組織再編に伴う株主保護手続の概要

コーポレート・M&A

 当社は、Y社を株式交換の手法によって買収することを検討しています。この場合に、当社の株主に対しては、事前に株式交換を行う旨を知らせる必要があるのでしょうか。必要な場合、いつまでに知らせる必要があるのでしょうか。

 原則として、貴社の全株主に対して、株式交換の効力発生日の20日前までに、(i)株式交換を行う旨、(ii)Y社の商号および住所を通知する必要があります。この通知は、その宛先となる株主のすべてが、株式交換の承認を求める株主総会の招集通知の宛先となる株主に含まれている場合には、株主総会招集通知をもって代えることができます。ただし、貴社が①公開会社である場合(すなわち株式譲渡制限会社ではない場合)または②株式交換について株主総会の承認を受けた場合には、通知の代わりに公告を行うことで足ります。

解説

目次

  1. 反対株主の株式買取請求権
  2. 株式買取請求がなされた場合の価格決定申立権
  3. 株主保護手続が必要とされる理由と手続の内容

反対株主の株式買取請求権

 設問の株式交換の手法による買収においては、原則として、①株主総会の承認が要求される株式交換の場合には、(i)株主総会に先立って株式交換に反対する旨を完全親会社に通知し、かつ、その株主総会において株式交換に反対した完全親会社の株主および(ii)その株主総会において議決権を行使することができない完全親会社の株主に、②株主総会の承認が要求されない株式交換の場合には完全親会社のすべての株主に、株式交換の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、会社に対し自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる権利(以下「株式買取請求権」といいます)が認められています(会社法797条1項本文・2項・5項)。ただし、①簡易株式交換(要件は会社法796条2項・3項)の場合の完全親会社の反対株主および②略式株式交換(要件は会社法796条1項本文)の場合の完全親会社の特別支配会社(=完全子会社)は、株式買取請求権を有しません(会社法797条1項ただし書・2項2号カッコ書)。

 吸収合併や吸収分割の手法による買収の場合にも、同様に、会社法の要件を満たす買収会社の「反対株主」に株式買取請求権が認められています(会社法797条1項・2項)。

株式買取請求がなされた場合の価格決定申立権

 また、反対株主から株式買取請求がなされた場合において、株式交換の効力発生日から30日以内に反対株主と会社との間で株式の買取価格について協議が調わないときは、反対株主および会社には、その30日の期間の満了日後30日以内に、裁判所に対して価格決定の申立てをする権利(以下「価格決定申立権」といいます)が認められています(会社法798条2項)。

 吸収合併や吸収分割の手法による買収の場合にも、同様に、価格決定申立権が認められています(会社法798条2項)。

株主保護手続が必要とされる理由と手続の内容

 反対株主がこのような株式買取請求権を行使する機会を実質的に確保するために、会社は、組織再編の効力発生日の20日前までに、すべての株主(ただし、略式組織再編(要件は会社法796条1項本文)の場合の特別支配会社を除きます)に対して、(i)組織再編(株式交換等)をする旨、(ii)組織再編の相手方当事会社(完全子会社等)の商号および住所を通知する必要があります(会社法797条3項)。

 ただし、その会社が①公開会社である場合(すなわち株式譲渡制限会社ではない場合)、または②組織再編について株主総会の承認を受けた場合には、通知の代わりに公告を行うことで足ります(会社法797条4項)。なお、この公告は、定款に公告方法の定めがある場合にはその公告方法により、定款に公告方法の定めがない場合には官報公告により行います(会社法939条1項・4項)。

 以上の株主保護手続としての「通知」は、実務的には、その宛先となる株主のすべてが、株式交換の承認を求める株主総会の招集通知の送付先となる株主に含まれている場合には、株主総会招集通知をもって代えることが多いと思われます。ただし、株主総会において議決権を行使することができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主(例:単元未満株主)がいる場合には、そのような株主は株主総会招集通知の宛先からは除外されるため(会社法299条、298条2項カッコ書参照)、株主保護手続としての「通知」を株主総会招集通知をもって代えることはできません。また、「通知」時点の株主と株主総会の基準日における株主とが異なる場合にも、株主保護手続としての「通知」を株主総会招集通知をもって代えることはできません。

 株主保護手続としての「公告」についても、実務的には、「組織再編に伴う債権者保護手続の概要」の債権者保護手続としての公告と併せて1つの公告で行うことが多いと思われます。

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