特許を受けられる発明とは(特許要件)
知的財産権・エンタメ発明を出願して特許庁の審査を通れば特許を受けられるとのことですが、どのような発明であれば特許を受けられるのでしょうか。
特許法上の「発明」の要件を満たした発明であっても、全ての発明が特許を受けられるわけではなく、特許要件を満たした発明のみが特許を受けられます。特許要件とは、その発明が、産業上利用できるものであること(産業上の利用可能性)、新しいものであること(新規性)、容易に考え出すことができないこと(進歩性)、先に出願されていないものであること(先願)、公序良俗に反するものでないこと、の各要件をいいます。
解説
特許要件とは
特許庁における実体審査(「特許出願手続はどのように行うか」3-4参照)では、その発明が特許するに値するものであるかどうか、すなわち特許要件を満たしているかどうかを審査し、満たしている場合のみ、特許査定がなされます。
特許要件とは、その発明が、産業上利用できるものであること(産業上の利用可能性)、新しいものであること(新規性)、容易に考え出すことができないこと(進歩性)、先に出願されていないこと(先願)、公序良俗に反しないこと、の各要件をいい、実体審査においては、出願された発明がこれらの要件を満たしているか否かを審査します(なお、広い意味での特許要件には、出願書類が要件を満たしているか等、形式的要件を含む場合もありますが、ここでは実体審査において審査する要件を特許要件としています)。
産業上の利用可能性
特許制度は産業の発展を目的としています(特許法1条)。そのため、産業上利用することができない発明は、特許を与えて保護する必要が無いため特許を受けられません(特許法29条柱書)。
特許法上の「産業」とは広い意味のものを指しており、工業に限らず、農業、工業、水産業、林業など幅広く含みます。
他方、学術的・実験的のみに利用される発明はこれに該当しません。また、明らかに実施できない発明(例えば、地球全体をUVカットガラスで覆って紫外線の増加を防止する方法など)も、産業上の利用可能性がありません。なお、特許庁の出願実務上は、人間を手術・治療または診断する方法についても、産業上の利用可能性が認められないことを理由として特許を受けられないこととなっています。
新規性
新規性の要件は、4で説明する進歩性の要件と共に重要な特許要件です。
特許法上、次の発明は新規性が無いとして特許を受けられません(特許法29条1項)。
- 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明(公知発明)
- 特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明(公用発明)
- 特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
(1)「公然知られた」(公知)とは
秘密を脱した状態をいいます。秘密保持義務を負う者が多数知っていても公知には該当しませんが、秘密保持義務のない者が知ったときは、一人であっても公知になります。ただし、実際に知られたことが必要であり、「知られ得る」だけでは足りません。
(2)「公然実施をされた」(公用)とは
秘密保持義務のない者が、発明内容を知りうる状態で発明の実施行為(特許法2条3項各号)を行ったことをいいます。
発明の種類 | 実施行為 |
---|---|
物の発明 | その物の生産、使用、譲渡等(譲渡および貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む)、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)をする行為(特許法2条3項1号) |
方法の発明 | その方法の使用をする行為(特許法2条3項2号) |
物を生産する方法の発明 | その方法の使用をする行為に加えて、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為(特許法2条3項3号) |
公知の場合と異なり、実際に発明内容が知られる必要はありません。また、外部から明らかで無くとも、分解・解析等で認識できる場合も含みます。ただし、例えば機械の内部構造に関する発明であって、その製品を使用しても内部構造を知ることができず、解析もできないような場合は、公用には該当しません。
(3)「刊行物に記載」(文献公知)における「刊行物」と「電気通信回線」とは
雑誌や学会用の論文などのような公開される性質の文書・図面などをいいます。
また、「電気通信回線」とはインターネット回線であり、インターネット上で公開されている場合は③に該当します。
なお、出願前に発明者自らの手で公知、公用になった場合であっても新規性は無くなりますので(ただし一部例外あり。特許法30条参照)、特許化を考えている場合は注意が必要です。
進歩性
(1)進歩性の判断
その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(これを「当業者」といいます)が、前項①から③の発明に基づいて容易になしうる発明は、特許を受けることができません(特許法29条2項)。進歩性は、発明が特許を受けられるかどうかにおいて極めて重要な要件であり、それゆえ判断が難しく、特許紛争においてしばしば最大の争点となる要件といえます。
発明が進歩性を有するかどうかは、発明の種類や個々の発明の構成によって様々であるため、その判断基準には様々な考え方があり、統一的な基準を打ち出すことは困難ですが、一般的・抽象的には、「発明の目的、構成および効果」から判断すべきものとされています。
また、進歩性の判断の手法としては、
ii) 対比する先行の発明(引用発明)を選択し、
iii)対象となる発明と引用発明の一致点・相違点を明らかにし、
iv)引用発明から対象となる発明が容易にできたかどうかを種々の観点から判断する、
という手順で行うのが一般的です(特許庁審査基準参照)。
(2)進歩性の判断の例
架空の例ですが、例えば丸い断面の鉛筆しか無かった時代に、転がり防止という目的・効果を狙って六角形の断面の鉛筆を発明した場合、進歩性が認められて特許になる可能性があります。
他方、既に六角形の鉛筆が存在している場合に、転がり防止という同一の目的・効果を狙って三角形の鉛筆を発明しても、その進歩性は否定されると思われます。六角形の鉛筆と同一の目的・効果(転がり防止)を意図して三角形の鉛筆を作ることは、当業者であれば容易になし得るからです。
ただし、このような場合でも、六角形の鉛筆にはない新たな効果が見いだせる場合(例えば、滑りにくい等)には、三角形の鉛筆に進歩性が認められて特許になる可能性もあります。
先願
別の者がそれぞれ独立して同一の発明をした場合に、どの発明に特許を与えるかについては、大きく分けて、先になされた発明に特許を与えるという考え方(先発明主義)と、先に出願された発明に特許を与えるという考え方(先願主義)があり、我が国の特許法では、先願主義を採用しています。
具体的には特許法39条において以下のとおり定めています。
- 同一の発明について異なった日に出願があった場合は、最初の出願人のみが特許を受けることができる
- 同一の発明について同一の日に特許出願があった場合は、時間の先後に関係なく、出願人同士の協議により定めた出願人一人のみが特許を受けることができる
- ②において協議が整わない場合は、いずれの出願人も特許を受けることができない
また、先願は同一の発明(=「特許請求の範囲」の記載で表されます)よりも広い範囲で認められており、特許請求の範囲の記載だけで無く、明細書や図面に記載されている発明も、先願に該当するとされています(特許法29条の2)。
公序良俗に反するものでないこと
公の秩序、善良の風俗または公衆の衛生を害するおそれがある発明(公序良俗に反する発明)は、例え新規性や進歩性の要件を満たしていても、特許を受けることができません(特許法32条)。
例えば、遺伝子操作により得られたヒト自体、偽札製造機、専らヒトを残虐に殺戮することのみに使用する方法、などがこれに当たります。ただ、毒薬や爆薬といったような人間を殺害する目的で使用できる物であっても、その他の目的や用途が一切無いわけではない限り、必ずしも公序良俗に反するわけではありません。

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