営業秘密侵害の不正競争行為にはどのような種類があるか
知的財産権・エンタメ 当社の顧客情報データは、施錠付きサーバー室内のサーバーで一元管理・保存されており、このデータへのアクセスは情報セキュリティ管理者が承認した営業本部の従業員数名に限定され、ログイン時には個別のIDとパスワードの入力が求められます。
ところが、営業本部の元部長Aが、退職間際に、権限なく上記サーバー内の顧客情報データにアクセスし、そのデータをUSBメモリーに保存して持ち出した上、その後に自ら設立して代表取締役を務める会社C社で、営業活動に使用していることが判明しました。
元部長Aと会社C社の行為は、営業秘密侵害の不正競争行為に当たると理解してよいでしょうか。
その理解で結構です。
問題の顧客情報データは貴社の営業秘密に当たると考えられますので、元部長Aの行為は、貴社の営業秘密を不正に取得した点と、不正取得した営業秘密を自ら設立した会社に開示した点で不正競争行為(不競法2条1項4号)に当たります。また、元部長Aが設立した会社C社の行為も、上記データが貴社の営業秘密であり、不正取得されたことを知りながら、これを取得し、使用している点で、やはり不正競争行為(不競法2条1項5号)に当たります。
解説
目次
営業秘密の侵害にはどのような種類があるか
営業秘密の侵害について、不正競争防止法(以下「不競法」といいます)は、従来、大きく分けて、以下の6類型の不正競争行為を定めていました。
① 不正取得型 3類型(不競法2条1項4号~6号)
・ 一次取得者が他人の営業秘密を不正に取得して、これを使用・開示する行為
・二次取得者以降の者が当該営業秘密を「悪意重過失」(一次取得者が不正に取得したことを知っていた、もしくは一次取得者が不正に取得したことを重大な過失によって知らなかった)で取得・使用・開示する行為
・善意無重過失で当該営業秘密を取得した二次取得者以降の者が、当該営業秘密を「悪意重過失」で使用・開示する行為
② 正当取得型 3類型(不競法2条1項7号~9号)
・正当に取得した営業秘密を一次取得者が「図利加害目的」で使用・開示する行為
・二次取得者以降の者が当該営業秘密を「悪意重過失」(不正開示行為であること、または不正開示行為の介在を知っていた、もしくは重大な過失について知らなかった)で取得・使用・開示する行為
・善意無重過失で営業秘密を取得した二次取得者以降の者が、当該営業秘密を「悪意重過失」で使用・開示する行為
平成27年不競法改正によって、この6類型に1類型(不競法2条1項10号)が加えられ、現在では全部で7類型の不正競争行為が定められています。
不正取得型にはどのような種類があるか
不正取得・使用・開示(4号該当行為)
一次取得者が、「窃取、詐欺、強迫その他の不正な手段により」他人の営業秘密を取得する行為(不正取得行為)および不正取得行為によって取得した営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項4号)。
条文にある「窃取、詐欺、強迫」は不正手段の例示であり、「その他の不正の手段」には、窃盗罪や詐欺罪等の刑罰法規に該当するような行為だけではなく、社会通念上、これと同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段を用いる場合も含まれます。
本問の元部長Aは、権限なく勤務先サーバー内の顧客名簿データにアクセスし、その名簿データをUSBメモリーに保存して持ち出したということですので、明らかに不正取得行為を行っており、また、自ら設立した会社にその営業秘密を開示していますので、その点についても、4号該当行為を行っていることになります。
不正取得につき悪意重過失で取得した場合(5号該当行為)
不正取得行為が「介在したこと」につき、悪意重過失で営業秘密を取得し、または取得した営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項5号)。
不正取得行為が「介在したこと」とは、自己に至る取引系列のいずれかの段階に不正取得行為があることをいい、したがって、三次取得者以降の者が、第三者を介して間接的に他人の営業秘密を取得する場合であっても、取得時に、一次取得者による不正取得行為につき悪意重過失である限り、5号該当行為に当たります。
本問の会社C社は、不正取得行為を行った元部長Aによって設立され、同人が代表取締役を務める会社であるところ、法人の善意・悪意や過失の有無は代表者を基準として判断されますので、不正取得行為について当然に悪意であることになります。したがって、本問の会社C社は、不正取得された貴社の営業秘密であることにつき悪意で、顧客名簿データを取得し、これを営業活動に使用している点で、5号該当行為を行っていることになります。
不正取得につき、後から悪意重過失となった場合(6号該当行為)
不正取得行為の介在につき善意無重過失であった二次取得者以降の者が、悪意重過失となった後に、その取得した営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項6号)。
典型的には、営業秘密を不正取得された者から警告書が届いた後にその営業秘密の使用・開示を行う場合があります。
正当取得型にはどのような種類があるか
図利加害目的で営業秘密を使用・開示する場合(7号該当行為)
営業秘密の保有者から、正当に営業秘密を取得した一次取得者が、「不正の利益を得る目的で、またはその保有者に損害を加える目的」(図利加害目的)でその営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項7号)。
典型的には、雇用契約に基づき会社の営業秘密にアクセスする権限を与えられた従業員が、対価を得る目的で第三者にその営業秘密を開示するような場合がこれに当たります。
不正開示につき悪意重過失で取得した場合(8号該当行為)
他人の営業秘密を正当に取得した一次取得者が図利加害目的でその営業秘密を開示する行為または秘密を守る法律上の義務に違反して営業秘密を開示する行為(不正開示行為)であることもしくは不正開示行為が介在したことを知りながら、または重過失によってこれを知らずに、その営業秘密を取得し、または取得した営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項8号)。
典型的には、雇用契約に基づき会社の営業秘密にアクセスする権限を与えられた従業員から、それと知りながら、対価を支払ってその営業秘密を買い取るような場合がこれに当たります。
不正開示につき、後から悪意重過失となった場合(9号該当行為)
他人の営業秘密を正当に取得した一次取得者が不正開示行為を行ったこともしくは不正開示行為の介在につき善意無重過失であった二次取得者以降の者が、悪意重過失となった後に、その取得した営業秘密を使用・開示する行為です(不競法2条1項9号)。
典型的には、雇用契約に基づき会社の営業秘密にアクセスする権限を与えられた従業員を中途採用し、その営業秘密の開示を受けた後に、前勤務先から警告書が届いたにもかかわらず、その営業秘密の使用・開示を行う場合です。
平成27年改正による追加類型‐10号該当行為
営業秘密の不正使用行為によって生産された物を譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、または電気通信回線を通じて提供する行為です。なお、その物を譲り受けた時に、その物が不正使用行為により生産された物であることについて善意無重過失である場合は除かれます。
まとめ
以上のとおり、営業秘密の侵害については、全部で7類型の不正競争行為が定められていますが、実務上は、本問の元部長Aの行為を、まずは不正取得・開示行為(4号該当行為)に当たるものと主張しつつ、仮に取得行為が正当であったとしても、自ら設立した会社への開示行為は不正開示行為(7号該当行為)に当たる、というように並列的に主張することが少なくありません。

弁護士法人北浜法律事務所 東京事務所
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