動画の背景に写り込んだ彫刻作品や建物に著作権はあるか
知的財産権・エンタメ 会社の新商品のプロモーション映像の中で、日本全国の街の風景を撮影した映像を盛り込みました。
肖像権には配慮していたのですが、新商品を手にした人物が公園を歩く場面で、公園に設置されていた彫刻作品、そして有名な建築家が設計した奇抜なデザインの高層ビルが背景に写っていました。
確認したところ、彫刻作品や高層ビルについては著作権がまだ切れていないようですが、このまま映像を使っても大丈夫でしょうか。
また、撮影中に人気歌手のCDの宣伝車両が通過したため、その宣伝車両が大音量で流していたCDの音楽が録音されてしまいました。これもそのまま使ってしまって問題ないでしょうか。
彫刻作品や高層ビルについては、画面の片隅に小さく写っている程度であれば、そもそも「複製」とは言えないと考えられます。公園などに設置された彫刻作品や建築物については、基本的に自由に利用できることになっていますので、映像に収録した上でこれを利用することも問題ないと考えられます。
また、音楽も含めて本件のような著作物は、いわゆる「写り込み」に関する規定に基づき、付随対象著作物として映像に収録した上で利用することができると考えてよいと思います。ただ、一定の例外はありますので、そこには気をつけてください。
解説
「複製」にあたるかどうか
本件と似た裁判例として、照明器具のカタログに掲載されたモデルハウスの和室の写真の中に、書の作品の掛け軸が写っていたことについて、書道家が書の作品の著作権侵害だとした事件があります(「雪月花事件」東京高裁平成14年2月18日判決)。
この事案で裁判所は、当該写真は、実際の所の作品の50分の1程度に縮小されて小さく写っているに過ぎないことなどから、書の作品の線の美しさと微妙さ、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢いといった著作物としての本質的な特徴が再現されていないことを理由に、「複製」にはあたらないと判断しました。
この判決からすると、設例の彫刻作品や高層ビルについては、それが画面の隅に小さく写った程度だったような場合は、「複製」とは言えないとして著作権侵害にならないと考えられます。
また、仮に「複製」にあたるとしても、2で解説する著作権の例外規定により著作権侵害にならないと考えられます。
写り込み~付随対象著作物
本件で問題となっている彫刻作品、建築物、そして音楽はいずれも著作物ですから、これを映像に収録することは複製権の対象となりますし、出来上がった映像の利用も利用態様に応じた著作権の対象となります。
しかし、特に本件のような公の場で写真や動画などを撮影する際に、これらの著作物が撮影対象と共に写り込んでしまうことは避けられない反面、そのようにして写り込んでしまったり、また写り込んだ写真や映像が利用されたりしても、通常は著作権者の利益を不当に害するものではありません。
そこで、写真の撮影等の方法によって著作物を創作する際に、撮影対象から切り離することが困難であるため付随して対象となる著作物(これを「付随対象著作物」といいます)については、撮影に伴い複製又は翻案しても、また撮影により作られた写真・映像を利用することは著作権侵害にならないとされています(著作権法30条の2)。
設例でも、新商品を手にした人物を撮影していたところ、背景に彫刻作品や建築物が写ってしまった、また音楽も入り込んでしまったということですから、基本的に付随対象著作物として映像に収録すること、またその映像を使用することは著作権侵害にならないと考えてよいでしょう。
ただし、付随対象著作物の利用は、「当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は許されないとされています(著作権法30条の2)。
例えば、背景としてではなく彫刻作品や建築物を大きく写したり、また音楽についてもフルコーラスを収録したりすると、付随対象著作物の利用としては許されないことになるでしょう(ただし、彫刻作品や建築物については、次に説明をする公開の美術の著作物等の利用として著作権侵害にならない可能性があります)。
公開の美術の著作物等の利用
著作権法では、「公開されている美術の著作物」と「建築の著作物」については、原則として誰でも自由に使えることになっています(著作権法46条)。
「公開」とは以下の3つの要件を満たす場合のことを言います(著作権法46条)。
② 街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所 または建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に
③ 恒常的に設置すること
③の「恒常的に設置」とは地面や外壁などに固定されている場合が典型的ですが、判例では「社会通念上ある程度の長期にわたり継続して不特定多数の者の観覧に供する状態に置く」ことを言うとした上で、市内を運行するラッピングバスに描かれた絵画もこれに該当するとしたものがあります。この判例を前提とすると、本件でも、CDの宣伝車両の表面にイラストなどが描かれていた場合でも、それを撮影することが許されるということになりそうです
(「横浜市営バス事件」東京地裁 平成13年7月25日判決)。
もっとも、このように公開されている美術の著作物と建築の著作物も、以下のような利用はできないことになっています(著作権法46条各号)。本件ではこれらのいずれにも該当しないと考えられます。
b 建築について、建築により複製し、または建築物の譲渡により公衆に提供すること
c 「公開」(上述)すること
d 美術について、専ら複製物の販売目的での複製および複製物の販売をすること
著作権の保護期間
なお、公開されている美術の著作物には著作権の保護期間が終わっているものも少なくありません。上野公園の西郷隆盛像や渋谷のハチ公像、高知県の桂浜の坂本竜馬像などは、いずれも作者の死後50年を経過しているため、著作権の保護期間が満了しています(著作権法51条1項)。
このような作品については撮影したり、撮影した映像や写真を利用したりしても著作権法上の問題はありません。
