますか。また、話し合いに応じない場合、解雇することはできますか。

 退職勧奨自体は許されますが、慎重に進める必要があります。また、解雇はできないものと考えます。

解説

目次

  1. 従業員の妊娠と不利益取扱いの禁止など
  2. 退職勧奨について
  3. 解雇について
  4. おわりに

従業員の妊娠と不利益取扱いの禁止など

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」といいます)では、事業主が、その雇用する女性労働者が妊娠したことを理由として当該女性労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています(男女雇用機会均等法9条3項)。
 厚生労働省の「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号、平成27年厚生労働省告示第458条最終改正)によりますと、この「解雇その他の不利益な取扱い」には、解雇はもちろんのこと、退職の強要を行うことも含まれます

 そして、「妊娠したことを理由として」とは、厚生労働省の「男女雇用機会均等法解釈通達」によりますと、妊娠を「契機として」不利益取扱いが行われた場合には、原則として、妊娠を「理由として」不利益取扱いがなされたと解されるものとしています。ただし、同通達は、不利益取扱いがあったケースであっても、以下の2つの場合には違反とならないものとしています(下記は、実際の言い回しよりも相当程度簡略化しています)。

①特別な事情がある場合((a)と(b)両方を満たす必要あり)

(a)業務上の必要性からその取扱いをせざるを得ない場合で、
(b)その必要性の程度が、上記の禁止規定に鑑みてもなお、その取扱いにより受ける悪影響を上回ると認められるとき

特別な事情がある場合

出典:厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」30頁
②同意がある場合((c)と(d)両方を満たす必要あり)

(c)その取扱いが労働者にとって有利な面もあり、かつ、労働者がその取扱いに同意している場合において、
(d)その取扱いの持つ有利な面が不利な面を上回り、その取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされるなど、一般的な労働者であればその取扱いについて同意するようなとき

同意がある場合

出典:厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」30頁

 さらに、厚生労働省が公表している「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」においては、「原則として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断する」ものとされています。

 また、産前産後休業中とその後30日間の解雇は原則として禁止されています(労働基準法19条1項)。さらに、妊娠中の解雇は無効とするものとされています(男女雇用機会均等法9条4項。ただし、使用者が妊娠を理由とする解雇ではないことを証明したときは、本項は適用されません)。また、そもそもの禁止規定として、女性労働者が妊娠したことを退職理由として予定する定めをすることは禁止されています(男女雇用機会均等法9条1項)。

退職勧奨について

 本件では、退職を前提として退職日の話し合いを行うことについて、当該従業員が妊娠したこと以外の理由が見当たりません。したがいまして、まず、「退職の強要」が禁止されます。また、退職勧奨労働者が合意のうえで退職することを目指す行為ですので、退職勧奨自体は許されるものの、「退職の強要」は、退職勧奨として許される範囲をそもそも超えていると考えられます。

 さらに留意すべきなのは、上記の不利益取扱いの例外に該当するための要件において、労働者の単なる同意では足りないとされていることです(上記②(c)および(d))。
 この点に関し、誤解を招く説明をしないこと(たとえば、「皆も退職しているから君も退職すべきなのは当然」という発言は問題でしょう)、意思の確認をきちんと行うこと(たとえば、打診の結果明確に退職しない旨を述べている従業員にさらに漫然と勧奨を続けることには慎重になるべきでしょう)など、合意の取得は慎重かつ丁寧に行う必要があるでしょう。この点をおろそかにした場合、たとえ退職届が提出されたとしても、事後、退職の有効性が問題になる可能性がありますし、退職勧奨が不法行為に該当するものとして、使用者に損害賠償責任が発生する可能性もあります。

解雇について

 上記のとおり、男女雇用機会均等法上、使用者が、妊娠が理由でないことを証明しない限り、妊娠中の解雇は無効とされていますから、本件では解雇はできないものと考えられます。

 なお、たとえば、妊娠中の女性従業員について多額の横領が発生した場合のようなケースでは、当該従業員の解雇は妊娠が理由でないことの証明が可能ですから、解雇の余地はあるということになります。ただし、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効とされますので(労働契約法15条および16条)、その点は通常の解雇の場合と同じく留意が必要です。

おわりに

 本件は妊娠に起因する離職がテーマですが、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法において、女性従業員の妊娠・出産に関してはさまざまな留意点があります。とりわけ妊娠・出産による離職は、企業にとって損失であるとの認識をもって、人事管理を行う必要があるものと思います。

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