組織再編に伴う債権者保護手続の概要
コーポレート・M&A当社は、Y社のA事業部門を吸収分割の手法によって買収することを検討しています。この場合に、当社の債権者に対しては、事前に吸収分割を行う旨を知らせる必要があるのでしょうか。必要な場合、いつまでに知らせる必要があるのでしょうか。
貴社の債権者に対しては、債権者保護手続として、吸収分割の効力発生日までの間に1か月以上の異議申述期間を設けたうえで、(i)吸収分割を行う旨、(ii)Y社の商号および住所、(iii)貴社およびY社の計算書類に関する事項で会社法施行規則199条に定める事項、(iv)債権者が上記の異議申述期間内に異議を述べることができる旨について、①官報公告と②貴社に知れている債権者に対する個別催告の両方を行う必要があります。ただし、貴社が定款に公告方法として時事を掲載する日刊新聞紙への掲載または電子公告を定めている場合には、官報公告に加え、定款に定められた公告方法により公告すれば、知れている債権者に対する個別催告は不要です。
解説
債権者保護手続が必要とされる理由
設問の吸収分割の手法による買収の場合、承継会社が承継する分割会社の事業部門の財務状態等が悪化している場合には、承継会社の財務状態、経営状態が悪化する可能性があることから、承継会社の債権者に対する保護手続が必要となります(会社法799条1項2号参照)。
また、吸収合併の手法による買収の場合にも、消滅会社の財務状態、経営状態が悪い場合には、消滅会社の債権債務を承継する存続会社の財務状態、経営状態も悪化する可能性があることから、存続会社の債権者に対する保護手続が必要となります(会社法799条1項1号参照)。
株式交換の手法による買収の場合には、株式交換の対価が完全親会社の株式その他これに準ずるものとして会社法施行規則に定めるもののみである場合には、株式交換によって完全親会社の実質財産が移動することはないため、債権者保護手続は不要ですが、株式交換の対価が完全親会社の株式その他これに準ずるものとして会社法施行規則198条に定めるもの以外の財産(現金など)である場合には、その対価が不当であるときは完全親会社に不当な財産流出が生じるおそれがあるため、完全親会社の債権者に対する保護手続が必要となります(会社法799条1項3号参照)。また、完全親会社が完全子会社の新株予約権付社債の社債部分を承継する場合にも、完全親会社の債務が増加することから、完全親会社の債権者に対する保護手続が必要となります(会社法799条1項3号参照)。
債権者保護手続の内容
債権者保護手続としては、1か月以上の異議申述期間を設けたうえで、その異議申述期間中に異議を述べることができる旨等を、①官報により公告し、かつ、②知れている債権者に対して個別に催告を行う必要があります(会社法799条2項)。ただし、定款に公告方法として時事を掲載する日刊新聞紙への掲載または電子公告を定めている場合には、①官報公告に加え、定款に定められた公告方法により公告すれば、②知れている債権者に対する個別催告は不要となります(会社法799条条3項、会社法939条1項)。
公告および個別催告には、(i)組織再編(吸収分割等)をする旨、(ii)組織再編の相手方当事会社(分割会社等)の商号および住所、(iii)組織再編の両当事会社の計算書類に関する事項で会社法施行規則199条に定める事項、(iv)債権者が1か月以上の異議申述期間内に異議を述べることができる旨を記載する必要があります(会社法799条2項、会社法施行規則199条)。
異議を述べた債権者に対する措置
債権者が異議申述期間内に異議を述べなかった場合には、その債権者は、組織再編行為を承認したものとみなされます(会社法799条4項)。
一方、異議を述べた債権者に対しては、会社は、①弁済、②相当の担保の提供、または③債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産の信託を行う必要があります(会社法799条5項本文)。
ただし、組織再編により債権者を害するおそれがない場合には、これらの措置をとる必要はありません(会社法799条5項ただし書)。債権者を害するおそれがないか否かは、債権額や弁済期などを考慮して判断され、異議を述べた債権者の債権についてすでに十分な担保が提供されている場合や会社の資産状況等に照らして債権の弁済が確実である場合等は、債権者を害するおそれがないと解されています。
債権者保護手続の開始時期
前記2のとおり、債権者保護手続においては1か月以上の異議申述期間を設けなければならず、債権者保護手続が終了していない場合には組織再編の効力が生じないため(会社法759条10項等)、遅くとも組織再編の効力発生日の1か月以上前には債権者保護手続を開始する必要があります。
また、官報公告が必須であるため、官報の枠取りに要する期間も考慮したうえで、債権者保護手続の準備を進める必要があります。

三宅坂総合法律事務所
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