新しい取引先と取引を開始する時に注意すべきポイントは?

取引・契約・債権回収

新しい取引先に対して商品を継続的に販売する予定ですが、どのような点に留意したらいいでしょうか。

新しく取引を開始する際には、取引先の情報を収集し、信用調査を行ったうえで、取引を開始するか否かを判断する必要があります。
 具体的な調査手法としては、商業登記や不動産登記、決算書類や信用調査機関による調査報告書、現地調査を行うといった方法が考えられます。

解説

目次

  1. 新しく取引を開始する場合のリスク
  2. 信用調査
    1. 登記情報による調査
    2. 決算書類・信用機関による財務状況等の調査
    3. 現地調査の注意点

新しく取引を開始する場合のリスク

 これまで既存の取引を続けている取引先であれば、継続的な関係を通じてどのような会社かお互いにわかっており、信頼関係も構築されています。他方で、初めての相手と新しい取引に入る場合、どういった会社なのか情報が不足していることも多く、場合によっては適切に商品が納入されない、支払いを行わないなどのトラブルが発生するおそれもあり、最悪の場合、財務状況が悪く倒産してしまうというケースもありえます。

 このようなリスクを少しでも減らすためには、取引開始時において一定の手続を行っておく必要があります。

信用調査

登記情報による調査

商業登記情報を入手する

 取引先が会社の場合、まずは、会社の商業登記の履歴事項全部証明書を取り寄せるなどして、商号・本店所在地・目的・役員に関する事項等、会社に関する基本的な情報を入手します。
 商業登記の履歴事項全部証明書等の登記事項証明書は、最寄りの法務局に行って取り寄せることができますし、登記情報提供サービスによりインターネット経由で登記情報を取り寄せることもできます。

 以下に述べるような、商業登記事項について疑わしいと思われる点がある場合には、取引先に対して説明を求め、その説明が合理的なものか検討すべきです。

商号・本店・目的・役員に関する事項の変化

 商号・目的・役員に関する事項をみて、不自然に変わっていないか確認します。
 また、本店所在地が移転している場合は、移転前の閉鎖事項証明書も入手し、本店移転前と現在とで商号・目的・役員に関する事項が不自然に変わっていないか確認します。

目的欄のチェックポイント

 目的欄をみて、これから開始しようとする取引の内容が記載されていなければ、その取引が無効となるおそれがあります。
 また、これから開始しようとする取引と関連性のない業務目的が多数に及んでいないかも確認します。

役員欄のチェックポイント

 役員欄をみて、これまで代表取締役と思われていた人物が代表取締役として登記されていない場合も、注意が必要です。実質的な代表取締役が、代表取締役に登記されると都合が悪い何らかの事情があると考えられるからです。
 代表取締役の欄には、代表取締役の自宅の住所も記載されていますので、代表取締役の自宅不動産の登記情報を入手し、代表取締役個人の財産状況も確認します。
 また、役員の任期途中での辞任登記があり、また解任登記がある場合も、注意が必要です。内争が発生している可能性があるからです。

不動産登記情報を入手する

 取引先が会社の場合であれば本店所在地や代表取締役等の自宅住所地、取引先が個人であれば営業所や自宅住所地の不動産登記の全部事項証明書等を入手します。

 不動産登記情報も、商業登記の場合と同様、最寄りの法務局に行って全部事項証明書等の登記事項証明書を取り寄せることができますし、登記情報提供サービスによりインターネット経由で登記情報を取り寄せることもできます。

甲区欄のチェックポイント

 甲区欄をみて、取引先・代表取締役が所有者として登記されてあるかどうかを確認します。

差押・仮差押
 差押・仮差押の登記がないか確認します。
 差押の登記は、(根)抵当権者が担保不動産競売申立をした場合や、税金の滞納処分としてなされる場合等においてなされます。
 仮差押は、債権者が、債権回収のための訴訟提起前または訴訟係属中に、債務者所有財産を仮に差し押さえる手続きです。
 このような差押・仮差押の登記は、取引先・代表取締役が債務の履行を遅滞し、かつ債権者が債権回収の手続きに着手していることを裏付けるものです。
 したがいまして、取引先・代表取締役の自己所有物件に差押・仮差押の登記がある場合には、取引は回避すべきといえます。

仮登記
 所有権移転の仮登記がないかどうか確認します。
 仮登記の登記原因が代物弁済予約等である場合は、何らかの理由で金融機関からの借入ができず、やむを得ず仮登記権利者から借入をしていることなどが考えられます。

乙区欄のチェックポイント

 乙区欄をみて、担保設定状況を確認します。
 自己所有物件で、乙区欄に、個人が(根)抵当権者として登記されているときは、注意が必要です。何らかの理由で金融機関からの借入ができないなどの可能性があるからです。

共同担保目録のチェックポイント

 共同担保目録には、担保権者が当該不動産と共同して担保権の設定を受けた不動産が記載されています。これにより、これまで知らなかった所有不動産を発見できる場合があります。

決算書類・信用機関による財務状況等の調査

 取引先が会社の場合、貸借対照表損益計算書附属明細書などの決算書類を検討すれば、収益状況や資産状況を把握することができます。過去3期分の決算書類があれば、売上・損益の推移と各勘定科目の推移を対比させることなどによって、資産・損益状況の実態もある程度推測することもできます。

 したがいまして、取引先から取引開始を持ちかけられたような場合であれば、取引を開始するか否かを判断する資料として、決算書類の提出を要求すべきです。一旦取引を開始してしまうと、後日提出してもらうことは困難と考えられるからです。

 これに対して、こちらから取引開始を持ちかけたような場合であれば、取引先に対して決算書類の提出を求めることは現実的でないように思われます。このような場合であれば、信用機関が作成したレポート等を取り寄せるなどして、取引先の財務状況等を調査します。

現地調査の注意点

 取引先の本店所在地や営業所等の現地の従業員等の様子を観察します。極端に備品類が少ないような場合や、逆に信用力を高めるために応接室等が極端に華美であるような場合には、注意が必要です。

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