偽造品を販売する業者に販売中止等の通告を行う場合の注意点

知的財産権・エンタメ

 偽造品を販売する業者に対し、商標権侵害や不正競争行為を理由とする、偽造品の販売中止等を求める通告を行う場合、どのような点に注意をする必要がありますか。

 偽造品の販売業者に対する通告をする場合、事前に、通告対象商品の真贋確認を行い、通告対象商品が偽造品であることの証拠を取得・保管する必要があります。
 また、通告は、後日の仮処分、訴訟提起などの民事上の法的措置や、商標権侵害罪の刑事立件の際の重要な証拠となるため、書面にて、かつ、内容証明郵便にて送付すること、また、通告書の差出人は、商標権侵害または不正競争行為を理由とする差止請求権を有する権利者(商標権者、専用使用権)とすることをお勧めします。

解説

目次

  1. 通告対象商品の真贋確認
    1. 真贋確認の必要性
    2. 真贋確認の方法
    3. 真贋確認の証拠の取得・保管
  2. 通告方法
  3. 通告書の差出人

 偽造品の販売について商標権侵害や不正競争行為を理由とする差止請求や損害賠償請求が可能と判断した場合、権利者として最初に採るべき対応として、通常は、偽造品の販売業者に対する通告を行います。
 偽造品業者に対する通告を行う場合、以下の各点に留意する必要があります。

通告対象商品の真贋確認

真贋確認の必要性

 当然なことですが、商標権侵害や不正競争行為を理由として業者に対する通告を行う前に、その通告対象商品が、商標権者、製造販売元、そのライセンシー等により正規に製造・販売された「真正品」ではなく、第三者により権限なく製造・販売された「偽造品」であることを確認する必要があります。
 このような通告対象商品の真贋確認を行うことなく、相手方の商品を「偽造品」であると決めつけて通告を行い、その後相手方から反論を受ける等した結果、通告対象商品が偽造品ではないことが判明した場合、このような通告は、正当な法的理由に基づかない通告による相手方やその取引先に対する営業妨害行為となり、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うことになります

真贋確認の方法

 真贋確認は、相手方が販売している通告対象商品を購入し、その商品の仕様が真正品の仕様と異なるか否かを商品現物の観察を通じて確認する方法で行うことが基本です。
 また、店頭で販売展示されている商品の写真や、インターネット上で掲載されている商品画像を通じて、その写真・画像から確認できる商品の仕様と真正品の仕様との相違を確認する方法により真贋確認を行う場合もあります。

真贋確認の証拠の取得・保管

 いずれの方法による真贋確認の場合でも、後日、通告を行った相手方より、通告を受けた商品が偽造品ではないと争われることを避けるために、また、相手方に対して将来、仮処分申立て、訴訟提起、商標権侵害罪での刑事立件等の法的措置を行う際の重要な証拠として、真贋確認の際に購入した相手方の商品現物や、店頭展示の商品写真、インターネット上で掲載されている商品画像のプリントアウト、データ等を取得・保管をしておく必要があります。

 また、その偽造品の販売者や偽造品が販売されている場所や時期についても証拠を残しておくことが有益ですので、商品の販売業者の名称・住所、商品名、販売日、販売数量、販売金額等の記載のある領収書、インターネットでの注文の際のやり取りの画面ページやメール等のデータ・プリントアウト、店頭展示の商品について撮影日付が表示された写真(写真データ)、インターネット上に掲載された商品画像ページについて日付やURLが表示されたプリントアウト等も、重要な証拠として取得・保管する必要があります。

 なお、相手方に対する通告後は、相手方が商品販売を中止し、店頭から商品が撤去され、インターネット上の商品画像を含む販売ページも削除される等して、上記の証拠の取得が困難となる場合が多いため、これらの証拠は、相手方への通告に先立ち、事前に取得・保管しておくことをお勧めします。

通告前に取得・保管しておくべきもの

(1) 通告対象商品(偽造品)を特定するための証拠

相手方の商品現物
店頭展示の商品写真(実店舗で販売されている場合)

(2) 偽造品の販売者・販売場所・販売時期を特定するための証拠

(a) 商品の販売業者の名称・住所
(b) 商品名
(c) 販売日
(d) 販売数量
(e) 販売金額等の記載のある

   ①領収書

   ②インターネットでの注文の際のやり取りの画面ページ、メール等のデータ・プリントアウト(インターネット上で販売されている場合)

   ③店頭展示の商品について撮影日付が表示された写真(写真データ)(実店舗で販売されている場合)

   ④インターネット上に掲載された商品画像ページについて日付やURLが表示されたプリントアウト等(インターネット上で販売されている場合)

通告方法

 通告は、通告内容を相手方に明確に伝えること、また、相手方に通告を行った事実を証拠として残すために、口頭ではなく、通告書を送付する方法により行うことが必要です。
 通告書は、普通郵便で送ることも可能ですが、証拠としての価値を高めるため、誰に、いつ、どのような内容の文書を郵送したかを、謄本によって日本郵便㈱が証明する、内容証明郵便で発送することをお勧めします。

 通告後も相手方が偽造品の販売を継続する場合には、仮処分申立て、訴訟提起等の民事上の法的措置を講じる可能性があり、また、通告以降の相手方による偽造品の販売行為については、故意による商標権侵害罪の刑事事件の立件を警察に要請することも可能となります。
 そのため、その際の重要な証拠として、相手方に対する通告の事実と通告の内容を客観的な記録として残すべく、内容証明郵便で通告書を送付することが重要です

 なお、内容証明郵便は、文書以外は送付できないため、画像等を発送する際は、別途普通郵便で発送することになります。

通告書の差出人

 商標権侵害を理由として偽造品の販売中止等を求める通告書を送付する場合には、商標権者が偽造品の販売中止を請求できる権利、すなわち商標権に基づく差止請求権を有している権利者を差出人とすることをお勧めします。
 このような差止請求を行使できる者は、商標権者のほかは、専用使用権者(商標法30条)のみであり、専用使用権を設定されていないライセンシー・輸入販売代理店等の通常使用権者は、独占的ライセンスや独占販売権の有無にかかわらず、商標権の差止請求権を行使することはできません
 したがって、商標権侵害を理由とする偽造品の販売中止を求める通告の差出人に、少なくとも商標権者または専用使用権者を含める必要があります。

 これに対し、周知・著名な商品等表示の冒用(不正競争防止法2条1項1号・2号)を理由とする偽造品の販売中止等を求める通告書を送付する場合には、商標権侵害を理由とする差止請求と異なり、日本における真正品の販売について独占的ライセンスや独占販売権を受けたライセンシー・輸入販売代理店等も、不正競争行為の差止請求権を行使することが可能であると認めた複数の下級審判例があります。

 したがって、このようなライセンシー・輸入販売代理店等は、自らを差出人として偽造品の販売中止を求める通告書を送付することが可能です。

周知・著名な商品等表示の冒用

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