公開買付け(TOB)をする際、公開買付者側にはどのような開示規制があるか

コーポレート・M&A
東目 拓也弁護士 弁護士法人北浜法律事務所

 公開買付け(TOB)をする際における、公開買付者側の開示規制としてはどのようなものがあるでしょうか。

 公開買付者は、金融商品取引法上の開示規制に基づき、公開買付届出書、公開買付報告書等を提出する義務を負い、取引所の適時開示規制に基づき、公開買付けの開始決定、公開買付けの結果等について適時開示する(プレスリリースを掲載する)必要があります。
 公開買付の対象者側の開示規制については「公開買付け(TOB)をする際、対象者側にはどのような開示規制があるか」を参照ください。

解説

目次

  1. 金融商品取引法上の開示規制
    1. 概要
    2. 公開買付者側の開示規制に関し留意すべき点
  2. 取引所規則上の主な開示規制
    1. 概要
    2. 公開買付者側のプレスリリース記載上の留意点

金融商品取引法上の開示規制

概要

 金融商品取引法上の開示規制に基づき、公開買付者が提出する必要のある主な書類、記載事項、提出時期、提出方法等は下表のとおりとなります。

提出書類・公告等 記載事項 実務上一般的な提出・公告時期 提出・交付方法





公開買付開始公告 公開買付届出書の記載内容と基本的に同一 公開買付開始日(公開買付期間開始日) EDINET
公開買付届出書 買付け等の目的、期間、価格、買付予定数等 公開買付開始公告日(公開買付期間開始日) EDINET
公開買付説明書 公開買付届出書の記載内容と基本的に同一 あらかじめまたは買付けと同時 応募株主に対し書面で交付
公開買付けの結果の公告または公表 公開買付報告書の記載内容と基本的に同一 公開買付期間の末日の翌日 EDINET
公開買付報告書 買付けの内容および結果(買付けの成否、買付け等を行った株券等の数等) 公開買付けの結果の公告または公表日(公開買付期間の末日の翌日) EDINET
大量保有報告書 株券等保有割合等 公開買付期間の末日を提出義務発生日として、同日から5営業日以内 EDINET
臨時報告書(※) 異動する特定子会社の名称、議決権数、異動の理由等 公開買付けの成立後、決済完了前 EDINET
親会社等状況報告書 親会社等に該当することになった会社の株券等の状況、役員の状況、計算書類等 公開買付けの決済が行われた日から遅滞なく EDINET

※ 公開買付けの結果、対象者が新たに公開買付者の「子会社」となり、かつ、当該子会社が売上高等についての一定の基準を満たす場合には、公開買付者は「特定子会社に異動」があったとして、臨時報告書の提出をする必要があります(金融商品取引法24条の5第4項、企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)19条2項3号、10項)。

公開買付者側の開示規制に関し留意すべき点

(1)公開買付届出書の添付書類

 公開買付者が法人である場合、公開買付届出書と合わせて添付書類を提出する必要があります(発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(他社株買付府令)13条1項)。添付書類の具体的な内容としては、定款商業登記簿謄本等があります。
 実務上特に問題となるのが、公開買付者の資金証明に関する書類(他社株買付府令13条1項7号)ですが、例えば、公開買付者となる買収目的会社(SPC)に十分な資金がないケース等では、資金の出し手から当該SPCに対して、公開買付け開始前に必要な資金の拠出を完了し、預金残高証明や融資証明書等を添付する方法等が考えられます。

(2)公開買付届出書の訂正

 公開買付者は、公開買付届出書に形式上の不備があった場合や記載内容が不十分・不正確であった場合には、自発的訂正をすることができます(金融商品取引法27条の8第1項、他社株買付府令21条1項)。また、公開買付届出書提出日以後公開買付期間末日までの間に、買付条件やその他の公開買付届出書に記載すべき重要な事項に関し変更がある場合は、公開買付者は、訂正届出書を提出しなければなりません(金融商品取引法27条の8第2項、他社株買付府令21条1項、3項)。

 後者については、特に、実務上、独占禁止法上の待機期間との関係で問題になります。具体的には、①公開買付者が、公開買付期間中に、公正取引委員会から排除措置命令を行わない旨の通知を受けた場合、または、②公開買付期間中に、公正取引員会から排除措置命令の事前通知を受けることなく措置期間が終了した場合は、公開買付期間中に株券等の取得に必要な「許可等」があったとして、公開買付届出書の訂正届出書を提出する必要があります

(3)大量保有報告書の提出時期

 公開買付期間が終了して公開買付けが成立した場合、公開買付者の株券等保有割合が5%超になるときは、「大量保有者となった日から」から5営業日以内に、大量保有報告書を提出する必要があります(金融商品取引法27条の23第1項)。
 この点、「大量保有者となった日」とは、実務上、公開買付者が応募株主から株券等の買付け等を行うことが確定した日と解されており、さらに、金融庁から、公開買付期間の末日を義務発生日とする見解が示されています(「株券等の大量保有報告に関するQ&A」問17参照)。したがって、大量保有者となった公開買付者は、決済完了前であっても、公開買付期間の末日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要があります。

(4)臨時報告書の提出時期

 臨時報告書は、「特定子会社に異動があった」ときから、遅滞なく提出することとされています(金融商品取引法24条の5第4項、開示府令19条2項3号、10項)。提出のタイミングについては、「異動があった」時点を起算日と考えると、決済完了時に臨時報告書を提出すれば間に合うようにも考えられますが、公開買付けの場合、買付期間が経過した場合、異動がほぼ確実に発生することから、実務上は、決済完了を待たずに、公開買付期間の末日の翌営業日に臨時報告書を提出する例が多く見られます。

(5)親会社等状況報告書の提出準備

 公開買付者およびその親会社等が有価証券報告書提出会社等でない場合には、親会社等状況報告書の提出が必要となることがあります。ここでいう「親会社等」の範囲には、直接の親会社にとどまらず、議決権の過半数を間接的に所有する会社、当該間接保有の間に入っている会社も含まれます(金融商品取引法24条の7第1項、金融商品取引法施行令4条の4)。

 実務上は、同報告書の提出はEDINETによる必要があるため(金融商品取引法24条の7第1項)、公開買付者の親会社等が提出義務者となる場合には、あらかじめ親会社等において、EDINET登録を行っておく必要があることに留意する必要があります。

取引所規則上の主な開示規制

概要

 金融商品取引所(以下「取引所」といいます。本問においては、東京証券取引所を指します)の適時開示規制に基づく、公開買付者側の主な適時開示事項、記載事項、適時開示時期は下表のとおりとなります。

適時開示事項 記載事項 適時開示時期





公開買付け開始決定に係る適時開示 買付け等の目的、期間、価格、買付予定数等 公開買付け開始決定時(公開買付期間開始日の前日)
公開買付けの結果に係る適時開示 買付けの内容および結果(買付けの成否、買付け等を行った株券等の数等) 公開買付期間の末日の翌日
子会社異動に係る適時開示(※) 異動する子会社の名称、議決権数、異動の理由等 公開買付期間の末日の翌日
※ 公開買付けの結果、対象者が公開買付者の「子会社」となり、かつ、当該子会社が売上高等についての一定の基準を満たす場合には、公開買付者は「子会社に異動」があったとして、子会社異動の適時開示をする必要があります(有価証券上場規程402条(1)q)。

公開買付者側のプレスリリース記載上の留意点

(1)二段階買収に関する事項

 公開買付けの成立後、完全子会社化するために少数株主を株主の地位から締め出すことスクイーズアウト=二段階買収)を予定している場合には、二段階目の買収手法(株式等売渡請求等)、その対価および実施予定時期等について、公開買付け開始決定に係るプレスリリースに記載する必要があります
 平成26年会社法改正により、議決権の90%以上を保有する特別支配株主による株式等売渡請求の制度が認められたため、その後の開示事例においては、公開買付けによって対象者の議決権の90%以上を保有するに至った場合は、株式等売渡請求を行い、90%に満たなかった場合は、株式併合を行うことによりキャッシュアウトを行うといった記載が併記されるパターンが多く見受けられます。

 参照:「中小企業の事業承継・M&Aにおけるスクイーズ・アウトの最新動向

(2)上場子会社に対する公開買付けを行う場合の特則

 上場子会社に対する公開買付けを行う場合には、公正性担保措置および利益相反回避措置を講じたうえで、当該内容を公開買付け開始決定に係るプレスリリース上記載する必要があります。公正性担保措置および利益相反回避措置の具体的な内容については、「公開買付け(TOB)をする際、対象者側にはどのような開示規制があるか」の2-2(2)①の項目に記載の内容と基本的に重複するので、当該箇所で説明いたします。

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