平均賃金とは〜適用される場面と算定方法〜
人事労務平均賃金とはどのようなもので、どのような場面で適用されるものなのでしょうか。
また、平均賃金の算定方法についても教えて下さい。
平均賃金とは、「これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」をいいます。平均賃金の具体的算出例も示しますので、解説を参考としてください。
また、労働基準法上、平均賃金が用いられる場面は、①解雇予告手当、②使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に支払われる休業手当、③年次有給休暇の日について支払われる賃金、④労働災害の補償、⑤減給の制裁を行う場合の制限額の算定です。
解説
目次
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平均賃金とは
労働基準法12条では、平均賃金とは、「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」であると定めています。平均賃金は、労働者の生活を保障するための金銭の支給に用いられますので、労働者の通常の生活資金をありのままに算出するという観点から算定されることが要請されています。
平均賃金の適用場面について
労働基準法において平均賃金が用いられる場面は、以下の①~⑤のとおりですが、典型的なケースとしては、解雇予告を行わないで解雇する場合に、使用者が30日分以上の平均賃金を対象者へ支払うような場合でしょう。
- 解雇予告手当(労働基準法20条1項)
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に支払われる休業手当(労働基準法26条)
- 年次有給休暇の日について支払われる賃金(労働基準法39条7項)
- 労働災害の補償(労働基準法76条ないし82条)
- 減給の制裁を行う場合の制限額の算定(労働基準法91条)
これらの賃金額等の算定の場面で登場する平均賃金ですが、具体的にどのような算定方法が定められているのでしょうか。
平均賃金の原則的算定方法
算定すべき事由の発生した日
「算定すべき事由の発生した日」は、①解雇予告手当については「解雇通告日(昭和39年6月12日基収2316号)」、②休業手当の場合は「休業初日」、③年次有給休暇については「休暇の初日」、④労働災害補償については「死傷の原因たる事故発生の日または診断によって疾病の発生が確定した日(労働基準法施行規則48条)」、⑤減給の制裁については「減給制裁の意思表示が相手方に到達した日(昭和30年7月19日基収5875号)」とされています。
「三箇月間」とは
ここでいう「三箇月間」とは、日数での3か月間をいい、90日間ではありません。また事由の発生した当日は含みません。
たとえば、解雇の通告が5月1日になされた場合を想定すると、平均賃金の算定期間は、2月1日から4月30日までとなりますが、賃金の締切日が定められている場合には、直前の締切日から起算し、賃金締切日が毎月25日であれば、1月26日から4月25日までが算定期間となります。
支払われた賃金の総額とは
支払われた賃金の総額には、実際に支払済みのものに限られず、支払われるべき賃金も含まれます。基本給のみならず、家族手当、割増賃金、歩合給も含まれ、就業規則に定められた通勤手当、年次有給休暇の賃金、通勤定期代、昼食料補助なども賃金総額に含まれます。
これに対して、①臨時に支払われた賃金(たとえば見舞金や結婚手当、退職金など)、②3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(たとえば年2回の賞与、精勤手当など)、③通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属さないもの(労働基準法施行規則2条)は賃金の総額から控除されます。
最低保障額
3か月の算定期間中に自己都合による欠勤があるなど賃金総額が少額になる場合もあるため、①賃金が日給制、時間給制、出来高払制の場合には、賃金総額をその期間中の実労働日数で除した金額の60パーセントを、②賃金の一部が、週給制、月給制の場合にはその部分の総額をその期間の総日数で除した金額と①の金額の合計額を最低保障額と定めています(労働基準法12条1項ただし書)。給与が月給制の場合には、欠勤減額がなければ問題ありませんが、欠勤減額される場合でも、欠勤しなければ受けるべき賃金の総額を所定労働日数で割った額の100分の60が保障される取扱いとなっています(昭和30年5月24日基収1619号)。
平均賃金の例外的な算定方法の例
試用期間中の場合
上記3-2の「三箇月」に試用期間が含まれている場合には、当該期間および賃金は控除して平均賃金を算定することになります。ですから平均賃金の算定期間は、3か月未満になります。
また、試用期間中に平均賃金の算定事由が生じた場合には、試用期間中の日数および賃金で平均賃金を算定することになります(労働基準法施行規則3条)。
3か月間に法令による休業がある場合
算定期間中に、①業務上の疾病による療養のための休業期間、②産前産後休業期間、③使用者の責めに帰すべき事由による休業期間、④育児介護休業法による育児休業もしくは介護休業をした期間がある場合には、休業日数および賃金を算定期間および賃金総額から控除することとなります(労働基準法12条3項)。
雇入れから3か月未満の場合
雇入れ日から3か月未満で算定事由が発生した場合には、雇入れ日から算定事由が発生した日までの期間に基づき平均賃金を算定することになります。
年俸制の場合
年俸制は、年間で賃金額を決定して、毎月の賃金額はその12分の1を支払うものや16分の1を支払い、別途賞与を支払うものなどがあります。
賞与については上記のとおり、賃金総額から控除されることが原則ですが、あらかじめ支給額が確定しているものは賞与に該当しないとされています(平成12年3月8日基収78号)。したがって、あらかじめ年俸額が確定している基本的な年俸制においては、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1か月の賃金として平均賃金を算定することとなります。
具体的算出例
以上を前提に、以下の事例で実際に平均賃金を算出すると、平均賃金は8,069円となります。なお、算出された平均賃金に端数が生じた場合には、その端数は切り捨ててよいとされています(昭和22年11月5日基発232号)。
- 賃金支給方法:月給制
- 賃金締切日:毎月15日
- 算定事由発生日:3月31日
- 支払われた賃金
12月分…基本給20万円、通勤手当2万5,120円
1月分…基本給20万円、通勤手当3万5,400円
2月分…基本給22万円、通勤手当4万5,720円
(1)賃金総額=72万6,240円
(2)総暦日数=12月16日~3月15日の90日
(3)平均賃金=(1)÷(2)=8,069円3333… → 8,069円
※なお、最低保障額を下回るものでないか留意が必要となります。

弁護士法人中央総合法律事務所