著作権ライセンス契約の留意点
知的財産権・エンタメ当社の広告に人気コミックのキャラクターを使用したいと思っています。どのような契約を締結したらよいでしょうか。
既存のコミックの一場面を利用するのであれば、ライセンス契約が一般的です。広告用に描き下ろしてもらうのであれば、クリエイター等と制作委託契約を結び、その中で完成したイラストを使用する権限について適切に規定しておく必要があります。編集の可否や、権利者のクリエイティブコントロールについても留意しておきましょう。
解説
目次
ライセンス契約とは
他人が創作した著作物を利用する場合、もっとも広く利用されている契約はライセンス契約だと思います。ライセンス契約とは、自分の持っている著作権等の知的財産を使用することを他者に許諾する契約のことです。
自社の知的財産をライセンスする側は「ライセンサー」と呼ばれ、ライセンスを受ける側は「ライセンシー」と呼ばれます。
ここでは、主にライセンシーの立場から見た場合のライセンス契約の主要なポイントについてまとめました。
なお、著作物を新たに創作してもらう場合は、「制作委託契約」などを結び創作された作品の著作権の譲渡を受ける方が、その後の利用の自由度が増します。
ライセンス契約の主要条項
ライセンス契約には、通常以下のような条項が含まれています。
- 契約の当事者、目的、用語の定義
- ライセンスの内容
- 許諾期間
- 著作権使用料(ロイヤルティ)
- 表明・保証
- 契約解除・損害賠償
- 秘密保持条項
- 暴力団排除条項
- 一般条項
契約の譲渡の制限・契約の修正方法・管轄など
ライセンス契約において、ビジネス上特に重要な意味を持つのは、上記のうち②ライセンスの内容、③許諾期間、④著作権使用料あたりであり、少なくともこれらの条項は確認している担当者が多いと思われます。しかし、その他の条項にも、思わぬ落とし穴がある可能性があるので、以下簡単に解説します。
契約の当事者、目的、用語の定義
「ライセンサー」「ライセンシー」「本件著作物」「許諾地域」「秘密情報」などについて定義されている場合があります。定義規定は読み飛ばしがちですが、定義の内容によってライセンスの範囲が定められている場合もあるので必ず確認しましょう。
たとえば、「本件著作物」が、原作漫画のあるアニメ作品のような二次的著作物の場合は注意が必要です。二次的著作物を利用する場合には、原著作物の著作権者の承諾も必要だからです。原著作物についても契約上手当されているか確認しましょう。
ライセンスの内容
確認する視点
著作物の使用が認められる地域、使用方法、ライセンスが独占か非独占か、サブライセンスの可否などが定められています。意図している使用方法がカバーされているか、また将来使用範囲が拡大する場合にも、契約変更せずにある程度対応できるか、という視点で確認しましょう。
たとえば、著作物を商品のデザインに利用する場合、商品自体だけではなく、広告の中でも著作物を使用する可能性が高いので、このような付随的な使用もカバーされているか確認が必要です。
編集や変更を加える場合はないか
著作物の使用にあたって編集や変更を加える必要がある場合には、その点も明記しておく必要があります。著作物の変更については、著作者人格権(同一性保持権)にも留意する必要があります。
サブライセンスはないか
「サブライセンス」とは、ライセンスの対象となっている権利について、ライセンシーから第三者に対して許諾を与えることです。ライセンシーからライセンスを受ける者は「サブライセンシー」と呼ばれます。
サブライセンスを予定しており、サブライセンシーも決まっている場合は、サブライセンス権を包括的に得ておくか、少なくとも予定しているサブライセンスについては追加の許諾が必要とならないように規定しておく方が良いでしょう。
公表前の許諾をどのように取るか
著作物を使う場合、ライセンス契約締結後も権利者の許諾が必要となる場合があります。事例のような広告での使用であれば、広告コンセプトを決める段階や、最終的な作品の公表前など、複数の段階で許諾を得ることが要求される可能性もあります。
このような規定は権利者のクリエイティブコントロールと呼ばれています。許諾を得る手続きに時間を要し、プロジェクト全体の進行に影響が出る場合もありますので、心配であれば、許諾が必要となる回数を抑え、許諾を求められた権利者が一定期間内に回答しなければならないと規定するなどの方策も検討すると良いと思います。
許諾期間
ライセンスの期間、契約更新の方法などを定めます。長期的な取引を予定しているのであれば、自動更新条項を入れておくと、うっかり失効するという事態を回避できます。また、著作物を利用して商品を製造する場合、許諾期間が満了した時点で製造済みの在庫が存在する可能性があるので、契約終了後も一定の期間は在庫の販売を可能にするなどの対策も検討するべきです。
著作権使用料(ロイヤルティ)
使用料の決め方は、基本的に固定額のロイヤルティか売上等に応じたランニングロイヤルティの2つに分類できます。ライニングロイヤルティの場合は、前払金・最低保証額の有無、計算方法、報告・支払いのタイミング、帳簿等の保管義務、ライセンサーによる監査権などが規定されている場合が多く見られます。
表明・保証
保証条項では、ライセンサーがライセンシーに対して、「本ライセンス契約を締結する権限を有していること」「対象著作物が第三者の著作権、プライバシー権等を侵害するものでないこと」「対象著作物について現在継続中の訴訟はないこと」などを保証している場合が多く見られます。
ライセンシーの立場であれば、適切な保証が得られているか、保証違反について十分な損害賠償が可能か、確認しておく必要があります。ライセンサーの立場であれば、過大な保証をさせられていないかという視点で確認する必要があるでしょう。
一般条項
契約の譲渡の制限・契約の修正方法・管轄などの規定が含まれる場合が多いです。契約上の地位の譲渡については、相手の書面による事前同意が必要という規定が多いですが、企業グループに属している当事者の場合、親子会社や兄弟会社間であれば譲渡可能、という規定もみられます。企業グループの再編などが予想される場合は、重要なライセンス契約が再編の障害にならないように配慮しておく方が良いでしょう。
その他
ライセンス契約の場合、著作権者のクレジット表示に関する規定、著作権侵害が発見された場合の対応についての規定もよく見られます。
ライセンス契約が国を異にする当事者間で結ばれる国際契約の場合は、一般条項として、準拠法、紛争解決方法(裁判または仲裁。仲裁の場合は仲裁機関や仲裁人の数)、完全合意条項などが置かれる例が多く見られます。実際に訴訟に至る可能性は決して高い訳ではありませんが、外国で応訴をする場合の時間と費用の負担は大きいので、外国法準拠・外国管轄を安易に受け入れるべきではありません。
なお、本項では解除条項、秘密保持条項や暴排条項など、ライセンス契約特有の条項ではないものについては解説を割愛しましたが、法務担当者としてはこれらの条項についても確認が必要なことは言うまでもありません。

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