社内プレゼンで他社の広告写真や有名なキャラクターを資料に入れてもよいか
知的財産権・エンタメ 当社の社内でのプレゼンテーションの中で、最近の同業他社の広告の動向について分析するのですが、その際に他社の広告写真を紹介したいと考えています。
広告写真も著作物だそうですが、無断で使ってもよいものなのでしょうか。また、新商品のパッケージに著名なキャラクターを印刷するプランを立てていて、現在3つの候補が上がっています。検討資料として各々のキャラクターを使った商品のイメージを配布したいと思うのですが、まだ利用の許可も得ていない段階でそのようなことをしても大丈夫でしょうか。
いずれの場合も著作物の複製などに該当しますので、原則として許諾を得る必要があるのですが、広告写真については「引用」(著作権法32条)、キャラクターについては「検討の過程における利用」(著作権法30条の3)の要件を満たす場合は許可を得ずに利用することができます。
解説
著作権の例外規定
広告写真やキャラクターは著作物ですので、これを資料に掲載し、配布することは複製権や譲渡権・貸与権といった著作権に抵触することになります。ですから、原則として著作権者の許可を得なければなりません。
しかし、著作権法には著作権者の許可を得ることなく著作物を利用できる場合が定められています。これを「著作権の例外規定」といいます。
著作権法上の例外規定は以下のとおりです。
私的使用のための複製(著作権法30条) | |
付随対象著作物の利用(著作権法30条の2) | |
検討の過程における利用(著作権法30条の3) | |
技術の開発又は実用化のための試験に用いるための利用(著作権法30条の4) | |
図書館での複製・自動公衆送信(著作権法31条) | |
引用(著作権法32条) | |
教育に関連する例外規定 | 教科書への掲載(著作権法33条) 拡大教科書の作成のための複製(著作権法33条の2) 学校教育番組の放送など(著作権法34条) 学校における複製など(著作権法35条) 試験問題としての複製など(著作権法36条) |
福祉に関連する例外規定 | 視覚障害者等のための複製など(著作権法37条) 聴覚障害者等のための複製など(著作権法37条の2) |
非営利目的の上演など(著作権法38条) | |
報道に関連する例外規定 | 時事問題の論説の転載など(著作権法39条) 政治上の演説などの利用(著作権法40条) 時事事件の報道のための利用(著作権法41条) |
裁判手続などにおける複製(著作権法42条) | |
情報公開法による開示のための利用(著作権法42条の2) | |
公文書管理法による保存のための利用(著作権法42条の3) | |
国立国会図書館法によるインターネット資料の複製(著作権法42条の4) | |
複製、翻案等による利用(著作権法43条) | |
美術品等に関連する例外規定 | 美術の著作物などの所有者による展示(著作権法45条) 公開の美術の著作物などの利用(著作権法46条) 展覧会への小冊子などへの掲載(著作権法47条) |
コンピューター及びインターネットに関連する例外規定 | インターネット・オークション等の商品紹介用画像の掲載のための複製(著作権法47条の2) プログラムの著作物の複製物の所有者による複製など(著作権法47条の3) 保守、修理等のための一時的複製など(著作権法47条の4>) 送信の障害の防止等のための複製(著作権法47条の5) 送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等(著作権法47条の6) 情報解析のための複製等(著作権法47条の7) 電子計算機における著作物の利用に伴う複製(著作権法47条の8) インターネットサービスの準備に伴う記録媒体への記録・翻案(著作権法47条の9) |
複製権の制限により作成された複製物の譲渡(著作権法47条の10) |
全てを紹介することはできませんが、設例で問題になっている「引用」と「検討過程における利用」、そして「私的使用目のための複製」について説明をします。
広告写真について~「引用」して利用できる場合とは
著作権法では、公表された著作物( ア )について、公正な慣行( イ )に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内( ウ )で行なわれる場合には著作物を引用して利用することができるとしています(著作権法32条)。
ただ、この規定は具体性に欠けることもあり、判例ではパロディ事件判決(最高裁昭和55年3月28日判決)が「引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示して以来、伝統的に( エ )「附従性」(引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること)と、( オ )「明瞭区分性」(カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること)を主な基準としてきました。
また、必要もないのに引用をすることは許されないのは当然ですので( カ )引用の必然性も要件であると言われていました。
以上をまとめると、次の表のとおりとなります。
( ア ) | 既に公表されている著作物であること |
( イ ) | 「公正な慣行」に合致すること |
( ウ ) | 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること |
( エ ) | 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること |
( オ ) | カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること |
( カ ) | 引用を行う「必然性」があること |
この伝統的な要件、特に( エ )明瞭区分性と( オ )附従性は基準として明確な反面、やや硬直的に過ぎるのではないかという批判もあり、近年の判例はもう少し柔軟な判断をする傾向があるとの指摘もあります。ただ、設例のような場合にはこの要件を満たすような引用をしておくのが無難でしょう。
設例では、同業他社の広告の動向を分析(研究)するという引用の目的があり、プレゼンテーション資料の中で引用対象である広告は明確になっていると考えられます(明瞭区分性)。そして、プレゼンテーション資料の中心は分析結果と言うことになるでしょうから、主従関係も明確になっていると考えられます(附従性)。ですから、著作権者の許可を得ることなく利用できると考えてよいでしょう。
なお、「引用」に際しては出所を表示することも必要ですので、どの企業のいつの広告かなどを適宜の方法で表示することは必要です。
キャラクターについて~「検討の過程における利用」
設例のように、キャラクターを使用した商品の企画に際し、どのキャラクターを利用するか検討する段階で、候補となるキャラクターを検討資料の中で使うことは当然必要なことですし、そのような利用によって著作権が不当に害されるということも考えにくいところです。
そこで、著作物を利用するかどうか、そのためのライセンスの交渉に入るかどうかを検討する資料として、必要な範囲で著作物を利用することができるとされています(著作権法30条の3)。
本件でも、どのキャラクターについて使用許諾を得るかを検討するために必要な範囲内であればキャラクターを使用することも許されることになります。
ただし、この検討の過程における利用も、「著作物の種類及び用途ならびに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害する」ようなものであってはならないとされています。
サンプルとしてそのまま販売できるような品質の商品や実際に利用可能な販促品を作ったりするのは検討に必要な範囲を越えていて許されないということになるでしょう。
その他~「私的使用目的の複製」
著作権の例外規定の中で身近なのが「私的使用目的の複製」です(著作権法30条1項)。個人的に、家庭内、あるいは家庭内に準ずる限られた範囲で利用するためであれば著作物を複製し、その目的の範囲内で使用することは著作権侵害になりません。
買ってきたCDをMP3プレーヤーにダビングするのも、自分で楽しむため、あるいは家族に聴かせるためであれば著作権者の許可は要らないわけです。
設例のようなプレゼンテーションの場で、資料や検討資料として配布する場合も、配布する相手が少人数の場合には「私的使用目的の複製」として著作権者の許可は不要ではないか、という気もするところです。
ところが、企業などで業務上利用するための複製行為については、判例は「その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあたるとはいえない」(東京地裁昭和52年7月22日判決)などとして私的使用目的には当たらないとしており、多くの学説もこの見解を支持しています。
血縁関係や同居関係といった私生活における緊密な人間関係が必要だということでしょう。従って本件のような利用を私的使用目的の複製として正当化することはできません。
