動産売買先取特権とは?制度活用のポイントと回収の手法
取引・契約・債権回収弊社の取引先が破産しました。弊社は取引先に対して商品を既に引き渡しており、取引先は既にその商品を転売しているとのことですが、弊社への支払いは未了です。取引先に対する売掛金はもはや回収不能でしょうか。
動産売買先取特権に基づく物上代位により、取引先が転売先に対して有する売買代金債権を差押え、転売先から直接取立てを行うことで債権回収を図る方法が考えられます。動産売買先取特権は、当事者間の特別の合意なく、法律上認められる担保権なので、事前の準備なく危機時に優先回収を得る方法になります。ただし、実行時には緊急に多岐にわたる準備を行い裁判所に申立を行う必要があります。
解説
動産売買先取特権とは
動産の売買を原因として債権を取得した者は、債務者の特定の動産について先取特権を有します(民法311条5号)。
先取特権とは、債務者との合意なく、特定の財産に対して法律上優先的に債権回収をする権利を指します。つまり、商品の売主である債権者は、取引先が代金の支払いをしない場合、取引先に対して販売した商品から優先的に債権回収を図ることが法律上当然に認められることとなります。
債権回収の方策 - 物上代位 -
動産から優先して債権回収を図るというと、債務者の動産を競売により換価して代金回収を図る方法がまず考えられます。これを動産競売といいます。
しかしながら、多くのケースでは、既に商品は転売されており、債務者(取引先)の手元にないばかりか所有権自体も既に移転しており、動産競売を行うことができません。そこで、債務者(取引先)が商品を転売した代金を動産そのものの代わりに差押えて、債権回収を行います。これが、「動産売買先取特権に基づく物上代位」といわれる方法です(民法304条1項)。
動産競売 | 債務者の動産を競売により換価して代金回収を図る方法 |
動産売買先取特権に基づく物上代位 | 債務者(取引先)が商品を転売した代金を動産そのものの代わりに差押えて、債権回収を図る方法 |
取引先の危機時における動産売買先取特権に基づく物上代位の行使
動産売買先取特権に基づく物上代位が一番活用されるのは、取引先へ商品を販売したが、代金が支払わないまま、取引先が倒産危機にあるような場面です。まさに、すでに商品は転売されているが、転売先の支払いが未了であるときに、取引先に代わって支払いをうけることができます。具体的には、債務者(取引先)が転売した相手先(販売先)に対する債権を差押えるために裁判所への債権差押申立を行います。
債権差押申立を行う際には、「担保権の存在を証明する文書」を提出する必要があります(民事執行法193条1項)。この担保権の存在を証明する文書とは、動産売買先取特権が成立していることを証明する文書を意味しています。
この文書は、①売買対象動産に関する売買契約締結の事実、②売買代金弁済期到来の事実、③同一動産に関する転売契約締結の事実、④当該動産の引き渡しの事実を書面によって証明するものでなければなりません。
債権差押時の留意点
動産売買先取特権に基づく物上代位は、債務者(取引先)から事情を聴くことなく、文書だけを見て裁判所が債権差押命令を発令して、他の債権者の知らぬ間に、特定の債権者が弁済を受ける結果になるので、裁判所は非常に厳格な審査を行います。
具体的には、貴社と取引先との売買契約締結の事実について文書で証明する資料を提出させることはもちろんのこと、取引先と販売先との間で売買契約が締結されていることや、取引先から販売先に商品が引き渡されたことについても全て文書で証明する資料を提出しなければなりません。しかも、文書は全て原本提示を行う必要があります。したがって、動産売買先取特権に基づく物上代位を行うに当たっては、販売先の協力が不可欠となります。
また危機時期であることから、迅速に差押命令を発令してもらう必要があるため、裁判所に商流の流れが一目で分かるように取引関係を図面で明らかし、提出している証拠との対応関係を明らかにしたり、商品毎に目録を作成し、同一の商品が転売されていくらの範囲で差押をするのか等を表などで明らかにするなど工夫が必要となります。
まとめ
以上のとおり、動産売買先取特権に基づく物上代位は、実行に当たっては緊急かつ迅速に準備する事項が多岐にわたります。他方、当事者間の事前の合意なく法律上定められた特別の担保権により優先的な債権回収を得ることができる点で非常に有益な手段になることがありますので是非ご活用をご検討ください。

広島駅前法律事務所