著作権侵害の判断基準(デザインの「パクリ」を題材に)

知的財産権・エンタメ

当社のパンフレットで使用するキャラクターのデザインをデザイナーに依頼し、イメージを伝えるために他社のキャラクター数点を資料として渡しました。完成したキャラクターのイラストを見ると、他社のキャラクターの1つと似ているのですが、著作権法上、問題はないでしょうか。

著作権者に無断で、著作物の翻案行為(変形・翻訳・編曲・脚色等)を行った場合には、原則として著作権侵害が成立し、翻案権の侵害と呼ばれます(著作権法27条)。
 他社のキャラクターは著作物に該当する可能性が高いと思われ、他社キャラクターを参考にして新キャラクターをデザインしたということなので、参考作品の創作的な特徴が、新キャラクターにどの程度再現されているかという点が著作権侵害の成否を決めるポイントになるでしょう。

解説

目次

  1. 著作権侵害の判断基準
  2. 翻案権侵害とは
  3. 「マネされた」とされている作品は著作物か?
  4. 著作権が存続しているか?
  5. 「創作的」な「表現」が利用されているのか?
  6. 同一性・類似性の判断基準
    1. 「依拠」の要件
    2. 表現上の本質的な特徴を直接感得する
  7. イラストに関する翻案権侵害の例(出る順事件)
    1. 類似しているということはできないとした点
    2. 創作的な特徴部分を感得するとした点
    3. 翻案物に該当すると結論付けた

著作権侵害の判断基準

 著作権侵害に関して筆者が企業の方から受ける相談の中では、「わが社の商品が著作権侵害をしていると言われたのですが、どうしたら良いでしょうか」という内容が比較的多くあります。
 確かに第一印象で似ているケースが多く、だからこそ担当者は焦っているのですが、実際に訴訟になった場合、裁判所は単純に「見た感じ」で判断しているわけではありません。著作権侵害かどうかを判断するには、見た目の類似性以外にも検討するべき要素が多くあります。
 他社のキャラクター等と似たデザインが世に出た場合、SNSなどでも「パクリ」として話題になりやすく、大きなリスクを抱えています。
 「似ているかどうか」が問題になる翻案権侵害の判断基準について、以下簡単に解説します。

翻案権侵害とは

 著作権法27条は「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、もしくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定しています。したがって、著作権者に無断で、著作物の翻案行為(変形・翻訳・編曲・脚色等)を行った場合には、原則として著作権侵害が成立することになります。

翻案権侵害の検討ポイント
  • 「マネされた」とされている対象作品は著作物か?
  • 著作権は存続しているか?
  • 類似している部分は、対象作品の「創作的表現」なのか?
  • 「表現上の本質的な特徴を直接感得すること」ができるか?
  • 対象作品を参考にしたのか?

「マネされた」とされている作品は著作物か?

 ネット上の写真やデータ・グラフは著作物にあたるのかでも解説したように、著作物は「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(著作権法2条1項1号)。
 「似ていると言われた」という相談の中には、他社企画との類似性に関する事案もありますが、思想や感情、アイデアは著作物ではないので、似ている要素が企画のコンセプトやアイデアにとどまる場合は、著作権侵害の問題にはなりません。

著作権が存続しているか?

 「似ている」と言われる既存作品が著作物であっても、著作権保護が満了していれば著作権侵害は成立しません。対象作品が古い作品の場合は、この点も確認しておく価値があります。

 著作権の保護期間は、原則として著作者の死亡の翌年から50年です(著作権法51条2項)。無名または変名で公表された著作物、および職務著作の規定により団体名義になっている著作物の場合は公表後50年です(著作権法52条1項、53条1項)。ただし、ペンネームで発表された作品であっても、作者の実名が判明している場合は原則通り著作者の死後50年になります。映画の著作物については、保護期間は公表後70年となっています(著作権法54条)。

 なお、TPP協定の合意事項を受けた関連法案がすでに閣議決定されており、その中に著作権等の保護期間を著作者の死後70年に延長する改正が含まれているので、保護期間については今後の法改正にも留意する必要があります。

「創作的」な「表現」が利用されているのか?

 著作物の無断利用が必ず著作権侵害になるとは限りません。たとえば、史実を素材にしたノンフィクション作品には歴史的事実が多く含まれていますが、歴史的事実そのものは著作権保護の対象ではありません(「歴代撃墜王列伝」事件 東京地裁昭和55年6月23日判決等)。
 絵画やイラストの場合、「誰々の作品だとみんなが思い込むほど作風が似ている」という意味で既存作品に「似ている」と言われる場合もありますが、作風や画風もそれ自体は「表現」ではなく、著作権保護の対象ではありません
 また、「表現」が無断で利用された場合であっても、ごく短い文章表現や、表現上の制約があるために他の表現が難しい場合、表現が平凡でありふれたものである場合には、「創作的」な表現ではないとして、このような表現の使用について著作権侵害が否定されています(「ラストメッセージin最終号」事件・東京地裁平成7年12月18日判決等)。

同一性・類似性の判断基準

 「似ている」とされる既存作品が著作物で保護期間が存続しており、創作的な表現が利用されている場合は、2つの表現の間の同一性・類似性を検討することになります。
 著作物の翻案権侵害については、「江差追分事件」の最高裁判決(最高裁平成13年6月28日判決)が指針となっています。同判決は、「翻案」の意味について、 (1)既存の著作物に依拠し、かつ(2)その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為であると述べました。

「依拠」の要件

 (1)の「依拠」の要件は、既存の著作物の存在や内容を知らずに同一性のある作品を偶然制作した場合は、著作権侵害ではないことを意味します。もっとも、訴訟においては、被告が依拠を認めなくても直ちに依拠性が否定されるわけではなく、類似性の高さや既存著作物の周知性などの間接的な事実の積み重ねで依拠性が認定される可能性もあります。

表現上の本質的な特徴を直接感得する

 (2)の要件は、著作権侵害が成立するレベルで「似ている」という場合、「表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか否か」が基準になることを意味しています。表現上の創作性のない部分において既存著作物と同一性を有するに過ぎない場合には、翻案には当たりません。また、新たな著作物の創作において作者の独自性が発揮され、通常人が見て元の著作物の特徴を感じとることができない程度に至った場合にも、著作権侵害は成立しないことになります。

イラストに関する翻案権侵害の例(出る順事件)

 江差追分事件は言語の著作物に関する事例ですが、ここで示された翻案権侵害の要件は、他の著作物の翻案権侵害でも適用されています。イラストに関して翻案権侵害が認められた裁判例の1つに、「出る順事件」(東京地裁平成16年6月25日判決)があります。この判断手法を見てみましょう。

東京地裁平成16年6月25日判決 別紙 原告イラスト目録、被告イラスト目録

出典:東京地裁平成16年6月25日判決 別紙 原告イラスト目録、被告イラスト目録より

類似しているということはできないとした点

 裁判所はまず、両イラストの共通点のうち、「立体の人形を左斜め上にライティングを施して撮影する表現方法、人形を、頭や手足を球状ないしひしゃげた球状にしてデフォルメする表現方法、人形に物を持たせる表現方法等」については、「美術の著作物としてありふれた表現方法」であるとして、このような点が共通していることのみを根拠に両イラストが類似しているということはできない、と判断しました。

創作的な特徴部分を感得するとした点

 次に、「人形を肌色一色で表現した上、人形の体型をA型にして手足を大きくすることで全体的なバランスを保ち、手のひらの上に載せた物が見る人の目をひくように強調するため、左手の手のひらを肩の高さまで持ち上げた上、手のひらの上に載せられた物を人形の半身程度の大きさに表現するという表現方法」については、原告イラストの創作的な特徴部分であって、被告イラストはこのような原告イラストの創作的な特徴部分を感得することができるものである、と判断しました。

翻案物に該当すると結論付けた

 さらに、被告イラストが、形の材質、上半身の傾き方、右腕の格好、脚の開き方、左手の上の家の数等の具体的表現において独自の表現を加えている点は認定しつつ、それを考慮してもなお、被告イラストは原告イラストの翻案物に該当すると結論付けたのです。

 画像を見ると類似性は一見して明らかだと思うかもしれませんが、裁判所による類似性判断は、このように分析的できめ細かいものなのです。

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