総会検査役とは

コーポレート・M&A
山口 敏寛弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所

 現在、当社の大株主が、株主総会の議案を否決するための委任状勧誘を行っています。そこで、株主総会の手続等を巡って紛争が生じることを避けるために、総会検査役の選任を検討していますが、総会検査役とはどのような制度でしょうか。

 総会検査役は、株主総会の招集手続および決議方法を調査するために裁判所によって選任される機関です。株主提案権や委任状勧誘が利用されている株主総会の場合等には、後日、株主総会決議取消訴訟や決議不存在確認訴訟等が提起され、決議の有効性が争われることがあります。そのような事態に備えるため、株主総会の開催前に、裁判所に検査役の選任を申し立てることが考えられます。

解説

目次

  1. 総会検査役選任の申立て
  2. 総会検査役の職務
    1. 招集手続および決議方法の調査
    2. 報告書の作成
    3. 総会検査役の報酬等
    4. 裁判所の命令による株主総会の招集
  3. 総会検査役選任申立ての方法
    1. 申立先および申立権者
    2. 申立ての形式・審理等
  4. 総会検査役の地位・役割

総会検査役選任の申立て

 会社および総株主の議決権の1%以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集手続および決議方法を調査させるため、株主総会に先立ち、裁判所に対し、総会検査役の選任を申し立てることができます(会社法306条1項)。

 検査役を選任することで、①違法または不当な手続が行われることを防ぎ、後日の紛争を未然に防止することができ(違法抑止機能)、かつ、②後日紛争が生じた場合には、検査役による報告書を証拠資料とすることができる(証拠保全機能)という2つの効果があると考えられています。

 株主提案権や委任状勧誘が利用されている株主総会の場合等には、後日、株主総会決議取消訴訟や決議不存在確認訴訟等が提起され、決議の有効性が争われることがあります。そのような事態に備えるため、株主総会の開催前に検査役の選任を裁判所に申し立てることが考えられます。

総会検査役の職務

招集手続および決議方法の調査

 検査役は、株主総会の招集手続および決議方法を調査します(会社法306条1項)。
 具体的な調査対象事項としては、以下の内容があげられます。

  1. 招集手続については、招集を決定した取締役会決議、招集通知およびその添付書類の記載内容および発送方法、行使された株主提案権への対応状況等
  2. 決議方法については、出席株主の資格および株式数、委任状および議決権行使書の内容および対象株式数、総会の定足数、議事運営の状況、行使された議決権の内容およびその計算等

【検査役の調査対象事項の例】

① 招集手続
  • 招集を決定した取締役会決議
  • 招集通知およびその添付書類の記載内容および発送方法
  • 行使された株主提案権への対応状況
② 決議方法
  • 出席株主の資格および株式数
  • 委任状および議決権行使書の内容および対象株式数
  • 総会の定足数
  • 議事運営の状況
  • 行使された議決権の内容およびその計算

 なお、取締役または監査役が検査役の調査を妨げたときは、100万円以下の過料に処せられます(会社法976条5号)。

報告書の作成

 検査役は、必要な調査を終えた後、その結果を記載または記録した書面または電磁的記録を裁判所に提出して報告しなければなりません(会社法306条5項)。裁判所の求めに従い、追加で報告書が提出される場合もあります(同条6項)。
 また、会社に対してもその報告書の写しが提供されますし、検査役が株主の申立てにより選任された場合には、会社に加えて、当該株主に対しても同報告書の写しが提供されます(同条7項)。

総会検査役の報酬等

 検査役の報酬の額裁判所により決定され、その報酬は会社が負担することとされています(会社法306条4項)。また、検査役が調査のために要した費用も、会社が負担することとされています(民法656条、649条、650条)。
 ただし、実務上は、検査役の選任に先立ち、選任を申し立てた者がその報酬と費用の見込合計額を予納する扱いとなっています。

裁判所の命令による株主総会の招集

 裁判所は、検査役に調査させた株主総会決議に取消し等の事由があり、決議のやり直しをさせるのが妥当と認める場合には、取締役に対し、①一定の期間内に株主総会を招集すること、②検査役の調査の結果を株主に通知することの両方または一方を命じなければならないとされています(会社法307条1項)。

総会検査役選任申立ての方法

申立先および申立権者

 総会検査役選任の申立ては、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対して行う必要があります(会社法868条1項)。
 検査役の選任を申し立てられるのは、会社のほか、総株主の議決権の1%以上の議決権を保有する株主に限られます(会社法306条1項)。公開会社における株主の場合は、その議決権を6か月前から引き続き保有していることも必要となります(同条2項)。ただし、それらの要件は定款の定めにより緩和することができます。

申立ての形式・審理等

 検査役選任の申立ては、申立書を裁判所に提出して行う必要があります(非訟事件手続法43条1項、会社非訟事件等手続規則1条)。申立書の形式については、下記参考例をご参照ください。
 また、検査役選任の申立てには、検査役を選任する必要性等の実質的要件は要求されていないため、その申立ては、株式保有要件等の形式的な要件を満たしている限り、原則として認められることになります(会社法306条3項)。ただし、実務上は、裁判所により審問期日が指定され、形式的要件の確認が行われるとともに、重点的に調査を要する事項の確認や、調査の方針に関する打合せが行われるのが通例です。

【検査役選任申立書の参考例】

検査役選任申立書の参考例

総会検査役の地位・役割

 当事者から手続の適法性に関して検査役に照会がなされたり、検査役が調査の過程で手続上の瑕疵を発見したりする場合もあります。しかし、検査役は、あくまで招集手続および決議方法に違法がないか否かを判断するための事実の調査および記録を行うものであって、その事実の適法性等に関する法的判断を行うことは求められていません。したがって、検査役がこのような事態に対して主体的に対応することは期待されていないと考えるべきでしょう。

 ただし、検査役には、株主総会決議に関する紛争を未然に防止する機能もありますから、結論が明らかな場合等には、一定の見解を述べることが許容されないわけではないと考えられます。実務上は、複雑な委任状争奪戦が展開されているようなケースでは、経験のある検査役が選任され、裁判所と連携しつつ、事実上のコーディネーター的役割を果たすことが期待されるような場合もあります。

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する