公開買付け(TOB)をする際、対象者側にはどのような開示規制があるか
コーポレート・M&A公開買付け(TOB)をする際における、対象者側の開示規制としてはどのようなものがあるでしょうか。
公開買付けの対象者は、金融商品取引法上の開示規制に基づき、意見表明報告書を提出する義務等を負い、取引所の適時開示規制に基づき、公開買付けに関する意見表明等について適時開示する必要があります。
公開買付者側の開示規制については「公開買付け(TOB)をする際、公開買付者側にはどのような開示規制があるか」を参照ください。
解説
金融商品取引法上の開示規制
概要
金融商品取引法上の開示規制に基づき、対象者が提出する必要のある主な書類、記載事項、提出時期、提出方法等は下表のとおりとなります。
提出書類 | 記載事項 | 実務上一般的な提出時期 | 提出方法 | |
---|---|---|---|---|
対 象 者 側 |
意見表明報告書 | 公開買付けに関する意見の内容、根拠および理由等 | 公開買付け開始日と同日(公開買付期間開始日) | EDINET |
臨時報告書(※) | 異動する親会社または主要株主の名称、議決権数、異動の理由等 | 公開買付けの成立後、決済完了前 | EDINET |
※ 公開買付けが成立して公開買付者が対象者株式を取得した結果、公開買付者が新たに対象者の「親会社」になった場合や、新たに「主要株主」となった場合には、対象者は「親会社の異動」または「主要株主の異動」があったとして、臨時報告書の提出をする必要があります(金融商品取引法24条の5第4項、開示府令19条2項3号、4号)。
対象者側の開示規制に関し留意すべき点
(1)意見表明報告書の提出時期と記載内容について
対象者は、公開買付開始公告が行われた日から10営業日以内に、当該公開買付けに関する意見等を記載した意見表明報告書を提出しなければならないとされていますが(金融商品取引法27条の10第1項)、実務的には、公開買付届出書の提出日と同日に意見表明報告書が提出されるのが一般的です。
同報告書に記載される意見は、投資者が的確な投資判断を行う上で重要な情報となり、とりわけ、敵対的な公開買付けの場面においては、公開買付者と対象者との間で主張と反論が投資家に見える形で展開されることにより、投資家の投資判断の的確性をより高めることができると考えられます。
(2)意見表明報告書に記載すべき意見の内容
意見表明報告書においてどのような内容の意見を述べるべきかについては、法令上必ずしも明確にはなっておりませんが、実務上の考え方としては、①当該公開買付けが対象者自身にとって利益となるか否かという観点で、賛成・反対を述べ、さらに②株主にとって応募することに利益があるか否かという観点で、応募を推奨するか否かを述べるのが一般的とされています。
実務上、公開買付価格に十分なプレミアムが付加されている事例では、①については賛成、②については応募推奨をする例が多く、他方でディスカウントTOBの事例では、①については賛成するものの、②については株主の判断に委ねるとする例が多く見受けられます。具体的な記載例は下記のとおりです。
記載例 | |
---|---|
公開買付価格に十分なプレミアムが付加されている事例 | (本公開買付けに)賛同する旨の意見を表明するとともに、当社の株主の皆様に対して、本公開買付けへの応募を推奨する旨の決議をいたしました。 |
ディスカウントTOBの事例 | (本公開買付けに)賛同する旨の意見を表明するとともに、本公開買付けに応募するか否かについては、当社の株主の皆様のご判断に委ねることを決議いたしました。 |
取引所規則上の主な開示規制
概要
取引所の適時開示規制に基づく、対象者側の主な適時開示事項、記載事項、適時開示時期は下表のとおりとなります。
適時開示事項 | 記載事項 | 適時開示時期 | |
---|---|---|---|
対 象 者 側 |
公開買付けに関する意見表明に係る適時開示 | 公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由等 | 公開買付けに関する意見表明を行うことを決定した時点(公開買付期間開始日の前日)(※1) |
親会社、支配株主、その他の関係会社、主要株主の異動に係る適時開示(※2) | 異動する親会社等の名称、議決権数、異動の理由等 | 公開買付期間の末日の翌日 |
※1 実務上、友好的な公開買付けの事案においては、公開買付者側の公開買付け開始決定に係る適時開示と同時に、対象者側の意見表明の適時開示が行われます。
※2 公開買付けの結果、親会社、支配株主、その他の関係会社、主要株主に異動が生じた場合、その内容を適時開示する必要があります(有価証券上場規程402条(2)b、g)。
対象者側のプレスリリース記載上の留意点
(1)二段階買収に関する事項
公開買付けの成立後、完全子会社化するために少数株主を株主の地位から締め出すこと(スクイーズアウト=二段階買収)を予定している場合には、二段階目の買収手法(株式等売渡請求等)、その対価および実施予定時期等について、公開買付け開始決定に係るプレスリリースに記載する必要があります。
平成26年会社法改正により、議決権の90%以上を保有する特別支配株主による株式等売渡請求の制度が認められたため、その後の開示事例においては、公開買付けによって対象者の議決権の90%以上を保有するに至った場合は、株式等売渡請求を行い、90%に満たなかった場合は、株式併合を行うことによりキャッシュアウトを行うといった記載が併記されるパターンが多く見受けられます。
参照:「中小企業の事業承継・M&Aにおけるスクイーズ・アウトの最新動向」
(2)上場廃止見込みの公開買付けやMBO等に該当する場合の開示規制の特則
①公正性担保措置および利益相反回避措置
上場廃止となる見込みのある公開買付けや、MBOまたは支配株主による公開買付けに関して応募を勧める意見表明をする場合等は、公正性担保措置および利益相反回避措置を講じたうえで、プレスリリース上に記載する必要があります(「会社情報適時開示ガイドブック」(株式会社東京証券取引所 上場部)参照)。
会社情報適時開示ガイドブック上、以下のような措置が具体例として挙げられています。
公正性を担保するための措置 |
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利益相反を回避するための措置 |
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実務上、MBOの事例においては、第三者委員会(特別委員会)を組成してその答申を得る(または同委員会がMBOを行う取締役と交渉をする)ことが、利益相反回避措置として一般的にとられています。
②算定に関する事項の記載
MBOまたは支配株主による公開買付けに関して意見表明をする場合は、算定に関する事項として、具体的な算定方式、当該算定方式を採用した理由および各算定方式の重要な前提条件をプレスリリースに記載する必要があります。
留意すべき点として、算定方式としてDCF法を採用した場合は、その前提条件に係る記載として、算定の前提とした①財務予測の具体的数値、②財務予測の出所、③財務予測が当該取引の実施を前提とするものか否か、④大幅な増減益を見込んでいるときは当該増減益の要因等についても記載する必要があります。
(3)支配株主との取引等に関する事項
公開買付けに関する意見表明が、支配株主との重要な取引等に該当する場合、対象者は、対象者による決定が少数株主にとって不利益でないことに関する意見を、支配株主との間に利害関係を有しない者(実務上は、第三者委員会や社外取締役または社外監査役等が想定されます。)から入手しなければならず(有価証券上場規程441条の2(1))、入手した意見の概要をプレスリリースに記載しなければなりません。また、コーポレートガバナンス報告書の「支配株主との取引等を行う際における少数株主保護の方策に関する指針」との適合状況についても記載する必要があります。
なお、支配株主による公開買付けの実施後に、キャッシュアウトを予定している場合等は、一段階目(公開買付け)と二段階目(キャッシュアウト)それぞれについて個別に「意見の入手」を行う必要はなく、一連の行為を一体のものとみなして「意見の入手」を行うことで足りると考えられています。

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