商標登録がないロゴ・マークを模倣した偽造品への対応方法
知的財産権・エンタメ自社商品のロゴ・マークを模倣した偽造品が販売されていました。その自社商品のロゴ・マークの商標登録がない場合、どのように対応すればよいでしょうか。
商標登録されていない真正品のロゴ・マークを模倣した偽造品の販売に対しては、商標権侵害を主張することはできませんので、不正競争防止法2条1項1号または同2号の不正競争行為に該当するか否かを検討する必要があります。不正競争行為が成立するためには、以下の各要件を満たす必要があります。
他人の周知な商品等表示の冒用(不正競争防止法2条1項1号) | 他人の著名な商品等表示の冒用(不正競争防止法2条1項2号) | |
---|---|---|
要件① | 真正品のロゴ・マークが、ある特定の商品のロゴ・マーク(「商品等表示」)として需要者に広く認知(「周知」)されていること | 真正品のロゴ・マークが、ある特定の商品のロゴ・マーク(「商品等表示」)として、需要者以外の一般消費者にも「著名」であること |
要件② | 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(周知な商品等表示)と同一または類似であること | 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(著名な商品等表示)と同一または類似であること |
要件③ | 需要者に偽造品と真正品を「混同」させる(またはそのおそれを生じさせる)こと | –(混同要件は不要) |
解説
不正競争防止法2条1項1号・2号と商標法の関係
自社商品の有名なロゴ・マークについて、商標として登録されていない場合や、登録商標されているものの、登録商標の指定商品と類似しない商品について無断使用されている場合には、商標権侵害は成立しません。
したがって、このような場合には、不正競争防止法2条1項1号または同2号が規定する不正競争行為(周知・著名な商品等表示の冒用)の適用を検討することになります。
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
周知な商品等表示の冒用の要件
自社商品の有名なロゴ・マークを模倣したロゴ・マークを使用した偽造品の販売について、周知な商品等表示の冒用が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 真正品のロゴ・マークが、ある特定の商品のロゴ・マーク(「商品等表示」)として需要者に広く認知(「周知」)されていること
- 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(周知な商品等表示)と同一または類似であること
- 需要者に偽造品と真正品を「混同」させる(またはそのおそれを生じさせる)こと
要件① 真正品のロゴ・マークが、ある特定の商品のロゴ・マーク(「商品等表示」)として需要者に広く認知(「周知」)されていることとは
「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」(不正競争防止法第2条1項1号)をいいます。
この「商標」や「標章」は、商標として登録されているか否かを問いません。
「周知」とは、「需要者の間に広く認識されている」ことを意味し、地域的範囲については、日本国内の一地域において周知されていれば足り、全国において周知されていることまでは要求されません。
ただし、周知な商品等表示の冒用を理由とする差止請求や損害賠償請求は、周知性が認められる地域内での偽造品販売に対してのみ行うことができます。
また、「周知」性は、「需要者」すなわち、その商品を購入する消費者のほか、その商品の取引業者(卸売業者、小売業者)の間で認められる必要があり、商品の内容、性質、取引形態に応じて、需要者の範囲に広狭があります。
例えば、一般日用品の需要者は一般消費者全般であり、嗜好品の需要者はその嗜好品の愛好家、工作機械の需要者は、工場を運営・経営する企業等に限定されます。
要件② 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(周知な商品等表示)と同一又は類似であることとは
周知な商品等表示との類似性は、具体的な取引状況の下で、外観・称呼・観念に基づく印象・記憶・連想等から、需要者が全体的に類似と受け取るか否かで判断され、商標権侵害における商標の類似性とほぼ同様の手法により判断されます。
要件③ 需要者に偽造品と真正品を「混同」させる(又はそのおそれを生じさせる)こととは
「商品の混同」行為とは、「他人の商品と混同を生じさせる行為」を意味し、両者の商品の出所が同一であると混同させること(「狭義の混同」)のほか、両者の商品の主体間に、「何らかの関係(組織的・経済的・法律的な繋がり)」が存在すると混同すること(「広義の混同」)も含むと判例・学説により解釈されています。
この「何らかの関係」として判例で引用されているものとしては、親子会社関係、系列・グループ会社関係、元売り会社と代理店・特約店の関係、ライセンス関係、フランチャイズ関係があります。
また、混同が現に発生している場合のほか、「混同が生ずるおそれ」があれば「混同」の要件を満たすと判例・学説により一般的に解釈されています。
著名な商品等表示の冒用の要件
自社商品の有名なロゴ・マークを模倣したロゴ・マークを使用した偽造品の販売について、著名な商品等表示の冒用が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
② 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(著名な商品等表示)と同一または類似であること
要件① 真正品のロゴ・マークが、ある特定の商品のロゴ・マーク(「商品等表示」)として、需要者以外の一般消費者にも「著名」であることとは
「商品等表示」については、周知な商品等表示の冒用で述べた通りです。
「著名」といえるには、地理的範囲については全国的な知名度が要求され、人的範囲についても、その商品の「需要者」を超えた一般消費者全般において有名であることが要求されます。
過去裁判において、著名な商品等表示として認められたものとしては、「セイロガン糖衣A」、「アリナミン」、「JACCS」、「虎屋」、「J-PHONE」、「青山学院」、「ELLE」、「菊正宗」、「Budwiser」等があります。
また、特許庁の「日本国周知・著名商標一覧」では、特許庁が防護標章として登録を認めた商標、審決・判決において周知・著名な商標として過去認定されたものが列挙されています(J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)サイト→「商標」→「日本国周知・著名商標検索」→「全件一覧表示」)。
要件② 偽造品に表示されている模倣ロゴ・マークが、真正品のロゴ・マーク(著名な商品等表示)と同一または類似であることとは
著名な商品等表示との類似性は、周知な商品等表示との類似性と同様の手法により判断されます。
商品混同の要件は不要
著名な商品等表示は、「当該商品・業種の領域を超える強い顧客誘因力」を持つ表示であり、周知な商品等表示より表示としての財産的価値が高く、本来行うべき営業努力をすることなく、他人の著名表示の有する顧客誘引力に「ただ乗り」(フリーライド)することから保護する必要があるのみならず、著名表示とそれを本来使用していた者との結びつきを薄める「希釈化」(ダイリューション)や、著名表示のブランド・イメージ自体の「汚染」(ポリューション)からも保護する必要があります。
そのため、特に需要者の商品混同の有無に関係なく生じ得る「希釈化」や「汚染」からの保護に対応すべく、著名な商品等表示については、周知な商品等表示と異なり、商品混同の要件が要求されていません。
